ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第5番,第6番,第7番フィッツウィリアムSQ (1975/77) | ~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

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学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。一言二言で印象を書き留めておきたい。その時の印象を大切に。
ということで始めました。
そして、好きな映画や読書なども時々付け加えて、新たな感動を求めていきたいと思います。

ショスタコーヴィチの時代 ㊳

この全集の3枚目のCDには、第5番から第7番の3つの弦楽四重奏曲が収められています。ちょうどスターリンの死をはさむ時代に作曲された曲で、初演はいずれもスターリンの死後になりました。ジダーノフ批判の制約が残っていた期間もありますが、作風はこの時期のショスタコーヴィチらしい、アグレッシブなものとなっています。

【CDについて】

作曲:ショスタコーヴィチ

曲名:弦楽四重奏曲第5番変ロ長調 op92 (30:55)

   弦楽四重奏曲第6番ト長調 op101 (26:45)

   弦楽四重奏曲第7番嬰へ短調 op108 (12:47)

演奏:フィッツウィリアム弦楽四重奏団

録音:1975-77年 サリー All Saints Church, Petersham

CD:433 078-2(レーベル:DECCA) 3/6CD

 

【曲と演奏について】

ショスタコーヴィチは1949年に弦楽四重奏曲第4番を作曲後、周囲の勧めもあって発表は見送っていました。そして、ショスタコーヴィチは、比較的話題になることの少ない弦楽四重奏曲の分野で自身の芸術を追求する作品の作曲を継続し、1952年に弦楽四重奏曲第5番を完成させます。そして、1953年のスターリンの死後この曲は初演され、それに第4番の初演も続きました。

その後、第6番を1956年、第7番を1960年に作曲。すでに雪どけの時代となり、これらの曲は作曲後すぐに初演されています。第7番は1954年に亡くなった最初の妻ニーナに捧げられています。

 

弦楽四重奏曲第5番変ロ長調 (1952)

この曲は、当時ヴァイオリン協奏曲第1番等で使い始めたDSCH音型の変形が使用されています。C–D–Es–H–Cisという形になっていて、冒頭から頻繁に出現していきます。この音形を中心に、躍動的に連綿として音楽が続いていく感じは、ショスタコーヴィチの交響曲で聴いてきた雰囲気と同じもので、それがより密度の高いものとなって展開していきます。ある意味不安をあおる様なこの作品は、さすがにスターリン時代には演奏できないですね。

 

ショスタコーヴィチは弦楽四重奏曲では、交響曲で実現したかったが、広く一般大衆に向けられる分野である交響曲では実現できなかったものを、一歩進めて弦楽四重奏で表現しています。この曲の第一楽章も、当時作曲された交響曲第10番などとも似た雰囲気は持っていますが、より深く、また弦楽四重奏でありながらも響きはより厚くと表現されていると思います。そして、緩徐楽章も美しいメロディを演奏しながら、厚い音響の響く第二楽章を経て、全体の統一性ががっちりと保たれた第三楽章で静かに終わります。大変充実した作品でした。フィッツウィリアム弦楽四重奏団の演奏も押しが強いもので素晴らしいものでした。

 

2009年に結成された、オランダのデュドック四重奏団の演奏で聴いてみましょう。

 

弦楽四重奏曲第6番ト長調 (1956)

この曲が作曲された1956年は、雪どけも発表され、スターリン批判が始まった年になります。そういう時代性を反映してかどうかは判りませんが、この曲からは明るい田園的な雰囲気が伺えます。冒頭から暖かな感じがしますし、第三楽章に置かれたパッサカリアがとても美しいものになっています。バロック様式から行きついた「24の前奏曲とフーガ」を作曲したショスタコーヴィチですが、以前交響曲第8番に織り込まれたパッサカリアと比較すると、ずいぶん明るいパッサカリアです。最後まで、ショスタコーヴィチの音楽の構成感を安心にて味わえる曲でもあります。

 

大半のショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を初演したベートーヴェンSQの演奏で聴いてみましょう。

 

弦楽四重奏曲第7番へ短調 (1960)

ショスタコーヴィチは、1954年に妻のニーナを失いました。そして、彼女の50回目の誕生日にあたって作曲された曲がこの曲です。妻の死がショスタコーヴィチの作風に与えた影響は少なくないものと思いますが、この曲はグロテスクなテーマもある、内省的な作風になっています。また、非常に激しいフガートが含まれています。かの高速フガートを思い出すような。演奏時間は15曲中で最も短く、その分中身の詰まった曲という形です。

 

ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲は、例えば第5番のように、各声部を綿密に組み合わせた厚い響きを作っていたのですが、この曲では四つの声部が合奏される部分が減少し、非常にクリアな音になってきています。そういった響きは後年の作品にも続いていくことになりますが、このあたりが大きな転換点になっているようです。シンプルで内省的に短く詰まった、それでも激しさを感じる曲。じっくり聴き込んでみたい作品です。

 

原題のショスタコーヴィチの演奏では定評のあったエマーソンSQの演奏です。じっくり細部まで丁寧に演奏されています。

 

この3曲を聴いて、世相はスターリンの死から雪どけへと変わり、作風は中期の重厚な音楽から、後期のシンプルで密度の高い音楽へと変わっていく時期に当たります。とても興味深い3曲の組み合わせだと思います。

 

購入:不明、鑑賞:2024/04/14(再聴)

 

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