求めれば答えが見つかるかもしれないと
無我夢中だった時期を経て
誰もが安心できるようなわかりやすい答えなんて
そもそも存在しないんだと気づいたあのころ。
けれどもそこから虚無感の泥沼に呑み込まれることもなく
答えなんてなくても問い続けることこそが
生きている意味なんだって考えながら
2011年も終わろうとしています。
わかりやすさを求めて
線を引き細分化し過ぎたがゆえに
かえって見えにくくなってしまった森羅万象を
ふたたび混然一体とした自然のカオスに帰すため
線を消す作業をひたすら進めていきます。
今年最高の1冊は
あいかわらず選べないし
選ぶ必要もないので
今年も特に印象に残った本を
次に記します。
★最もまちをみる目を変えてくれたのは
中沢新一さんの
アースダイバー 。
人間は土地の記憶の上をなぞって暮らす生き物なのです。
高層ビルやアスファルトの道路で
土地を制圧したかのように振舞っても
所詮は地形の導くままに
地形の論理に従って都市は象られています。
決してそれは批判ではなくて
土地と人間との睦まじい物語。
東京人必読の東京が愛おしくなる
縄文時代と現在未来とを結ぶ
本のなかの時空を超越したドラマが
ここにはあります。
まちあるきのガイドとしても最高です。
★最も自分の幸福の礎について考えさせられたのは
ル=グィンさんの
ぼくたちの幸福は誰かの犠牲のうえに成り立っている。
その犠牲は決してその誰かが望んだものではなくて
けれどもぼくたちは
ふだんはその誰かの犠牲の存在に目を背けて
あるいは気づかないふりをしながら生きていて。
でもほんとうは知ってるんだよね
誰かが望まずに犠牲になっていることに。
ぼくたちはいろんなジレンマを抱えながら
あるはずもない最良の選択をさがして
生きていきます。
★最も読後まで引きずったのは
今村夏子さんの
こちらあみ子 。
読んでいて苦しくなる
あみ子と登場人物たちとの関係。
違和感が違和感が違和感が。
それぞれのやさしさが
つらいほうへつらいほうへ収斂していく。
苦しかったけれども
読後いつまでも
自分の感性を試されているように考えさせられ
いまやぼくの妄想も加わって
美しい神話と化しています。
★最も孤独な魂の残酷さを感じたのは
米田夕歌里さんの
群魚のすみか 。
お互いに自立した孤独な魂の交流は
ぼくの欲するところですが
そんな孤独な魂が
安心できる自らの居場所を求めた途端に
残酷で醜いエゴイストに変貌していく
恐ろしさがリアル以上に現実的で
哀しかったです。
★最も自らの内面と共鳴したのは
町田康さんの
告白 。
文句なしの傑作。
あふれ出るぐだぐだの思弁。
作中の文章なのかぼく自身の思考なのか
しばしば区別がつかなくなるくらいの
心理描写。
いや心理描写ではなく
思考のストリーム描写ですよね。
実生活でもときおりこの作品とのシンクロに
どきりとさせられています。
★最も読んでよかった日本の名作は
谷崎潤一郎さんの
と
織田作之助さんの
木の都 。
言わずと知れた名作家の手による作品で
いまさらながらに読みましたが
やっぱり美しい日本語には
心が洗われます。
★最も科学者の視点でインスピレーションの種を蒔いてくれたのは
石黒浩さんの
と
福岡伸一さんの
これまであまり読まなかった科学者さんの作品は
文学の世界に影響を与えるのにふさわしく
示唆に富んだ着想にあふれるものでした。
科学は時に哲学的でもあるのです。
★最も本好きなともだちに出会ったような気分になれたのは
又吉直樹さんの
第2図書係補佐 。
本がいつも身近にあり本とともに日々の暮らしを営んでいる。
本に救われ本に慰められ本に希望をもらい。
本を大切にしているつまり愛している人なら
初めて会ったその日からともだちになれそうな
そんなうれしい1冊でした。
うーん。
絞りに絞ってもたくさんの紹介になってしまいました。
もともとそんなにたくさんの本を読むタイプではないので
思えばぼくの本のセレクト力
言い換えればブック・リテラシーは
なかなかのものと自画自賛しておきます。
もとい。
ブログでみなさんに紹介していただいた作品も
多数です。
その節はお世話になりました。
みなさん
来年もともによい作品に出会いましょうね。
そして本を読める環境に感謝。