最終電車は闇の中

引き延ばされすぎた一日を

引きちぎって走る


最終電車で眠っている

鞄を抱えた若者が

何かに守られているかのように


最終電車は疲れている

どこからともなく

ため息が充満している


最終電車はたどり着く

世界の片隅のような駅

起き上がった若者は

ゆらりゆらりと歩き出す

自分の中心へと

独り言を言いたい

でも誰かに聞いてほしくて

自分を分かってほしい

でも誰にも知られたくなくて


放っておいておくべきだけど

聞き逃さずにはいられなくて

黙っておけばいいのに

喋らずにはおれなくて


僕の言葉と彼の言葉が

うまくすれ違えずにぶつかる

それで傷つくのは

言葉じゃない

詩では足りない

文章でも足りない

一体何行書けば

あの風景に追いつくのか

言葉で描けるのか


木に止まるトンボ

同じ時に鳴いているカエル

脈打っている生命の営みを

言葉は追いかけきれない


零れ落ちる水の一滴一滴

木が生やした葉の一枚一枚…

の葉脈の一本一本

その微細さを

「微細さ」という大まかな言葉でしか

伝えきれない


全ての複雑さを

静かに秘めて

一つの風景はある

絵から生まれたとは思えないくらい

言葉は絵にならない

風景を真似ることもできない

太陽が

梅雨の記憶の隅々まで

乾かし始めた


うんざりしつつも

促されている気がする

明る過ぎる窓辺に


さらけ出された世界が

瞳の訪れを

待っている


咲いたひまわりの

種の一粒一粒も

焼き付けて

幼さを捨てきれないまま

疑いを抱いて

夢をこじらせ

そして現在に至る


必要のない課題を

自らに課しては

すぐに考えてる

解こうとしない言い訳を


なおも揺れ動く心は

自分の中に生まれた

衝動を信じられない

雨に暮れる窓を

繰り返し眺めて

君は何を確かめようとしてるのか


読み違えた心でも

二人は笑ってこれたじゃないか

それの何がいけないっていうんだ


風に揺れる窓が

全てを語ってしまいそうになる

黙りこんだ僕らの間にあるものを

またタンポポが咲いた

去年のタンポポの代わりでなく


またタンポポが咲いた

誰かの生まれ変わりじゃなく


命の流れに見落とされる

一つの花 一枚の花びら


受け継ぐだけじゃ足りない

僕は僕で生まれてしまった


あの去年と違うタンポポが

新しい一日を僕にくれる

静かに近づいてくる

悲しみにも喜びにも見える


目いっぱい膨らんでいる

瞳を飲み込んで


潜めていた感情が

高揚している

声もなく呻いている


茂みの花が

見とれている

砂漠の砂も

見とれている


調和を乱して

現実は幻想に浸る

昼間よりも露わな世界

今 全身が月

できないことが目に付いて

全てが嫌になって

ひっくり返した机ごと


空いた胸には

劇薬すぎた

疑問符の濫用


振り切れられない針が

苛立ちを抱えながら

乱れた時を廻す


何かが起こりそうな予感ばかりが

僕の視界に映る

木々を揺らしている

夜が静寂を響かせている

そして僕は眠れなくなる


暗闇が見えないものを

見させようとする

そして僕は眠れなくなる


月明かりが眩しくなる

真っ昼間の太陽よりも


テレビの音にかき消されていた

心の声が聴こえてくる

絶えず僕にささやいている

言い返せないのを知っていて