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2012年の出来事だった。
僕はとあるドラマーのプレイが好きだった。
今も勿論好きなのだが、彼の新たな演奏を聞く事も生でドラムを叩く姿を見る事も、もう出来ない。
その年、突然「生きていけない」とメモを残して、自らその命を絶たれた名ドラマーの話だ。
その詳しい理由は分からないし、想像による話も多々飛び出すと思うので、故人の名誉を傷付けてしまう可能性を考慮して、その方の名前は伏せて話したいと思う。
その方は某有名バンドのドラムを担当されてた方なのだが、そのバンドは随分前に活動休止に入ってて、多くのファンが再始動を待ちわびるその活動休止中の出来事だった。
そのバンドは確かに大抵の人が名前くらいは聞いた事があるであろうビッグネームで、その世界ではカリスマ的な人気がある。
しかし、ヒットチャートに顔を出す様なバンドではなく、音楽通からの評価が高いいわゆる実力派集団だ。
そのドラマーご本人も、再始動を心待ちにしていたと言う記事もある。
長年、不動のオリジナルメンバーで活動してきたが、長い休止を経て再始動となった時、オリジナルメンバーの彼は既にこの世に亡く、新メンバーを迎えての再始動だった。
その新しいドラムの方も今や伝説となった有名バンドの元ドラムの方で、実力も折り紙付きのスーパードラマーだ。
なのに、ファンの心理は複雑で、思ってた程は再始動の話題で盛り上がらなかった様な気がする。
一般の人は、バンドマンの収入や生活がどの程度の水準なのか、おそらくご存知ないだろうと思う。
ある程度知名度が高い場合、コンポーザーとバンドマンでは、その内訳は違う。
コンポーザー、すなわち作詞や作曲など曲作りをしてる人の収入と演奏に特化した人、すなわちバンドマンの収入は、基本的に、売れる程にその差は大きくなる。
実質、バンドマンはバンドがそこそこ有名でも、生活が厳しいって事は多いと思う。
生き方の器用・不器用も大いに関係してくる。
器用にどんどんコネクションを拡げて、メーカーとのモニター契約やセミナーの話なんかポンポンと決めてくる人もいれば、不器用にもそういう事は一切出来ず、演奏しか出来ない様な人もいる。
これだけでも、収入は随分違ってくる。
演奏のギャラなんて、小さなライブハウスで演(や)る分には、キャパから考えて大した金額ではないのは、誰でも想像がつくと思う。
それで普通に生活は出来ても、コンポーザーと違って身体が資本のバンドマンは、将来の不安はつきまとうだろう。
退職金がある訳でなく、勤め人の様に病気や怪我の際の保証もない。
自分で選んだ道であるし、それに関して泣き言を言うつもりは誰もないと思う。
けど、自分で選んだ道ではあるが、そういう小さな不安が蓄積されて、自分でも気付かないうちに精神的に病んで、最終的には生死の判断もつかなくなる事もあるのではないだろうか?
精神的な支えになる奥さんでもいればまた違う結果だったかも知れないが、その方は、離婚なさってて一人で暮らしておられたらしいので、小さな異変に気付く人もいなかったのだろう。
彼の訃報を聞いて最初に思ったのは、もしや食べていけなかったのではないか?と言う事だった。
食べていけないと言う所まで切羽詰まってなくても、今話した様な不安の蓄積があったのなら、同じ事だ。
もっと若けりゃ何とでもなっただろうけど、年齢的にも、もう引き返せない所までどっぷり突き進んでいた事は間違いない。
◇人生捨てていつまでも夢を追い続ける姿って格好いい?
誰しも、覚悟は既に出来た上で自分の行く道を選んでると思うが、だから、何の不安もなく人生を全う出来るのかと言うと、そんな訳はない。
音楽人生を選んだ事を彼は後悔などしていないとは思う。
でも、あんな素晴らしいドラマーが、ドラマーとして長年貢献して、それでいて世間から置き去りにされてしまう理不尽さって、やっぱり考え込んでしまう。
社会が悪いなんて、これっぽっちも思っちゃいない。
本当にシビアだなって分かってた事だが、改めて考えてしまうってだけの話だ。
更に言えば、あんな素晴らしいプレイヤーを救う手だてはなかったのかと悔やまれる事だ。
◇音楽文化を潰す者達
本当に惜しい人を失ったと3年近く経つ今でも強くそう思う。
そして、これは他人事ではなく、誰しも起こりうる事なのだ。
今はただただ、ご冥福を祈るのみです。
もう、それくらいの事しか出来ないから。
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