行く河の流れ -17ページ目

行く河の流れ

行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。

 僕は香川県の高松駅前でコーヒー屋にいた。疎らな店内にはスーツを着た男性や女性が一人で、あるいは打合せをするように向かい合って座っていた。
 僕はアイスカフェラテを飲みながら彼女への誕生日カードを書いていた。書いては止まり、書いては止まり。彼女の生涯を遡って想像しながら、また書き始めた。
 彼女は約束の時間通りにやってきた。手拭いを頭に巻いて、仕事で野菜を配達するために使っている軽ワゴン車を運転しながら。
「こんな感覚、以前感じたなぁ・・・」
 彼女が神奈川にいて、僕が岡山にいた時だ。静岡の富士駅の改札で待ち合わせをした時と同じだった。その時、彼女は普段履かないスカートを履いて改札に立っていた。新鮮さは同じなのだが、今回は彼女の中に生き生きとした活動的なモノが感じられたことが、その時とは違うかなと思った。何かが弾けて瑞々しかった。
 今日は彼女の誕生日。一緒に彼女行きつけの居酒屋で夕飯を食べた。その最寄り駅まで送ってもらい、僕はまた電車で瀬戸大橋を渡る。
「いいんだ。この熱は。冷めなくても」
 僕の熱を奪おうとする電車内の寂しさが、冷静を装うよう促すがそれはあまりに無力だった。
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 押入の奥にコートで隠してしまっておいた、とっておきの贈り物がある。もう一ヶ月近く前からそこにある。この贈り物が僕の頭に閃いた瞬間、もう相手の顔は微笑んでいるのが目に浮かんだ。でもこの贈り物が輝くことがないまま役割を終えてしまう、そんなことも考えた。
 そして今日、朝ご飯を頂いてベトナム珈琲を飲み、そして恐る恐る手渡した。あれだけ喜んでくれるという自信があったのに、いざ渡す時には「本当にこれでよかったのか?嫌がらないかな?もっと良い物があったのではないか?」と不安で怖くてしかたがなかった。その不安を悟られまいと妙にテンションを上げてしまい、普段家では見せることがあまりないくらいはしゃいでしまった。声が1オクターブ高くなっていた感じ。
 喜んでくれた。早速履いてくれた。贈り物は長靴。これが閃いた瞬間、ファンタジスタの気持ちを味わった。そして実際履いてくれる。しっかりボロボロになるように履いて欲しい願いと、これを履いて雨の日や泥の中でも世界をワクワク歩けるように・・・。
 梅雨の雨が朝、降ったのだが、昼からは太陽も見えた。気温も上昇し暑さを感じるくらいであったが、彼女は長靴を履いて珈琲を飲みに出掛けた。よく似合っているけど、暑いだろうに。でもうれしかった。
 街を歩いて久しぶりにデートした。普通ってこんななのかな?と思い、だったら普通っていいなと感じた。
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 深夜バイトを終え、駅に向かって車を走らせていた。若干焦り気味ではあったが、深夜12時を回っていたのでほとんど他の車はいなかった。だから焦っていても焦っていなくても大して到着時間も車のスピードも変わりはしない。12時19分到着予定なのに、僕は10分ほど遅れて12時30分くらいに迎えに行けそうだったのだ。だから焦っていた。
「もう到着しているかな?」
 僕はそう思いながらカーステレオでRebecka Tornqvistの「A Night Like This」に耳を傾けた。
 僕が駅に到着したのは予定通り12時30分。予定通り10分の遅刻である。車を止め、辺りを見渡したがそれらしい人影は見られなかった。大学生らしき集団がコンパの帰りだろうか。時折2、3人で通り過ぎていく。
 しばらく車の中で待ってみたのだが、だんだんと人の数が少なくなっていく。電車はもうとっくの前に終電が終わったはずである。車を降りて駅の改札を覗いてみても、もう誰もいない。
「おかしいな?東口と西口を間違っただろうか?」
 僕は車に戻り、チケットパーキングの方へと車を転回した。チケットを買おうとしたが、「休止」が表示されていた。
「もう終わっとるよ!いらん、いらん!」
タクシーの運転手の人が暇そうに話しかけてきた。もう駅から出てくるお客さんもおらず、飲み会帰りの人を拾うだけなのだろう。僕は車をそこに置いて携帯電話をまた鳴らした。無機質な機械の音声が「・・・お留守番サービスに接続します・・・」と告げる。さっきから何十回ならしても「どうしたのですか?」とは当然ながら聞いてくれない。だんだん不安になってきた。
「東口に行っているのかも。見てこよう」
僕は携帯電話を右手に握りしめたまま地下通路を走った。100メートルほどあるその通路にはもう誰もいない。薄暗い蛍光灯の光と僕の慌ただしい床を蹴る音がむやみやたら響いて不安をかき立てる。
「もしかして、誘拐されたのかも・・・。拉致されたのかも・・・。どうしよう?」
 東口は駅の正面と言うこともあって、まだまだ人がいた。しかし皆飲み会帰りの若者達でだった。目を凝らして見渡したが、いなかった。
 僕はまた急いで車のある方へと走った。もしかしたら、行き違いでいるかもしれないと思ったのだが、期待は外れた。僕はその場に留まることしかできなかった。もう終電が終わって、人が出てくるはずのない改札を眺めていた。
「あれっ?」
 改札から人が出てきた。終電も終わり、駅員さんでもない普通のお客さんがである。僕が待ち合わせている人も背筋を伸ばして出てきた。安心した気持ちよりも既に疑問の方が大きくなっていた。
「あれっ?あれっ?」
「人身事故」
 何事もなかったかのように、当然僕にもその情報は入っているだろうという風に、そしていつも通り答えた。ひとまず車へ乗り話を聞いていると。どうやら2,3駅手前で人身事故が発生してそこで電車が止まってしまっていたらしい。
「そのね、人身事故の放送が電車内に流れた時ね、電車内の空気がとっても寂しかったの。人身事故よ。人の命に関わっているかもしれない。でも電車の中にいる人にとってそれは迷惑なことでしかないの。私も前はそう思っていたかと思うと、怖くなっちゃった」
助手席で真剣に話し出した。
「お前らしいな・・・」
僕はそう思うと疑問が晴れ、やっと安堵感が広がった。僕が彼女に魅せられているのはそういった気持ちである。携帯電話のバッテリーも充電してこないでやって来るところも憎めなくなるくらい・・・。
 彼女は僕と出逢って2回目の誕生日を迎える。このようにして誕生日前夜は幕を開けた。

~~~~~~~~~~~~~~~~The other ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あれっ?あれっ?」
「人身事故」
 何事もなかったかのように、当然僕にもその情報は入っているだろうという風に、そしていつも通り答えた。ひとまず車へ乗り話を聞いていると。どうやら2,3駅手前で人身事故が発生してそこで電車が止まってしまっていたらしい。
「そのね、人身事故の放送が電車内に流れた時ね、すごく怖かった」
 彼女は続けた。
「人身事故でしょ。人の命に関わっているかもしれない。例え、意図して起こした事故だったとしても、そうするしかなかった人の苦しみとか、命の重さとか、まったく考えられないみたい。電車の中にいる人にとってそれは迷惑なことでしかなくて考えているのは自分達のこの後の飲み会の予定。『ごめんなさいねえ~』って甘い声で電話して、その直後には、『人身とかてちょ~迷惑なんだけど~』・・・だって。狂気だなって思って、すごく怖かった。そして自分も東京で満員電車の中、そんなふうに一瞬でも思ってしまったと思うと・・・。怖くなっちゃった」
「携帯電話のバッテリーは?」
「なくなっちゃった。でもほら!充電器持ってきた」
 やっと安堵感が広がった。充電器を持ってきたことに対してではない。無事に出会えたからでもない。彼女が電車で携帯電話のメールに夢中になることよりも、もっと大切なことを感じて、それを考えていたことに対してである。
 このようにして彼女の誕生日前夜は岡山で幕を開けた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~さらにもう1案~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「そのね、人身事故の放送が電車内に流れた時ね、すごく怖かった」
 彼女は続けた。
「人身事故でしょ。人の命に関わっているかもしれない。例え、意図して起こした事故だったとしても、そうするしかなかった人の苦しみとか、命の重さとか、まったく考えられないみたい。電車の中にいる人にとってそれは迷惑なことでしかなくて考えているのは自分達のこの後の飲み会の予定。『ごめんなさいねえ~』って甘い声で電話して、その直後には、『人身とかてちょ~迷惑なんだけど~』・・・だって。狂気だなって思って、すごく怖かった。そして自分も東京で満員電車の中、そんなふうに一瞬でも思ってしまったと思うと・・・。怖くなっちゃった」
 彼女はまっすぐ前を見つめながら話していた。
「らしいな・・・」
 僕はそう思うと疑問が晴れ、やっと安堵感が広がった。僕が彼女に魅せられているのはそういった気持ちである。携帯電話のバッテリーも充電してこないでやって来るところも憎めなくなるくらい・・・。
 友達とサントリーの「樽ものがたり」を見にいった。サントリーのウィスキー作りに使われた「樽」を使って家具を生みだし販売している。岡山にも展示場があったのだ。
http://www.suntory.co.jp/taru/
 友達は重量感があり、物語のある家具を求めていた。しかし家具の量販店などは、とても買う気になるようなデザインや想いのこもった物はおいていないし、雑然と倉庫のように積み上げられている家具達に同情さえ抱いていた。同感である。
 サントリーのここの展示場に置いてある家具はすべてに人と出会う以前の物語が存在している。ウィスキーを静かに熟成させてきた樽は以前なら廃棄されていたが、ここに家具として甦ることにより人と出会った。そしてその人の家に入り、人との物語を新たに紡いでいく。
 形によって保たれる何か
 形によって崩壊する何か
 その何かは激動のせめきあいのなかで
 生命を希求する
 とぼとぼと、僕は家へと向かう最後の直線を歩いていた。夕暮れ時の東の空には濃紺の空が広がっている。僕は何かを思い出そうとしていたが、何一つ思い出すことができないでいた。ただ頭の中には「何かを思い出そうといている」という指令だけが残っている。その指令が誰から出されたものなのかもわからない。何かを見て触発され、思い出そうとしているのかもわからない。考えても出てこないので、頭を空っぽにしてみても全く糸口さえつかめない。せめて、何の為に思い出そうとしているのかだけでも思い出せたなら自分自身に対する慰めになるのに。それさえもままならない。ただ一つ言えることは「思い出そう」としているということは「かつて」記憶にあったという事実だけだった。
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 ワールドカップも強いチームがしっかりと勝っていて、ベスト8が出揃った。現地ドイツに行き、ライブで観戦することが一番楽しいのだろうが、テレビの前で観戦することが現実的であろう。
 テレビで観戦する時に大切なのがアナウンサー。やたらと絶叫しつつ試合の後半では声が枯れてしまっているのは僕は好きではない。的確に知りたい情報を喋ってくれさえすればいいのだ。
 そしてさらに楽しくサッカーを見るという点ではサッカー解説者も重要だ。サッカー解説者の中でダントツ良いのは「金田 喜稔(かねだのぶとし)」氏である。ゲームのここを見れば面白いんだ!と目から鱗の連続である。戦術解説もフレンドリーにかつ単刀直入に解説するのでなるほど!とサッカーを知らない僕でもわかりやすく勉強することができる。この人が解説するサッカーの試合は実際のゲームも楽しく見ることができるのだ。一緒にサッカーを見たいと思わせるモノを持っている。
 他には「う~ん」「ん~」と唸るばかりで解説するどころか喋ることもしない「木村和司(きむらかずし)」氏。なんだか後悔ばかりするような気持ちになる「加茂周(かもしゅう))」氏。マイナス要因ばかり発言する「セルジオ越後(えちご)」氏。逆に良いことばっかり言う超プラス思考の「松木安太郎(まつきやすたろう)」氏。・・・解説者にも様々なキャラクターがいる。
 サッカーのゲームを見るときに選手はもちろん、レフェリー、アナウンサー、解説者などいろいろと視点を変えてみるのもサッカーを見る楽しみの一つである。
 ひらめきは
 そのことで頭を満たして満たして
 もうどんな隙間もないくらいに
 いっぱいにして
 尚も詰め込んだ時にだけ
 頭に落ちてくる
 自分の考えじゃないような感覚
 どこからやってくるのか
 深夜にバイトを終えた。一旦帰宅した後、友達から誘いがあった。
 先日の鰻釣りでは全く釣れなかったのだが、今晩も友達は鰻釣りに出向いていた。かなりの雨の中である。そしてなんと3匹釣り上げたのだった。そして嬉しいことに前食べられなかったので、今から調理するから是非と誘ってくれたのだ。
 すぐに友達宅へと出掛けたのだが、既にさばかれて焼きに入っていた。鰻丼の煮詰めもグツグツとイイ音を立てて煮詰まっていた。炊飯器からは湯気があがり炊きあがり間近である。バイトでちょっとだけ疲れていたのだが、誘ってもらった嬉しさと会話の楽しさでテンションは上がりっぱなしで眠気も吹き飛んでいた。
 まずは鰻丼で頂き、その後、お茶漬けにした。天然の鰻の美味しさはすごい。煮詰めも美味しく、深夜とは思えないほど食べてしまった。
 鰻ももちろん美味しかったのだが、何よりも釣れたからと誘ってくれる優しさが嬉しかった。写真を持って行くのを忘れたのが残念でならない!
 友人と近くにある公園でサッカーをして遊んだ。遊んだといっても何をしたということはない、ただボールを蹴り合ってパスをしたり、フェンスに向かってシュートしたり他愛のないボールとのじゃれあいをしただけ。
 もう陽も暮れて、辺りには虫の声が。カエルの鳴き声も聞こえる。公園にある街灯のあかりを頼りにボールを蹴り合った。楽しかった。また遊ぼう。
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