世界保健機関(WHO)のチャン事務局長は6月11日の記者会見で、新型インフルエンザの警戒水準(フェーズ)を広域流行を意味する現行の「5」から最高の「6」に引き上げて世界的大流行(パンデミック)を宣言しました。
「6」への警戒水準引き上げは、地域的な感染の広がりに基づいた判断で、毒性自体は中度(モデレート)で変化はありません。WHOは2大陸以上での「地域レベルでの感染」をパンデミックの定義とし、米州以外に豪州での感染が拡大していることが宣言の要因となりました。
ここで、新型インフルエンザとは、新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスを病原体とするインフルエンザと定義されます。現時点では、人類はほとんど免疫を持っていないため、通常のインフルエンザに比べると、感染力が非常に強いことが特徴です。
今回の新型インフルエンザは、その遺伝子が豚インフルエンザのものに似ていることから、確認当初は豚インフルエンザ(Swine Influenza)と呼ばれていました。
その後、豚インフルエンザウイルスの遺伝子のほかに、鳥インフルエンザウイルス及びヒトインフルエンザウイルスの遺伝子も持つことが確認されています。つまり、インフルエンザが複雑に変異していたわけです。
感染経路については、通常のインフルエンザと同様。咳やくしゃみとともに放出されたウイルスを吸い込むことによっておこる「飛沫感染」と、ウイルスが付着したものをふれた後に目、鼻、口などに触れることで、粘膜・結膜などを通じて感染する「接触感染」が考えられています。
一方、タイのウィタヤ厚生相は11日の記者会見で、新たに30人の感染確認を明らかにしました。タイ国内の感染者数は前日の16人から46人に急増しています。
新感染者の30人のうち、21人はバンコクの東180キロにあるリゾート地パタヤで感染、4人は前日に感染が確認された生徒(11)が通うバンコク都内ドゥシット区の私立小学校セントガブリエル校の生徒とされています。ほかは、感染した児童の母親、米国帰りの女性、シンガポール帰りの男性、米国から帰国する息子を迎えにバンコク・スワンナプーム国際空港に行った男性、同空港から入国した英国人男性です。
同省は、タイ旅行から帰国した台湾の大学生2人が新型インフルエンザに感染していたことから、学生が滞在したパタヤと周辺の感染状況を把握するため、大学生と接触したとみられる住民を対象に調査を行っています。
パタヤの感染者のうち、17人はディスコの従業員、4人は医師・看護士。大学生の2人がディスコを訪れたほか、医師・看護士が務める病院で診察を受けていました。当面の間は、国際的観光地で人の往来が多く感染者の出ているパタヤへの旅行は控えた方が良いと思います。
世界各地の国際空港では検疫が強化されている。写真はタンソンニャット国際空港。
ウィタヤ厚生大臣は「タイでは、アメリカやヨーロッパ以上のレベルの厳重な監視体制で対応を行っている」とするとともに、「我々は、新型インフルエンザが治療可能であり致死率も高いわけではないことをタイ国民に伝えてパニックの発生を防ぐ必要がある」とも述べています。
今後、感染者数の多い米国での留学を終えたタイ人学生が帰国する時期に入るため、タイ国内における新型インフルエンザ感染者数は増加することが予想されます。
日本での新型インフルエンザ感染者数は累計で481人(9日)です。タイは46人。これはタイが暑い気候ゆえにウイルスの繁殖力が弱くなっているのだと思われます。
WHOの公式統計によると、10日現在で感染は74カ国・地域で確認され、感染者数は累計で2万7737人(うち死者は141人)。感染者が多いのは、米国(1万3217人)、メキシコ(5717人)で、今後はインフルエンザが発生しやすい冬場に入った豪州(1224人)などでの感染者急増が懸念されます。