【映画評】ケイコ 目を澄ませて 居場所って大事ねー | 模型づくりとか趣味の日々リターンズ

【映画評】ケイコ 目を澄ませて 居場所って大事ねー

「ケイコ 目を澄ませて」でございます。

キネ旬1位、毎日映画コンクール大賞です。

 

 

生まれつき耳の不自由なケイコは、プロボクサーでありこれまで2戦2勝の成績を収めていた。東京下町に戦後からある荒川ボクシングジムに通い、会長やトレーナーに支援され練習を続ける日々。試合観戦した母親は、わが娘の殴り殴られる姿を見ていられず、「そろそろ辞めた方が…」と促すが本人は承知しない。が、試合後のダメージは本人の思った以上に大きく、体調不良に悩まされる。しばらく休もうか…と思い、会長宛に書いた手紙を渡そうか渡すまいか…と悩んでいたその折、会長から経営難のためジムを閉鎖すると伝えられる。

 

音楽、ほぼありません。16mmの荒れた画面に映される下町の黄昏。行きかう人と京成線。いいです。好みです。こういう静けさ。淡々とした流れ。

 

主人公が聴覚障がい者であり、日常の不便やら健常者とのトラブルも描写されますが、そこはこの映画のメインテーマではない。生きにくい現代に、居場所があることで支えられ、それを失うことの心細さ。そしてそれを越えるか越えないか。そんな誰にでもある普遍的なテーマを感じました。

 

ジムの人たちはプロボクサーであるケイコを支えたいし、そのために奔走するのだが、ケイコ自身の悩みはそっちじゃない。荒川ジムでの久々のミット打ちで見せる笑顔。ボクシングではなくこの場なんだと。

 

そして迎える試合、その結果を経てケイコはどんな決断をするか。

 

ケイコには母と弟がいて、弟の彼女ともつながりが持てて、職場もある。実はいろいろと居場所があるんだと。そんなことも理解しつつ、次へ進もうとするケイコのラストカットには希望を感じます。

 

そしてエンドロールの背景に再び流れる下町の姿。ケイコがそんな市井の一人なんだよと伝えつつ、スクリーンの前の観客に、あなたもそうだよと伝えているような、そんなラストと感じました(ちょっとエヴァっぽい)。