資格の相乗効果(不動産鑑定士と建築士) | 猫好きのブログ

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資格試験とその応用

この種の議論はその人の置かれた状況により結論が異なるであろう。

 

一般的には相乗効果があるとされるが、実務担当者としてプロの仕上がりを求められる場合には、力が分散してしまい、マイナスになることがある。建築職人を見て分かるように一軒の住宅を建てる場合でも、多数の職人が出入りしている。内装職人が建具を取り付けた方が段取りを考えると全体の仕事が速いが、現実には職種が異なると、それぞれ固有の技能や資材の調達力等が求められるため、両方を行うと中途半端になってしまう。

 

だが、職人、技術者でも複数の資格を持っていることもある。これは共通技術を生かして仕事が出来る場合や会社内の定期的なローテーションで計画的な技術の養成を行えることが背景にある。

 

また本業を補完するために、関連資格を取る場合もある。例えば銀行の融資係だと、不動産の知識が必要になるため、宅建士を取ることがある。この場合、融資係は不動産業者と同じレベルの仕事を求められておらず、あくまでも本業(融資)の支援が出来る範囲で十分である。

 

資格を複数持った方が良いか、単一資格でいいかの議論は、背後にどのような戦略があるかで結論が異なる。

 

自分の知る範囲で不動産鑑定士と建築士との関係を述べてみる。不動産の評価(価格、価値の計算)を行うのに建築の知識が必要である。では不動産鑑定士で建築士の資格を持っている人がどれだけいるかというと、これが意外と少ないのである。

 

何故なら不動産評価で求められる建物の知識と建築設計で求められる建物の知識が異なるからである。建築士の場合、非常に広範な建築の知識が求められるが、これらは建物を設計するために必要な知識であある。

 

建築の世界は用途、構造等で設計、施工のノウハウも異なるため、専門分化が進んでいるのが特徴である。

 

他方、不動産鑑定の場合、広範囲の建物のタイプの評価が出来ることが要求される。従ってマンションを専門にしている建築士に工場の評価をお願いしても現実には対応が難しい。建物の評価依頼が設計事務所に入らず、鑑定事務所に入るのは、資格が異なるという理由だけではない。依頼主から見ると、建物のタイプ毎に異なる設計事務所に依頼するのは非常な手間であるし、多数の人が作業すると専門家と言えども、すり合わせがないため、成果にばらつきが出てしまう。不動産鑑定士だと、用途別、構造別の建築単価の平均水準が頭に入っており、それとの比較で個別の不動産の建築費を推定することができるのが理由にあると思う。

 

 

自分の場合は、資格こそ取らなかったものの、1級建築士や建築設備士の本で建築・設備工学を勉強したので、文科系出身ながらも、給排水菅の計算や空調設備の配置法、建築工法などを独学で学習したり、知人の設計事務所の図面書きなどの手伝いをしながら、具体的な設計方法を学んだことが役に立っている。

 

だが本業の建築士や設備士と同レベルの仕事が出来るとは思われない。彼らの世界は、知識レベルでも経験量でも更に深いものがある。自分にとっては、不動産評価の支援が出来る範囲で十分である。従って仮に建築士、設備士の資格を取ったとしても、それで金をとれるわけでもないし、資格そのものを取るということは、本業に関係ない部分の習得に時間を取られてしまうことになり、本業の専門性が低下することになる。

 

知人で鑑定士兼一級建築士をしている人がいるが、彼は元々建築工学科出身で設計事務所にいたため、建築士資格を取り、その後、不動産鑑定士を取得した。

 

さすがに建築に関しては相当に詳しかったが、その人でも鑑定が本業になると、建築工学的な手法をあまり使わなくなった。

 

例えば、建築士なら、日影規制、部屋ごとの内装の色のような細かいものにこだわる必要があるが、鑑定の場合だと、細かい建築コストよりも、時系列的な収益性の予測だったり、不動産マーケットの動きを調べたりすることの方が多く、力の入れる部分が全く違うので、不動産鑑定でも詳細なコスト分析や建築計画をする必要がある場合は、その部分だけを設計事務所に外注することが多い。従って鑑定士はそれほど建築士を取る必要を感じていないし、一級建築士を持っていたとしても、顧客の評価が高くなるわけでもない。

 

もちろん、大きな事務所だと建築的な詳細な分析する仕事も増えるので、専任の建築士を雇用しているケースが多く、業界でも棲み分けが出来ているのが現状である。

 

個人的には一定の基礎知識を持ったうえで、生のコストデータを如何に多く収集し、使えるように整理するかの方が重要で、どんなに建築に関する深い知識があっても、理屈から価格(評価額)を導けないというのが結論である。