20080625 日本経済新聞 朝刊

 財務省の財務総合政策研究所は二十四日、人口動態の変化が財政と社会保障に与える影響を検討した報告書をまとめた。研究に参加した鈴木亘・学習院大准教授は、医療保険財政を将来も維持するためには、現役世代の負担で全体の歳出の大半をまかなう制度を改め、積み立て方式の導入が必要と提言。現在八・〇三%の保険料率を一一・七九%に引き上げることで、「二一〇五年まで財政を維持できる」との推計を示した。
 神戸大の小塩隆士教授は公的年金が高齢者の格差をどれだけ是正しているのかを検討。分析の結果、公的年金の持つ高齢者への所得の再分配効果が乏しいと指摘した。厚生年金も報酬比例部分を持っているため、生涯所得の格差を大きくは是正しない。高齢者の所得格差を縮めるためには、「基礎年金部分を生活保護基準程度に引き上げるとともに、報酬比例の部分を圧縮するなどの改革が有効」と指摘した。
 一橋大の山重慎二准教授は、公的年金制度など現存の財政制度を維持するためには、子育てをする人々に対する支援が必要と主張した。

20080625 日本経済新聞 朝刊

 インターネットで生命保険を販売する「ネット生保」が本格的に動き出した。SBIアクサ生命保険が四月、ライフネット生命保険が五月からそれぞれ営業を始めた。銀行、証券、損害保険はネット販売が一般的になったが、生命保険は海外でも珍しい。成功すれば保険料の「価格破壊」などを通じ、大手生保会社の経営にも変革を迫りそうだ。
 「どこよりもわかりやすく、安く、便利な商品・サービスを提供したい」。ライフネットの出口治明社長はこう話す。商品は単純。大手生保では死亡保険の主契約に医療など多くの「特約」が付くのが一般的だが、二社とも特約はほとんどない。保障は死亡、入院、手術に絞った。
 保険料をみると、例えば三十歳男性が期間十年の定期死亡保険(保険金額三千万円)に加入する場合、ライフネットは月三千四百八十四円。配当も解約時に戻るお金もないため単純比較はできないが、ある大手生保(六千六百円)のほぼ半分。営業網を持たず、人件費を抑えられるため実現できる水準だという。
 契約申し込みは二十四時間・三百六十五日できる。ネットでほぼすべての契約手続きが可能だ。
 ライフネットは開業一カ月間に約八百件の契約申し込みがあった。SBIアクサは保険料を試算した件数が十万件を超えた。ライフネットは一二年には年百万件の新契約がネット経由になると見込む。生保全体の一割弱、最大手の日本生命に匹敵する規模だ。
 ただ、生命保険は加入後も受取人変更、保険金請求などさまざまな手続きが必要なことがある。結婚、出産などで最適な保障額が変わることもある。大手ならば担当の営業職員に相談できるが、ネット生保では原則としてすべて自分でこなさなくてはならない。
 ファイナンシャルプランナーの内藤真弓さんは「ネット生保に加入するなら契約の自己管理が欠かせない。コールセンターをフル活用すべきだ」と助言する。さらに、ネット生保は大手生保に比べると、財務基盤が劣る点は否めない。
 大手生保はとりあえず静観の構え。「(大手とネットが)バッティングするというより、それぞれのニーズにそれぞれの形で応える体制につながる」と生命保険協会の岡本圀衛会長は話す。ネット生保の登場により、大手生保は保険料に見合う質の高いサービスを提供しているか、厳しく問われることになりそうだ。
20080624 日本経済新聞 夕刊

 生命保険会社の営業職員数が減り続けている。二〇〇八年三月末時点で大手生保九社の合計で二十万四千二百九十三人。七年前に比べ約六万人も減った。少子高齢化の影響で保険への加入者層が縮小しているのに加え、銀行でも保険商品が申し込めるようになるなど販売ルートが多様化しているためだ。
 「生保レディー」という言葉が表すように、営業職員は各社ともほぼ九割が女性だ。給与形態は固定ではなく、新規契約の獲得実績を反映した比例給制を敷いている。「生命保険募集人」として金融庁への登録が必要で、入社後は一定期間の研修を受けて正規雇用となる。
 生命保険は長期にわたり保険料を払い続ける高額な契約であるため、営業職員には高度な知識が求められる。一方で激しい競争により、契約を獲得するノルマも課されてきた。ノルマ営業による定着率の低さはしばしば業界の構造的な問題点として指摘されている。
 特に〇五年以降、顧客が契約した営業職員が早く辞めてしまい、担当者が不在となったことが不払い問題の温床になったともいわれ、業界も改善に着手している。例えば明治安田生命保険は十月から、固定給部分を厚くした給与体系を採用する。
 最近ではインターネット専門の生保も開業するなど、営業職員以外の販売ルートが増えてきた。それでも大手各社は営業職員による「フェーストゥフェース」の契約獲得を事業の中核として位置づけ、職員の定着率向上を経営目標に掲げている。

20080624 日本経済新聞 朝刊

 医療保険、がん保険、個人年金保険を合わせた契約件数が二〇〇八年三月末に前年同期比四・三%増の五千三百二十六万件となり、年度末ベースで初めて死亡保険を逆転した。病気や老後の生活費など長生きに備えるニーズが高まっている。万が一の際に備える死亡保険は少子高齢化の影響もあり、需要が縮小している。主力商品の移り変わりが鮮明で、生保各社の経営にも影響しそうだ。
 医療、がん、年金の三保険の契約件数は〇八年三月末に、生命保険協会に加盟する四十社の合計で、前年同期比で二百二十万件増えた。定期や終身などの死亡保険は二十二万件(〇・四%)減の五千九十三万件だった。
 なかでも医療と年金の伸びが目立つ。医療保険は入院すれば日額五千―一万円、手術すれば別に給付金を受け取れる。三月末の契約件数は七・四%増の千八百六十八万件で、五年前の一・八倍に膨らんだ。
 年金は千六百五十七万件と四・八%増えた。個人年金は加入時に受取額が決まる「定額年金」が主流だったが、最近は受取額が運用成績によって増減する「変額年金」が伸びている。〇二年に銀行窓口での販売が認められたこともあり、変額年金の契約件数は二百七十万件と五年前の九倍になった。
 死亡保険はかつて大手生保の主力商品だった「定期付き終身保険」が落ち込んでいる。終身保険に子育て期間中の死亡保障を厚くする定期保険を付けた商品で、ピーク時の一九九七年には約三千万件あったが、今年三月末には千四百十九万件と半分以下に減った。
 生命保険協会の岡本圀衛会長(日本生命保険社長)は「少子高齢化で死亡保障から医療、年金に契約がシフトしている」と語る。団塊世代など子育てを終えた世帯は、想定よりも長生きすることに備えて、自らがお金を受け取れる医療保険や年金に加入する傾向が強いという。公的な医療保険や年金への不安も背景にあるようだ。
 保険会社にとって年金などは一般的に死亡保険よりも利益率が低い。年金などの比重が高まれば収益力が鈍るため、経営の効率化が求められる。営業職員などの生産性向上が課題になる。
 ただ契約件数ではなく保険料でみると、日本生命保険などの大手生保は依然として死亡保険から得る保険料のほうが医療や年金よりも多い。ファイナンシャルプランナーの竹下さくらさんは「医療保険などの相談に来る子育て世代には、死亡保障額が必要水準に達していない人も多い」と話す。「一部の外資系生保は死亡保障をうまく販売している。大手生保はニーズを掘り起こせていない」(保険評論家の山野井良民氏)との指摘もある。

20080623 日本経済新聞 夕刊

 「一人一日一キログラムの二酸化炭素(CO2)削減」。こんな目標を掲げる定期預金がある。びわこ銀行が扱う「CO2ダイエット・チャレンジ定期」だ。
 京都議定書は温暖化ガス排出量削減をうたった。二〇一二年までに一九九〇年比六%減らす目標だ。その実現を目指すチーム・マイナス六%運動に賛同すれば預金金利を〇・二%優遇する。
 顧客に「冷房温度を二度高くする」「ごみの分別を徹底する」などと宣言してもらい、環境意識を高める。〇七年九月の取り扱い開始からすでに九千人が口座を開設。宣言通りだと年二千六百六十トンのCO2削減につながる。
 「環境は経営の中核」と強調するのは山田督(59)。滋賀大学で学び、一九七一年住友銀行に入行。関西を中心に営業畑を歩んだ。関西銀行専務、関西アーバン銀行副頭取を経て〇五年びわこ銀の頭取に。
 びわこ銀に来て顧客と話をすると、時候のあいさつ代わりに環境が取り上げられる。琵琶湖を抱える滋賀県民の水質や緑化への関心は極めて高かった。「環境に力を入れずして銀行経営は成り立たない」と痛感した。
 そこで環境預金に注力した。琵琶湖の水位予想があたると金利が上がる「エコ&チャレンジ定期」、琵琶湖の透明度が改善すれば金利が二倍になる「エコ・クリスタル定期」などを投入。CO2ダイエット・チャレンジ定期は同行としては五種類目の環境預金だ。
 一方で環境融資にも取り組んだ。太陽光発電施設設置、琵琶湖材を使った住宅建設などには優遇金利を適用した。環境配慮の個人ローンは千二百件を超え、融資残高は二百七十億円に。
 「運用、調達の両面あってこそ銀行」が山田の持論。環境に関する業務をまとめて行内に“環境銀行”を設けて、中核業務であることをはっきりさせた。
 有価証券報告書には「環境損益計算書」を載せている。環境活動に限って収益、費用の詳細、利益などを記載、株主総会でも報告する。銀行としてコストをどう考えながら環境問題に取り組んでいるかが、時系列で把握できるユニークな試みだ。
 「じぎん」。山田はこんな造語をキャッチフレーズにしている。地ビール、地酒などと同様に地元密着の銀行という意味だ。「堅苦しくなく、あたたかで、親切な銀行でありたい。それとともに地域にあった専門性のある情報、商品、サービスの提供に力を入れる」。もちろんその中核に環境をすえる。
=敬称略
(編集委員 太田康夫)
【図・写真】環境は経営の中核と位置づける山田さん