今まで何度か説明したビジネスキャリア検定。
厚生労働省の外郭団体である中央職業能力開発協会が主催しているれっきとした公的資格である。この資格は事務系・技術系のホワイトカラー層を対象した業務遂行能力を図るのが目的である。
他の資格試験と違うことは、事務系ホワイトカラーを表に出したことであろう。ホワイトカラー系事務職員の能力については、資格に馴染まない印象がある。たしかに司法書士、社労士、行政書士等の事務系資格は存在する。だがそれらは企業外の独立の専門職(士業)を想定したものであり、企業の従業員とは立場が異なる。
それに企業の場合は、業種、企業ごとに考え方や事務処理の方法が異なり、標準化が難しいし、同じ企業であっても、人事、総務、経理、財務、営業などと機能別部門が細分化されていているため、網羅することは難しい。
ところが中央職業能力開発協会は職種別に細分化し、標準テキストを発行し、級別に試験を行っている。
区分を見ると、
・人事系・・・人事・人材開発、労務管理の2区分
・経理系・・・簿記、原価計算、財務の3区分
・営業系・・・営業、マーケティングの2区分
・法務・総務系・・・組織法務、取引き法務、総務の3区分
・経営戦略系・・・経営戦略の1区分
・経営情報系・・・情報化企画、情報化活用の2区分
・生産管理系・・・プランニング、オペレーションの2区分
・物流系・・・管理、オペレーションの2区分
大まかに分けるとこんな感じだ。そしてベーシック、3級、2級、1級に分かれる(区分によっては、一部の級しかない)。
この検定は大企業の従業員を想定しているようで、難易度はそれなりに高い。テキスト1冊で400ページぐらいか。例えば生産管理のベーシック級でも大学の工学部の1,2年生の授業と同程度の水準である。技術系の場合は、入社時点で一定の技術的な基礎を大学で身に付けているということなのであろう。
事務系の区分を見てみると、こちらは入社時点で専門性がないせいか、それほど難しくない。だが2級になるとかなり難易度があがる。他の試験と異なるのは、同じ級でも区分によって難易度が異なる(らしい)。
基本的にその区分の業務に従事している人が受けることを想定しているわけで、例えば経営戦略区分だと、経営企画部、社長室などの社内中枢部門の従業員がメインで受けるわけだから、レベルが上がってしまう。合格率も2割弱に過ぎず、難易度も中小企業診断士の経営理論と大差がないと思われる。
大半の区分だと2級が最上位であるので、銀行業務検定と似ている。だが後者は業界内では知られているが、前者は知名度がない。一部の大企業が人事考課の参考資料に導入しているようであるが、サラリーマンの自己啓発がメインのようで、受験者も一区分につき、数百二人しかいないのが現状である。
それだったら診断士試験の方がいいように見えるが、診断士の場合、自分の従事している職種以外にも幅広くやらなければならないため、人によってはオーバースペックとなりやすい。
資格で評価されるのは、20代までで、30代以降は業務遂行能力がメインになるため、まずは足場を固めるために、業務に直結した知識を学んだ方が効率がよい。この点でビジネスキャリア検定は悪くないと思う。
ただ知名度が低いため、一定の実務経験を前提に転職する場合は、殆ど評価されないであろう。この場合は、簿記検定や社労士、税理士のような知名度のある方が有利である。
世の中には転職志向のある人と定年まで勤務志向の人と別れるので、社外労働市場と社内労働市場のどちらを標的にするかで、資格取得の戦略も変わって来る。この方向性を誤ると、立派な資格を取ってもそれほど評価されないし、世間では無名の資格でも非常に有利になることだってある。