べートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30,31,32番 アシュケナージ(p) (1971-74) | クラシックCD 感想をひとこと

クラシックCD 感想をひとこと

学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。
一言二言で印象を書き留めておきたい。
長い文章だと、書くことが主になってしまう。
その時の印象を大切に。

【CDについて】
作曲:ベートーヴェン

曲名:ピアノ・ソナタ第30番ホ長調 op109 (20:22)
   ピアノ・ソナタ第31番変イ長調 op110 (20:16)

   ピアノ・ソナタ第32番ハ短調 op111 (27:24)

演奏:アシュケナージ(p)
録音:1974年12月(No30)、1972年7月(No31)、1971年5月(No32)

   ロンドン Kingsway Hall(No30)、ロンドン London Opera Center(No31,32)

CD:POCL-5133(レーベル:LONDON、原盤:DECCA、発売:ポリドール)

 

【3月のお題:今日の初登場曲は?】

ベートーヴェンの後期の3つのピアノ・ソナタです。今まで出ていませんでした。それぞれ性格は異なるとは思いますが、雰囲気は似ていると思います。最後のピアノ・ソナタになりますので、晩年の境地と思ったりしますが、ベートーヴェンが亡くなったのはまだ5年ほど先で、まだ交響曲第9番は出来ていませんし、後期の弦楽四重奏曲もまだ先の話しですね。それでも、この3曲は、形式は尊重しながらもとても自由に展開し、また叙情性に富み、静逸な美しさを持つもので、最後のピアノ・ソナタという言葉からくる印象と合致する作品でもあると思います。

 

【演奏について】

CDのライナーノートは石井宏さんの執筆で、アシュケナージの演奏を熱く持ち上げられていました。その中で、ベートーヴェンの演奏の伝統というものに触れられ、それは「シュナーベルがこうあるべきだと努力して確立し、その路線でバックハウス、ナット、ケンプ、アラウたちが弾いてきた」と、そのようなことが書かれています。確かに私の若い頃は、ベートーヴェンと言えばバックハウスを聴け、というのが本や雑誌のおすすめでありました。(実際、私は当時何を聴いていたか、全く忘れてしまいました。いろいろ安価で手に入るレコードをいろいろと取り混ぜて聴いていた気がします。上記以外には、ホロヴィッツとか聴いてたかも…)

 

後期のピアノ・ソナタでは、ポリーニの録音の評判が高かったような気がします。演奏自体は伝統的な枠に入るものだったかな?と思っています。私が後期のソナタを好きになったのは、比較的最近のことですが、プレスラーの晩年の演奏を聴いた時ではなかったかと思います。プレスラーの演奏するシューベルトのソナタと一緒に聴いていたのですが、両方の曲が頭の中でよく溶け合って、静逸な境地を作り上げていました。ベートーヴェンの最後のソナタは、古典派の枠は通り過ぎて、ロマン派への道が開けていると思いました。素晴らしい音楽です。

 

プレスラーさんの第31番第一楽章のリンクです。

 

石井宏さんのライナーノートでは、アシュケナージは伝統的な演奏から飛び出して新しい歴史を作ろうとしていると書かれています。今やいろんなスタイルの演奏が溢れている時代ですが、あの頃の状況の中では、確かにそうであったのかもしれません。アシュケナージと言えば、ショパンやラフマニノフの演奏がまず頭に浮かぶ、詩情豊かなロマンティックな演奏の印象です。それが、ベートーヴェンのソナタとどう結びつくのか。アシュケナージのこの演奏は、あまりベートーヴェンらしくないような軽やかで美しい音を紡ぎながら、特に緩徐楽章の情緒は、全く何物にも代えがたい静寂を聴いている印象を残します。当時の革新的な演奏であり、さらにはこの曲の演奏の自由度の大きさを感じることになりました。このCDは、若きアシュケナージの初回の全集に組まれているものですが、素晴らしい演奏を残してくれたと思います。

 

【録音について】

ピアノの音が輝かしく、とても綺麗な録音です。

 

【まとめ】

ベートーヴェンの後期ソナタの演奏は、いろんなタイプのものが出てきているので、それはそれでとても楽しいのですが、こういった演奏で聴く、ベートーヴェンの後期ソナタは、やはり好きだな…、と思いました。

 

購入:2023/11/22、鑑賞:2024/02/28

 

ベートーヴェンのピアノ・ソナタの記事のリンクです