暇老身辺雑記 -26ページ目

西村賢太「苦役列車」(新潮社2011年刊)

 私は長い間、私小説と言うジャンルの作品は読んでいなかった。何冊か読んでも、感動も受けず、エンターテイメント性も感じなかったためだ。私小説を発表しようとする背後には、自己顕示欲、露悪趣味、ペダンティシズムなどが渦巻いているような気がして、楽しい気分にはならない。

 それなのに「苦役列車」を読んでみようかと思い付いた。昨年度の芥川賞受賞作であり、著者が中卒のフリーターで前科もあると言う特異性に興味を持ったからだ。

 読んでみるとまさに私小説であり、港湾労働で日銭を稼ぐ日々の実態が事細かに記されている。しかし、読み進めても気分は暗くなるばかりであった。また、著者が「慊い(アキタリナイ)」、「叱呵(シッカ)」、「嵩押し(カサオシ)」、「我儘者(ワガママモノ)」、「黽勉(ビンベン)」などとやたら難しい単語を多用する事も気に入らない。中卒でもこんな漢字を駆使できるのだと言う顕示欲が透けて見えるように思えた。

 総じて言えば、この小説を読んだ事を悔いた。やはり、今後は私小説を読まない事にしよう。

住む世界が狭まる

 累計51日と言うのが、今年の夏(7月1日~9月30日)に私が碁会所で過ごした日数である。気分的には殆ど毎日入り浸っていたような気がするのに、数えてみると意外に少ない。しかし、暑い夏の日々の大半を碁会所で凌いだのは例年通りであった。

 以前は誰とでも対局したが、一、二年前から相手を選ぶようになった。打っていて不愉快な思いをした人とはそれ以降打たない事にしたのだ。残り少ない人生を出来るだけ気分よく過ごしたいと言う思いからである。

 そう言えば新聞を読む時も気分が重くなるような記事は敬遠するようになった。宇宙は膨張の速度を高めているらしいが、私の住む世界は少しずつ縮かんで行くようだ。

「根岸の里の侘び住まい」

頭に季語 をつければすぐに俳句 ができる句としてよく知られている。八代目の入船亭扇橋(1865-1944)が詠んだ「梅が香や根岸の里の侘住居」が元となっているらしい。私はこの句を高校の国語の授業で教わった。さっそく「秋風や」、「初雪や」、「五月雨や」など適当に季語を付けてみて、成程と感心したのを覚えている。それから60年近く経つのに、たまに作句してみようかと思う度にこの句を思い出す。

ペットボトル入りの日本酒

酒類のディスカウントショップで日本酒の棚を眺めていて、ペットボトル入りが並んでいる事に気が付いた。以前、ペットボトル入りの輸入ワインを見かけた事があったが、日本酒にお目に掛かるのは初めてだ。製造元は灘の大手で、1.5リットル入りとなっている。手に持ってみると、当然の事ながら軽い。さっそく買って帰って試飲したが、予想通り瓶入りと同じ味だった。ラベルの説明を読むと、ペットボトルは瓶と同様に空気を通さないので酒は変質しないとあった。

ビールはアルミ缶入りが大勢を占めるようになった。やはり軽さが決めてとなったようだ。日本酒も重い瓶入りを避けて、今後はペット入りがどんどん増えて行きそうな予感がする。

村川七段が新人王に

 今日、第36期新人王戦決勝3番勝負の第2局が行われ、村川七段が安斎六段に1目半勝ちして新人王のタイトルを得た。今期の開幕当初から優勝候補と目されその重圧も相当だったと思われるが、ト-ナメント戦を勝ち抜き、決勝3番勝負も連勝で終えたのは見事であった。

 新人王のタイトル獲得は、一流棋士に仲間入り出来た事を意味する。と言うのは過去の新人王に錚々たる顔ぶれが並んでいるからである。小林光一 石田 章 宮沢吾朗 王 立誠 片岡 聡 依田紀基 今村俊也 、小松英樹、趙 善津 結城 聡 三村智保 山田規三生 山下敬吾  栩 蘇 耀国 溝上知親 金 秀俊 松本武久 井山裕太 内田修平 李 沂修 白石勇一 の各棋士が過去の新人王である。日本のビッグタイトルホルダーの殆どはこれらメンバーで占められて来た。

 村川が近いうちにビッグタイトルマッチに登場する確率は非常に高いと思われる。


村川七段のパワー

結城天元に連勝して昨年度の関西棋院第一位の座に就いた村川大介七段のパワーが一段とアップしたように見受けられる。新人王戦トーナメントで優勝候補の一人とみなされていたが順調に勝ち上がり、日本棋院の安斎伸影六段と決勝3番勝負を戦う事になった。その第一戦が今週月曜日に行われ、村川が中央の13目の石を捨て石にすると言う英断で勝勢を確立して6目半勝ちを収めた。昨日は、関西棋院の7回産経プロ・アマトーナメント決勝戦で倉橋正之九段を降して初優勝した。その勝ち方が半端ではない。関西棋院の有数の打ち手である倉橋に序盤から攻勢を掛け、大石を召し取って完勝したのである。村川の碁は常に戦い抜くと言う姿勢に貫かれていて険しい。そのため、勝つ時も負ける時も中押しで決まる碁が多い。

碁友の訃報

行き付けの碁会所で、多分もっとも多く対局したであろう碁友が昨日逝去との知らせを受けた。身体中の力が抜けるような気がして、呆然としている。8月下旬から碁会所に現れなくなり心配していたのだが、聞けば検査を受けた時点で肝臓ガンで余命1カ月と診断されたらしい。老少不定と言う言葉があるが、私より10歳若かった。無類の早打ちだったため、多い日には20局近く対局した。何の記録も取っていないが、この6年の対局数は1000近いような気がする。かけがえのない碁友を失って、追悼の言葉も思い付かない。合掌。

ハプニング

 昨日の午後の碁会所で、十数人いた客が一斉に手を止めて受付に視線を向けた。救急車の出動を要請するオーナーの声が響いたからである。消防署からの問いかけに氏名、症状、年齢などを伝えている。碁を打っていて突然身体が動かなくなったらしい。間もなく救急隊員が現れ、ストレッチャーに患者を載せて運び出した。

 平日の午後だから、碁客はすべて高齢者だからみんな他人事ではない面持ちであった。たまたま自分でなかっただけで、誰が救急搬送されてもおかしくないと感じたからだろう。

 暫くして、患者に付き添って出て行った友人からの電話報告があった。宝塚市立病院に運ばれたが既に元気を取り戻していて、入院させるかどうか医師が検討中だとの事であった。この知らせに碁会所内は漸く落ち着いた雰囲気に戻った。

流星の絆

 東野圭吾著「流星の絆」(講談社)が面白かった。この著者がベストセラー作家である事は知っていたが、作品を読むのは初めてであった。

 発端で、洋食屋を経営していた夫妻が強盗によって殺害され、小学校6年の長男、4年の次男、1年の長女が残される。3人は養護施設で育ち成人して社会人となったが、強盗殺人事件は未解決のままで間もなく時効を迎えようとしている。そんな中、3人は偶然に強盗犯だと確信出来る男を見付ける。しかし、警察に捜査を要請するだけの確実な証拠がない。3人は力を合わせて、警察が再捜査に踏み切ってくれるように努力を重ねるが、やがてこの事件は意外な結末を迎える。簡単にまとめるとこのような筋である。

 この小説を読んで著者の人気の高さの理由が分かったような気がした。

 ・読み易い文章

 ・人物描写の巧みさ

 ・適度のスリルとサスペンス

 ・結末の意外性

 ・作品の根底に流れるヒューマニズム

 これらによって、読者に「東野ワールド」を味わせ、酔わせてくれるのである。

第28回阪神6都市囲碁対抗戦

 毎年恒例の阪神6都市囲碁対抗戦が今日、西宮市役所の大会議室で開催され、私も宝塚市選手団の一員として参加した。定刻の10時に6都市から各30名、計180名の選手と世話役や来賓が集結した。まず、東日本大震災の犠牲者に黙とうを捧げ、今年の主催市である西宮市の市長と市議会副議長が歓迎の挨拶があり、昨年度優勝の尼崎市囲碁協会から優勝杯が返還されて、対局が始まった。各選手が3局ずつ打つ変則リーグ戦である。私は1勝2敗で今年も宝塚チームの足を引っ張ってしまった。

 二回戦の時に、私の隣で小学生が対局していた。西宮市の選手として出場していたが、対局後に話しかけてみた。学年はと聞くと6年生だとの事。日頃何段で打っているのかの問いには5段との答え。名札に書かれている名前が中国人風だったので、中国から来たの?と聞くとベトナムから来たとの答えに驚く。どういう経緯で日本に来たのかまでは聞けなかったが、対局態度も堂々としていたし非常に好感の持てる少年であった。成人して日本とベトナムとの懸け橋になるような仕事についてくれたら嬉しいと感じた次第であった。