瞳に沈んだ悲しみが
心の襞でうずくまり
そしてなおも疼き続ける
手を伸ばせば届いたはずなのに
一瞬のためらいで
やっとの手は空を切る
それですべてを失ってしまった
いつか笑えるようになると言われても
何を笑えばいいのか
どう笑えばいいのか
誰と笑い合えばいいのか
昔の顔などとうに忘れてしまった
すべてを時間のせいにして
その時間にすべてを流そうとしてきた
そうやって忘れたふりをしているのに
懸命に今にしがみつこうとしているのに
知ってか知らずか
過去は時間を持て余し
程よく着飾っていく
何事もなかったかのように彩っていく
振り返るともうそこにはいなかった
煙に巻かれたように
まるで神隠しのように
まるで嘘のように
まるで悪い冗談のように
影さえも残さず消えてしまった
いつか思い出として話せるようになると説かれても
思い出すたびに震えが来る
いつ笑えと説くのか
どう笑えと説くのか
誰と笑えと説いてのけるのか
どの面下げて
明日にたどり着くには酒しか力を貸してはくれない
今日をやり過ごすには薬しかもう頼れない
たとえ生まれ変わっても
消えない傷としてわが身に痛いほど刻まれている
生まれ変わってなお在り続ける
逃れられない罪として
他人には言えない穢れはある
誰にも分かってもらえないこともある
なのに
誰かとわかり合える幻想に
しがみつきたい衝動だけが絡みつく
謂われのない礫をよけきれず
血を流していても
わが身可愛さから出なかった言葉が
今は自分を苛んでいく
言い訳など赦さない罵り言葉として
切れ切れに散らばった言葉を
やっと繋ぎ合わせて
やっとあなたの気持ちに気が付いても
もう遅かった
なのに
いずれ笑えると
笑えるようになると
命が幾度巡れど
人生が幾度回れど
変えられない過去が
この身を苛んでいても
そう言えるのか
なのに
いずれか笑えると
なぜ説くのか
なのに
どうして
いつか笑えると
言ってのけられるのか
酔い知れぬ
心抱えて
2人して
酒酌み交わす夜がある
どちらが話でなし
どっちが聞くでなし
したたかに
重ねる杯
月明かり
涙を流せば
話が止まり
愚痴をこぼせば
繰り言になり
ただ2人向き合いながら
話すでなし
聞くでなし
さらに更けていく
夜の先まで
独り歩きの寒い夜
心配顔のお月様が
見守ってくれていたのに
降りだした粉雪がその月を隠し
風を相手に踊り出す
襟元で恐る恐るイタズラをして消えていく
静かな
こんな静かな夜は
雪が降る音まで聞こえてきそう
恥ずかしがり屋の影は
街灯の光に隠れて
足元にまとわりつく
そんな影を冷やかすように
雪は転がり走っていく
静かに降る雪の
その音が聞こえるくらいに
静かな夜は
凍える肩を雪だけが
静かにそっと包み込む
やがて
降りしきる雪
遠い街
降りしきる雪
遠い灯
降りしきる雪
遠い声
降りしきる雪
遠い温もり
降りしきる雪
遠いあなた
降りしきる雪
降りしきる雪
幾筋も舞上がる煙が淀みと化した空は
もう怒りを静めたかのように
穏やかに晴れ渡っている
燃え崩れた街は黙って見上げている
容赦のない冷たい風はいっそう身体を凍えさせ
一度止まった時間は動けないまま
ただ過ぎるのを待つように立ち尽くす
それでも明日への空は明けていく
あの時から続く空に
打ち鳴らされる鐘の音が響き
一つひとつはか細い灯りを点し
あなたの元にこの祈りとともに導いていく
忘れようのないあなたを
空を見上げている
(再掲)
ことほげ
ことほげ
この祝いの日に黙ってないで
ことほげよ
っそれ
何を持つやら
酒杯か?
何がいるやら
酒の肴か?
この祝い日に
気が利かぬ
誰を呼ぶやら
見当つかぬ
まぁよい
まぁよい
呑めばよい
ことほげ
ことほげ
この目出度い席で
座ってないで
ことほげ
さぁさぁ
目出度い日に呑めんとは
それは
それは
気の毒な
まぁどうでもよいから
さぁ呑めよ
あぁ呑めんじゃったな
それじゃ
踊れ
ほれ踊れ
太鼓はどこじゃ
三味どこな
ほぉれ、ほれほれ
ことほげ
ことほげ
こんな嬉しい日に
そぉれ楽しめ
ことほげ
ことほげ
なに?酔いが回った?
まだ早い
なに?ろれつが回らん?
踊りゃえぇわな
そぉれそれ
囃子(はやし)を囃(はや)せ
そぅりゃそりゃ
音頭をとれとれ
まぁだまだ
酔いが足らんわ
酒を干せ
ことほげ
ことほげ
体が浮き立つじゃろう
どうじゃのいのぉ
ことほいどるか
これだけ皆が
踊ってて
ぬしは座ってられるか?
囃しているのに
黙ってられるか?
そうじゃろ
そうじゃろ
自ずと踊ろう
自然と囃すじゃろうて
ことほげ
ことほげ
ほぉれほれ
ことほげ
ことほげ
ほぉれほれほれぇ
私の幸せになりたい気持ちと
あなたの幸せになりたい思いがせめぎ合う
あなたの幸せは彼女の幸せとは真逆で
彼女の幸せに私の幸せは邪魔でしかなく
私の幸せは彼らの幸せとはけっして交わらず
彼らの幸せにあなたたちの不幸が必要で
あなたたちの幸せに彼女らの幸せは妨げでしかなく
彼女らの幸せに彼の幸せは目障りで
彼の幸せにあなたは無関心
思い思いに
自分の思う幸せに向かって歩いている
優しげな顔をして
今日も歩いている
一歩ずつ自分の思う幸せに
近づいていると信じて
そして
あなたたちの幸せになりたい気持ちと
私たちの幸せになりたい思いが
ぶつかり合い
諍い合い
殺し合う
助けてくださいと
問いかけても
その問いは
闇に消えていく
誰も知らぬ者ならば
無碍にせずとも
消えていく
苦しいと
思わず口からこぼれても
拾い上げる人はいない
目線ひとつもくれてももらえず
どこにもいない者と成り果てる
砂塵の砂が見分けもつかぬように
ありふれたこととして
気にもされずに
雑踏の中で吹き溜まる
拾われない石は蹴られてしまう
邪魔者として
ならば誰にも知られず
ひっそりと生きていくには
雑踏に紛れるに限る
いずれ
紛れているうちに
誰にも見つけてもらえなくなる
誰とも見分けがつかなくなる
自分ですら
光を失った影が闇に消えるようにいく
夜を司るは闇を好み
時より気まぐれに
薄明かりをたぐり寄せる
雲の合間に輝く星は
しなだれ落ちる天の川
天は静かに見下ろすばかり
余計なものは闇が消す
雪のように誤魔化さず
何もかも取り込んで閉ざしていく
陽(ひ)は最後に幕を引き
訳知り顔で沈んでいく
照らされた分だけ
闇はさらに深くなる
待ちかねた闇は
嫁入り
お渡り
黄泉の送りに
神楽の舞
丑の時でも
何にでも化け
手ぐすね引いて煙に巻く
煽るがごとく爆ぜる炎
篝の燈が
名残惜しんで
清めの酒を飲め
穢れた罪を御祓の水で身も洗えと
怯え立つ帳口に
背を押す炎(ほむら)の影が差す
森の深い部分にのぼる月が
さぁ来い
さぁ来いと
手招きどおり踏み入れば
その月は脇に退いて
住み着く百舌鳥が
ねぐらを探し鳴き合えば
鵺(ぬえ)が吠え返す
暗い
暗い闇の中で
探したい物が目の前でも見つけられない
手の中にある物もいつの間にか失せている
会いたい人が目の前にいても会えず
手を繋いでいたはずの人も
いつの間にか消えてしまう
やがて広がる闇に飲み込まれる
むせ返る闇は夜を操り
その操り糸も都合よく隠し
行方の標も飲み込んで
生者と死者を曖昧にする
喧騒と静寂がせめぎ合っても
いずれは
静寂が呼び起こされ
油断もできぬ眠りにつく