この記事は3251文字です。(読破予想時間:約7分44秒)
昔、カセットテープのMTRが普及する少し前の話。
親しくしてたバンドが、スタジオでの本格的なレコーディングをして、その音源を聴かせて貰った時の事。
当時は、お手軽に個人が奇麗にレコーディングする方法なんてなかったので、まるで市販されてるプロのCDから流れてくる様な奇麗な音に凄く驚いたのを覚えている。
その頃、スタジオでのレコーディングを除いて、自分が手にする事が出来る最も奇麗な録音と言えば、ライブハウスでのライン録音だった。
ミキサーにカセットデッキを繋いで、ミキサーにラインで入力された音を直接カセットデッキで録音してしまう手法なので、音がクリアーな分、音のバランスはあまりいいものではない。
エアー録音で録れば、バランスもよく臨場感もあるが、音はクリアでなくなる。
当時のライブ録音の主流は、ライン録音が中心でエアー録音で録ってくれる箱(ライブハウスの俗称)は、かなり減ってきているそんな状況だった。
たまに、お願いすれば、ラインとエアー録音をミックスして録ってくれる箱もあったが、僕は個人的にこの方法が一番いいと思ってたし一番好きな方法だったが、身近にクリアに録音する方法がなかったせいか、ライン録音の人気の方が圧倒的に高かった。
当時、普段の活動でバンドマンが耳にする自分達の録音された音源と言うと、スタジオでラジカセを使ってただ一発録音するだけのものだ。
「1発録音」とはその名の通り、各パートを個別に録るのではなく、全員一緒に演奏したものを1発で録る録音の事を言う。
今で言うなら、スタジオでいつも通り演奏してそれをボイスレコーダーや携帯の録音機能を使って録音すると言う、ただそれだけの事だ。
一発録音で録った音源は、低音は録れてないし、雑音や物音も一緒に録音されてるし、決していい音と呼べる様な代物ではなかった。
そんな時代背景がある中、ごく身近なバンドの聴き慣れた楽曲と演奏が、プロのCDに近い音質でヘッドホンやスピーカーから聞こえてくるのだから、僕達は初めて文明の利器を見た原始人の様な状態だった。
しばらく、そのバンドの音源が僕達の周りでは話題を独占した程だった。
その費用を聞くと、やはり気軽に手が出る価格ではなく、時間制限もある。
そうなると、やはり本格的にレコーディングして貰うには、それなりの演奏技術と歌唱力と、それなりの創作力を身につけてからにした方がいい。
そう思って、その時、レコーディングは見送った。
カセットテープのMTRの価格が下がり、一気に普及したのが、そのすぐ後の事だった。
この音を初めて聴かされた時も、「スタジオレコーディングに近いくらいクリアな音が、こんなにもお手軽に録れるのか」と、相当の衝撃を受けた。
僕の周りのバンドマン達もこぞってMTRを購入し、カセットテープのMTRはあっと言う間に当たり前のツールになってしまった。
僕も少し遅れて購入し、使い始めたのだが、録るものと言えば、発声練習の為の練習用のオケが中心で、後は、アイデアの仮録音ばかり。
オーディション用のデモ音源を作るのに使った事があるが、気合いを入れてMTRで録った音源は、そのデモ音源を含むごく僅かのみだ。
その理由は、やはり初めてスタジオレコーディングを耳にした時と同じで、しっかりした録音をするのは、もっと技術を磨いて創作力をアップさせてからと考えたからだ。
その後、DATやら、MDやら、HDレコーディングやら、身近なレコーディング機器は、カセットテープのMTRを超える進化を何度も遂げてきたが、僕の場合は、それは経由せず、カセットテープから一気にMacでのハードディスクレコーディングまで飛ぶ事になる。
当時のMacは今よりトラブルも多くて、レコーディング中にフリーズする事なんて当たり前の時代だったが、それでも、お手軽さで言うと、今までの機器を遥かに凌駕するものだった。
勿論、音質で今までの方法を凌駕してる事は言うまでもないが。
僕は、変な所で完璧主義を発揮する事がある。
日常、それを発揮してる訳ではなく、たまに、ひょんな場面でそれが出てくる。
そして、やたら几帳面なところがある。
これは、基本的な性格なので、治し様もない。
そして、最も自分らしいと言える部分なのだが、こだわりが強い性格であると言う事。
きっと、いつもの「どうせならもっと技術力を磨いて、創作力をあげてから」と言う結論も、こういった自分の性格がもたらす結論なのだろう。
Macを使える様になって、更にお手軽になった時も、また、同じ事を考えていたのである。
そんな調子でしばらく経ったのだが、過去の自分の曲を掘り起こす必要が出てきた時に、ライブのライン録音や、MTRで録ったデモ音源などを聴くと、もう今では絶対に出来ない演奏や、絶対に出ない歌声がそこには残っているのである。
これを聴くと、やはり後悔せずにはいられない。
その時その時の良さは、その時にしか出せないもので、そういう各年代やキャリアによる良さを残し損ねた事を、酷く後悔した。
確かに、少ないもののライン録音やMTRのデモ音源があるだけマシだが、いろいろ思い起こすと、他にも今出せない味を出してたものは、その音源に残ってる以外にもたくさんある。
しかし、もう再現する事など不可能な事は分かっている。
これは、上手いとか下手とかの問題ではない。
10代の良さは10代にしか出せないし、60代の良さは60代にしか出せないのは、音楽に限らず、人生全てに共通なのだ。
このまま妙なこだわりを発揮し続けていては、いつまで経っても、自分の楽曲をこの世に残す事なんて出来ない。
そう思って、今は、どんどん録る様にしている。
そうする事で、録る事を特別な事とあまり感じなくなった。
歌の練習を録音したり、スタジオでのリハの時にラジカセで録音してた時の、あの気軽な感じにほぼ近くなってきた。
これが今の自分なのだと言い聞かせる様に、自分を納得させて録る様にしてるうちに、録る事が日常の何でもない事の様になってきた。
勿論、納得のいかないテイクは、納得がいくまで録り直す。
そこで、これが今の自分だなどと、妥協したりはしない。
この部分こそが本来、こだわるべき所だろう。
そう言いながらも、終わってみるとあちこち納得がいかない部分というのは出てくるものではあるが。
でも、そこにこだわってると、また、前へ進めなくなるので、今が一番バランスよくいけてるんじゃないかと思える。
我ながら、面倒な性格をしている。
こんな性格のせいで、何かと結論を出すまでに時間がかかったりもする。
しかし、これが自分自身なのだ。
人の特徴ってのは、元々短所でも長所でもない。
その特徴をどう使うかどう活かすかで、短所になったり長所になったりするだけだ。
アーティストにとって、こだわりは凄く大切ではあるが、こだわる部分を間違ったりこだわり過ぎたりすると、そのこだわりが障害になって前へ進めなくなるので要注意だ。
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