今回は「通勤手当が不正受給されていたら・・・」を解説します。
通勤手当の不正はよくあり、不正の事実が明確となった場合は以下のことを実施して下さい。
〇状況を確認する(なぜ提出しなかったのか?悪意があったのか?なかったのか?)
〇過大支給となった部分の返金をさせる(額によっては分割も検討)
〇懲戒処分を検討する(就業規則の該当条項の確認)
もちろん、通勤手当の不正申請は懲戒処分の対象となるのですが、そのためには、就業規則に「給与の不正申請は懲戒処分」という旨の記載が必要となります。
悪質な場合は懲戒解雇となるのです。
これに関する裁判があります。
<かどや製油事件 東京地裁 平成11年11月30日>
〇社員は品川に居住しながら、宇都宮市に住民票を移し、4年半の間に合計231万円の通勤手当を不正受給した。
〇就業時の勤務態度も問題が多く、よく離席していた(相当な頻度)。
〇会社は社員を懲戒解雇とし、社員はこれを不服として裁判所に訴えた
そして、裁判所の判断は以下となりました。
〇通勤手当の不正受給は就業規則に記載される懲戒解雇に該当する。
〇勤務態度の問題は、上司に無断で離席し、業務遂行を放棄、 不誠実な勤務態度であった。
〇懲戒権の行使は妥当とし、会社が勝訴した。
この裁判は、虚偽の届出をして「積極的」に詐欺を行ったことが懲戒解雇の事由のポイントとして取り上げられていますし、勤務態度の問題も後押しとなっています。
さらに、その不正受給額が大きいことも裁判で指摘されたのです。
しかし、動機が悪質ではなく、額も小額ということで懲戒解雇が無効となった裁判もあるのです。
<光輪モータース事件 東京地裁 平成18年2月7日>
〇社員は通勤経路を安い経路に変更し、それを会社に届け出ず、4年8ヶ月間で合計34万円を不正受給した
〇会社はこれで社員を懲戒解雇とした
〇社員はこれに納得いかず、裁判を起こした
そして、裁判所は以下の判断を行ったのです。
〇故意、または、重大な過失により会社に損害を与えたという就業規則上の懲戒事由に該当する
〇通勤時間が長くなっても、自分の労力をかけて交通費を節約した
〇不正受給額が小さい
〇会社に賃金をカットされたことによる穴埋めが目的だった
〇 情状酌量の余地もあり、解雇処分は重過ぎると判断(会社が敗訴)
この2つの裁判から分かることは「不正受給した金額の大小」「悪質性の程度」により、懲戒解雇が有効となるかどうかが分かれるということです。
多くの会社で見受けられるのは、悪質性はそんなに高くなく、光輪モータース事件のように、「少し浮かす」だけと考えられます。
しかし、「少し」だからと言って放置しては、他の社員に示しがつきません。
状況確認の上、しかるべき措置(悪質性が小さければ、返金してもらい、始末書の提出をさせる)を実施することが重要なのです。