模型づくりとか趣味の日々リターンズ -5ページ目

【映画評】ケイコ 目を澄ませて 居場所って大事ねー

「ケイコ 目を澄ませて」でございます。

キネ旬1位、毎日映画コンクール大賞です。

 

 

生まれつき耳の不自由なケイコは、プロボクサーでありこれまで2戦2勝の成績を収めていた。東京下町に戦後からある荒川ボクシングジムに通い、会長やトレーナーに支援され練習を続ける日々。試合観戦した母親は、わが娘の殴り殴られる姿を見ていられず、「そろそろ辞めた方が…」と促すが本人は承知しない。が、試合後のダメージは本人の思った以上に大きく、体調不良に悩まされる。しばらく休もうか…と思い、会長宛に書いた手紙を渡そうか渡すまいか…と悩んでいたその折、会長から経営難のためジムを閉鎖すると伝えられる。

 

音楽、ほぼありません。16mmの荒れた画面に映される下町の黄昏。行きかう人と京成線。いいです。好みです。こういう静けさ。淡々とした流れ。

 

主人公が聴覚障がい者であり、日常の不便やら健常者とのトラブルも描写されますが、そこはこの映画のメインテーマではない。生きにくい現代に、居場所があることで支えられ、それを失うことの心細さ。そしてそれを越えるか越えないか。そんな誰にでもある普遍的なテーマを感じました。

 

ジムの人たちはプロボクサーであるケイコを支えたいし、そのために奔走するのだが、ケイコ自身の悩みはそっちじゃない。荒川ジムでの久々のミット打ちで見せる笑顔。ボクシングではなくこの場なんだと。

 

そして迎える試合、その結果を経てケイコはどんな決断をするか。

 

ケイコには母と弟がいて、弟の彼女ともつながりが持てて、職場もある。実はいろいろと居場所があるんだと。そんなことも理解しつつ、次へ進もうとするケイコのラストカットには希望を感じます。

 

そしてエンドロールの背景に再び流れる下町の姿。ケイコがそんな市井の一人なんだよと伝えつつ、スクリーンの前の観客に、あなたもそうだよと伝えているような、そんなラストと感じました(ちょっとエヴァっぽい)。

【読書記】虐殺器官 力作ではあるが、どっちかっていうと通好みかも…

虐殺器官でございます。

彗星のごとく現れ、今後のSF小説を牽引すると期待された逸材にして、実質3年余りの活躍で早逝したという、伊藤計劃氏の長編デビュー作。ようやく読めました。

 

兵士が戦場で影響されがちな、敵への同情や痛みによる恐怖心や倫理観など、任務遂行の妨げになるような感情を、体内のナノマシンにより制御し、子供すら躊躇なく撃てるように調整されることが行われている時代。米国の特殊部隊の一員として、敵地への侵入と暗殺を担うクラヴィス大尉は、ジョン・ポールなる人物を追っていた。彼は小国の中枢に潜り込み、その国が内乱と大量殺戮を起こすように仕向けては姿を消すという。彼は如何にして各国をそのように仕向けたのか?いくつかの作戦で失敗を繰り返しようやくジョン・ポールその人に相まみえたクラヴィスは、その方法を聞き驚愕する。

 

解説によると伊藤さん、この本を10日で書いたんだって!えええ!私ゃ読むのに10日ぐらいかかってるww才能あふれる方だったのでしょう。惜しい方を亡くしました。

 

内容はシリアスであり、淡々とした文体で、難しい用語にいちいち英語(カタカナ)のルビが振ってあって、若干中二病的な印象も受けますが、淡々としたというのは、主人公のクラヴィスが作戦にあたって感情調整され、常に冷静であるということの表現です。目の前で子供の頭が割れても平気。そして自らが殺戮を行っても感情を高ぶらせずにいられるということの異常さ。自身の行っている殺戮に対して疎外感を感じるという状況そのものが、本作のテーマの一つです。

 

人を殺しても自分が大怪我しても平気なように調整された時、目の前の敵を殺すことを自身が選択したにもかかわらず、それが自分の責任と感じづらくなっていることの怖さ。自らの属する軍隊から、国から、そのように調整され戦場に置かれた場合、その行動に歯止めが利かなくなることの恐怖。

 

でもこれ実際に似たようなこと行われてますよね。今時の軍隊、たとえば空爆する時とか、米国のオフィスから無人機飛ばして本土からコントロールして爆撃する。オペレーターは朝9時に出勤してオフィスから爆撃機操作して夕方5時に帰るんだって!

 

大量殺戮を行いつつ、その”殺した”実感を兵士から遠ざけることで、より効率の良い戦争を行っていく。殺した責任は誰が取る?罪悪感や後悔すらも兵士から奪う。システム化された戦争の非人間性。

 

と、今初めて見たように語っているが、アウシュビッツにユダヤ人を送ったのも似たようなもので、システム化されルーチン化されていたから十万人もの”処理”が出来た。

 

クラヴィスは病床にあった母親の最期に、コミュニケーションが取れなくなった本人に代わり医師に機械を外せと伝えたエピソードと比べ、「母親を殺したのは自分であり、その罪をかぶり、かぶった後で赦されたい」と願う。でも罪悪感を薄められた戦場では、罪をかぶることすら難しい、と悩み続けるわけです。

 

最後にはジョン・ポールが内乱を起こし続ける理由が語られ、それに影響されたクラヴィスがある行動をおこし、その結果が語られて終わります。おお、クラヴィスさん、あんたの罪のかぶり方ってそれかwwこのオチはちょっと。。。

 

ともあれ、斬新な視点と膨大な情報量で圧倒される一冊ではあります。う~ん、どっちかっていうと通好みなのかな…私のようなライトな読み手には、そこまで「うおお…」な読後感はありませんでした。勉強不足です。ハイ。

 

 

【映画評】ハケンアニメ!

ハケンアニメ!やっと観ました。

 

吉岡里穂がいい味出してます。地味メガネがホントに似合いますね~

 

斎藤瞳は地方自治体の職員として働いていたが、その昔、天才クリエイターである王子千晴によって作られたアニメに感動し、いつか王子に勝る作品を作りたいとの思いが忘れられずアニメスタジオに転職。以来7年。目下念願の初監督作品であるTVアニメシリーズ「サウンドバック 奏の石」の製作に没頭する日々だが、職人気質のメンバー達や売上至上主義の広報担当との軋轢が絶えない。そんな中、王子の新作「運命戦線リデルライト」が発表される。なんと「サウンドバック」と同じ、土曜日の午後5時半の放映であった。果たして覇権を取るのはサウンドバックか、リデルライトか。

 

特に前半、アニメ制作現場の緊張感、スタッフとの胃の痛くなるようなやり取りが続きます。いやもうホントに見てるのがツライほど。ここをキッチリやるから、吉岡演じる不器用な地味メガネがこれを乗り越える大変さと努力が強調され、スタッフが一丸となり困難を乗り越えるラストが実に爽やかに見えます。

 

爽やかに見えるんですが…

吉岡演じる瞳自身が「奇跡なんて起きない」と述べ、サウンドバックのラストをそんなふうに変えたい、と言うわけですが、そこから起きることはまさしく奇跡であり、どっちやねん、と突っ込みたくなります。しょっぱなのリアルさツラさがラストの大団円を強調した、と私も思いましたが、この少年ジャンプな展開、逆にちょっともったいないというか、途中から普通の映画になっちゃったなあ…と思えてきます。最後までリアル寄りで描いていれば、他に類を見ない傑作足りえたとも。

まあそこは狙ってないと言われればそれまでなんですが。

 

天才とおだてられつつ、実は苦悩していた王子、瞳の情熱に負けて無理を押して協力する外部スタッフ。嫌な奴に見えて実はいい人だった広報担当。この辺の描き方もなんだかどっかで見たようなのばっかしだし。

 

こういうのすなおに観られない。自分の方がスレた親父になっちゃったんですね。多分。悲しいなあ。