ショスタコーヴィチ:交響曲第8番 ゲルギエフ キーロフ管弦楽団 (1994) | ~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

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学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。一言二言で印象を書き留めておきたい。その時の印象を大切に。
ということで始めました。
そして、好きな映画や読書なども時々付け加えて、新たな感動を求めていきたいと思います。

ショスタコーヴィチの時代 ㉘

交響曲第8番は、第7番に引き続き第二次世界大戦中に作曲された交響曲。同じく大戦中という環境の中での作品ですが、戦況は変化していき、その中で作品がどう変化していったかなども考えさせられるものがありました。

【CDについて】

作曲:ショスタコーヴィチ

曲名:交響曲第8番ハ短調 op65 (63:07)

演奏:ゲルギエフ指揮、キーロフ管弦楽団

録音:1994年9月 ハールレム Concertgebouw

CD:446 062-2(レーベル:PHILIPS)

 

【曲と演奏について】

交響曲第8番は、第7番に次いで、第二次大戦によって生まれた交響曲です。時系列的に並べると、独ソ戦開戦が1941年6月、交響曲第7番作曲が1941年8-12月、スターリングラード攻防戦1942年6月-1943年2月、交響曲第8番作曲1943年7月-9月という順序になります。ショスタコーヴィチは交響曲第7番と交響曲第8番の間には、娯楽音楽や民謡、国威発揚の音楽以外には、ピアノソナタ第2番、ローリー、バーンズ、シェイクスピアの詩による6つのロマンスを作曲していました。その中で交響曲第8番は、その時代に向けた外向きの作品であり、スターリングラード攻防戦の墓碑として作曲されました。

曲のあらすじとしては、第一楽章から第四楽章まで、抑圧や戦争と荒廃といった内容を込めた形で進行し、最終楽章で勝利は収めるものの、まだ戦争は続くという形の暗い終わり方となっています。勝利で終わる第7番と比較しても、基調が暗いうえ将来への不安を残す構造となっており、ソ連では人気が出ず、政府からも批判される結果となりました。そして、後のジダーノフ批判の対象となって、しばらく演奏が禁止される結果に繋がりました。全体の雰囲気は第5番に近い感じがしますので、あの曲を暗く終わらせるとこうなるのかもしれません。

この曲の録音は、かつてはコンドラシンやムラヴィンスキーなどのソ連時代の録音ものが大半をしめるなかで、唯一東芝EMIのカタログにプレヴィン=ロンドン響のLPが載っていて、異彩を放っていたという記憶があります。そして、その後全集の一環として、ハイティンクの録音が出たので早速購入して楽しみました。以降はいろいろな録音がでて、実演の機会も増え、今に至っているようです。私の数少ないライヴ経験では、フェドセーエフ(都響)を聴いたことがありますが、確かに迫力はありました…。1993年のことですね。

今回聴いてみたのはゲルギエフの1994年の旧録音です。しっかりと明快かつ丁寧にこの曲の演奏がされていると思います。迫力もありますので素晴らしい演奏だと思います。ただ何と言いますか、もう一つ何か迫ってくるものが足りないような感じもしました。いろいろな解釈はあると思いますが、普通に曲の内容を最大限に表現するとこうなるのだ、というものなのかとも思いました。

 

この演奏を聴きつつ感じたこと。一つは、この曲はスターリングラードの攻防戦を悼むものということですが、現実にあまりにも悲惨な攻防戦という悲劇があり、これを音楽で表現しようとしても、その悲劇の全貌は単純ではなく、ましてや後世にすべてを表現しようとすれば、どこか絵空事になるのではないかという気がしました。もう一つは、交響曲第5番、第7番と抑圧や戦いというテーマを描き続けて、曲調もかなり似た範囲の中で内容が変化していっています。ショスタコーヴィチは第9番をさらにこの延長で描こうとして、あるいは求められ、実際にはそういう形での作曲は取りやめました。これ以上、政府や一般大衆を意識せざるを得ない交響曲という形で、身近にあった戦争を表現し続けることに限界を感じたのではないかと感じました。この演奏を聴きつつ、そこにバランスをとるのは無理があるなと感じた次第です。

 

ショスタコーヴィチはその翌年に同じような雰囲気を持った弦楽四重奏曲第2番を作曲し、一方で交響曲第8番も、過去の戦争の墓碑銘ながらも、期せずして新たな悲劇や抑圧を悼んで演奏され続けられることとなるのでした。

 

初演者ムラヴィンスキーによる演奏。この淡々とした表情の中に何を見るか…。

 

 

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購入:2024/01/09、鑑賞:2024/01/27