今回は「社員が行方不明になった場合の取り扱いについて」を解説します。
社員が突然いなくなるとは稀なことと考えられがちです。
しかし、現実には時々あるのです。この場合、すぐに退職させることを考えるのではなく、まずは仕事を続けさせることを考えましょう。
会社に長期間来ずに欠勤し、失踪してしまった行方不明の社員の場合、普通解雇の「解雇理由」の事由にあてはまります。
社員と会社との間の雇用契約において、労働者は、「働く」という労働の義務を負っており、この義務の不履行となるからです。
したがって、会社は、行方不明の社員に対して、「普通解雇」とすることが考えられます。
また、自然退職とする場合もあります。その際は、就業規則の退職の項目に以下の記載が必要となります。
会社の許可なく欠勤し、連絡不能、居所不明などのとき。
(欠勤開始日の翌日を初日として14暦日を経過した日)
これに関する裁判があります。
<O・S・I事件 東京地裁 令和2年2月4日>
〇社員Aは14日以上連絡が取れず行方不明となっていた
〇会社は就業規則の自然退職扱いの項目に当てはまると判断し、Aを退職とみなした
〇Aは就労をのぞんだが、会社は「連絡が取れなかった」ことを理由に就労を拒んだ
〇そこでAは雇用契約に基づき、雇用契約上の地位確認を求め、裁判を起こした
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
〇懲戒解雇事由と別個に設けられた自然退職の趣旨を「出勤を命じたり、解雇の通知や意思表示をする通常の手段が全くない」場合に備えたものと判断した
〇Aからは休職申出のメールが送信されるなど会社が解雇等の意思表示をすることも不可能といえず、退職扱いを無効とした
会社の就業規則には「正当な理由なく欠勤が14日以上に及び、出勤の督促に応じない又は連絡が取れないことを懲戒解雇事由とする」という規定になっています。
そして、就業規則中にあえて解雇規定と別個に設けられた退職条項の趣旨は次となっていました。
従業員が欠勤を継続し、会社が通常の手段によっては出勤を命じたり解雇の意思表示をしたりすることが不可能となった場合に備えて、そのような事態が14日以上継続したことを停止条件として退職を合意したものと解される。
したがって、退職条項の「従業員の行方が不明となり、14日以上連絡が取れないとき」とは、従業員が所在不明で、かつ、出勤命令や解雇等の通知や意思表示が取れなくなった時に退職合意となるのです。
しかし、本件では、Aからは休職申出のメールが送信されるなど会社が解雇等の意思表示をすることも不可能といえず、裁判所は退職扱いを無効と判断したのです。
社員が一定期間行方不明となることは、労務提供義務を履行していないので、解雇理由となるのが原則となります。
しかし、この場合に解雇を選択すると解雇の意思表示を行方不明者に到達させる必要があるのです。