くるみあるく研究室

くるみあるく研究室

沖縄を題材にした自作ラブコメ+メモ書き+映画エッセイをちょろちょろと

沖縄・那覇を舞台に展開するラブコメディー「わたまわ」をこちらに転載しています。

今回はノベルアップ+ 2021年夏企画・夏の5大小説マラソン第3週に乗って作成しました。お題は「浜辺の漂着物」。
このエピソードは「わたまわ」ノベルアップ+版exblog版どちらも03(2)の内容を詳述したもので、時間軸設定は2020年8月です。

当初、沖縄県は小中高校の夏休みは当初八月十日までだったのですが、感染状況から延期が決定しました。サーコは家で一人で過ごすのが嫌になり、リャオとトモのいる事務所へ再び泊まり込むようになりました。

 

お試しバージョンとして小説ながら目次を作成することでノベルアップ+版とほぼ似た仕様でのご提供を考えました。クリックすると各意味段落へジャンプします。念のため書き添えますがリャオ=あけみさんです(笑)

 

目次
1.サーコ、宿題の山に直面する
2.海での出来事

 

---

 

1.サーコ、宿題の山に直面する

 

2020年の夏、沖縄は新型コロナウイルスの感染拡大が叫ばれていた。医療従事者のママは奥武山に戻ってきていたが、再び病院が借り上げた首里のアパートへ泊まり込むようになった。

高校一年生最初の夏休みなのに、どこにも行けない。クラスメートとキャンプとか、友達とお泊まり会とかしたいのに。


当初は八月十日には授業再開予定だったんだけど、休みを延長されてしまった。毎日一人で家にいるのが怖いのもあって、あたしは結局、牧志にあるリャオさんの事務所で過ごすようになった。リャオさんもこの夏は西町の事務所へは出向かずテレワーク一色らしい。ちょうど大学が夏休みに入ったトモも事務所に泊まっていた。確かに宜野湾にいても一人で食事とか作るの面倒だし、クーラーの掛かった涼しい部屋でリャオさんの美味しい料理をみんなで食べる方がいいに決まってる。


事務所のお掃除や買い物をお手伝いしながら、毎日トモに追加出題された英語の宿題を見てもらった。だってO・ヘンリーの短編小説を和訳しろっていう無茶苦茶な内容だったんだもの! 確かにダイジェスト版だったけどさ、五篇は多いよね、絶対!

で、なんとか四つ終わりました。そして気がついた。あー、美術の宿題もあるんだった。風景画でも静物画でもいいんだけど、水彩画を仕上げなくちゃならないんだ。こんな時、美術クラスって損だなーと思う。習字クラスはペン字検定のテキスト埋めるだけでいいし、音楽クラスは宿題そのものがないらしい。どうしよう。何描こう?

 

あたしはリャオさんに相談を持ちかけた……うーん、ちょっとかしこまった表現だな。実際は同じベッドでガールストークしててその延長で話をした、が正解。
「それじゃ、事務所にサーコが絵の具セット持ってくるってこと? それは別に構わないけど」
「はい、それもそうなんですが」
あたしはため息をついた。
「題材をどうしようかなーって。風景画描こうにもどこにも行けないし。かといって静物画って何描いて良いのかピンとこない」
「風景画、いいじゃん。明後日晴れそうだし、朝から海に行こうよ」
え? リャオさん、仕事は?
「テレワークは午後からにする。それにトモも事務所で腐ってないで体動かしたいだろうから」
泳ぐって、ビーチはどこも閉まってるよ? あたしの問いかけにリャオさんは大きな瞳を輝かせクスリと笑った。
「こういうときこそ “いちゃんだビーチ” ですよ」

 

いちゃんだビーチ。無料ビーチといえば聞こえはいいが、黙認ビーチと言うべきかもしれない。本来ならば遊泳目的での出入りを認めない海岸のことだ。だからロッカールームなどの設備なんてないし、事故が発生してもすべて自己責任。しかも遊泳中に海で離岸流が発生して死亡事故に繋がるケースもまれにある。でも、リャオさんは微笑みながら言った。
「トモもあんたも無茶しないよね? 岸沿いに軽く泳ぐくらいなら心配ないよ。それに、風景画の題材も探せるでしょ?」
そしてリャオさんは手元のスマートフォンでとある場所を示した。
「ここさ、去年日本語学校のみんなでキャンプした場所。海の近くまで車で行けるし、地元の人も早朝なら立ち入らない。クーラーボックスに飲み物とか入れて、ビニールシート持って出よう!」

 

話はとんとん拍子に進んだ。トモはこの提案にすごく乗り気で、朝食の後あたしをバイクの後部座席に乗せて奥武山の家まで連れて行ってくれた。絵の具セットと水着、着替えなどを大きめの布バッグに詰め込み、ついでにリャオさんから頼まれた買い物を済ませた。トモはあたしを牧志に降ろすと、自分の水着を取りに行くといってそのまま宜野湾へ走り去った。

トモは昼過ぎに戻ってきた。彼は帰り道にビッグワンに寄ってフリスビーを購入したらしい。
「これならみんなで遊べますよ。だって、リャオは泳がないでしょう?」
「当たり前じゃない!」
リャオさんは苦笑いする。日本語学校のキャンプで男子学生らが羨望の眼差しを向ける中、“あけみさん” は彼らを無視してひたすらお昼のバーベキューを仕切っていた。体調が悪いと言い訳しながら。
「男子はみんな、あけみさんの水着姿を期待していたんですよ。とくにセルジュはねー」
「きゃ、嫌! やめて!」
リャオさんは頬を押さえてイヤイヤと首を振るが、トモは意地悪そうに続けた。
「それなのにあけみさんはバーベキュー作ったあと、さっさと帰っちゃった。私たちが泳いで戻ったらいなくなってて、大ブーイングが起きましたよ」
「だって、あんたたち、あのあと昼間からすごい勢いで飲みまくったって言うじゃない! 襲われちゃたまらないわ!」
「確かに。でも、そのあとすぐ学校辞めちゃったでしょ?」
状況を想像してあたしは笑い転げる。リャオさんは女性と偽って日本語学校の事務員をしていた。金城商事が本格的にテレワーク事業を開始することになったから、リャオさんは本業に専念するためさっさと学校を辞めたのだ。もっともキャンプで男どもに襲われて男性だとバレたとしても、別の意味で退職したんだろうけど。

 

早朝出発ということで今晩は早めに就寝する。正直言ってあたしの心は揺れていた。彼氏と最初の海なのに、あたし、スクール水着なんだ。でもお金なんかないし。
「いいじゃない。一時間くらいしか泳がないんだし」
ベッドの隣で “あけみさん” はあたしを見やった。何が問題なのかわからないって顔をしている。
「男ってそんなに水着のデザインなんか気にしないもんだよ?」
「水着の件もそうなんですけど」
あたしはあけみさんを見つめながら重い口を開く。
「だって、あたし、ペチャパイだから」
「あははは!」
あけみさん、笑い事じゃないですよ! 確かにあなたは男性で、胸はあたしよりペッタンですけど。
「サーコ、あんたまだ高校一年生でしょ! なくて当然!」
「いや、クラスでもない方に入るんで」
「十代ならそれで普通だって」
「でも、あまりにも貧弱だと、ちょっと」
あけみさんは微笑むと、あたしの右のほっぺたを突っついた。
「サーコはまだ男心ってのわかってないなー。いいかい、女は胸じゃない、どちらかというと、尻だよ、尻!」
ええ? そ、そうなんですか? 意外に思うあたしにリャオさんはイタズラっぽい目を向けた。
「トモの国のチマチョゴリ考えてごらん。上はタイトで下ふっくらな典型的Aラインでしょ。それを見た男は女の尻から脚のラインを自然と思い浮かべる。そんなもんだって」
リャオさんはあたしから指を離すと、手元のスイッチで照明を落とす。そしてタオルケットを掛けながらつぶやいた。
「大体、宣教師のトモがセクシーな女を求めるわけがないでしょ。ささ、早く寝な。明日は三時起きだよ」

 

2.海での出来事

 

翌々日の朝四時。三人はリャオさんの運転する黒いバンに乗り込んで海を目指した。
リャオさんはおにぎりをいくつか握った。あたしとトモはそれぞれ水着を中から着込み、上からTシャツを被った。なんでも現地近くの公衆トイレには足洗い場がついていて、海から上がったらそこで軽く浴びればいいらしい。もちろん着替えも準備している。

到着前にコンビニへ寄り、各自トイレを済ませる。客は誰もいない。リャオさんは用心深く車を出し、左右を確認すると集落の細い道を下って海のすぐ近くへ着けた。各自、ビニールシートやクーラーボックスを持つ。

「さあ、行っておいで!」

 


リャオさんの声に弾かれるように水着姿のあたしとトモはその場にビニールシートを敷いて荷物を置き、日の出を迎えた砂浜を裸足で走る。きゃー、気持ちいい! 波打ち際で二人は足をバタつかせて波を踏む。そして互いに海水を掛け合う。思ったより冷たくてしょっぱい!

時間はあまりない。近所の人に感づかれる前に、あたしたちは岸にそってバチャバチャ泳ぐ。トモはクロール、あたしは平泳ぎ。

「サーコ、泳げるんですね。かなづちかと思ってました」

し、失礼な! これでも小さい頃はスイミング通ってたんだよ! あたしはトモの顔に思い切り海水を掛けた。

「うわっ。こら!」

反撃される。向こうからも海水がきた! 逃げちゃえ! と思ったら左肩をつかまれた。トモに悪意はなかったんだろうけど、彼の指が水着にひっかかって肩から取れそうになった。だから思わず肩を押さえた。

 

互いの指と指が触れた。あたしたち、普段は手を握り合うこともないのに。

 

「ご、ごめんなさい」
「……いえ」
謝る彼にそう言いながら手を放した。
あたしたちは顔を赤らめ、海の中で立ち尽くす。
ああ、やっぱり、かわいい水着を着たかった。スクール水着じゃ絵にならないよ。

 

突如、ぬめっとした感触が右足にまとわりつく。
「ぎゃっ!」
あたしが声と同時に足を上げると、トモが反射的にかがんであたしの右足にくっつく漂流物を取り上げた。
「これ、マスクですね」
げげっ! 本当だ。白いサージカルマスクが海水を滴らせながら目の前にぶら下がっている。きっと風に乗ってここまで飛んできてしまったのだろう。うわー、やだ。折角のムードぶち壊し。
「おーい」
陸側から声がした。見るとリャオさんがゴミ袋片手に手を振っている。
「早いけど、そろそろ引き上げよう」
あたしたちはリャオさんの元へ駆け寄る。うわっ、ゴミ袋の中にマスクがいくつもある。
「このあたり、風の吹き溜まりみたいね? マスクが結構落ちてた」
沖縄は普段から海風が強い。人々は単に海辺を散歩するつもりだろうが、ひょんなことでマスクはすぐ飛んでしまう。自然消滅なんかしないから、どんどん溜まって海の生き物たちを苦しめてしまうのかもしれない。

 

近くの公衆トイレの足洗い場でちゃっちゃと全身の海水を流す。櫛で軽く髪を梳いて整えた後、三人でフリスビーを始めた。なかなか面白くてハマってしまう。
あっという間に八時を回った。バンに乗り込んでリャオさんが握ったおにぎりをパクつきつつ、あたしは自分のスマホで海の写真を数枚撮った。そして近くの老舗レストランで評判の朝ご飯をテイクアウトし、あたし達は帰宅した。
 

昼にはまだ早い時間帯、牧志の事務所で食事を終えた男達が床に転がって寝息を立てる。その横であたしは画用紙を広げる。スマホの写真を見ながらB4やB6の鉛筆を握りしめ、線を走らせる。時折ちらりとトモの寝顔を眺めながら、あたしは何度も肩にかかった指の感触を思い起こしていた。この絵が完成したら、絵を見るたびあの時のことが脳裏によぎるんだろうと考えつつ、あたしは絵の具を置いていった。

 

翌日。ママから一度奥武山へ戻るとラインがあった。
絵の具が乾いたのを確認して、あたしは画用紙を巻きとった。
「もう少し泊まっていったらいいのに」
リャオさんはそう言ってくれたが、ママが戻ってくるのだ。あたしもとりあえず帰らなくちゃ。
「週末、また来ます」
「じゃ、さつきさんに揚げ春巻持ってって」
リャオさんとトモに見送られ、あたしは事務所を後にした。美栄橋駅からやってきたモノレールに乗る直前、あたしは自分の口元にきちんとマスクがかかっているか確認して、それから席に着いた。

(夏色の季節2020 番外編 FIN)

~~~

青春小説「サザン・ホスピタル」リンク先はこちらから。サザン・ホスピタル 本編 / サザン・ホスピタル 短編集

小説「わたまわ」を書いています。あらすじなどはこちらのリンクから: exblogへ飛びます。
当小説ナナメ読みのススメ(1) ×LGBT(あらすじなど) /当小説ナナメ読みのススメ(2) ×the Rolling Stones, and more/当小説ナナメ読みのススメ(3)×キジムナー(?)

沖縄・那覇を舞台に展開するラブコメディー「わたまわ」をこちらに転載しています(といっても今回は東京での話なんですけど)。 exblog版は26、ノベルアップ+版では22。前半省略して中盤以降転載します。リャオのモノローグです。

お試しバージョンとして小説ながら目次を作成することでノベルアップ+版とほぼ似た仕様でのご提供を考えました。クリックすると各意味段落へジャンプします。

 

目次
1.簡単なあらすじ
2.会合の顛末
3-1.あけみさん、コサカ氏を手玉に取る
3-2.あけみさん、誕生日のサービスを受ける

 

----

 

1.簡単なあらすじ

 

リャオは東京のIT企業・ツーファーランド社から中国企業との通訳役依頼を受けます。中国企業とツーファーランド社との日程調整をはじめますが、ツーファーランド社からの連絡は滞りがち。当日になっても会合の段取りがほとんど丸投げな状況に、リャオはついにぶち切れました。

 

2.会合の顛末

 

時間押し気味なので、そのままホテルへ向かう。あちらの役員と初顔合わせだ。もうこの展開からして信じられんが、にこやかにご挨拶する。
「君が金城さん? 思っていたより若いね?」
60代の男性と50代くらいの女性か。夫婦の可能性もあるな。そして40代はじめとおぼしき男性。あれ、見覚えがある。
そうだ、私が最初に東京で就職した大手企業の主任だった男。確かコサカという苗字だ。私が中国人と嗅ぎつけて裏であることないこと言ってくれてたね。そうか、あんたが私に通訳役を仕組んだんだな。それにしても、ここまで打ち合わせゼロで外国企業まで巻き込んで稚拙な会合を目論むなんて、どうなることやら。

 

向かい合ってテーブルに座る。通訳席の指定も何もないから、私は端っこの座席を取りトイレに逃れる。もう知らん。勝手にやってちょうだい。

 

十分くらいトイレでヒマしてたら、ほら、おいでなさった。
「金城君!」
コサカの野郎、慌てふためいてるぜ。こちらは涼しい顔で対処します。
「コサカさん、お久しぶりです」
「悠長なこと言ってる場合じゃないでしょう! 早く戻って司会やってくれる?」

はあ? こいつマジで頭おかしくね? 心の声を気づかれないよう、私は平然として口を開く。

「そのような話、全然伺ってませんよ。このまま帰ろうかと」
「いや、あの、困るよ。うち誰も中国語喋れないし」
「大丈夫ですよ。お客様、携帯用翻訳器お持ちですから。じゃあ私はこれで」

11年前には本気であんたをぶっ殺してやりたかったが、当時の私にはできなかったな。
私は部下という名前のあんたの犬コロだったからな。
でも今じゃ中小企業といっても副社長なんでね。あんたの言いなりにはならないよ。
ストーンズのこの曲、お前さんにピッタリだ。

 

 

みじめでさえない業務にぶち当たった、お前はそんな人間だろ。群衆のただ中で大声で喋りすぎ、階段を上ったり降りたり。
どんなにお前が隠そうとしても涙が目を縁取ってるよ。立ち止まって周りを見ろよ。
ほら、来るぞ来るぞ来るぞ、19回目の神経衰弱が。

 

あんたが神経衰弱のカードをばらまいたんだろ?
ほんじゃ、自分で答え合わせしろや。
頭冷やして接待現場へ戻りな。じゃ、あばよ。

立ち去ろうとしたら、コサカがしがみついてきた。
「金城君、頼む、頼むよ! 埋め合わせはするから!」
「埋め合わせって?」
「明後日帰るんだよね? 明日の夜はおごります!」
おお、困ったときになると珍しく低姿勢になりやがる。

うん、妙案が浮かんだ。乗ることにしよう。

 

取り急ぎ確認を入れる。
「お客様へのお土産はあるんですよね?」
「うちの新商品だが」
ダイニングの裏手にまわって見せてもらう。人数分の、マイクとスピーカーのついた高性能小型カメラ。試供品として宅配便のバイクにつけてもらうつもりだね。で、追加購入してもらうの期待してるんだろ。魂胆見え見え過ぎ。
「中国の客人相手なら、本当はもうちょっと何か用意しますよ。それが無理なら今日ここで高いボトルワインでも一本開けてください」
コサカは黙っている。ほら、事前打ち合わせしないから。

テーブル席へ戻る。オードブルが到着してます。コサカにワインをセレクトしてもらう。一本4万ね。いいんじゃない?
ツー・ファー・ランドさんの取締役に挨拶してもらう。

 

“今天为了欢迎代表团的光临,我们在这儿设便宴,为各位接风洗尘”
ジン ティエン ウエイ リヤオ ホワン イーン ダイ ビヤオ トワン ディー グワーン リン , ウォ メン ザイ ジョーァ アル ショーァ ビエン イエン , ウエイ ゴーァ ウエイ ジエ フオン シイ チェン .
(今日は代表団がお越しくださったことを歓迎し、ここに簡単な宴席を設けて長旅の疲れを取っていただこうと思っております)

 

簡単に通訳して伝える。文句言うなよ、事前原稿用意しないあんたらが悪い。
「乾杯」
はい、中国人相手に乾杯ってことはボトルワイン一本で済むわけないね。既に2本空いた。私の金じゃないからどうでもいいけど。
サラダ、スープときてメインの子羊の骨付きステーキが運ばれる頃合いを見計らい、客人にはそれとなくワインのお値段は伝えました。感激なさってる。そして、お代わりだと。コサカの野郎、真っ青だ。知ーらない。

 

お土産もお渡しして無事にお開きです。タクシー手配しまして客人の宿泊先まで私がお届けします。かなりご満悦だ。

 

“今天真是非常感谢。 多亏金城先生”
ジン ティエン ジェン シー フェイ チャーン ガン シエ 。 ドゥオ クイ ジン チュヨン シエン シュヨン.
(本日は本当にお世話になりました。金城さんのおかげです)

 

お褒めにあずかりました。では明朝、お迎えに参ります。

 

2022年8月18日
翌日。起きて再び“あきお君”になる。携帯電話充電、軽く朝食を済ませてメールチェック。客人のホテルへ到着。皆さん、ご機嫌だ。良かった。タクシー手配して東京駅へ。新幹線ホームまでお見送り。京都の担当者に電話連絡。ああ、ようやくひと息つけた。
東京駅を出て、うちの社員から頼まれた土産を探しに行く。うわー、行列だよ。このあと何も予定なくて良かった。多めに購入したから、さつきさんへも一袋あげよう。
客人へビジネスメール。昨日のお疲れはありませんか? 沖縄へいらっしゃる際は是非お声掛けくださいね、など。これで仕事は私の手は離れた。夕方コサカに会うまで自由だ。

 

3-1.あけみさん、コサカ氏を手玉に取る

 

夕方になった。周到に用意してツー・ファー・ランド本社へ向かう。コサカの野郎が降りてきた。キョロキョロしてる。
「コサカさん」
「き、金城君?」
相手は仰天してる。まあ、そうだろうね。私、あけみだもん。うふふ。
「今晩はお招きいただき、ありがとうございます!」
丁寧に挨拶してコサカの手を握る。硬直する相手に構わず、ひっぱる。
「私、行きたいお店があるんです。ご一緒してもらえます?」
まさか振り解いたりしないよね? 第一、貴社はLGBT当事者協賛企業だよね? てことは、私がこんな格好をしていても面と向かって差別はできない。まして、私の行為をアウティングするなんてもってのほかだ。そんなマネしたら支援団体にチクってあげるわよ?
 
私はコサカをとあるベトナム料理店へ連れ出した。
「ここ、最近流行ってるんですよ」
カップル2名を上席へ案内してもらう。うふふ。さあて、どうしてやろうか。
メニューを開く。よし、目当ての品、見っけ! さっそく席に備え付けのベルを鳴らして店員を呼ぶ。
「すみませーん、カエルの唐揚げください!」
「……カ、カエル?」
「カエル、中国で流行ってるんですよ。是非お試しになって!」
私はニッコリ微笑みかける。コサカさん、あんたゲテモノは苦手だったな? きっちり調べはついてるんだよ。そうそう、あのメニューも忘れずに注文してあげよう。
「それから、この、シンガポール風カエルのお粥とオレンジジュースのセットを一つ」
「ええっ?」
そんな顔しなさんな。うまいんだからこれが。
コサカは既に青くなっている。あらま、序盤から飛ばしすぎたかしら。ゆっくり料理してあげたいのに。
 

さて、ご存知の読者様も多いことでしょう。ベトナムはビール天国。つまみも色々ございます。
「コサカさんはビールですか?」
押され気味な相手がうなずくのを確認してハノイビールにグラス2つ、おつまみにロンロンを。うふふ。ビール、お酌してあげるわ。
「今日はお誘いいただき、ありがとうございます。乾杯!」
はい、どんどん飲んでね。これからが本番よ。
ロンロン来ました。ぶっちゃけ、豚の内臓盛り合わせ。沖縄風に言うなら「中身」をそのまま持ってきた感覚。沖縄では腸を使いますが、こちらは胃袋です。香菜と一緒にレモンとかで食べます。
「美味しいですよ。あらどうしたのコサカさん、どんどん召し上がって!」
コサカは表情が引きつっている。どうしたの? こんなに美味しいのに!
続いて、カエルのお粥セット。お鍋に白粥、蓋付きポットに煮込まれたカエルのぶつ切りがたっぷり。
「よそってあげますね」
「いや、いいから、いいから!」
おい、まさか白粥だけ食べるつもりかい? 遠慮はいらないよ、一番美味しい太ももの部分入れたげる。チャポン。
「本当に美味しいんですよ! ほとんど鶏肉ですから!」

 

(image:Photo by Henrique Felix on Unsplash)
あけみと思ってね、うふふ♪

嘘じゃないよ。鶏肉より美味しいくらい。コサカさん、目を固くつむって食べてる。ね、美味しいでしょ? どうして顔をしかめるの?
そうしているとカエルの唐揚げも来たよ。こりゃ大分スパイシーに調理したね。水かきがよく見えるわ。コサカさん、ますます顔をしかめる。うーん、ビールによく合うし美味しいのになー。

 

3-2.あけみさん、誕生日のサービスを受ける

 
コサカさん、青い顔で白粥とオレンジジュースをちびちびやってるよ。気の毒に。でも釈放する前にもう一押し。ベルを鳴らし店員を呼ぶ。
「すみません、メニューに、誕生日の客にプレゼントありますって書いてあるんですけど」
「はい、お誕生日を証明するものはお持ちですか?」
私は免許証を見せた。顔はもちろん、あきお君。

 

おい、店員さん、そこで固まっちゃだめだよ。東京はオリンピックも開催した国際都市なのに、LGBTの客をこんな調子で扱い続けるつもりかい? コサカさんもコサカさんだ、自分がLGBTの客を連れ込んだ相手だと思われるのがそんなに嫌ですか? あー、修行が足りないな。もう少し鍛えてあげようか?
「少々、お待ちくださいね」
店員さんが下がった。コサカさんがどもりながら話す。
「……金城さん、今日、誕生日だったの?」
「あら、申し上げてなかったですか?」
そうよ。8月18日生まれ。獅子座なの。乙女座だったらよかったのに。
「お待たせしました。本日のデザートが一品サービスになります」
チュオイ・チン(揚げバナナ)だ。揚げバナナって書いたけど、バナナに米粉つけて揚げた天ぷらです。
「悪くないですよ」
コサカさんにも薦める。実は、すこし酸味がある。コサカさん、また顔をしかめたね。バナナと言わない方が良かったかもしれないが、今回はいいことにする。

 

以上です。コサカさん、本日はごちそうさまでした! 沖縄土産に本場のフォーを買い込みながらコサカさんに話しかける。
「またこの時期に呼んでいただけます?」
「いや、あの、ちょっと」
では、このあたりで釈放してあげましょう。気をつけてお帰りくださいませ。投げキッスしたげる。チュッ!
そしたらコサカさん、店先で転んだ。あーあ、気をつけてって言ったのに。
(途中ですが FIN)

この後リャオとサーコとのラインのやりとりや、沖縄へ戻った“あきお君”に社長から思わぬ言葉を掛けられるシーンなどありますが省略します。何があったか知りたい方、是非exblogへ!

 

 

~~~~~

青春小説「サザン・ホスピタル」リンク先はこちらから。サザン・ホスピタル 本編 / サザン・ホスピタル 短編集

小説「わたまわ」を書いています。あらすじなどはこちらのリンクから: exblogへ飛びます。
当小説ナナメ読みのススメ(1) ×LGBT(あらすじなど) /当小説ナナメ読みのススメ(2) ×the Rolling Stones, and more/当小説ナナメ読みのススメ(3)×キジムナー(?)

 

「わたまわ」第一部ameblo収録分のみリンクしてます。

きちんと読みたい方はexblogあるいはノベルアップ+にて読み進めてください。ってこの記事、意味あるのかな(苦笑) exblog版第一部目次リンク貼りますね。

 

 
2020年
  1. 月とコロナ (1)(2)(3)(4)(5)
  2. あけみさん解放大作戦その1 
  3. 夏色の季節2020 (1)*ameblo中途収録

   夏色の季節2020 番外編 (3-2.の1部分+エピソード追加。exblog未収録) go

  1. 台風をぶっ飛ばせPart1 (ノベルアップ+未収録)
  2. 台風をぶっ飛ばせPart2 (ノベルアップ+未収録)

   宜野湾ラビリンズ(4.5.の1部分+エピソード追加。exblog未収録) go

  1. 遠山の金城さん (3)*(1)(2)ameblo未収録
  2. あけみさん解放大作戦その2 (ノベルアップ+未収録)
  3. 男達のランデブー go
2021年
  1. バレンタインデー 
  2. あけみさん解放大作戦その3(ノベルアップ+未収録)

   春う・ら・ら (10.の1部分のみタイトル変更してノベルアップ+に収録)

  1. 6月23日のペリドット (1)(2)*ameblo中途収録

   intermissionその1~ジング氏の考察 (ameblo)go (excite/ノベルアップ+未収録)

  1. 魅惑のワイングラス (2021年7月の現状を鑑みて公開停止中)
  2. 恋するダミー前編 
  3. あけみさん解放大作戦その4 
  4. 恋するダミー後編 (1)
  5. 説明責任 
  6. コスプレ三人組 go
  7. とまりんにて

 

2022年

 

  1. 初詣 go
  2. 社交ダンスと強盗と (2)*ameblo中途収録
  3. カウントダウン go
  4. 今夜は熱唱! 
  5. 旅立ち (1)
第2部以降しばらくお待ちください。
あまりいい画像ないけどちょっと前に使ったズッキーニでも載せますかね。
 
image

目次を設定したので再度UPしています。

那覇市制100周年企画とタイアップして沖縄・那覇を舞台に展開するラブコメディー「わたまわ」をこちらに転載しています。このエピソードは「わたまわ」ノベルアップ+版では21。exblog版は25。時間軸設定は2022年6月23日。トモが韓国軍に入営して訓練所入隊を終えた直後になります。ヒロイン・サーコは高校三年生でトモとは遠距離恋愛中ですが、なにやらトラブルを起こしている模様。サーコがリャオの住む牧志の事務所に置き手紙してリャオが気づくシーンからスタートしています。なお本文中に、沖縄を代表する怪談作家・小原猛さん関連動画へのリンクを追加しました。是非お楽しみ下さい。

 

お試しバージョンとして小説ながら目次を作成することでノベルアップ+版とほぼ似た仕様でのご提供を考えました。クリックすると各意味段落へジャンプします。念のため書き添えますがリャオ=あけみさん=あきお君です(笑)

 

目次
1.リャオ、小包を開く
2.サーコの英文レター(日本語つき)
3.あけみさん、ジング氏とラインする
4.あけみさん、サーコとラインする

 

---

 

1.リャオ、小包を開く

 

サーコと朝以外あまり顔を合わさない日が続いている。
彼女、小禄にある大型量販店のレジ係のバイト入れました。トモへ小包を送るために資金が必要なのだと。

 

 

2022年6月23日 慰霊の日の午後。
テレワーク終えて玄関見たら、キレイに洗ったお弁当箱と一緒にミミガージャーキーと手紙が入っていた。ミミガージャーキーとは、豚耳をジャーキーに加工したもの。観光客向け定番土産品になってる。ビールとの相性がいいんだよね。

 

今回サーコが入室しなかったのは、前回の事件で懲りてしまったのだろうか?
だとしたら残念だ。もう、あんなことはしないと約束したのに。

 

手紙の宛名は金城あけみ様。漢字にしてないのは、“あきお君”でなく“あけみ”にってことだ。
ジャーキー入っているから夕食後、メイクは落としましたがムームー着用で、ビール片手に封を切ってみた。

 

 ――金城あけみ様
 お世話になっています。おいしいお弁当をいつもありがとうございます。
 本日はミミガージャーキーをお届けする理由を説明したく、お手紙しました。
 このジャーキーはトモへの小包に入れるとき、ひとつ箱からこぼれてしまったものです。

 

なんだ、おこぼれか。たいした理由じゃないじゃん。

 

――トモは訓練所を出たとき、変なラインをよこしてきました。
 訓練所を出ると5時間くらいは自分の携帯を手にすることが出来ます。
 (そのあと取り上げられ、新しい配属先で再度渡されるそうですが、いつになるか不明です。)
 彼はひたすら、I want you, I need you. と書いてます。
 もう少し激しい言葉があったのですが今回は自粛します。
 読んでて気色悪いというか、腹が立ちました。

 

サーコ、気持ちはわかるけど。
普通の成人男子が男臭い軍隊に閉じ込められて女性の姿を全く見ない日が二ヶ月も続いたら、そりゃおかしくなるだろうよ。

 

手紙は続く。

 

――そこで、ラインでこんなお返事を返しました:
 新しい配属先を、(トモのお姉さんの)ミヨリさんに教わったので小包を送ります。
 トモの誕生日あたりに届くと思います。今回のプレゼントは本にしました。
 愛の形は人それぞれあるそうなので、夏らしい愛をお届けします。ではまた。

 

はあ。そうですか。

 

――そして、さきほど彼に小包を送りました。ミミガージャーキーとモンスターマンチと本数冊と手紙です。
 送ってしまった後で申し訳ないですが、手紙のコピーがあります。後学のため、お手すきのおりに添削をお願いします。

 

添削? 英文ってこと?
二枚目をめくってみる。うん。英語だ。しかも筆記体! サーコ筆記体書けるんだ? へえ、見直したよ。
え? 私ですか? もちろん読み書きできます。貿易商社の副社長が筆記体の読み書きできなかったら、シャレにならないでしょう。
それにしてもサーコ、頑張ったな。ほめてやらないと。

 

2.サーコの英文レター(日本語つき)

 

ということで、読者のみなさまにもご紹介します。こんな手紙です。

---
 

Dear JinGoo
(親愛なるジングへ)
I guess you should chill down.
(あなたは頭を冷やすべきだと思う)

You tell me you want me. It's O.K.
(あたしが欲しいのね、それは結構よ)
So, I just tell you how I want you.
(だったら、あたしがどんなにあなたを欲しいか話してあげる)

 

 

I want all of you.
(あなたの全てが欲しい)
I want everything of you.
(あたしはあなたの全てが欲しいの)
Yeah, I want peal your skin.
(ええ、あなたの肌を剥がしたい)
And, I want to chop off your body.
(そして、あなたの身体をバラバラに切り落として)
I want to cook to eat all of your parts.
(あなたの全ての部分を調理して食べたいの)

 

Do you know that one of an Okinawan lullaby?
(こんな沖縄の子守唄があるんだけど)

 


image: photo by Klmialku

 

大村御殿の 角なかい
At the corner of the Uhumura residence

耳切坊主が 立っちょんど
The monks called Mimichiri stand there.

幾体、いくたい 立っちょが
How many are they stand there?

三体、四体立っちょんど
I can see there three or four monks.

泣いちょる 童 耳ぐすぐす
They might cut children's ear if they cry, you can hear that sounds Gusugusu.

ヘイヨ~ヘイヨ~ 泣くなよ
Hey children, Don't cry.

 

 

I give present Mimiga Jerky for you.
(ミミガージャーキーをプレゼントするわね)
You know well they made from pigs ears because you ate several times.
(豚の耳でできてるって知ってるでしょ、あなた何度も食べてるし)
I will cook your ears and skin like them.
(あなたの耳や肌もこんなふうに調理してあげる)
No waits, Honey!
(待てないわ、ハニー!)

 

Moreover, I sent you some Okinawan ghost story.
(それから、沖縄の怪談をいくつか送ってあげる)
Mr. Kohara is one of our author's friends.
(小原さんは私たちの作者のお友達なの)
Please read them. You get chill for instance.
(どうぞ読んでね。すぐ涼しくなるから)

 

 

 

My love, with frozen zeal;
(あたしの愛を凍った情熱と共に)
Asako.
(麻子より)

 

---

 

サーコ、こ、怖い! 添削どころじゃないわ!

 

3.あけみさん、ジング氏とラインする

 

お、三枚目があるのか。日本語に戻ってる。やれやれ。

 

――いかがでしょう。私もかなり暑さで頭がやられているようです。
 申し訳ありませんが、どうか、あけみさんからトモへなぐさめの取りなしをお願いします。
 おやすみなさい。良い夢を。
 麻子より
――追伸 あきおさんには黙っていて下さいね。

 

「無理だよ!」
一人叫んで気がついた。“あけみ”で読み始めたのに、途中から私は無意識に“あきお”になっていた。
サーコと会ってから二年、もう自分が“あけみ”か“あきお”か判然としなくなってきている。アイデンティティの境界線がめちゃくちゃ。

 

少々悩んだが、手紙をPDFにしてトモのラインへ送ることにした。

 

“Tomo, How's going? Akemi accepted some letters from Asako. I transfer you a PDF file. Please read.”
(トモ、元気? あけみは麻子から手紙をもらいました。PDFファイルを転送するから読んでね)

 

お、既読になった。ということは、新しい配属先で慣れてきたのかな。
PDFを読み終えたのだろう。続いて「ぴえん」と「ぱおん」のスタンプが来た。それ、えらい古いな?
いちおう、フォローしておこう。

 

“I guess this is kindness for you. It might be hot this summer. She thinks you need to chill out. And she asks me that I comfort and encourage you.”
(思うに、これって親切心だよ。今年の夏は暑いだろうから、涼しくしてやろうって。彼女、あけみにあんたを慰め励ますよう頼んできたわ)

 

既読になる。

 

“Are you Akemi?”
(君はあけみ?)
“Yes. I can throwing kiss for you if you want. Shall I attach video file?”
(そうよ、お望みなら投げキッスしたげる。動画送ろうか?)
“Oh, please!”
(ちょっと、勘弁してくれ!)

 

トモ、そんな露骨に驚かなくたっていいじゃないか。せっかくあけみで書いてるのに。

 

“Tomo, you'll take survival training this summer on your military service, won't you?”
(トモ、この夏は兵役でサバイバル訓練するんだよね?)
“Yes, I will in two weeks. We'll be in the north area of the base. It is said that there are many ghosts live in. But, now I'm scared Asako than the ghosts. “
(そうそう、二週間後くらいに基地の北側で。そこは幽霊がいっぱい出るらしいけど、今は幽霊より麻子が怖い)

 

おいおい、それが宣教師のセリフか? ギャグマンガじゃあるまいし。

 

“I'm curios. What did you say for Asako?”
(私、気になるんだけど。麻子に何て言ったの?)
“Liao, sorry, I can't tell you.”
(リャオごめん、話せない)

 

私はイラッときてしまった。あ、そう。じゃ、もう知らない。

 

“O.K.. I won't touch this problem. Just solve it between two of you. Bye. “
(わかった。この問題にはもう触れません。二人の間で解決しなよ。さようなら)

 

そして私はトモとのラインを終えた。

 

4.あけみさん、サーコとラインする

 

えーい、ついでだ。サーコにラインしてやる。

 

――サーコ、あけみです。手紙読みました」

 

お、既読になった。

 

――あけみさんですか? いつもお弁当ありがとうございます。手紙、あれで良かったでしょうか?」

 

そうそう、筆記体のこと誉めてやらないと。

 

――サーコが筆記体書けるの知らなかった。すごいね。英語も今回は添削必要ないです」
――そうですか。ホッとしたというか、うーん」
――トモにPDFしといたよ。そしたら、麻子は基地のお化けより怖いって」
――そうですか。ああ、いい気味」

 

……おいおい、ちょっと雲行き怪しくないか? ならば、こっちのことも書くか。

 

――あけみはトモにまた振られました。投げキッス拒否られた」

 

サーコに号泣しているスタンプを送る。慰めの言葉が戻ってくる。

 

――おお、よしよし。トモはあけみさんのこと何もわかってないんだね?」
――そうよ、あんたの彼氏は私のことなんか構ってもくれないわよ。あんたと何があったかも教えてくれないし」
――彼、最近、紳士じゃないんです。あの人、むっつりスケベかもしれない」

 

おいトモ、どうするよ。このままだとサーコに嫌われるよ? フォローしといてやろうか?

 

――軍隊ってすごいところだから。あきお君なら気が狂うよ。あんな男臭い空間、生きていけないって言ってる。トモは息をしているだけ偉いって」

 

しばし沈黙。ややあって返事が来た。

 

――あたしの知っているトモはどっか行っちゃったんだと思います」

 

あー、トモ。こりゃ重傷だぞ。
さあ、どうする。自分の中のあきお君が顔を出す。「別れちゃえ」って言うかな。でも。

 

――トモは今、自分と戦っているんだと思います。彼ほど誠実な奴はいません。信じてやってください」

 

送信して、落ち込む。私は何を書いているのだろう。
既読になる。サーコが返事を書いた。

 

――あけみさん、ありがとう。手紙の件、あきおさんには黙っててね? おやすみなさい」

 

サーコ、だから、それは無理だってば! ここでこうして読んでるし。

 

スマートフォンをベッドの上に放り投げる。ビールは全部飲み干した。
歯磨きをしながら鏡に映る自分自身を見る。化粧を落とした、あきおの顔。

サーコはあきお君なんて眼中にないはず。ずっと、あけみのことばかり。
そうだよね。出会った頃から、私、あけみだもんね。
あけみだと思ってくれているから、一緒にいるんだもんね?

あきお君、二回、君の頬にキスしているんだけど。そうか、それで逆に警戒されてるのかも。

明日は金曜日だ。このクソ暑いのに午後から会議ですか。スーツで出勤だよ。そして背中にまた吹き出物が湧き出るんだろう。
サーコ、最近、バイト忙しいもんな。背中に薬、塗ってくれそうもないや。あきらめよう。

私は電気を消すと、さっさとベッドへ潜り込んだ。
(あきお君のひとりごと FIN) NEXT:26_あきお君東京へ出張する (1)(exblogへ飛びます)

~~~

青春小説「サザン・ホスピタル」リンク先はこちらから。サザン・ホスピタル 本編 / サザン・ホスピタル 短編集

小説「わたまわ」を書いています。あらすじなどはこちらのリンクから: exblogへ飛びます。
当小説ナナメ読みのススメ(1) ×LGBT(あらすじなど) /当小説ナナメ読みのススメ(2) ×the Rolling Stones, and more/当小説ナナメ読みのススメ(3)×キジムナー(?)

カテゴリ「サザンホスピタル関連」にしてます。これは長編および短編集の執筆につきまとう非常にこまった問題なのです(泣)

ちょい宣伝。「サザンホスピタル短編集」は現在アルファポリスさん主催「第12回ドリーム小説大賞」に応募しています。リンク先クリックで飛びます。今回とりあげる音声表記問題の実例ですが、肩の凝らないお気楽な物語たちですよ。

 

 

 

さて、沖縄諸方言(琉球語)はユネスコでも指定された消滅危惧言語であります。ちょっと検索したらドコモさんのWeb siteがあったのでいちおうリンクしますね。

 

 

ところで、ドコモさんの企画は沖縄方言の音声を扱っていますが、音声記号/音韻記号が出ているわけでも、日本語まじりの表記をあつかったわけでもありません。小説に用いるにはどうしても「どの音声をどう日本語的に表記するか」という表記法の問題に直面せざるを得ないのです。例によって目次のように説明していきます。よろしくおつきあい下さい。

 

目次
1.うちなーぐちの発音 グロッタルストップって何?
2.グロッタルストップのある語/ない語 それらの代表的日本語表記法2例
3.どちらの表記法も使えない! 小説「サザン・ホスピタル」での困った語例

 

---

1.うちなーぐちの発音 グロッタルストップって何?

 

沖縄諸方言の表記についてはいろんな問題がありますが、今回は有名どころとして「グロッタルストップ(声門閉鎖音)」を取り上げます。一般日本人の皆様には馴染がうすく分かりにくい(沖縄方言/琉球語で探したけど、グロッタルストップにポイント絞って扱った動画がなかった)ので、英語学習のYouTubeからこんな動画をリンクしてみます。

 

 

こちらの動画で1:20あたりに「語頭にこの音を置くのは不可能」とおっしゃっていますが、可能です。すくなくとも沖縄諸方言の語頭母音単語にはそういった語が溢れている。さらに言えば、ほとんどの日本語の語頭母音単語はグロッタルストップで開始する、という解釈が言語学一般の常識といっていい。

それなのになぜ沖縄方言の音声を扱う場合にグロッタルストップが特に取り上げられるのかと言いますと、沖縄諸方言にはグロッタルストップを語頭母音に伴う単語と伴わない単語があって、話者はほぼ例外なくその差を明確に捉えて発音しているからです。

 

2.グロッタルストップのある語/ない語 それらの代表的日本語表記法2例

 

以下、超有名な例をあげます。グロッタルストップの音声記号をよくにた「?」、長音記号として「:」を用います。

 

単語 音声表記 日本語表記 その1 日本語表記 その2
私、我  wa:  わー  わー
 ?wa:  っわー  ぅわー/うゎー
 ja:  やー  やー
お前、汝  ?ja:  っやー  ぃやー/いゃー
 ?utu  うとぅ  うとぅ
 utu  うぅとぅ  をぅとぅ
 ?in  いん  いん
 jin  いぃん  ゐん

 

日本語表記その1の例はこちらの辞典からです。Amazonさんで買えますよ。ちなみに辞典ではカタカナ表記。

 

 

日本語表記その2の例はたしかこの本に載っていた。西岡先生&仲原先生、間違っていたらごめんなさい書棚から本が消えてるから検証できなかった(号泣)

 

 

3.どちらの表記法も使えない! 小説「サザン・ホスピタル」での困った語例

 

で、くるみさんが現在「サザン・ホスピタル」で使っている表記は両方混ぜ混ぜ、あるいは両方採用しない表記になってしまっています。

なぜかといいますと、本文中にさとうきびをあらわす「うーじ」と、踊りをあらわす「うどぅい」という単語が出てくるから。「」内が実際に小説で使っている地文表記ならびにルビ表記ですが、これらを代表的日本語表記法2例であらわすとこうなります。なお、ザ行をあらわす音声記号の一部をよく似た「3」で表現しています。

 

単語 音声表記 日本語表記 その1 日本語表記 その2
さとうきび  u:d3i  うぅーじ  をぅーじ
踊り  urui / udui  うぅるい  をぅどぅい

 

読者の皆様におたずねしたい。

もし本をめくってすぐのページに「をぅーじ」と書かれていたら、これが「さとうきび」をあらわす語としてなんら躊躇せずに読み進めることができるでしょうか? あるいは「うぅーじ」と書かれててそれが「さとうきび」とすぐ判りますか? わからないですよね? 読み手個々人には個々人ごとに、単語にあてはまる音声がすでに存在している。「うーじ」はもう沖縄方言を飛び越えて日本語になりかけた語です。言語学者のみなさんが推奨する日本語表記で記述すると逆に読み手が違和感を覚えてしまいます。そしたら最悪、小説を読んでもらえなくなる。

それから、踊り「うどぅい」については「サザン・ホスピタル」をWebに初掲載した16年前から正直表記が揺れています。「をぅどぅい」表記でもいいかなーと思うこともありますし、主人公の勉君は那覇方言話者という設定(勉は糸満生まれですがサンシンの師匠である東風平長助が那覇市出身であり、言語習得に最適な8~13歳前後の時期に勉は弟子になっている)なので、「うぅるい」も表記可能なのです。ただ「うぅるい」だと琉球語と日本語は同一系統(姉妹語)なのにd音の反映がみえにくくなる(那覇方言はd音がr音に転化する)ため、小説に採用するとしたら「をぅどぅい」が優先するかな。でも、琉球芸能の隆盛を見聞きするにつれ「うどぅい」も日本語なりかけかもしれないとも感じるシーンが多々あります。かといって、沖縄諸方言で発音の要とも言えるグロッタルストップを反映しない表記でいいんだろうか。そう考えるとすっごく悩ましいです。

 

ひとつ言いたいのは、くるみさんは沖縄諸方言の表記、文法、文例、いずれもできるだけ現状にそった形で小説として発表したいと考えている。いいかげんな語例や用法で通したくない。琉球芸能の記述もそう。専門的知識がかなり必要になってきます。「ノンネイティブスピーカーだから」とか「実技に携わっていないから」という理由で排除して欲しくない。それに、この小説群は無料公開しているが100年以上残るかもしれない。実際、くるみさんは寿命を縮める思いで書いています。生きている間にこの苦労が報われることはないだろう、という悲しみが毎日脳裏をかすめます。でも、書かなくちゃならない。表現をやめるわけにはいかない。やめてしまったら何も残らなくなる。沖縄の人間が故郷の財産をどう残したいかという希望を捨ててしまうことになる。だから後世に残して100年後の人間にアレンジを委ねたい。そう考えています。

 

ほかにも悩ましい表記例はいくつかあります。読者のみなさんに理由をきちんと説明できるようになったら、こうやってブログに書いていくつもりです。うーん、次回はいつになるかな?

舌足らずな文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございました。でもさ、amebloさんで「サザン・ホスピタル」本編につかう沖縄方言をルビタグつかって書くの本当にもう勘弁。ぐちゃぐちゃになりますんで。ノベルアップ+にて読み進めていただきたい、是非(強調)。

~~~~~

青春小説「サザン・ホスピタル」リンク先はこちらから。サザン・ホスピタル 本編 / サザン・ホスピタル 短編集

小説「わたまわ」を書いています。あらすじなどはこちらのリンクから: exblogへ飛びます。
当小説ナナメ読みのススメ(1) ×LGBT(あらすじなど) /当小説ナナメ読みのススメ(2) ×the Rolling Stones, and more/当小説ナナメ読みのススメ(3)×キジムナー(?)

 

本文とあんまり関係ないけど飛行機からみた写真。沖縄本島南部だと思う。
 

image

那覇市制100周年企画とタイアップして沖縄・那覇を舞台に展開するラブコメディー「わたまわ」をこちらに転載しています。このエピソードは前回ご紹介したエピソード「あきお君のひとりごと」の前段階になります。「わたまわ」ノベルアップ+版では20。exblog版は24。時間軸設定は2022年6月5日。トモが韓国軍に入営して1ヶ月あまり経過したのですが、高校三年生のヒロイン・サーコは早くも遠距離恋愛に限界を感じ、なんと別の男子とのデートを承諾してしまうのです。聞きつけたリャオは大笑いしつつもサーコに「きっとうまくいかない」と釘を刺します。そしてデート当日がやってきました……。

今回長いので前後だいぶ端折って転載しています。興味をお持ちの皆様は是非exblogまで足をお運び下さい。

 

 

お試しバージョンとして小説ながら目次を作成することでノベルアップ+版とほぼ似た仕様でのご提供を考えました。クリックすると各意味段落へジャンプします。

 

目次
1-2.サーコ、後悔する
2-1.あきお君、サーコを連れ去る
2-2.内緒の出来事

 

---

1-2.サーコ、後悔する

 

そして日曜日。初めての方だから肌の露出を避けてジーンズ履くことにして、上はグリーンのTシャツに透けた白のパーカー、リャオさんがサイズ小さいといってあたしにくれた薄茶のパンプス。

image

タマキさんは車で奥武山公園駅まで迎えに来ました。免許取って、若者に人気の月一万コミコミプランで黄色い軽自動車です。あたしは助手席に乗りました。
車内で流れるのは流行りの洋楽。うーんと、あたしBilly Irishなら知っているけど他はわからない。
今日はライカムへ行く予定ですが、タマキさん、ずっと喋り通しだ。バイト先の話、テレビでオンエアされているドラマの話。ゲームの話。

 

テレビ、結局ママが処分しちゃった。NHKの受信料の取り立て攻勢がすごくて、一昨年からのコロナ勤務で疲弊していたママは徴収員に
「うちもう一切テレビ見ません!」
とやっちゃった。その日のうちにリサイクル業者が引き取っていった。これで、あたしはテレビにとんでもなく縁遠い人間になった。
で、こないだ英語の授業で先生があたしを指名したのね。

 

“What's the best TV program that you watch recently?”
(君が最近見たテレビ番組で一番良いと思ったのは?)

 

仕方なく答えました。

 

“Excuse me, but we have no TV because we're very poor.”
(すみません、だけどうち、テレビ無いんです。貧しいから)

 

あーもう情けないったらありゃしない。それが学校ばかりでなく、デートでも同じ思いをするなんて。

 

でもタマキさんはわからなかったみたい。運転しながらネット対戦型ゲームの話に一人で興じていらっしゃる。こちらは、うなずくしかない。
58号線から西海岸道路で宜野湾まで抜けて、伊佐交差点からライカムへ。少々混んでる。駐車場空いてるかなとヤキモキする。タマキさんは駐車待ちをしながら悪態をつき、バックで入れる際に10回以上切り替えしていた。
駐車場からライカムの建物へ向かう。タマキさんがくっついてくるので距離をとる。この時点で既にあたしは彼とライカムへ来たことを後悔していた。彼はどうやら手を繋ぎたいらしい。信じられない! あたし、トモと2年付き合って手を繋いで歩いたことなんて1度もないのに!
先につかつか歩く。今日の目的は映画のはずだ。派手なアクションが売りの話題作。あまり期待はできない。チケット買って飲み物とポテトを購入、席に座る。まあ、席くらい隣でもいいですけど。
映画が始まった。ああ、これ、暴力シーン多すぎ。流血シーンがやたらリアル。男性は好きかもしれないジャンルでしょうが、わざわざデートにセレクトする映画でしょうか?
前宣伝に15分、実際の映画は80分。ようやく上映が終わった。この後はランチタイムらしい。正直、帰りたいが、ライカムから一人で那覇まで帰るのはなかなか骨が折れる。空港バス捕まえるしかないかな。ああ、困った。

 

2-1.あきお君、サーコを連れ去る

 

お昼はピザだった。嫌いではないが今日の気分でもなかった。ずっと前にトモと来た時、何食べたっけ。そうか、バイクに乗って場所変えたからここで食べてないんだ。近くの老舗アメリカンレストランでブレックファーストプレートとシーザーサラダ取って二人で分けたんだった。
トモといてこんなに気持ちが沈んだことなんてなかったから、もうどうしたらいいのかわからない。タマキさんは映画の感想が聞きたいらしい。どうリアクションしよう。

 

あ、ラインが着信してる。
「ちょっと失礼」
驚いた。リャオさんだ!
――今、ライカムのフードコートにいます」
ええ? 本当に?

 

あたしはハンドバッグを手に取ると、目を皿のようにしてフードコート内を探した。
……いた。それも、かなり近くに。
廊下の向こう側、二ブロック離れたテーブル席の端っこで、"あきお君"がざるそばを食べている。

あたしはトコトコ歩いて行った。

アルマーニの背広を脱ぎ、薄いピンク色のYシャツにボルドーな色味のサスペンダーを身につけた中国人が、ざるそばを美味しそうに食べている。あ、こっち向いた。あたしを一瞥してひとこと。
「何がおかしいの?」
そして、何食わぬ顔でそばを箸でつまんで、つゆにつけて、ズルズルッと音立てて食べた。
「美味しいですか?」
「まあね」
そしてまた、そばをつゆにつけて、音立てて食べた。
取り立ててどうということもないはずの、その様子が、何故かユーモラスに思える。
あたしはクスクス笑いながら側に立っていた。先程までの重い気分がいっぺんに軽くなった。

 

「お隣、いらっしゃるようですが」
あきおさんが尋ねる。
あたしはタマキさんの方を向く。事態が飲み込めないのだろう、彼は呆然としている。あたしは、にっこり微笑み、思い切って言った。
「知り合いが来たので一緒に帰ります。今日はありがとうございました」
そして、タマキさんへぴょこんと頭を下げると、あきおさんの隣に腰掛けた。
「いつもお気遣いいただき、感謝申し上げます」
「べつに、それほどでも」
あきおさんは相変わらず、そばを食べ続ける。

 

「あの、麻子さん」
声をかけるタマキさんへ、そばを食べ終えたあきおさんは箸を置くと向き直った。
「ということですから、彼女は私が連れて帰ります」
そして、コップの水をごくりと飲んで立ち上がり、背広着ながらあたしに言いました。
「じゃあ、サーコ、帰ろうか」
「はい」
あきおさんはトレーを持った。あたしも続く。もう後ろは振り返らない。食器を返してそのまま歩く。
「本当に助かりました」
「そりゃ、よかった」
良かった。これで那覇に帰れる。あたしはリャオさんに語りかける。
「まさか、迎えに来てくれるとは思ってもみませんでした」
「だから、言ったでしょ? 上手くいかないって」
あきおさんの目が笑ってる。

 

あたしは気づいた。
あの香りがする。シトラス系だけどスパイシーな、あの香り。
落ち着くような、でも、心がとろけてしまいそうな香り。

 

あたしはリャオさんへ小さな声で頼んだ。
「どうかトモには黙っていてください」
「そうねー」
リャオさんは右手をポケットに突っ込み、車のキーをジャラッと鳴らして言った。
「ほんじゃ、少し付き合ってもらいましょうか?」

 

2-2.内緒の出来事

 

フードコートからエスカレーターを降りる。視線の先には超有名なライカムのフォトスポットである巨大水槽。
あたし達は水槽へ駆け寄った。時刻は14時。ちょうど餌付けの時間です。魚達が群れる様子に周囲が集中してて、あたしも上から落ちてくる餌に気を取られていた。だから、右横から腕を回され左肩をつかまれたことに気づくのが遅れた。
右頬に軽くキスされた。気づいて右横を見たときには、先程とどこも変わらない、直立不動の姿勢で魚を見上げる"あきおさん"がいた。彼はあたしと同じセリフを呟いた。
「どうかトモには黙っていてください」

 

リャオさんが運転する隣で、あたしは外の景色を眺めるふりをする。心が波立っていることを悟られないように。
普段の彼は、彼女は、決してそんな素振りさえ見せない人。
なのに時折、こんなドキッとするような振る舞いをする。

 

あたしには、リャオさんの真意がわからない。全然つかめない。

 

奥武山公園近くのアパートに着く。車を降りようとすると、リャオさんがセカンドバッグから何か取り出した。
「これ、届いてた」
なんと、トモからの手紙が三通。ありがとうリャオさん!
「トモに言っといて。家主にも一通くらいよこせって」
そう言ってリャオさんは去って行った。

(揺れる乙女心 途中ですがひとまずFIN)

---

このあとトモから届いた三通の手紙をサーコが読むシーン、長いので転載省略します。気になる方は是非exblog 揺れる乙女心(2)へ飛んで下さい。

~~~~~

青春小説「サザン・ホスピタル」リンク先はこちらから。サザン・ホスピタル 本編 / サザン・ホスピタル 短編集

小説「わたまわ」を書いています。あらすじなどはこちらのリンクから: exblogへ飛びます。
当小説ナナメ読みのススメ(1) ×LGBT(あらすじなど) /当小説ナナメ読みのススメ(2) ×the Rolling Stones, and more/当小説ナナメ読みのススメ(3)×キジムナー(?)

那覇市制100周年企画とタイアップして沖縄・那覇を舞台に展開するラブコメディー「わたまわ」をこちらに転載しています。このエピソードは「わたまわ」、ノベルアップ+版では19。exblog版は23。時間軸設定は2022年3月31日夕刻。前回投稿した「カウントダウン」の次エピソード(exblog版「今夜は熱唱!(1) (2)」、ノベルアップ+版「カラオケのあとで(1) (2)」)を間に挟みます。

韓国軍入営を決めたトモは宜野湾のアパートを引き払ってリャオの住む牧志の事務所に泊まっています。出発前にトモがリャオを飲みに誘うシーンです。ひょっとするとPG12かもしれませんがこのまま普通に掲載します。お試しバージョンとして小説ながら目次を作成することでノベルアップ+版とほぼ似た仕様でのご提供を考えました。クリックすると各意味段落へジャンプします。それにしても今回の小見出しはひどいなぁ(苦笑)。

 

目次
1-1.ジング氏とリャオ、桜坂で飲む
1-2.リャオ、ジング氏に秘密を打ち明ける
1-3.ジング氏、リャオに教会を勧める
1-4.ジング氏、リャオの首を絞める

---

 

1-1.ジング氏とリャオ、桜坂で飲む

 

トモは私の所で一週間過ごした。帰国前日、彼は私に言った。
「しばらく会えませんから、二人で飲みに行きませんか?」
いいよ、と答えて、ふと考えた。彼はきっと私に何かを伝えたいのだ。話を振ってみる。
「トモ、どっちと飲みたい? "あきお"か、"あけみ"か」
トモは即答した。
「あきおさんで」

 

私は長袖のTシャツを二枚重ねにし、上からフードつきのパーカーを羽織る。下は分厚いチノパン、運動靴。トモも似たような服装だったから、端から見たら兄弟に見えたかもしれない。

image

事務所から国際通りを横切り桜坂へ抜ける。掘りごたつのある居酒屋へ入って泡盛と、適当に二、三品を注文する。 泡盛を水で割るか聞いたら、トモはロックにするといってグラスに氷を入れた。
こいつ、今夜は飲み倒す気かもしれない。私もロックで飲むことに決めた。

 

ゴーヤーチャンプルーと魚てんぷらが来た。トモが祈っている。私も反射的に手を組んで唱える。
"Bless, O Father, Thy gifts to our use and us to Thy service; for Christ's sake. Amen."
十字を切って目を開けるとトモがこっちを見ていた。クスクス笑っている。
「悪いことじゃないから別にいいでしょ?」
私はぶっきらぼうに答えて箸を持ち、取り皿に自分の分を分ける。今日は神様の話はごめんだ、それ以上突っ込まないでね。

 

「サーコに聞いたんですが、リャオが香水使ってるって」
「うん、使ってるよ。さっき出る前に足洗って、ここに付け直した」
靴を脱いで足首を指し示す。
「興味があるなら嗅いでもいいけど、端から見たらゲイカップルに間違えられないか?」
トモはまたクスクス笑った。
「じゃあ、ちょっといいですか?」

 

トモが私の足首を嗅いでいる。
これマジで周囲から勘違いされるわ。ゲイのみなさんをおとしめる気はないです、でも私はゲイではありません。トモ、さっさと嗅ぎ終わってくれ。

 

「悪くないですね」
「アルマーニだけど通販じゃないと入手が難しいやつなの。周囲と被らないように」
「あけみさんは香水使わないんですよね?」
「よく勘違いされますが接客業は基本香水はNGですよ。その延長であけみの時は使ってません」
「自分、軍隊行くからしばらく香水は縁遠いです」
「そうか。よくそんな男臭い群れに行けるな? 私には無理だよ」
「しょうがないです。韓国人の宿命ですから」

 

1-2.リャオ、ジング氏に秘密を打ち明ける

 

せっかくなのでトモに根掘り葉掘り聞いてみる。
「どのくらい向こうに行くの?」
「たいてい一年半あるいはそれ以上。自分は任期を短くしたいので陸軍志望しました」
「トモは通訳兵だよね? 後方支援になるんでしょ?」
「その予定ですが、最悪戦争になるとそうも言ってられないでしょうね」
「ご両親とか何かおっしゃってた?」
「気をつけていってこい、としか言われてないです」
「サーコは何か言ってた?」

 

トモは急に黙り込んだ。泡盛をあおった。氷がカランと音を立てる。
「リャオ、しばらく休戦していいですか?」
「……いいよ」
心の中でつぶやく。こっちはもともと君と戦う気はないんだけどな。
「サーコに外の男を近づけないようにお願いします」
「うーん、まあ、気をつけてみる。でも、彼女と何も、将来とか、約束してないんでしょ?」
トモはグラスに泡盛を満たし、舐めるように飲んでいる。そして、吐くようにつぶやいた。
「約束はできない。生きて帰れるかどうかもわからない。生きて帰ってきても、精神が破綻したケースも聞きますよ」

 

私は息を飲んだ。そうだ。それが現実なのだ。
彼は前を向いたまま、ゆっくり言葉を紡いでいる。
「何も言えない。二年間なんて長い間、縛る約束なんかできない。ただ、やりすごすだけ」

 

私は自分の泡盛をあおった。
「生きて帰ってきてよ。それからでしょ?」
トモは頷く。
「ただ、一つ気がかりなこというか、その……」
「何?」
トモはためらっていたが、やがて口を開いた。
「よく昔からあるでしょ。戦場へ行く前に、男は、ほら、女性と」
ピンとくるものがあったのでそのまま答える。
「ああ、女性と経験しとけっていいくるめて、そういう場所行くとか」
「そう、それ」
トモはグラスの泡盛を全部、飲み干した。ほぼストレートで2杯飲むとさすがに顔が真っ赤だ。
「私は宣教師なので、基本、結婚するまでセックスはなしです」
「そうらしいね?」
「それは、神様が決めることなので、まあ、あきらめというか、このまま女性経験なしで戦場行って死んじゃうなら仕方ないよなって」
「おいおい!」
「まあまあ、万一の時の話です。問題は、その」
彼は3杯目の泡盛をドバッと自分のグラスに注いで、ちびちびやって、言った。
「サーコのことが気になって」
……ははーん。なるほど。
「彼女まだ17歳ですが、自分がいない間に、そうなっちゃうのか考えたら、気が狂いそうで」

 

わかった。よし。トモには話しておこう。
「トモ、ちょっと耳貸して」
「耳?」
私は右手の人差し指を突き出し、彼の注意を引いた。

“Listen carefully. I tell you only once.”
(よく聴いて。一回しか言わないから)

 

彼の左耳に口を近づける。
……ごにょごにょ。
「えー!」
私は彼に笑いかける。
「やっぱり驚いた? 普通驚くよね?」

“Liao, is that true?”
(リャオ、それホント?)

“It's true. Trust me!”
(本当だよ、信じて!)

“Never?”
(全然、ない?)

“Never!”
(全然!)

「えー!」

“So, you won't any anxiety about she and I.”
(だから、彼女と私のことは何も心配しなくていいから)

トモは頷くと、こっちに右手を差し出した。
「話してくれてありがとう!」
「どういたしまして」
私達はがっちり握手して、互いのグラスをかざし、飲んだ。

 

えー、何を話したかって? 今は内緒。そのうち、わかりますよ。

 

1-3.ジング氏、リャオに教会を勧める

 

「今までリャオのこと、疑って悪かった」
「そりゃ当然といえば当然でしょ」
我々は酒を飲み続ける。
「話し聞いて少し安心はしたけど、できれば」
トモはこっちを向いて言った。
「サーコに触れること自体、やめてほしい」
「……わかった」
努力します。トモの苦しみを考えれば、そのくらいの配慮は。
「それから」
トモはグラスの泡盛を飲み干して、こっち向いて言った。
「教会、行ってください」

 

だから、神様の話は今晩はやめろと言っているのに!

 

私はそっぽを向いた。壁に向かって飲んでいるとトモがつついてくる。
「リャオ、話を聞いて」
「やだ」

“Liao, I might die there. Please listen.”
(リャオ、私あの地で死ぬかもしれないから。聴いてよ。お願い)

 

そう言われれば仕方ない。トモに向き直る。
「で、何? あんまり神様の話は聞きたくないんだけど」
言葉にトゲがあるのが自分でもわかる。
「リャオが教会に不信感持っているのはわかります。それについては、何度でもあやまります」
トモは真剣な面持ちで私に語りかける。
「でも、神様の愛を疑うのはやめて欲しいんです」

 

私は自分のグラスを空にする。氷を入れ直す。
「トモ、もう少し飲む?」
「自分でやります」
彼は私からトングを取ると自分でグラスに氷を入れ泡盛を注いだ。私も彼からボトルを受け取り、自分の分の泡盛を注ぐ。
「私はこの一杯で止めとく。でないと明日、車でトモを空港まで送れなくなる」
「わかりました。自分は遠慮なく飲みます」
「どうぞ」
トモは再びグラスの泡盛を舐める。私は別のグラスを2つ取り出して水を注ぐ。これは常温がベスト。接客していると、こういう知識はつくのよね。

“Drink this as a chaser, too.”
(これも飲みなよ、チェーサーだから)

“Thanks.”
(ありがとう)

 

1-4.ジング氏、リャオの首を絞める

 

トモは口元へ水を運ぶ。そして話を継ぐ。
「リャオは神様が嫌いなわけでは無いんですよね? でなきゃ祈らない」
とりあえず頷く。トモが聖書を開きながら尋ねる。
「新約聖書のヤイロの娘の話、知ってますか?」
たぶん知ってる。病弱な女の子が死にかけてて、父親がイエスキリストに頼み込んで娘のところへ連れて行くんだよね。そしたら、連れて行く途中で群衆のなかから、これまた出血が十年以上止まらない女が出てきてイエスに触れ、血が止まった。
「そうそう。そしたらイエスは立ち止まりました。この部分です」

 

新約聖書「ルカによる福音書」第8章45-48節:
イエスは言われた、「わたしにさわったのは、だれか」。人々はみな自分ではないと言ったので、ペテロが「先生、群衆があなたを取り囲んで、ひしめき合っているのです」と答えた。しかしイエスは言われた、「だれかがわたしにさわった。力がわたしから出て行ったのを感じたのだ」。女は隠しきれないのを知って、震えながら進み出て、みまえにひれ伏し、イエスにさわった訳と、さわるとたちまちなおったこととを、みんなの前で話した。そこでイエスが女に言われた、「娘よ、あなたの信仰があなたを救ったのです。安心して行きなさい」。

 

「この話さあ、このあと、肝心なヤイロの娘は死んじゃうんでしょ?」
私の問いかけにトモは微笑んだ。
「ええ、でも、生き返りますよ」

 

第8章54-55節:
イエスは娘の手を取って、呼びかけて言われた、「娘よ、起きなさい」。するとその霊がもどってきて、娘は即座に立ち上がった。

 

「あれ、そうだったっけ?」
人の記憶は当てにならないものだ。トモが言った。
「つまり、このケースでは、みんな救われているんです。ヤイロはイエスが立ち止まったとき、きっと腹が立ったと思います。一刻も早くイエスに来てもらって娘を癒して欲しいのに、どうして立ち止まるんだろうって。でもイエスは立ち止まった」
トモ、なにもイエスが立ち止まらなくても、女は既に血が止まって治ってるじゃん。治っているのに足止めしてやり取りしてたら、時間の無駄にならない?
「治っても、そのままの状態で終わらせてはダメだったんです。この時代、慢性の病気は祭司の元へ行って治っていることを証明させない限り、公然と治ったことにはならないんですよ」
むむむ。つまり、完治証明書みたいなのがいるのか?
「そう。だから、イエスはこの女をちゃんと公衆の前に呼び出して、治ったことを宣言する必要がありました」
なるほどねぇ。その上で、後で死んだ女の子もちゃんと生き返らせて、治療が完了したと宣言する必要があったわけだ。

 

「これは都合のよい話に思えるかもしれません、不条理な話は聖書にもあります。でも、重要なことは、神様は往々にして、そういったことをなさるってことです。だから、リャオが神様に持つ不信感とか不満とかにもきっと、答えてくれるはずです」
「だといいね」
私は放り投げるような相づちを打った。するとトモは私の右手を強くつかんだ。
「絶対に、答えてくださいます!」
睨んでる。こっちがびびってしまうくらいの強い目力を感じる。私は言葉を無くした。
「向こうに行っても、毎日、私は祈ります。リャオが神様の方を向いてくれるように。でないと」
彼は息を思い切り吐き出すと、ゆっくり吸い込んで、つぶやいた。
「私たちは天国で再会できなくなってしまうから」

 

トモの言葉が、がらんどうの心に鳴り響いている。

 

涙がこみ上げてきた。思わずつぶやく。
「トモ、それ、あけみで聞きたかった」
するとトモは手を引っ込めて叫んだ。

“No way!”
(やめてくれ!)

“Why? It's nice words for marriage proposal.”
(どうして? プロポーズの言葉としてはとても上出来だわ)

“Liao!”
(リャオ!)

「あー、怒った! トモが怒った!」
「いい加減にしてください!」
「よーし、サーコに言ってやろう。私、トモにプロポーズされちゃった!」
「リャオ!」
あがが、こ、こら、本気で首絞めるな! 君は宣教師だろう!

 

この後、ぐでんぐでんに酔ったトモに肩を貸し、私は彼を事務所へ連れ帰った。((2)へつづく)  exblogへ飛びます。

 

~~~~~

青春小説「サザン・ホスピタル」リンク先はこちらから。サザン・ホスピタル 本編 / サザン・ホスピタル 短編集

小説「わたまわ」を書いています。あらすじなどはこちらのリンクから: exblogへ飛びます。
当小説ナナメ読みのススメ(1) ×LGBT(あらすじなど) /当小説ナナメ読みのススメ(2) ×the Rolling Stones, and more/当小説ナナメ読みのススメ(3)×キジムナー(?)

那覇市制100周年企画とタイアップして沖縄・那覇を舞台に展開するラブコメディー「わたまわ」をこちらに転載しています。このエピソードは「わたまわ」、ノベルアップ+版では17。exblog版は21。時間軸設定は2022年2月11日、祝日。こちらの記事につづく展開です(ただし「社交ダンスと強盗と(3)」を間に挟みます、exblogです)。

 

 

お試しバージョンとして小説ながら目次を作成することでノベルアップ+版とほぼ似た仕様でのご提供を考えました。クリックすると各意味段落へジャンプします。

 

目次
1-1.にわか有名人
1-2.バレンタインクッキング
2-1.ジング氏の名前の由来
2-2.これから二人は……

 

----

 

1-1.にわか有名人

 

次の週からお弁当はしばらくごちそうが続いた。
サイコロステーキなんてとんでもないものが三日連続で入ってた。その後もエビとか骨付きチキンだった。リャオさんの策略かとドギマギしてたが、別になんでもないらしい。
え? じゃがいものお団子? 毎日入ってた? ああ、なんでコロッケじゃないのかなって不思議だったやつのことかな。うん、食べたよ。リャオさんの料理は基本ハズレなしだから。いつも本当にありがとうございます。

 

トモの帰国が近づいている。
学生の本分は勉強ということくらい、言われなくてもわかっている。でも、2年近く付き合った彼氏とこの後また2年近く会えなくなるのかと思うと、悲しくて胸が張り裂けそうだ。
それなのに、この悲しみを共有できる友達は誰もいない。あたしはずっと周りには秘密にしていた。親友のナルミにさえも。ただ、こんな伝え方はした。
「家庭教師さん、帰国しちゃうんだ。従軍するんだって」
「従軍かあ」
ナルミは深く同情してくれた。先日の強盗未遂事件は何と新聞の社会面に取り上げられた。警察から表彰されて顔写真が掲載されたトモは大学で一躍有名人になってしまい、街行く人々からも声をかけられる。もっとも本人は宣教の機会が増えたと素直に喜んでるようで、デートどころじゃないって感じ。

 

あたしの存在なんて、もう、どうでもいいんだ。どうせこのあと2年近く従軍するんだし。

 

「サーコ、告っちゃえばいいじゃなん?」
そう言ってくれるけどさ。ナルミ、知らないんだもんね。あたしたち、既に付き合ってるんだって。
「軍隊行ったら自由行動も通信も制限されるから、ややこしいんだって」
あたしはそう言って話を終わらせる。彼女と心を割って話せたらどんなにか楽だろう。でもナルミはスピーカーだ。外国人と、それも韓国人と付き合ってるって万一ママにバレたら恐ろしいことになる。
ママは韓流ドラマは好きだけど、韓国に関する報道には手厳しい。過去に嫌な韓国人の入院患者に遭遇したと言ってた。処方された薬を紛失して、それを担当看護師であるママのせいにしたらしい。後でくずかごから出てことなきを得たのだが、その患者は謝罪なしに帰国してしまった。それ以来、ママは韓国に良い感情を持ってない。

 

トモが掲載された新聞記事を切り抜いて姉のミヨリさんへ送った。
ミヨリさんはいつもあたしのことを気づかってくれる。誕生日プレゼントに小さなクマちゃんのスノードームを贈ったら、とても喜んでくださった。トモが従軍するというニュースを聞きつけ、彼女は歳末の慌ただしい中を速達で牧志の事務所経由で手紙をしたためてくれた。韓国からの手紙がママに見つかるとヤバいことを、ミヨリさんもリャオさんも知っている。
「アンニョン! 麻子、ジングのことを支えてくれて本当にありがとう。書きにくいことですが、はっきり言うね。正直、従軍すると家族であっても連絡を取りづらいの。このまま別れると言う選択肢も大いにあり得る。あなたはまだ若い。自分の最善を選んでちょうだい。でも、もしジングとしばらくやっていく気があるなら教えて。返事を待ってるね」
あたしは、2年間頑張りたいという返事を新聞記事に添えた。

 

1-2.バレンタインクッキング

 

2022年2月11日 金曜日、祝日。
三連休の初日にあたしたち3名は事務所にいた。
仲良くバレンタインのチョコクッキーと、ニース風サラダを作る。簡単なフランス料理をしようって半年前にリャオさんと約束してて、今日ようやく一品できた。
「本当はラム肉トマトシチューにしたかったけど、クスクスが手に入らなくってさ」
リャオさんがトマトソースパスタを盛り付けながら、申し訳なさそうにつぶやいた。
「リャオの料理ならなんでもいいですよ」
フォークにパスタを巻き付け、トモが口に運ぶ。よせばいいのに、この褒め言葉に"あけみさん"は有頂天になった。
「きゃ、うれしい! 韓国へ行ってもトモ宛のメールに毎回投げキッス添付してあげる」
「いりません!」
どうもこの二人のやり取りには毎回笑ってしまう。あたしは笑いを噛み殺しながら、二人にチラシを見せた。バイト募集要項だ。
「来月からしばらく、バイトしようと思って」
3月の授業はテストさえ終われば大したことない。帰国準備で忙しいトモには今後ほとんど会えないと思った方がいい。高3の授業が本格化するまで、お金が手に入るならなんとかしたい。
「最後にトモの送別会しようよ。バイト決まったら25日金曜日は夕方から空けといて、カラオケルーム予約するからさ。トモもその頃には引越しして、ここで泊まるでしょ?」
そうか、トモは宜野湾の荷物処分して後、しばらくは事務所で暮らすんだ。それから帰国か。
「バイク、車検してから来月末に売ることにしました。同級生の家族が買ってくれます」
トモのバイクは300ccだから車検しなくてはならないらしい。車検前に処分も考えたが、バイクがないと礼拝へ行くのが不便になるから仕方なく先に車検を済ませることにしたそうだ。
あたしたちは互いにスケジュールを確認し、クッキーを分けあった。リャオさんに別れを告げる。トモが言った。
「サーコを後ろへ乗せるのも、もう最後ですね。どこか行きたい所ありますか?」
あたしは、トモが強盗をやっつけたあの場所をリクエストした。

 

2-1.ジング氏の名前の由来

 

店内の窓際席を陣取り、海を眺める。一度聞いてみたいことがあった。
「トモのジングって名前、本当はどういう意味があるの?」
「ジングのグは駒という意味です」
駒? 将棋の駒?
「チャンギ(將棋)です。日本の将棋とも中国のシャンチー(象棋)とも異なります。祖父が好きだったので、貴重なものという意味の珍の字と組み合わせて名付けられたようです」
コーヒーを一口飲んで、トモは肩をすくめて付け足した。
「祖父もまさか、のび太と同じ名前とは思わなかったでしょうね」
あたしは思わず吹き出してしまった。トモは続ける。
「大学生のころ、漢字のフルネーム(キム・ジング 金珍駒)をインターネット検索したら、何故かちんすこう(金楚糕)がヒットして、それで沖縄のことを知りました。食べてみたくて沖縄へ来ました」

image

あたし、理解しました。男性ってやっぱり最初に食い物ありき、ですね。リャオさんのデート攻撃にもすぐ引っかかるわけだ。
そうそう。リャオさんで思い出したよ。言っておこう。
「ねえトモ、あきおさんが香水使ってるの知ってた?」
「ええ?」
あー、知らないんだ。イヤリングにも気づかないし、ファッション系は全滅だなこりゃ。
「あけみさんは使わないの。あきおさんだけ。トランスジェンダーとかと関係ある?」
「あまりないと思いますが、本人に聞いてみます」
よし、ひとつ疑問を共有できたぞ。これであたしの罪悪感が減るといいけど。
「そういえばリャオからさっきハンドクリームもらいましたよ」
見せて! 見せて! おっと、ロクシタンのヴァーベナじゃないですか! これ、恋する相手に贈る定番だよ?
「……聞きたくなかった」
トモ、またあけみさんに言い寄られて落ち込んでるの? 素直に喜べばいいのに!


2-2.これから二人は……


あたしは本題に入った。
「ミヨリさんへここの事件の新聞記事、送りました」
「聞きました。昨日、到着したそうです。姉に事件のこと、ツッコまれて参りました」
あたしたちは互いに吹き出した。トモが言った。
「手紙、読んだそうです。姉が、くれぐれも無理しないでって」

 

2月の波之上の海は灰色で波が高い。
二人は無言で飲み物を片手にたたずむ。
将来を語り合うには、二人ともあまりにも未熟すぎる。

 

「あたし、トモを待ちます」
何とか声を絞り出した。彼は表情を固くした。
「私もできる限り、手紙を書きます。リャオの事務所へ送ります」
彼はうつむいてそう言うと、付け加えた。
「でも、サーコを縛るのは私の本意ではありません」

 

トモ、どうして、「待っててください」って言わないの?
あたしは自分の気持ちをきちんと伝えたよ?

 

そのまま二人はバイクに乗った。
奥武山のアパートに着いても、トモは何も言わなかった。
「このバイクともお別れだね。いままでありがとう」
あたしはトモのバイクを撫でた。前のカバーも、後ろのシートも。
何度か高校の制服を着たまま乗って先生に怒られたっけ。そんなことも、もう無くなる。でも、淋しい。
「あたし、バイト頑張ります。トモも引っ越し頑張ってね」
トモはメットを被ったまま右手を挙げて合図し、そのまま走り去った。
(21_カウントダウン FIN) NEXT:22_今夜は熱唱! (1) exblogへ飛びます。

~~~~~

青春小説「サザン・ホスピタル」リンク先はこちらから。サザン・ホスピタル 本編 / サザン・ホスピタル 短編集

小説「わたまわ」を書いています。あらすじなどはこちらのリンクから: exblogへ飛びます。
当小説ナナメ読みのススメ(1) ×LGBT(あらすじなど) /当小説ナナメ読みのススメ(2) ×the Rolling Stones, and more/当小説ナナメ読みのススメ(3)×キジムナー(?)