北朝鮮リスクの損得勘定~ミサイル発射で誰がどれだけ「得」をする?=矢口新
http://www.mag2.com/p/money/290808 2017年8月31日
世の中の基本は損得で動いている。善悪で判断すると多くを見誤る。法治国家とは、法律が行動の判断基準となる国家で、善悪ではない。その法律は、多くの場合は損得を反映している。だからこそ、圧力団体やロビイストが存在する。
本音と建前で言えば、本音が損得、建前が善悪だ。この時、政治家やメディアは建前を述べ、事業家や資金運用者は本音を見る。損得と善悪をしっかりと区別していないと、建前論に押し切られることになる。

 

北朝鮮情勢でも、善悪ではなく、損得で見ると違うものが見えてくる。北朝鮮がミサイル発射を繰り返すことで、誰が得して、誰が損するかという見方だ。
結論から述べれば、得をしているのは、米国、中国、ロシアだ。損をしているのは、日本、韓国、台湾だ。北朝鮮は、これまで損をしてきたが、核を持つことで、大逆転となるか、破滅となるかの賭けに出てきたという見方だ。

第2次世界大戦後の世界は、自由主義国と社会主義国という色分けがなされていた。社会主義国は、自由主義国にとって、外側からの脅威だけでなく、内側から政府を転覆させるという脅威でもあった。そのため、自由主義国陣営を主導する米国は、自陣営を力だけで押さえつけることができず、懐柔することも必要だった。戦後の日本の発展は、奇跡ではなく、冷戦構造の果実でもあった。

ところが、ソ連が崩壊し、中国が市場経済に舵を切ったことにより、米国にとって社会主義はもはや脅威ではなくなった。このことは、日米安保条約の仮想敵国が事実上なくなったことを意味する。とはいえ、これまでに手に入れた西太平洋での覇権を手放すことは、米国の国益に反する。新たな仮想敵国が必要だった。

新たな仮想敵国は、中国北朝鮮だった。とはいえ、中国は政治的にも経済的にも自由主義経済に組み込まれており、あからさまな敵対関係はできない。ところが、孤立した北朝鮮が適度に暴れてくれるおかげで、米国は日韓を軍事上の支配下に置き続けることができている。

穿った見方をすれば、北朝鮮は、米国、ロシア、中国による極東分割統治のコマだ。だからこそ、どんなに暴れても、潰されずにきた。とはいえ、世界の最貧国の1つに落ちぶれるというだけの扱いだった。

もし、その見方が当たらずとも遠からずなら、北朝鮮には、極東の情勢が日韓よりはよく見えている。そして、自国の利益のために、どこまでの挑発なら許されるのかと、徐々に挑発の度合を高めてきたのが、近年の北朝鮮だ。そして、世界でまだ1桁の国しかない、核保有国にまで到達したのだ。その意味では、金正恩を侮ることはできない。
(抜粋)