助けてくださいと


問いかけても
 

その問いは
 

闇に消えていく
 

誰も知らぬ者ならば
 

無碍にせずとも
 

消えていく



苦しいと
 

思わず口からこぼれても
 

拾い上げる人はいない
 

目線ひとつもくれてももらえず
 

どこにもいない者と成り果てる



砂塵の砂が見分けもつかぬように
 

ありふれたこととして
 

気にもされずに
 

雑踏の中で吹き溜まる
 

拾われない石は蹴られてしまう
 

邪魔者として



ならば誰にも知られず
 

ひっそりと生きていくには
 

雑踏に紛れるに限る
 

いずれ
 

紛れているうちに
 

誰にも見つけてもらえなくなる
 

誰とも見分けがつかなくなる
 

自分ですら
 

光を失った影が闇に消えるようにいく

 


 


夜を司るは闇を好み
 

時より気まぐれに
 

薄明かりをたぐり寄せる
 

雲の合間に輝く星は
 

しなだれ落ちる天の川
 

天は静かに見下ろすばかり



余計なものは闇が消す
 

雪のように誤魔化さず
 

何もかも取り込んで閉ざしていく
 

陽(ひ)は最後に幕を引き
 

訳知り顔で沈んでいく
 

照らされた分だけ
 

闇はさらに深くなる



待ちかねた闇は
 

嫁入り
 

お渡り
 

黄泉の送りに
 

神楽の舞
 

丑の時でも
 

何にでも化け
 

手ぐすね引いて煙に巻く



煽るがごとく爆ぜる炎
 

篝の燈が
 

名残惜しんで
 

清めの酒を飲め
 

穢れた罪を御祓の水で身も洗えと
 

怯え立つ帳口に
 

背を押す炎(ほむら)の影が差す



森の深い部分にのぼる月が
 

さぁ来い
 

さぁ来いと
 

手招きどおり踏み入れば
 

その月は脇に退いて
 

住み着く百舌鳥が
 

ねぐらを探し鳴き合えば
 

鵺(ぬえ)が吠え返す



暗い
 

暗い闇の中で
 

探したい物が目の前でも見つけられない
 

手の中にある物もいつの間にか失せている
 

会いたい人が目の前にいても会えず
 

手を繋いでいたはずの人も
 

いつの間にか消えてしまう
 

やがて広がる闇に飲み込まれる



むせ返る闇は夜を操り
 

その操り糸も都合よく隠し


行方の標も飲み込んで

 

生者と死者を曖昧にする
 

喧騒と静寂がせめぎ合っても
 

いずれは
 

静寂が呼び起こされ
 

油断もできぬ眠りにつく


 

 


誰もいずとも雨は降る

誰も見ずとも花は咲く

誰も踏まずも雪は積み

誰に知られず月は満ち欠け

誰の頬も打たずに風は流れ

誰に看取られぬまま消えていく



獣が呻(うめ)き

魚が抜(ぬ)い

虫が湧き

鳥が嘶(いなな)く



名がないと育たぬ木はなく

過去に残るさえずりはない

ひとつしかない太陽の呼び名を変わっても

星は夜でなくとも瞬いており

未来を占うことはない

足跡は足音の証しにはならず

やがて誰もいなくなっても

この地は回っていく

知らぬ間に終(つい)えた身は解(ほど)けていく



流れる雲に同じものはないと

寄せ返す波に同じものはないと

人だけが思えど

繰り返す違う命の営みが

身の丈の皮を残す

その傍らに

虫の亡骸すら土に還せぬ世に

誰がしたのか

誰の価値があるのか

誰に価値があるというのか

解せぬ問いが積み上がる

 

 

 

 

 

言葉をください
 

あなたから始まる言葉を
 

こちらから始まる
 

いつものこだまのような言葉ではなく


あなたの心を忘れぬうちに
 

一方通行の投げかけはいつも空に消えていく



 

探してください
 

この気持ちに合う言葉を
 

気持ちのほうが大きすぎて
 

どの言葉にも気持ちがおさまらない


いまの自分の気持ちを
 

言葉の意味に寄せたくはないのです




本当にわからないのです
 

どの言葉があなたを傷つけたのか
 

何気なく使った言葉のどこに
 

毒が隠れていたのかわからない

 

たった一言で
 

取り返しのつかないことになったのなら




教えてください
 

言葉のどこに嘘を仕込んだのか
 

起爆装置が作動するかと思うと
 

言葉の裏が返せない


差し出された言葉を飲み込めなくて
 

つれなくも吐き出してしまう




どんな言葉でしょうか
 

あなたに届く言葉があるなら
 

偽りにも似た取り繕いが
 

戻る道を失っていく


こぼれた水が元には戻らないように
 

一度出した言葉はもう戻ってはこない




あなたの言葉を聞かせてください
 

こちらの言葉が届かなくとも
 

二度と会えないあなたの言葉を
 

もう一度聞かせてください

 

これからの人生のためにも
 

後悔を知るためにも



 

口にできない言葉があるのでしょう
 

強いられた言葉ではなく
 

心のうちにうずまく言葉を
 

聞かせてください

 

あなたには似つかわしくない
 

苦悩に満ちた顔つきを見れば



 

あなたが失った言葉はなんですか
 

あなたに聞こえない言葉はなんですか
 

あなたを奮い立たせる言葉はなんですか
 

あなたがいつも思う言葉はなんですか
 

あなたを嫌う言葉はなんですか
 

言葉と聞いて想い浮かべる言葉はなんですか

孤独を知りたければ
 

雑踏の中へでも行けばいいのか
 

それでも周りの人たちは単に風景でしかなく
 

言葉合わせのような言葉の中に
 

毒にも薬にもならない歌の中に

 

 

 

酔いしれぬ
 

心抱えて
 

酌み交わす夜



したたかに
 

重ねる杯
 

月あかり



話すでなし


聞くでなし


更けていく夜の先まで

 

 

 

 

決して許さない(この先ずっと)


許せるはずがない(この先もずっと)



許したくない(どうしても)




まだ許したくない(でもなにかが)





許してもいいけど(まだ言葉にはできない)






もう許したいのに(心の奥では)







もう許せているのに(でも言葉にはできない)

 

 

 

 

 

 

何もかも写してしまう鏡など割ってしまえ


邪な顔など引き裂いてしまえ

 

 

 

 

夢という言葉で何かを見せた気にして
 

音符の檻に閉じ込めて
 

未来を歌う
 

行方を指す羅針の針を思わせて
 

身動きできぬ言葉を楽器のテンポで震わせる
 

音符はせっせと鎖につないだままで
 

言葉を踊らせているだけなのに


 

一人じゃないとうそぶく言葉は
 

メロディーに乗せてしたり顔
 

心の襞をくすぐり
 

すべてが解ける処方を求めた手に渡る
 

空虚な言葉とも知らずに
 

仮面を剥いでしまえば
 

薄っぺらな言葉だけが並んでいるだけなのに



ありもしないことを
 

甘い言葉でその気にさせるハーモニー
 

楽譜の森に立ちこめる霧のように
 

か細い言葉に威を貸して煙に巻く
 

むき身の裸にすれば
 

何のことはないことを大げさに垂れ流しているだけなのに



薄い言葉を
 

刻むリズムが躍らせる
 

愛撫を欲する触手のような旋律が
 

訳知り顔で中身を骨抜きにし
 

魂までも抜いていく
 

その隙に突きつけた刃のように刻みつける
 

まるで傷に塩を塗るように
 

 

 

 

足の向くまま尋ねる人は
 

寒い心に住むという
 

心の向くまま行く場所は
 

温もりだけを待つという
 

昨日の友は空の下
 

今宵一夜の仮の宿
 

今宵限りの仮の宿



居場所を持たない足取りは
 

今日も明日も続く道
 

旅に宿した行き先に
 

探しあぐねた故郷がある
 

明日の友も空の下
 

今宵一夜の仮の宿


今宵限りの仮の宿
 

 

私がわたしであってはいけないのなら
 

あなたはあなたなのだろうか


私がわたしであることを認めてもらわなければいけないのなら
 

あなたはあなたであることを誰に認めてもらったのだろうか


私がわたしのために生きていることと
 

あなたがあなたのために生きているのと同じではないのだろうか




あなたが私をあなたが決めた枠にはめようとするなら
 

私もあなたを私が決めた枠にはめてもいいですか

 

あなたが私が望むものでなくても私はここにいる
 

私があなたに望むものは何もなくてもあなたはそこにいる

 

私はあなたがどう思おうとわたしでしかない
 

あなたは私がどう思おうとあなたでしかない




あなたがあなたであることを邪魔しないのだから
 

私がわたしであることを邪魔しないでほしい


あなたがあなたであるように
 

私がわたしであっていいはずです


あなたはあなたでしか生きられないように
 

私はわたしでしか生きられない