【読書記】虐殺器官 力作ではあるが、どっちかっていうと通好みかも… | 模型づくりとか趣味の日々リターンズ

【読書記】虐殺器官 力作ではあるが、どっちかっていうと通好みかも…

虐殺器官でございます。

彗星のごとく現れ、今後のSF小説を牽引すると期待された逸材にして、実質3年余りの活躍で早逝したという、伊藤計劃氏の長編デビュー作。ようやく読めました。

 

兵士が戦場で影響されがちな、敵への同情や痛みによる恐怖心や倫理観など、任務遂行の妨げになるような感情を、体内のナノマシンにより制御し、子供すら躊躇なく撃てるように調整されることが行われている時代。米国の特殊部隊の一員として、敵地への侵入と暗殺を担うクラヴィス大尉は、ジョン・ポールなる人物を追っていた。彼は小国の中枢に潜り込み、その国が内乱と大量殺戮を起こすように仕向けては姿を消すという。彼は如何にして各国をそのように仕向けたのか?いくつかの作戦で失敗を繰り返しようやくジョン・ポールその人に相まみえたクラヴィスは、その方法を聞き驚愕する。

 

解説によると伊藤さん、この本を10日で書いたんだって!えええ!私ゃ読むのに10日ぐらいかかってるww才能あふれる方だったのでしょう。惜しい方を亡くしました。

 

内容はシリアスであり、淡々とした文体で、難しい用語にいちいち英語(カタカナ)のルビが振ってあって、若干中二病的な印象も受けますが、淡々としたというのは、主人公のクラヴィスが作戦にあたって感情調整され、常に冷静であるということの表現です。目の前で子供の頭が割れても平気。そして自らが殺戮を行っても感情を高ぶらせずにいられるということの異常さ。自身の行っている殺戮に対して疎外感を感じるという状況そのものが、本作のテーマの一つです。

 

人を殺しても自分が大怪我しても平気なように調整された時、目の前の敵を殺すことを自身が選択したにもかかわらず、それが自分の責任と感じづらくなっていることの怖さ。自らの属する軍隊から、国から、そのように調整され戦場に置かれた場合、その行動に歯止めが利かなくなることの恐怖。

 

でもこれ実際に似たようなこと行われてますよね。今時の軍隊、たとえば空爆する時とか、米国のオフィスから無人機飛ばして本土からコントロールして爆撃する。オペレーターは朝9時に出勤してオフィスから爆撃機操作して夕方5時に帰るんだって!

 

大量殺戮を行いつつ、その”殺した”実感を兵士から遠ざけることで、より効率の良い戦争を行っていく。殺した責任は誰が取る?罪悪感や後悔すらも兵士から奪う。システム化された戦争の非人間性。

 

と、今初めて見たように語っているが、アウシュビッツにユダヤ人を送ったのも似たようなもので、システム化されルーチン化されていたから十万人もの”処理”が出来た。

 

クラヴィスは病床にあった母親の最期に、コミュニケーションが取れなくなった本人に代わり医師に機械を外せと伝えたエピソードと比べ、「母親を殺したのは自分であり、その罪をかぶり、かぶった後で赦されたい」と願う。でも罪悪感を薄められた戦場では、罪をかぶることすら難しい、と悩み続けるわけです。

 

最後にはジョン・ポールが内乱を起こし続ける理由が語られ、それに影響されたクラヴィスがある行動をおこし、その結果が語られて終わります。おお、クラヴィスさん、あんたの罪のかぶり方ってそれかwwこのオチはちょっと。。。

 

ともあれ、斬新な視点と膨大な情報量で圧倒される一冊ではあります。う~ん、どっちかっていうと通好みなのかな…私のようなライトな読み手には、そこまで「うおお…」な読後感はありませんでした。勉強不足です。ハイ。