ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第3番/第4番 フィッツウィリアムSQ (1975/77) | クラシックCD 感想をひとこと

クラシックCD 感想をひとこと

学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。
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ショスタコーヴィチの時代 ㉛

ショスタコーヴィチが、交響曲第9番の次の純音楽的作品として作曲したのが、弦楽四重奏曲第3番になります。まだ戦後間もない1946年のことでした。一方、弦楽四重奏曲第4番は,間をおいて1949年に作曲されましたが,周囲の助言もあり、スターリンの死後初演されることとなりました。

【CDについて】

作曲:ショスタコーヴィチ

曲名:弦楽四重奏曲第3番ヘ長調 op73 (31:39)

   弦楽四重奏曲第4番ニ長調 op83 (25:48)

演奏:フィッツウィリアム弦楽四重奏団

録音:1975-77年 サリー All Saints Church, Petersham

CD:433 078-2(レーベル:DECCA) 2/6CD

 

【曲と演奏について】

ショスタコーヴィチの1945年における交響曲第9番の発表は、当局の困惑と反発を招き、スターリンは怒りをあらわにしたもと言われています。その後ショスタコーヴィチは、1945年内には、映画音楽1作と歌曲「勝利の春」を作曲するにとどまり、翌1946年に作曲されたのが弦楽四重奏曲第3番になります。この曲は、戦争中の交響曲と相似性を持った曲になっています。

1948年になって、ショスタコーヴィチは自身の作品にも起因するジダーノフ批判を受け、ショスタコーヴィチは要職を解雇されるとともに、多くの曲が演奏禁止となり、活動を大きく制限されることになります。そして、オラトリオ「森の歌」の発表によって再びスターリンを満足させることに成功し、その後引き続き作曲されたのが弦楽四重奏曲第4番になります。しかし、「森の歌」で復活を果たしたとはいえ、ジダーノフ批判の効力は継続している中で、ユダヤの旋律を主体としたこの曲は周囲の意見もあり、初演は見送られることとなったのでした。

 

弦楽四重奏曲第3番ヘ長調

交響曲第9番の翌年に作曲された弦楽四重奏曲第3番は、戦争中から戦後にかけて作曲された、交響曲第8番、第9番と類似性のある曲となりました。そして、そろそろ交響曲第10番も着想されつつあったのではないかと思われます。そんな時代の弦楽四重奏曲は、戦争の間に生まれた作品を締めくくる、より直接的な音楽になっています。

 

2つの交響曲と同じ5楽章構成になっています。第一楽章は、交響曲第9番と似たフレーズも持った、明るく諧謔的な曲。第二楽章はそんな明るい曲を不安が覆いつくします。ここまでは、第9番と同じ進行です。第三楽章は戦争と独裁者の出現を思わせる音楽で、スターリンを描いたとも言われている交響曲第10番の第二楽章と同じ雰囲気で開始されます。そして、第四楽章は戦争あるいは圧政の犠牲者を悼むパッサカリア。これは交響曲第8番と同じですね。

 

最終楽章は、それぞれ微妙に違っていて、交響曲第8番は戦争に勝利するも、まだまだ続く暗雲あるいは圧政を表現する暗い音楽、第9番は勝利の凱歌ではありますが、勝ったのは軍隊や政府であって犠牲となった民衆はどうなのか?ということを、一部空々しさで含みを残しているように思います。この弦楽四重奏曲は、圧政や戦争に虐げられた人生を穏やかに見つめるような、ちょっと投げやりにも見えるが、生きていく手段としてのシニカルな明るさが見える気がします。「世の中こういうものさ…」というような。

 

そういった事は別にして、聴くべきはこの音楽ですね。弦楽四重奏で表現した、厚みのある色彩感豊かな響きは素晴らしいものがあります。そんな変幻自在の表現で、それぞれの性格付けが異なる5つの楽章が展開していきます。大変シンフォニックでもあり、暗い哀感を切々と響かせるパッサカリアもあり、とても内容の濃い名作だと思います。このあたりは、ショスタコーヴィチ中期の充実した作品群だと思います。

 

2018年にジュリアードで結成されたAbeo Quartetの演奏。アメリカの若き団体です。パッサカリアの情緒たっぷりな演奏など、解釈の変遷を感じます。

 

弦楽四重奏曲第4番二長調

 

1948年のジダーノフ批判以後、活動が制約される中で、この曲は作曲されています。批判以後は愛国的な曲や映画音楽の作曲によって生計を立てざるを得なかったのですが、その中では公開されずとも、創造的な作曲は続けられていました。この四重奏曲も幾度かの試演により公開を目指した節はあるようですが、結局スターリンの死後まで一般公開はされませんでした。

 

内容としては、東欧ユダヤ人の音楽から多くのテーマを取り入れており、人間の儚さに加え、迫害の象徴なども織り込んだとも考えられます。また、そのことが公開を難しくしたとも考えられます。ショスタコーヴィチはこの時、アメリカに使節として訪問し、バルトークの弦楽四重奏曲を聴いて触発されたと言われています。民族音楽的要素を多く取り入れているというところに共通点があるのでしょうか。全体的に舞曲風のメロディが多く、叙情的かつ繊細な響きを持った、憂鬱な雰囲気にも支配された曲で、暴力性的な要素は影を潜めた形です。また、ユダヤ旋律やその物語を取り入れた作風は、ピアノ三重奏曲第2番で登場していましたが、この頃から多くなっていきます。

 

モリナーリ四重奏団による演奏です。1997年に結成された四重奏団で、20世紀以降の音楽から現代曲を中心に活動されているようです。響きに透明感があって、先鋭的な音も感じられるのではないかと思いました。

 

 

さて、今回は再びフィッツウィリアム弦楽四重奏団の全集から聴いてみました。ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲は、せっかくなので最後までこの全集で通していこうかな…と思っています。輪郭がはっきりした迫力もある演奏で、豊かな音も大変聴きやすく、通して聴くにも1970年代の標準的な演奏で、非常にいい全集だと思います。

 

購入:不明、鑑賞:2023/02/13(再聴)

 

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