こんばんは。

今日、BSプレミアムで放送されて録画しておいた
ミュージカル『MITSUKO ~愛は国境を越えて~』
を見ました。とてもいい舞台だったのでちょっと
紹介しますね。

今年はクーデンホーフ光子さん没後70年だそうです。
遠い昔の方のように感じていましたが、亡くなって
まだ70年しかたっていないんですね。

東京の牛込で骨董商を営む家に生まれた青山光子さんは、
1892年にオーストリア=ハンガリー帝国の駐日代理大使
として東京に駐在していたハインリッヒ・クーデンホーフ
=カレルギーと出逢い、恋に落ち、記録上、日本人で
初めての国際結婚を果たした女性です。

二人は愛を育み、父親に勘当されながらも
結婚を決意します。当時は明治時代ですから
国際結婚どころか外国人との交際なんて
考えられませんでした。外国人と付き合う
女性は「らしゃめん」と呼ばれて蔑まれて
いたんです。しかし光子の決意は固かった
んでしょうね。

皇后陛下に日本の女性としての誇りを忘れずにと
見送られ日本人初の国際結婚をし、ハインリッヒの
愛だけをたよりに国境を越えたクーデンホーフ光子と、
その息子で映画「カサブランカ」のラズロ役のモデルと
いわれる、パン・ヨーロッパ運動の創始者でEUの父と
呼ばれているリヒャルト・クーデンホーフ・カレルギー
親子の数奇な運命の物語を菊田一夫演劇大賞を受賞した
「スカーレット・ピンパーネル」の脚本・作詞・演出の
小池修一郎さん、音楽のフランク・ワイルドホーン、
主演の安蘭けいさんという最強メンバーで挑んだ
世界初演のミュージカルがこの
『MITSUKO ~愛は国境を越えて~』です。

クーデンホーフ光子さんについては
1987年にNHK特集で吉永小百合さんが光子に扮して
案内人を努めた、ドラマとドキュメンタリーが
一緒になった『ミツコ 二つの世紀末』という
番組をみたこともあり興味はありました。

「はいからさんが通る」や「あさき夢みし」
などで有名な大和和紀さんが書かれた
「レディ・ミツコ」という漫画も読んで
いたので今回のミュージカルもすんなり
作品の世界に入り込めました。

光子役の安蘭けいさんは宝塚歌劇団の
男役トップスターだった方ですね。
僕は兵庫県出身なので子供の頃から宝塚歌劇は
身近な存在で大好きなんですが、姿月あさとさん
の「エリザペート」を大劇場で見てから
随分ご無沙汰しているので安蘭さんのお芝居を
見るのは今回初めてでした。僕が宝塚を
一番みていたのは、一路真輝さんがトップの
頃なんですよね~。

ハインリッヒ役はウィーン版「エリザベート」で
トートを演じたマテ・カラスさん。
よくぞこの役を引受けてくれましたと思いました。
この公演は6月の青山劇場の中継なのですが、
震災の後で福島の問題もあるし家族や回りの人から
日本へ行くのはやめた方がいいと言われた
そうなんですね。でもそういう時だからこそ
俳優としてたくさんの人に感動をあたえたいと
来日してくれたんです。うれしいですね。
歌もセリフもすべて日本語でとても素晴らしい
心のこもった演技でした。

フランク・ワイルドホーンの音楽が良かったです~。
ミュージカルは曲が命ですからね。小池修一郎さんの
作詞も素敵でした。「後ろを振り向かずに」という曲が
この作品のメインテーマなのですがとても勇気が湧く
力強い曲で感動しました。安蘭さんをはじめ出演者の
みなさん、歌が良かったですね~。

舞台はハインリッヒと光子の出会いから結婚、渡欧、
たくさんの子供達との愛に満ちた城での生活、
夫の突然の死による親戚達との財産を巡っての裁判、
子供達の教育のために城を出てウィーンを目指す前半と、
成長した子供達と光子との確執が露わになり、
世界が戦争に向けて不穏な状況へと進む中、家族と和解する
ことなく、孤独に生きることになっても決して自分を
変えようとしない頑なな老女になってしまった光子の
人生が描かれる後半とにドラマチックに描かれていました。
息子たちが自分の意に添わない女性を好きになったことが
光子は許せないんですよね。母親ってそうなのかなあ。
自分も親の反対を押し切って、国まで捨てたのに矛盾
してますよね。分かっていたんでしょうけど
葛藤があったでしょうね。

光子は晩年、次女のオルガとウィーン郊外でひっそりと
暮らしていたのですが、子供たちとも会いたがらず
子供たちも寄り付かなかったそうです。なにが彼女を
そこまで頑にしてしまったのでしょうか。
彼女の人生を見ていると戦いの連続だったような
気がします。言葉もわからない国で東洋の小さな島国の
商家の娘が突然、伯爵夫人として生きていくことになり
信じる人は愛する夫だけ。回りの親戚たちに誰一人として
理解者はいない。そんな中の夫の突然の死。それでも
日本へ帰ることもできない。夫亡き後、子供たちを立派
に育て上げなければと厳しく向かいあった結果、
子供たちからも疎んじられる…。孤独が彼女を
頑にしてしまったのでしょうか。

光子が孤独の中「無」よと叫ぶように歌う曲が
あるのですが痛々しかったですね~。その後、
脳溢血で倒れて半身不随になってしまうんです。
ああなんという人生!

僕はこの作品を見て、人は誇りを失わず
どう生きるかということを強く感じました。
光子は最後まで自分の信念を貫ぬき、
従って生きた女性だと思いました。
 
それとEUの父と呼ばれる光子の次男
リヒャルト・クーデンホーフ・カレルギーを
演じた増沢望さんという俳優さん、僕は
初めて今回の舞台で知ったのですが、いい
俳優さんですね。これからTVや映画でも
たくさん見るようになるのではないでしょうか。

これからもっともっと再演を続けて、日本を
代表するミュージカルの一つとして育って
くれればいいなと思う作品でした。