日本映画5作目のカンヌ映画祭パルム・ドール受賞作。しかし、これまでの受賞作は納得いかないものが多かった。『地獄門』(1953年、衣笠貞之助監督)は、いかに時代掛かっているとはいえ、ストーリーに全く納得できない。『影武者』(1980年、黒澤明監督)の合戦シーンの手抜き(記号化しているとはいえ)には鼻白んだ。『うなぎ』(1997年、今村昌平監督)は、主人公二人のキャラクターに納得感なさ過ぎ。唯一、1983年今村昌平監督の『楢山節考』は素晴らしい作品だった。カンヌと自分の相性の悪さは常々感じているため、是枝ファンとしても若干の不安はあったのだが、その不安は杞憂だった。

 

主人公の名前が「祥太」(リリー・フランキー演じる治の本名)であり、「家族三部作」の「良多」とは違うことから、新境地にチャレンジする意気込みは感じられるものの、基本的には、是枝監督が「家族三部作」で追い続けてきた「家族とは何か」「家族を家族たらしめる絆とは何か」というテーマを、これまでよりも更に深化させた作品と言える。

 

ビルの谷間のあばら屋に寄り添いながら生きる5人は本当の家族ではないが、本当の家族らしく生きていた。そこに6人目の、親に虐待されていた少女が引き寄せられるように加わる。そこからこの作品の物語は始まる。

 

二人の子供、少年と少女の「家族」との関係性が非常に重要な意味を持っている。肉親であろうと、愛情が欠如した関係では「家族」は成り立たないことを少女の関係性は示しているし、逆に愛情だけでも、「家族」としてはあるべき機能を果たさないことを少年の関係性は示している。特に後者は、血縁関係を越える絆はあるのかというテーマを考えるために、非常に興味深いところ。この作品の複雑性は、少年の精神的成長によりそれまで「家族のように見えた関係」を否定しているところに見て取れる。

 

観ている者が大きく心を揺さぶられるシーンが、共に「ハグ(抱擁)」であることにも興味深いものを感じた。そしてそれは、虐待による心の隙間、社会からの疎外感による心の隙間を、ハグによって直接的に埋めるという状況であり、映像を通して直接心に訴えるものがあった。特に後者は、本来は性的風俗である場での「心の癒し」という、自分にとって新鮮なものだった。そして(『ディストラクション・ベイビーズ』でも感じたところだが)池松壮亮は、本当にちょっとしか出てこないシーンでも「持って行く」いい役者である。

 

とにかく安藤サクラが素晴らしい。これまでも『愛のむきだし』のコイケ役や、『愛と誠』のガムコ役や、『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』の美上ゆう役など、脇役でも印象的な演技をしてきた彼女。主演の『百円の恋』は素晴らしい作品だが、本作での演技はそれを越える、彼女のベストのもの。取調べシーンでの長い独白と涙は絶賛に値する。

 

個人的には(あくまで個人的にはだが)、ストレートに心に響いた『そして父になる』が、やはり是枝作品のベストだが、作品の深みや複雑味はパルム・ドールに恥じるものではない秀作。ブラボー!

 

★★★★★★★★ (8/10)

 

『万引き家族』予告編