『飢餓海峡』 (1964) 内田吐夢監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

水上勉原作小説の映画化作品。

 

敗戦直後、青函連絡船が台風で沈没し、身元不明の遺体が、網走刑務所出所者で質屋一家殺害放火事件の3人の犯人のうち2名と判明する。3人目の容疑者、犬飼多吉と名乗る大柄の男(三國連太郎)は下北半島に上陸したが、出会った娼婦杉戸八重(左幸子)にかばわれて官憲の追っ手を逃れた。多吉は一夜をともにした八重に大金渡していたが、八重はその恩を忘れず、そして出会えぬ多吉のことを恋焦がれながら「いつかはお礼をしたい」と思い続けていた。10年後、京都舞鶴の名士樽見京一郎に関する記事を見かけた八重は、その写真に多吉の面影を見出し、彼を訪れることにする。そして悲劇が起こる。

 

183分の長尺だが、ダイナミックなストーリーに圧倒される、まさに名作と言える作品だった。

 

タイトルの中にある「飢餓」は、文字通り食べるものもままならない物質的な飢餓と、登場人物にある心の飢餓(それが犯罪を引き寄せる)を掛けているのだろう。その意味では、物質的に豊かになっても、心の飢餓はむしろひどくなっているかもしれない現代でも、十分に通用するテーマ性がある。

 

八重の多吉を思う姿は、実に一途。ともにした一夜で、八重は多吉の爪を切ってやるのだが、その爪を後生大事に取って置き、時々取り出しては愛おしそうに爪に話しかけるのである。彼女の純粋な気持ちを思うと、その後の悲劇があまりにも切ない。

 

北海道での事件を追う刑事弓坂を伴淳三郎が演じている。彼は、結局迷宮入りしてしまった事件の責任を取らされ、刑事の職を失って、少年鑑別所の刑務官となっているが、貧しい環境の中で、彼も一生懸命生きている。多吉、八重、弓坂の織り成す人間模様をそれぞれの役者が見事に演じている。

 

ラストシーンは、船の白い波線が長く映し出され、その水平線の向こうに見えるのは、死者を呼び戻すという恐山。心に残るシーンだった。

 

映像的には、時々挿入されるソラリゼーション(マンレイの写真に見られる、露光を意識的に過多にして白黒が部分的に反転する現象)が、少々古臭い印象があった。

 

日本映画を語る上では、見逃せない作品の一つであろう。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『飢餓海峡』予告編