ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第1番/第2番 フィッツウィリアムSQ (1975/77) | ~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。一言二言で印象を書き留めておきたい。その時の印象を大切に。
ということで始めました。
そして、好きな映画や読書なども時々付け加えて、新たな感動を求めていきたいと思います。

ショスタコーヴィチの時代 ㉔

ショスタコーヴィチは、生涯15曲の弦楽四重奏曲を残しました。それは、公の場で華やかに演奏される交響曲とは別に、公には言えない自分の内面を表現したとも言われています。大まかに言ってそういうこともあるとは思いますが、全15曲はそれぞれの性格もあり、またしばらく聴いていなかったので、これからじっくりと全15曲に対して触れ合っていこうと思います。

【CDについて】

作曲:ショスタコーヴィチ

曲名:弦楽四重奏曲第1番ハ長調 op49 (15:28)

   弦楽四重奏曲第2番イ長調 op68 (35:49)

演奏:フィッツウィリアム弦楽四重奏団

録音:1975-77年 サリー All Saints Church, Petersham

CD:433 078-2(レーベル:DECCA) 1/6CD

 

【曲と演奏について】

ショスタコーヴィチは、1937年の交響曲第5番完成のあと、この年は映画音楽1作のみの作曲となりました。まだ、内外共にプラウダ批判の後遺症があったのではないかと思います。そんな中で、ショスタコーヴィチは中期のこの時期になって、初めての弦楽四重奏曲の作曲に手を染めます。弦楽四重奏曲は確立されたジャンルで、交響曲とともに過去にベートーヴェンなどの偉大な作品が多くある分野です。初期にこの分野の作曲をしなかった理由は定かではありませんが、今後生涯にわたってこの分野の曲を作り続けていくことになります。そしてそれは、中期・後期のショスタコーヴィチの音楽の重要な一面を構成していくこととなります。

 

弦楽四重奏曲第1番ハ長調

第1番は、交響曲第5番の次の純音楽的作品として作曲されました。そして、初の弦楽四重奏曲の作曲です。交響曲第5番でもそうでしたが、この頃ショスタコーヴィチは伝統的な形式に回帰し、その枠内での表現を行い、20世紀初頭の数々の弦楽四重奏曲のように、形式を大きく逸脱することをしていません。そして、この形式の中で、ショスタコーヴィチはいろいろな音楽的表現の試行を行い、弦楽四重奏の響きと表現の可能性を追求していきます。

 

四楽章で構成されるこの曲は、この曲を代表する第一楽章で弦楽四重奏の響きを試行し、第二楽章では自作のロシア民謡風のメロディからの変奏を取り入れ、第三楽章でスケルツォを配し、第四楽章の高揚するフィナーレへと持っていきます。演奏時間約15分。スケルツォも初期の諧謔的なものではなく、純音楽的なスケルツォとなっています。簡潔な構成とは言え、ショスタコーヴィチ流のしっかりした音楽で、ここで一つの型を作ったように思えます。

 

フィンランドで行われるクフモ室内楽音楽祭で、2002年に演奏されたボロディンSQによる演奏

 

弦楽四重奏曲第2番イ長調

ショスタコーヴィチが第1番の作曲の次にこの形式の曲を作曲したのは、大戦も末期となった1944年になります。この間に交響曲第7番、第8番と大作を次々と発表しています。それに続いて作曲されたのが、この弦楽四重奏曲第2番などでした。

 

第2番になると、響きは格段に厚いものになりました。そして、交響曲第8番と同じような雰囲気の重苦しさを感じます。第二楽章は レチタティーヴォとロマンス。各独奏楽器によって語られるレチタティーヴォによって進む静かな楽章。美しいソロが展開していきますが、悲劇的な雰囲気を持っています。この曲の中にあって素晴らしい表現の部分であり、聴きどころでもあります。

 

第三楽章は踊れない不気味なワルツ。かつてみられた明るい諧謔性はありません。弦楽四重奏の響きの面白さがありますが、かなり暴力的な面白さでもあります。第四楽章は、陰鬱な曲調で静かにスタートし、悲しみを帯びたメロディに移行。打ち破るような勇壮な展開が訪れ、激しい音楽が続いたあと、これが静まっていき、一瞬楽しげなメロディが現れますが、やがて衝撃的な重い旋律が現れて覆い尽くして曲を閉じます。まるで繰り返す災厄のようです。悲劇性という意味でも、交響曲第8番と共通性があるようです。

 

弦楽四重奏曲第2番は、比較的規模が大きく、重厚な響きを持った作品でした。そして、第二次大戦が暗い影を落としていると言っていいと思います。弦楽四重奏というシンプルな編成だけに、曲想がストレートに伝わってきて、重苦しい気分になる曲でした。

 

エルサレム四重奏団による弦楽四重奏曲第2番の2013年のライヴ

 

今回聴いたフィッツウィリアム弦楽四重奏団は、1970年代に弦楽四重奏団全集を完成しています。この時期ショスタコーヴィチの演奏では、ソ連のボロディン弦楽四重奏団や、ほとんどの曲の初演を務めたベートーヴェン弦楽四重奏団が有名でした。フィッツウィリアム弦楽四重奏団の演奏は、これらの曲の現代的な面が強調された大変押しの強い演奏で、なかなか迫力のある音楽を聴かせていただきました。フィッツウィリアム弦楽四重奏団は、生前のショスタコーヴィチからもお墨付きをもらって、最後の3曲の西欧初演を果たした四重奏団です。初期メンバーは、ヴィオラのアラン・ジョージが健在の他は、メンバーも交替しながら活躍を続けています。この全集は、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲の世界初全集かな…?

 

購入:不明、鑑賞:2023/12/31(再聴)