お宝映画・番組私的見聞録
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男たちの旅路

「高原へいらっしゃい」が始まる約1カ月前にNHKの土曜ドラマ枠で放送されたのが「男たちの旅路(第1部)」(76年)である。これは数年前に当ブログでも取り上げたことがあるドラマだ。
本作のタイトル前には「山田太一シリーズ」と銘打たれている。山田本人も「脚本家の名前が最初に出るということは後々みんなに影響すると思って、緊張してやった仕事」と回想している。自分もこの作品で山田太一という名を認識した気がする。(第1部)と書いたが、この時点ではシリーズ化するとは決まってなかったはずである。特殊な放送形式で、約70分のドラマが全3話というスタイルで、第2部の放送は約1年後になる。自分もリアルタイムで見ているのだが、確か第2部からで、第1部を見たのは随分後になってからだ。
本作も山田ドラマの中では、かなり有名な部類になると思うが、警備会社を舞台に戦中世代の主人公と若い警備員たちとの価値観の違い、対立などが中心に描かれている。
主人公の吉岡晋太郎司令補を演じるのは鶴田浩二。当時NHKと絶縁中ということもあってか、最初は出演依頼を断ったと言うが、プロデューサーに山田との面会を要求した。そして山田に特攻崩れとしての自分の経験・思いを脚本に投影するよう求めた。出来上がった脚本を見て、鶴田はこの仕事の依頼を快諾したという。
鶴田本人が自分は特攻隊の生き残りであるかのような言い方をするのだが、正確には違っており、特攻隊の整備士だったのである。勿論ドラマの中では隊員の一人ということになっている。
その吉岡と対立する若手警備士を演じるのが森田健作柴田竜夫)や水谷豊杉本陽平)だ。森田は青春ドラマ等で生真面目な若者というイメージだったが、水谷はちょっと軽い感じの若者というイメージだった。現在の姿しか知らない世代には意外かもしれない。
その第1話「非常階段」では、吉岡、柴田、杉本の三人が揃って高層ビルの夜間警備に配属されるが、そこは飛び降り自殺の名所と言われていたのである。実際それが目的で現れたのが桃井かおり演じる島津悦子であった。結局、吉岡によって阻止されるのだが、続く2話「路面電車」で彼女は彼らの会社に入社を希望してくる。「君には務まらない」という吉岡だが、研修を受けることは許可した。その結果、悦子は入社するのだが…。第3話「猟銃」で、柴田、杉本、悦子は揃って会社を辞めてしまう。そんな中で柴田は自分の母が吉岡と古い知り合いであることを知り、吉岡にその関係性を問いただす。母役久我美子だ。結局、杉本と悦子は会社に復帰するのだが、柴田は戻らなかった。森田健作は1部のみで退場。他にも中条静夫(斉藤司令補)、前田吟後藤士長)も1部のみの出演だ。1部のゲストでおまり目立つ人はいないが、庄司永健、結城美栄子、石田信之、丹古保鬼馬二、梅津栄、頭師佳孝といったところである。
第2部は前述のとおり約1年後の77年2月スタート。森田健作に変わって登場するのは柴俊夫鮫島壮十郎)で、実は1部にも出ていたが出番が増えるのが五十嵐淳子浜宮聖子)で、共に警備士の役だ。他にも橋爪功大沢司令補)、そして池部良小田社長役で登場する。映画界でも鶴田より先輩の池部クラスの役者じゃないと上司という感じが出ない気がする。

高原へいらっしゃい

今週は週1更新になってしまったが、これからもあるかもしれないので、そのつもりでお願いしたい。
で、今回も山田太一原作のドラマから「高原へいらっしゃい」(76年)である。今週から放送がBS-TBSで始まったようだが、それに合わせたわけではない。BS未加入だし、偶然の一致というやつだ。割合有名な作品だと思うが、実はまともに見たことはない。
大雑把なあらすじだが、八ヶ岳高原に、何度も人手に渡り経営の難しいとされた「八ヶ岳高原ホテル」があった。物語は冬の終わりから夏の観光シーズンまでに限られた予算内でホテル運営を軌道に乗せるべく奮闘する面川マネージャーと、彼が集めたメンバーそれぞれの人間模様が描かれる。
主人公の面川清次を演じるのは、山田ドラマは「知らない同志」(72年)以来となる田宮二郎だ。彼が演じる面川は、元は東京にある一流ホテルのフロントマネージャーだったという設定。副支配人兼経理が大貫徹夫前田吟)で、面川のお目付け役として出向してきた男である。彼を送り込んだのは面川の義理の父である大場専造岡田英次)だ。彼の娘つまり面川の妻が祐子三田佳子)だが、離婚を考えていた。
前田吟は「知らない同志」でも田宮と共演しているが、他は山田ドラマは初という顔ぶれも多い。面川がスカウトてきたのがウエイトレスの北上冬子由美かおる)、ボーイの高村靖雄潮哲也)、ボーイ兼バーテンの小笠原史朗古今亭八朝)、ウェイトレス兼設備管理の鳥居ミツ池波志乃)、コック長の高間麟二郎(益田喜頓)、コック助手で高間の弟子である服部亥太郎徳川龍峰)という面々。
他に地元町長の推薦でやって来た運転手兼雑務の杉山七郎尾藤イサオ)、同じく町長推薦で来た雑役の有馬フク江北林谷栄)、高間の推薦で材料の仕入れを行う村田日出男常田富士男)がいる。
古今亭八朝古今亭志ん朝の弟子で、当時25歳。この前年に二ツ目に昇進して志ん吉から八朝になったばかり。当時は無名の存在だったと思われるが抜擢の経緯は不明だ。その後はごくたまにドラマに出ることはあったようだが、自分はこの人自身一度も見た記憶はない。徳川龍峰はその字面だけで、高貴な家柄なのかと思ってしまう。芸名っぽいが詳細は不明だ。由美かおる池波志乃は同世代という設定だが、実年齢は池波が上というイメージの人が多いのではないだろうか。実は由美は当時25歳、池波20歳と由美の方が5歳上なのだ。まあ由美の変わらなさは有名だけれども。常田の役名である村田日出男はちょっとした遊び心か。関係ないが団次郎の本名は村田秀雄であり、歌手の村田英雄は芸名なのである(本名・梶山勇)。
ゲストとしては、金田龍之介、西田敏行、横光克彦、海老名みどり、矢崎滋、津島恵子、大滝秀治、平泉征などで「特捜最前線」のメンバーが三人いたりする。あと杉浦直樹が雑誌記者役で二度登場する。
全17話だが、全話山田が脚本を書いたわけではない。10~16話は折戸伸弘が担当、7話は山田と横堀幸司の連名となっている。連名で片方が有名作家だったりすると、もう一人は大体その弟子筋の人であることが多い。
本作だが、2003に年なって佐藤浩市主演でリメイクされている。山田は原作として名が出ているが、直接関わってはいないと思われる。役名は面川清次と妻祐子余貴美子)以外は全員変わっている。他の出演者は西村雅彦、井川遥、市川実和子、堀内健(ネプチューン)、大山のぶ代、純名りさ、平田満、八千草薫、菅原文太、竹脇無我などである。

江分利満氏の優雅な生活(ドラマ版)

山田太一は、基本オリジナル脚本が多いが、少し前にここでも取り上げた「浪華遊侠伝」のような原作物もある。今回も原作物でNHKの銀河テレビ小説枠で放送された「江分利満氏の優雅な生活」(75年)である。江分利満は「えぶりまん」と読む。
原作は山口瞳の小説で、63年に東宝で小林桂樹の主演で映画化もされている作品だ。一応言っておくと、山口瞳は男性である。川島雄三が監督に決まっていたのだが、急死してしまったため、岡本喜八に変更されたのである。喜劇のはずが喜劇になっていないとプロデューサーの藤本真澄は激怒したと言う。実際にあまり客は入らず、公開1週間程度で打ち切られたらしい。ちなみに脚本は井出俊郎だ。
今回、この枠では「ドラマでつづる昭和シリーズ」として6作品が放送されている。原作を並べておくと広津和郎風雨強かるべし」、山田風太郎戦中派不戦日記」、坂口安吾夜の王様」、太宰治斜陽」、三島由紀夫永すぎた春」、そしてトリを飾ったのが本作で、この6作品に対し、放送批評懇談会(ギャラクシー賞)第32回期間選奨が贈られている。
江分利は東西電機の宣伝部員である。本作は、戦中派の「昭和人」江分利満の生活を通して、昭和30年代の典型サラリーマンの日常を描写する。直木賞受賞作である。
主役の江分利を演じるのは杉浦直樹で、その一家は樫山文枝妻・夏子)、佐藤宏之長男・庄助)、佐野浅夫父・盛助)、後はこのドラマはもちろん、映画の方も見ていないのでわからないが、ほぼ会社の人間ではないだろうか。渥美国泰田沢)、遠藤剛川村)、松崎ヤスコ辺根弘子)、中条静夫、加藤武水原英子(坂本昭子)名古屋章(柳原)など。ナレーターは小沢昭一だ。NHKのアーカイブスで見られるのは会社での杉浦と水原のやり取り。両者とも70年代の山田(木下)ドラマの常連である。庄助役の佐藤宏之は当時14歳の子役。この後、市川海老蔵(現・12代市川團十郎)主演の「宮本武蔵」に伊織役で出演。翌76年は「忍者キャプター」に主演7人の中の一人「風忍」を演じている。81年を最後に出演記録はないので、その辺りで引退したようである。
名古屋章が演じる柳原とは、本作のタイトルイラストを担当している柳原良平がモデルだろう。山口、柳原、そして開高健はいずれもサントリー(当時・寿屋)の宣伝部出身。トリスウイスキーの制作するが、柳原の描いたCMキャラクター「アンクルトリス」が人気を呼んだ。
映画版では江分利が勤務するのはそのままサントリーとなり、彼が直木賞を受賞するというのも、山口の実際の経歴に沿っている。小林桂樹演じる江分利の容姿も山口に似せたものになっているようだ。こちらにも「柳原」は登場し、天本英世が演じている。
ドラマは全10回で、毎回サブタイトルがついている。原作の方は12の章に分かれているが、そのタイトルと一致しているのは「昭和の日本人」(4話)と「これからどうなる」(最終話)の2編のみである。

それぞれの秋

1年の長丁場であった「藍より青く」が終了した次に、山田太一が書いたのが「それぞれの秋」(73年)である。今までタイトルは知っていたが山田脚本であることは知らなかったドラマを挙げてきたが、本作は色々と賞も受賞しているようだし、山田脚本であることは元々知っている作品だ。まともに見たことはないのだけれども。
「木下恵介・人間の歌シリーズ」枠での放送で、全15回。木下からは好きに書いていいよと言われたらしい。当時は「暖かい大家族もののホームドラマ」が流行していたので、山田はそれとは逆のドラマを構想したという。
本作の舞台となる新島家は、見た目には平凡なサラリーマン家庭。父・清一小林桂樹)、母・麗子久我美子)、長男・茂林隆三)、次男・稔小倉一郎)、長女・陽子(高沢順子)の五人家族である。実年齢では小林は当時50歳、久我は42歳に対し、林は30歳だったが見てる方は気にならないだろう。当然、トップクレジットは小林で、トメは久我なのだが、物語は小倉の視線で進んでいく。つまりナレーションは小倉である。
シナリオ教室などでは、ナレーションの多用はタブーとされていたが、本作を見た倉本聰は「こんな手もありだ」と感じて、「前略おふくろ様」から使う様になったという。山田自身はアメリカのドラマ「逃亡者」の影響あるという。
他のキャストだが、稔の悪友・唐木火野正平)、稔の彼女・信子海野まさみ)、信子の兄橋本功、小野川公三郎)、スケバンのリーダー津田末子桃井かおり)、スケバン遠藤四方正美)、茂の恋人・藤森園子水原英子)、園子の娘・真理衣伊藤司)、由利子緑魔子)、江川医師伊藤孝雄)、麗子の父加藤嘉)、他に春川ますみ、夏桂子、三戸部スエ、金井大、樋浦勉、高岡健二、桜井センリ、岩上正広、藤沢陽二郎など。
伊藤司伊藤つかさのこと。当時6歳、漢字表記なだけで、随分イメージが違う。藤沢陽二郎は1回だけ、茂の後輩役で出てくるのだが、後に菊容子殺人事件を起こすのである。
さて、第1話だが信子とデートの待ち合わせ場所に行くのだが、そこに彼女の二人の兄が現れ、付き合いを辞めるように言われてしまう。気の弱い稔は了承してしまうが、実はその様子を信子も見ていた。しかも笑っており、彼女の希望だったようだ。信子役の海野まさみは、ドラマ版「愛と誠」で高原由紀役を演じることになり、それを芸名に変更している。この共演をきっかけに小倉と結婚するのだが、三カ月もたずに離婚している。劇中でも実生活でも彼女とはうまくいかなかったわけである。
話を戻すと稔は唐木にそそのかされて、電車で痴漢行為に及んでしまう。しかし、相手が悪くその女子高生はスケバングループの一員だったのである。とある喫茶店に連れていかれ、リーダーの津田が現れて、稔をビンタする。そこに新入りが現れるのだが、なんと妹の陽子だったのである。稔は妹からもビンタされる羽目になるのであった。というのが第1話。桃井かおりはこの当時はこんな役が多かったイメージ。稔は妹をグループから引き離さねばと、後に津田に直談判したりして、逆に彼女に気に入られるというような展開になるようだ。
もちろん、他の家族にもいろいろ事件がおきる。兄・茂の恋人(園子)には連れ子が。つまり、バツイチか未婚の母か詳しい設定まではわからない。
最大の事件は清一の身に起こる。言動がおかしくなっていく清一だったが、病院での診断は脳腫瘍というもの。しかも医師は手術が難しいからと中々踏み切らないという展開。また清一の奇行に関しては「脳腫瘍による様々な症状が表現されていますが作品上の演出です。ご了承ください」というテロップが表示されていた。ヘタすると抗議が来たりするので、その辺も考慮していたようだ。

藍より青く

前回の「知らない同志」(72年)において、山田太一が全話出筆じゃないのは、次回作の準備があっらからだろうと書いたのだが、その次回作が「藍より青く」(72~73年)である。NHK朝の連続テレビ小説だ。数回前に紹介したポーラテレビ小説「パンとあこがれ」は半年でモデルになる人物がいたのだが、今回は1年の長丁場で、しかも完全に山田のオリジナルなのである。75年からは、この枠も半年単位になったようだが、この時期はまだ1年単位の月~土放送で、全309話になる。
舞台は熊本県天草で、太平洋戦争末期から敗戦後にかけての43~66年辺りを描いているという。大雑把なあらすじは、太平洋戦争のさなかに結婚し、18歳で夫を失った田宮真紀。息子を夫の忘れ形見に終戦後を生きていく。上京した真紀は、同じく戦争で夫を亡くした女性を集めて商売の道へ。やがて中華料理店を開業し成功する姿を描いている。
ヒロインの真紀を演じたのが真木洋である。年齢でわかると思うが、今活躍中の真木よう子とは別人である。真木洋子は当時24歳。高校卒業後に青年座に入団し、柚木れい子としてデビューしたが、本作のヒロインに抜擢されたことで、真木洋子と改名している。ちなみに「ようこ」ではなく「ひろこ」である。正直これは、今回自分も初めて知った事実である。番組終了後すぐに出演した東宝映画「日本侠花伝」(73年)では大胆なヌードを披露しているが、これは1カ月に渡り拒否し、撮影ボイコットまでに発展した末に承諾したものだという。今ならかなり問題になりそうな事案である。

話を戻すが、他のキャストであるが、高松英郎真記の父・行義)、今出川西紀真紀の妹・嘉恵)、大和田伸也真紀の夫・村上周一)、原康義(村上夫婦の息子・周太郎)、佐野浅夫周一の父・周造)、赤木春恵周一の母・キク)、尾藤イサオ周一の弟・孝治)ここまでが身内で、他に小坂一也、新村礼子、殿山泰司、寺田誠、北村晃一、三田村賢二、高山彰、井上昭文、友竹正則、樫山文枝、下條アトム、辻萬長、米倉斉加年、坂上忍、戸野広浩司、田村高廣などである。原康義は当時20歳の大学生で、おそらくデビュー作だと思われる。現在は専ら声優としての滑動が多い。坂上忍はもちろん子役時代(当時5歳)、戸野広浩司は特撮ファンなら知っている人も多いだろう。この72年に不慮の事故で亡くなってしまうのである。25歳の若さであった。また、当初ナレーターは中畑道子であったが約半年後に病気で降板、その直後に亡くなったのである。51歳の若さであった。後任は丹阿弥弥津子が務めた。
この時代だと、まだ映像を保存するという概念が薄く、NHKに映像は残っていなかったらしい。出演者の大和田伸也が第1話を保存、また本作のイメージソングを歌唱した本田路津子が最終話の1部を保存しており、それをNHKアーカイブスに提供したという。現在NHKのサイトで見れるのは、その一部であろう。個人的には本作の中身は全く覚えていないが、OPのタイトルバックである海の映像は記憶にあった。当時は小学生で、実家では朝はNHKにチャンネルを合わせていたので、それで目にしていたのだと思う。本田路津子は当時はフォークシンガーの肩書だったが、現在はゴスペルシンガーだそうだ。

また、本作は73年に松竹で映画化されている。しかもドラマはまだ放送中ということもあってか、一部のキャストは変更となっている。村上一家大和田伸也、佐野浅夫、赤木春恵、尾藤イサオ)や殿山泰司、高山彰などはそのまま同役で出演しているが、ヒロインの真紀松坂慶子父・行義三國連太郎妹・嘉恵千景みつるが演じている。他に田中邦衛、財津一郎など。監督と脚本は森崎東だ。
また、山田太一は脚本と並行して小説も書いており、ドラマ放送中に上下巻が発売されている。今で言うメディアミックスが行われる程、人気作だったのだろう。

 

 

知らない同志

山田太一シリーズ、次は「知らない同志」(72年)である。時系列では「二人の世界」「たんとんとん」(71年)の後となる。今までと異なるのは、本作の脚本は山田単独ではない。1~5話までは山田が書いているが、6~13話まではジェームス三木が担当。その後寺内小春が入り、最終19話は山田と三木の連名となっている。本数的には三木の方が多いが、基板を書いたのは山田ということになろう。全話出筆じゃないのは、次作に取り掛かる必要があったからであろう。それは次回に。
さて「知らない同志」だが、今見ると中々の豪華キャストだ。主役はテレビドラマは初主演となる田宮二郎だ。「白い」シリーズは有名だが、本作はあまり知られていないかも。大映社長永田雅一との対立から、人気絶頂期にも関わらず映画界から干されてしまった田宮だったが、「クイズタイムショック」の司会ぶりが好評で、すっかり茶の間の人気者になり、映画界への復帰も果たした。逆に大映は倒産してしまう。そして「知らない同志」で本格的にテレビドラマへ進出したのである。
共演が栗原小巻、杉浦直樹、山本陽子である。舞台は東京にあるスーパーマーケット「プラネット」。そこに新店長として大阪から赴任してきたのが三友竜一(田宮)だった。逆に前店長だった今西健太郎杉浦)は大阪へ単身赴任。妻である節子栗原)は、そのまま「プラネット」で働くことに。次第に竜一と節子は近づいて行く。一方、健太郎は大阪で不倫中。相手は何と竜一の妻である郁子(山本)であった。つまり、二組の夫婦がそれぞれの相手を入れ替えた状態になるわけである。
田宮と山本陽子と言えば、現実世界で不倫関係が取りざたされているが、この時点で夫婦役で共演していたのだ。ちなみに、自分は本作をしっかり見たことはない。しかし、YouTubeに本作を数分づつ切り取った動画が数本挙がっていたのを見ただけだ。全部で30分程度だろうか。それでも雰囲気は伝わって来た。コメディドラマという解説もあったが、コメディチックなのは杉浦だけで、田宮と栗原の場面はサスペンスにしか見えない。
こういったドラマのセオリーだが、最初の竜一の印象は最悪で、店員たちは反感を抱く。その店員を演じるのが石立鉄男、前田吟、鳥居恵子、高松しげお、大山のぶ代、いまむらいづみ、岡本富士太、常田富士男、浜田寅彦など。石立はフロアマネージャーの役だが、当時はほぼ主役も多く、こういった脇役は珍しい気もする。当時も掛持ちだったようなので、出番は少ないかも。大山といまむらは辞めていく役だが、田宮に「引き抜きですね。ここより何が魅力なんですか」と問い詰められる。それにしても大山のぶ代がスリムだった。
ゲストかレギュラーかは不明だが、他の出演者は梅津栄、神田隆、長谷川哲夫、姫ゆり子、三島雅夫、鹿野浩四郎、信欣三、せんだみつお、桜井センリ、小松政夫など。

俄・浪華遊侠伝

山田太一が「ポーラテレビ小説」に関わったのは、前回の「パンとあこがれ」(69年)だけだったようで、翌70年には新たな木下恵介枠である「木下恵介・人間の歌シリーズ」が新設され、その2本目に山田が起用されたのである。「木下恵介アワー」が人気だったので、TBSは新たに木下枠を設定したわけである。本枠でも木下本人は、ドラマ作品の企画・監修を手掛けている。
で、山田が担当したのが「俄・浪華遊侠伝」(70年)で、時系列では「兄弟」と「二人の世界」の間の作品ということになる。今までと異なるのは、山田のオリジナルではなく、司馬遼太郎の原作が存在することである。結構CSで放送されているのだが、まともに見たことはない。
「俄」は「にわか」と読み、舞台ではなく路上で感情を素朴に表現する即興喜劇のことをいう。主人公の明石屋万吉(小林佐兵衛)はやくざ者であり、実在した人物で、幕末明治における上方きっての大親分だそうである。
11歳で母と妹を養うために賭場荒しになったが博奕は好きでも上手でもない。15歳でやくざ者として門戸を構え、いつでも死ねるのが商売という信条を掲げた。物語はこの辺りから始まるので、主役の万吉を演じる林隆三は3話からの本格的登場となるようで、1~2話の万吉少年時は岡本隆成が演じている。この頃に、芸者の小左門(藤村志保)と出会ったのである。藤村はナレーションも担当している。
以下にTBSチャンネルのサイトから各話の主なあらすじを抜粋した。第4話…万吉のところへ、大阪でも指折りの遊侠の親方雁高辰巳柳太郎)が、命仕事を頼みにきた。その訪問に感激した万吉は、どんな仕事でも引きうけると約束した。第5話…堂島の米相場をたたきつぶした万吉は、いまや度胸日本一とうわさされる男になった。ある夜、万吉小左門と結ばれる。第6話…万吉は、大阪東町奉行の久須美佐渡守島田正吾)に頼まれて、囚われの身である野々山平兵衛二谷英明)を探すために、牢を一つ一つ巡っていた。第10話…元治元年、長州軍の敗残兵が続々と大阪へ落ちてきた。万吉は、幕軍の大阪城代から落武者を見つけ次第斬るように命じられる。第12話…新撰組に捕らえられた万吉であったが、一柳藩にはその士籍がないという理由で釈放された。大石鍬次郎三上真一郎)らは万吉の後をつける。第13話…徳川幕府の大政奉還から二ヵ月。京都にいる薩長兵と大阪の徳川兵は一触即発の状態にあった。ある夜、万吉は一柳藩の仕置家老・山田捨馬渡辺文雄)に呼ばれる。

辰巳柳太郎、島田正吾という新国劇の重鎮二人が相次いで登場したり、時代劇は珍しい二谷英明がゲストで顔を見せていたりする。

上記に書かれていない主な出演者だが、小春…万吉の女房(大谷直子)、万吉の母吉川雅恵)、帯権東野孝彦)、天満の軽口屋樋浦勉)、平助常田富士男)、ゴテ政(蟹江敬三)、内山彦次郎西村晃)、建部小藤治花沢徳衛)、遠藤謹介石浜朗)、榊原三十郎小松方正)、同心渡辺津坂匡章)、嘉七金子信雄)、役者松細川俊之)、胴元白木みのる)、胴元上田吉二郎)、番頭(芦屋雁之助)など。万吉以外にも久須美佐渡守、大石鍬次郎、内山彦次郎、遠藤謹介などは実在した人物である。

結末での大阪での戦争で、万吉たちは、維新軍がわにつくという原作と違うストーリーになっているが、これは脚本の山田の創案によるもの。予め全13話と決まっていたこともあるので、仕方ないことなのか、山田が原作をなぞるだけではなく、何かオリジナリティを入れたかったのかは定かではない。

パンとあこがれ

続けて、山田太一脚本のドラマだが、また時系列が若干戻り、「3人家族」と前回の「兄弟」の間には約半年の期間があるのだが、そこで書かれたのが、「パンとあこがれ」(69年)である。
これは「木下惠介アワー」ではなくかつて存在した「ポーラテレビ小説」の枠で、全156話を一人で担当したようだ。156話と言っても、月~土曜日(後に月~金)の昼12:40~13:00に放送されていた帯ドラマ枠でなので、期間的には半年である。要するNHKの朝ドラと同じような形式だ。20分枠なので、本編は賞味15分弱といった感じだろうが、×6だと90分。つまり、毎週90分ドラマを半年の間書き続けるということになる。
NHKの朝ドラもそうだが、この枠からも沢山の新人女優が誕生し、長きに渡り活躍している人もいる。例をあげると木内みどり、丘みつ子、音無美紀子、佐野厚子、小林亜紀子、中田喜子、萩尾みどり、岡江久美子、岡まゆみ、五十嵐めぐみ、名取裕子、樋口可南子、かとうかずこ、宮崎美子、賀来千香子など錚々たる顔ぶれだ。
この枠は68年9月にスタート。今回の「パンとあこがれ」は2作目にあたり、ヒロインとして起用されたのが文学座所属の新人だった宇津宮雅代(21歳)であった。ちなみに、第1作「三人の母」は新人ではなく、加藤治子、馬淵晴子、千之赫子のベテラン勢で、木下惠介も脚本に参加していた。その流れで本作は山田にバトンタッチされたのではないだろうか。
つまり、宇津宮(宇都宮ではない)はこの枠の新人女優第1号となったわけである。さて「パンとあこがれ」だが、新宿中村屋を創業した相馬黒光と夫相馬愛蔵との波瀾万丈な半生を描く一代記ドラマ。登場人物は全て仮名になっている。相馬黒光(こっこう)とは本名ではなくペンネームのようなもので、相馬良が本名。どちらにしろ、字面だけ見ると男かと思ってしまう。新宿中村屋といえば、中華まんやらインドカリーやらが有名だが、実は大学生時代に夏休みだけだがアルバイトをしたことがあった。要するに皿洗いだが、基本的には機械を使っていた記憶がある。結局インドカリーにありついたことはなく、数十年たった今でもここでカリーを食べたことはない(はず)。
大雑把なあらすじを見た限りでは、黒光をモデルとした吉本綾宇津宮)は、女学校卒業後まもなく見合いで相馬隆蔵(東野孝彦)と結婚するのだが、当初は親友である島村静子西尾三枝子)の兄である大出俊)に惹かれたようだ。しかしそれは叶わず、恩師である野口加藤武)の紹介で二枚目とは言えない隆蔵と一緒になるのである。
出演者は、意外と「木下惠介アワー」と重なっていたりする。吉本敬津島恵子)、吉本孝太郎寺尾聰)、吉本美代松尾嘉代)、相馬正蔵菅原謙次)、相馬タネ八木昌子)、相馬明子新藤恵美)、相馬達夫小野寺昭)、相馬孝次石川博)、錦織節子島かおり)、志沢幹太郎岸田森)、ブルボー校長イーデス・ハンソン)、横山先生穂積隆信)、吉村先生水原英子)、石川信子吉村実子)、石川小枝岸久美子)、木村辰子伊藤るり子)、浅倉常田富士男)、吉次花沢徳衛)、タクール河原崎長一郎)、信一河原崎建三)、徹どん(小坂一也)、大友幾代吉沢京子)、津元弘子菱見百合子)、金田加藤嘉)、美代大山のぶ代)、加代親桜子)、里子保倉幸恵)と中々の豪華キャストが並び、役名不群でも原保美、春川ますみ、砂塚秀夫、武原英子、吉田次昭など。ナレーターは市原悦子。この中では小野寺昭がドラマ初出演だったそうである

兄弟

時系列が前後するのだが、「木下惠介アワー」において「3人家族」と「二人の世界」の間に放送されたドラマが「兄弟」(69~70年)である。本作も全26話、山田太一が脚本を担当している。
シンプル過ぎるタイトルで、忘れはしないが逆に印象に残らない気もする。普通なら「〇〇兄弟」としそうなところだ。それはさておき、その兄弟を演じるのが津坂匡章志沢静男)とあおい輝彦志沢順二)である。この二人は「おやじ太鼓」でも兄弟役で、それぞれ三男四男を演じていた。何度も書いているので、わかっているとは思うが津坂匡章=秋野太作である。名前を読めない人が多かったということで。一旦「津坂まさあき」にしていたが、その後ドラマでの役名をそのまま芸名にしてしまった。
ドラマはこの兄弟の恋愛模様が中心になるようで、相手役となるのが津坂秋山ゆり森本紀子)、あおいは沢田雅美栗山京子)なのである。秋山は本作がドラマデビュー作となるようだが、沢田は「おやじ太鼓」では。津坂、あおいの妹役だった。三人とも「木下惠介アワー」の常連で、木下のお気に入りだったのだろう。
個人的に津坂を始めて見たのは「必殺仕置人」(72年)であったと思う。その後の「助け人走る」(73年)と合わせて多弁で三枚目的なイメージが強かったのだが、本作で静男は口数も少なく二枚目な感じ(らしい)。女性には目もくれず仕事一筋だったが、秘書課の紀子のことが気になっていた。同僚とは言っても、一度も話したことはなかったのだが、ある日昼食時に入ったレストランで彼女と会うのだった。というところから話はスタートする。一方の順二は大学生。にわか雨でずぶ濡れになっていたところに、傘をさしかけてくれたのが京子だった。名前も名乗らずに去っていた彼女のことが気になる順二であった。とまあ、ある意味ベタなきっかけではある。男女逆パターンの方が多いかもしれんが。文字で読むとミステリアスな雰囲気に思えるが、沢田雅美はミステリアスな感じではないし、ヒロインタイプでもないと思うのだが、本作ではどうだったのだろう。演じている京子はデパートの食堂のウェイトレスとして働いている。
他のキャストだが、北村和夫志沢修太郎・兄弟の父)、津島恵子志沢厚子・兄弟の母)、菅原謙次森本辰造・紀子の父)、市川寿美礼栗山トシ子・京子の母)、島津元浅川信吾・辰造の部下の大工)、菅井きん千代・京子の女子寮の管理人)、南風洋子山村澄子)など。
津島恵子は東宝副社長・森岩雄の息子(伊千雄)と結婚した後、一時的に映画界からは離れたがテレビ出演は続いていた。この辺の時代は母親役が多い。自分はあまり見ていないのだが「俺たちの旅」(75年)を見ていた人ならピンとくるかもしれないが、津坂が演じていた伸六の恋人役が上村香子で、その両親を演じていたのが北村和夫と津島恵子なのである。また、津島は「おれは男だ!」(71年)では主演の森田健作の母親役だったが、秋山ゆりはヒロイン早瀬久美の姉役で出演していた。彼女の活動期間は短く、75年頃には引退したようである。市川寿美礼は、この2年後に44歳の若さで病死している。
大工の役で出演している島津元は馴染みがないと思うが、まもなく俳優を辞めて脚本家に転向し、本名の畑嶺明で前述の「俺たちの旅」など日本テレビ・ユニオン映画系の青春ドラマに参加していた。しかし、で一番有名なのは「毎度おさわがせします」(85年)シリーズではないだろうか。80年代半ばは「夏・体験物語」とか「妻たちの課外授業」、90年代後半は「キッズ・ウォー」シリーズなどヒット作を多く手掛けていた。
 

たんとんとん

前回の木下恵介アワー二人の世界」の後番組となるのが「たんとんとん」(71年)である。脚本は山田太一が引き続き全26話を一人で担当している。出演者は前作とはガラリと変わり、主演は青春スター森田健作であり、その母親がミヤコ蝶々で、この母子を中心にドラマは展開する。タイトルの「たんとんとん」はわかると思うが、「母さんお肩をたたきましょう~」の「たんとんとん」を表している。
ただ大変失礼ながら、この二人だと婆ちゃんと孫という関係に見える。ミヤコ蝶々は当時51歳だが、既に60代くらいという感じに見えるのだ。蝶々森光子が実は同い年と考えると森光子が若造りだったと言えようか。
逆に森田健作は当時22歳だが、高校生にも見え、今回も高校生の役だ。と言っても学園ドラマではない。
森田が演じる尾形健一(緒形拳ではない)は大工の棟梁の息子。しかし、その父親が急逝。大学進学を目指していた健一だったが、高校を辞め父の跡を継ぐ決意をするのだった。というのがあらすじ。
つまり主な舞台となるのは健一と母・もと子蝶々)の住む「尾形工務店」である。工務店の関係者が棟梁・堀田花沢徳衛)、父の弟子だった生島新次郎杉浦直樹)で、堀田の妻・咲子杉山とく子)、堀田の娘・ゆり子(丘ゆり子)、新次郎の妻・とし子松岡きっこ)という顔ぶれ。丘ゆり子は馴染みがないと思うが、浅草の軽演劇出身で、ずんぐりした体形が特徴。20歳前の役だが、当時29歳。終盤重要な役割を演じる。松岡杉浦と15歳離れた妻という設定だ。ここに腕のいい若い大工・江波竜作近藤正臣)が加わる。設定では20歳だが、近藤も前述の丘と同じ29歳だった。彼と健一は馬が合わず、悉く対立する。
ヒロインとして登場するのが、蕎麦屋に務める石井文子榊原るみ)。実は竜作とは同郷で、しかも同じ養護施設の出身ということで、おそらく顔見知り。竜作に好意を持つが、彼はあやふやな態度をとる。そのせいか、健一とデートしたりもする中々の小悪魔だったりする。終盤に竜作の父・竜造役で登場するのが由利徹だ。
建一の高校での友人として登場するのが磯田岩上正宏)。演じる岩上近藤も出演していた「柔道一直線」では丸井円太郎なる柔道選手を演じた。その名前の元になったであろう役者が丸井太郎で「図々しい奴」が有名。その少年時代を演じたのが岩上である。その彼が告白して振られるのが夏川雅子(岩崎和子)である。彼女も健一の元クラスメートで歯医者の娘。榊原るみと岩崎和子と言えば「帰ってきたウルトラマン」だ。実は本作は全く同時期に放送されていたので、榊原は掛持ちだったと思われる。さらに、彼女はこの後「気になる嫁さん」への出演が決まり、「帰って来たウルトラマン」を宇宙人に殺されるという形で降板する。そして、入れ替わるように登場したのが岩崎和子だったのである。「たんとんとん」においては榊原は結局は近藤とうまくいくようだ。
この他にも「尾形工務店」に家造りを依頼した夫婦(中野誠也、井口恭子)や健一の叔母親子加藤治子、朝倉宏二)等も登場。朝倉はアニメ「キックの鬼」で、主人公の沢村忠を演じたり、声優活動の方で知られている。
そして終盤に長髪にヒゲのバンドマン園部朝比奈尚之)が登場し、ゆり子と結婚することになる。最終話はこの二人の結婚がメインになるようで、竜作と文子ではないのだ。
竹脇・栗原コンビと違い、視聴者的には馴染みの薄い役者二人の結婚で盛り上がったかどうかは不明だが、山田ドラマで不評なコメントはあまり聞いたことがないので、悪くはなかったのだろう。

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