ダンスの消えた路地から

ジョギングの靴音が鳴り響く

その走り出しの一歩目が

夜明けのゴーサイン

 

カラスたちはせかせかと

作業的に朝食を摂る

さっき卵かけご飯をかき込んでいた

自分のように

 

感情よりも先に

出てくるあくび

二重にも三重にもなったまぶたを抱え

始発の電車に向かう

 

不安や退屈や軽やかさ

これから湧き上がるどんな気持ちも

託せそうなくらいに

広がった秋の空

 

くねっていたはずなのに

濁流だったはずなのに

僕の中で

 

これは一体何だ

瞳からしとやかに

透き通って溢れ出るものは

 

こんなきれいな流れじゃ

心の一つも

表わせていない

 

世界へと

さらけ出される

大事な伝言を装って

 

僕じゃない

僕は

こんな涙じゃない

練炭の載っていない

車に乗り

ホームドアが張り巡らされた

駅の電車に乗り

 

鋭い包丁で調理した

健康的なものばかりの

弁当を食べる

ビルの屋上で

強い風を受けながら

 

僕は今

崖の突端で

大きな声で叫びたいだけ

樹海の奥底で

深い呼吸がしたいだけ

 

ロープ一つ買わずに

家へと帰り

ベランダに出て

少し一息

睡眠薬も飲まずに眠る

どこから持って来たのか

その赤を

去り行くための色彩を

 

燃え上がるような

滴り落ちるような

輪郭をはみ出さんばかりの生

 

命の際で

輪廻の只中で

見せた鮮やかな祝福の色

 

流れ込む

おびただしいほどのその紅を

舗装された大地は持て余す

ヒトの体温から

遠く離れて

ソファーで紅茶を飲んでいる

ぼんやりと

 

もう少し軽妙な

心持ちでいたかったのに

秋も夜も

深まってしまうから

 

伝えきれなかった自分が

落ち葉のように積み重なる

まだ着慣れない冬服が

チクチクとしている

 

 

 

 

 

通り過ぎる電車の音に

はっと振り向いて

そしてまたうつむく

 

無感情なコンクリに

抗いながら

寄りかかりたがってる体

 

袋小路の道も

時は悠々と越えてゆく

その向こうに

明日の僕はいるのだろうか

 

立ち止まる心を巻き込んで

時は黙々と流れてゆく

帰り道さえ

行き道にして

僕からか

雲からか始まった

沈黙が立ち込める

 

今なのに

今でないよう

白黒く塗られた

たなびく雲に濡れた空

 

僕も雨も

束の間でこの街を

通り過ぎる訪問者

 

巡り会った

僕は雨を存分に浴びたのに

雨には何一つ

浴びせ返してやれやしない

人々に向かって

投げ出されているような

花びらたち

 

その刹那を

はなむけにして

新しい季節は始まる

 

並木道をくぐる

それは別れだ

僕からの

桜からの

 

取返しのつかないものの

美しさが

この足を立ち止まらせる

花吹雪の中で

突然照らし出された

眩しい記憶が

消えなくて眠れない

 

電気を消して

カーテンで部屋を覆って

布団をかぶって

いくら夜を重ね着しても

 

ちかちかと

僕が消し去ろうとしたものを

思い出させるかのような光

 

僕を見つめているかのような光

その一瞬で

世界は更新される

 

見てないようで

見ている

まぶたの中の

暗闇の世界をくぐって

 

その切断で

一日はつながる

 

無意識のままに

繰り返す

瞳の扉が

閉じては開かれていく