夜みたいな

朝に目覚める


犬の鳴き声が

狼のように響く


心臓の音だけが

やけに騒がしい


水滴の貼りついた

窓を開く


寝息で満ちている

冬の街


冷やされた頬に

朝が伝わる

慌しい街が

賑やかになり

そしてようやく

落ち着きを見せる

本年も佳境なり


役目を終えたソリを

よろよろと引きずって

鈴の音のリズムも

まばらになり


遠のく家々を

たまに振り返り

喜びに沸く朝を

想像する


トナカイの帰り道を

照らすのは

一年が最後に放つ光

夜に解き放たれて

街に乗って人が繰り出す


色を失くした

色気ある時間に


覚束ない足で

引き寄せられるように巡りたい

明かりの下を


人で散らかった

飲み屋の並んだ道を

猫がそっと横切る


明け方には

太陽に告げられる

今日が昨日でないことに


午前2時の

終わりを悟った夜の

苦みが癖になる

走る車の窓から

山々が見え

その前に建つ家々が見え

家々の真ん中あたりに

いちょうが立っていた


まるでそこにだけ

光が当たっているかのように

飛びぬけて輝いていた


厚暗い夜の集落を

ずっと灯していたかのような

散り際とは思えない

頼もしい黄金色


その光は

厳しい季節の前の

束の間を照らし

横切る車の窓を照らし

瞳に秋の名残を残す

心の隅々まで

言葉で伝えきれはしない


はみ出す心のしっぽまで

隠し切れもしない


あなたからはみ出したもので

浮かび上がらせた輪郭


線に沿って

抱きしめてるつもりの僕の心

どこからか

心は生まれて

どんなベクトルで

どこへ消えていく


小さな公園の砂場の隣に

古びた板のブランコがある

ゆるやかな風の中で

ブランコもそよいでいる


動くのには力がいるけど

止まるのにも力がいる

得体のしれない力を

僕は振りかざして生きていく


ブランコが作用する方へ

身を任せたいけど

任せるのにも僕は力がいる


お尻をバウンドさせるように

ベッドから起き上がり

朝の心は無気力と

使命感をさまよう


いつか力尽きた時

人は乗るのだろうか

心から身を任せられる

時のブランコに

月は示す

僕らの逃れきれない闇を


太陽は証す

僕らに組み込まれた色を


不安げに輝く

切れ端の三日月


束の間の異世界に

迷い込んだ地球


太陽は明かす

月に秘められし熱の色

心はすり減らす

景色も

言葉も


すり減らす

子どもの頃に見た空を

感動した本の名言を


初めて見たときの感動を

初めて聞いた時の高揚を

見るたび聞くたびに

削ぎ落とす


すり減らし

すり減らし

褪せてしまった風景の隅から

輝きを拾い出せる

心まで減らしてはいないか

ちぎれたって赤い糸


彼女は去って行った

遠ざかる靴音を

利き耳に残して


僕は糸の両端を

二つの手で握りしめた

危うげな自分を

なんとか繋ぎ止めようと

過ぎ去りし過去に

埋もれていくように

瞳は閉ざされ


目覚めると

何事もなかったかのように

今に引き戻される


張りつめた気持ちは

何処へ行った

練り上げた妙案は

何処へ


そんなことが

どうでもよくなるくらい

体が今日に馴染んでいる


思い切り背伸びする

空っぽの心が

今日を向いている