誰もいずとも雨は降る

誰も見ずとも花は咲く

誰も踏まずも雪は積み

誰に知られず月は満ち欠け

誰の頬も打たずに風は流れ

誰に看取られぬまま消えていく



獣が呻(うめ)き

魚が抜(ぬ)い

虫が湧き

鳥が嘶(いなな)く



名がないと育たぬ木はなく

過去に残るさえずりはない

ひとつしかない太陽の呼び名を変わっても

星は夜でなくとも瞬いており

未来を占うことはない

足跡は足音の証しにはならず

やがて誰もいなくなっても

この地は回っていく

知らぬ間に終(つい)えた身は解(ほど)けていく



流れる雲に同じものはないと

寄せ返す波に同じものはないと

人だけが思えど

繰り返す違う命の営みが

身の丈の皮を残す

その傍らに

虫の亡骸すら土に還せぬ世に

誰がしたのか

誰の価値があるのか

誰に価値があるというのか

解せぬ問いが積み上がる

 

 

 

 

 

言葉をください
 

あなたから始まる言葉を
 

こちらから始まる
 

いつものこだまのような言葉ではなく


あなたの心を忘れぬうちに
 

一方通行の投げかけはいつも空に消えていく



 

探してください
 

この気持ちに合う言葉を
 

気持ちのほうが大きすぎて
 

どの言葉にも気持ちがおさまらない


いまの自分の気持ちを
 

言葉の意味に寄せたくはないのです




本当にわからないのです
 

どの言葉があなたを傷つけたのか
 

何気なく使った言葉のどこに
 

毒が隠れていたのかわからない

 

たった一言で
 

取り返しのつかないことになったのなら




教えてください
 

言葉のどこに嘘を仕込んだのか
 

起爆装置が作動するかと思うと
 

言葉の裏が返せない


差し出された言葉を飲み込めなくて
 

つれなくも吐き出してしまう




どんな言葉でしょうか
 

あなたに届く言葉があるなら
 

偽りにも似た取り繕いが
 

戻る道を失っていく


こぼれた水が元には戻らないように
 

一度出した言葉はもう戻ってはこない




あなたの言葉を聞かせてください
 

こちらの言葉が届かなくとも
 

二度と会えないあなたの言葉を
 

もう一度聞かせてください

 

これからの人生のためにも
 

後悔を知るためにも



 

口にできない言葉があるのでしょう
 

強いられた言葉ではなく
 

心のうちにうずまく言葉を
 

聞かせてください

 

あなたには似つかわしくない
 

苦悩に満ちた顔つきを見れば



 

あなたが失った言葉はなんですか
 

あなたに聞こえない言葉はなんですか
 

あなたを奮い立たせる言葉はなんですか
 

あなたがいつも思う言葉はなんですか
 

あなたを嫌う言葉はなんですか
 

言葉と聞いて想い浮かべる言葉はなんですか

孤独を知りたければ
 

雑踏の中へでも行けばいいのか
 

それでも周りの人たちは単に風景でしかなく
 

言葉合わせのような言葉の中に
 

毒にも薬にもならない歌の中に

 

 

 

酔いしれぬ
 

心抱えて
 

酌み交わす夜



したたかに
 

重ねる杯
 

月あかり



話すでなし


聞くでなし


更けていく夜の先まで

 

 

 

 

決して許さない(この先ずっと)


許せるはずがない(この先もずっと)



許したくない(どうしても)




まだ許したくない(でもなにかが)





許してもいいけど(まだ言葉にはできない)






もう許したいのに(心の奥では)







もう許せているのに(でも言葉にはできない)

 

 

 

 

 

 

何もかも写してしまう鏡など割ってしまえ


邪な顔など引き裂いてしまえ

 

 

 

 

夢という言葉で何かを見せた気にして
 

音符の檻に閉じ込めて
 

未来を歌う
 

行方を指す羅針の針を思わせて
 

身動きできぬ言葉を楽器のテンポで震わせる
 

音符はせっせと鎖につないだままで
 

言葉を踊らせているだけなのに


 

一人じゃないとうそぶく言葉は
 

メロディーに乗せてしたり顔
 

心の襞をくすぐり
 

すべてが解ける処方を求めた手に渡る
 

空虚な言葉とも知らずに
 

仮面を剥いでしまえば
 

薄っぺらな言葉だけが並んでいるだけなのに



ありもしないことを
 

甘い言葉でその気にさせるハーモニー
 

楽譜の森に立ちこめる霧のように
 

か細い言葉に威を貸して煙に巻く
 

むき身の裸にすれば
 

何のことはないことを大げさに垂れ流しているだけなのに



薄い言葉を
 

刻むリズムが躍らせる
 

愛撫を欲する触手のような旋律が
 

訳知り顔で中身を骨抜きにし
 

魂までも抜いていく
 

その隙に突きつけた刃のように刻みつける
 

まるで傷に塩を塗るように
 

 

 

 

足の向くまま尋ねる人は
 

寒い心に住むという
 

心の向くまま行く場所は
 

温もりだけを待つという
 

昨日の友は空の下
 

今宵一夜の仮の宿
 

今宵限りの仮の宿



居場所を持たない足取りは
 

今日も明日も続く道
 

旅に宿した行き先に
 

探しあぐねた故郷がある
 

明日の友も空の下
 

今宵一夜の仮の宿


今宵限りの仮の宿
 

 

私がわたしであってはいけないのなら
 

あなたはあなたなのだろうか


私がわたしであることを認めてもらわなければいけないのなら
 

あなたはあなたであることを誰に認めてもらったのだろうか


私がわたしのために生きていることと
 

あなたがあなたのために生きているのと同じではないのだろうか




あなたが私をあなたが決めた枠にはめようとするなら
 

私もあなたを私が決めた枠にはめてもいいですか

 

あなたが私が望むものでなくても私はここにいる
 

私があなたに望むものは何もなくてもあなたはそこにいる

 

私はあなたがどう思おうとわたしでしかない
 

あなたは私がどう思おうとあなたでしかない




あなたがあなたであることを邪魔しないのだから
 

私がわたしであることを邪魔しないでほしい


あなたがあなたであるように
 

私がわたしであっていいはずです


あなたはあなたでしか生きられないように
 

私はわたしでしか生きられない

 

 

自分の信じるものを壊されても
 

自分の信じることをけなされても
 

自分の信じる言葉を燃やされても
 

そんなことは
 

神は何とも思っていない
 

なのに
 

あなたは憤りに我を忘れ
 

怒りに打ち震え
 

仕返しのことで頭の中はあふれかえる



もしかすると
 

迷える者への神からの誘惑かもしれない
 

神がお与えになった試練かもしれない
 

揺るぎない信仰を確かめる術なのかもしれない
 

なのに
 

そのことには気が付く気配はない
 

救われないことに苛立っていた日常の中で
 

探していた口実にほくそ笑み
 

憂さを晴らす言い訳として利用する
 

そんなことをして何になるのかさえ頭をよぎることもなく
 

ただ日々の不満を置き換えて
 

誤魔化しているだけだと言うことにも気づきもしないで



何故あなたはそうなのか?
 

神はいつもあなたをご覧になっている
 

神はいつもあなたの側にいらっしゃるのに
 

それなのに
 

あなたはどうして神を見ていないのか?
 

あなたは神から目をそらし
 

よそ見ばかりするのか?


あなたはどうして神を感じようとしないのか?
 

内なる側(そば)にいつも神はおられるというのに
 

いつまで神のいない外の世界にばかり目を奪われているのか

 

 

 

あの日あなたが見た空は青かったですか
 

あの日の空をきっと見たはずなのに
 

空は静かに黙っている
 

あの日は空を見上げていたはずだった
 

噴き上げる煙で汚されていく空を
 

けれど
 

あの日の空を知る人はもういない
 

あの日の空のことを覚えている人はいない
 

何もかも知っている空は教えてくれない
 

すべてを見ていた空は
 

いつも何も語ってはくれない



あの日あなたが見た海は蒼かったですか
 

目の前に広がる海はきっと聞いたはずなのに
 

潮の流れが飲み込んでいく
 

あの日の海は聞いていたはずだった
 

海はうめき泣いている声に気をとられたのか
 

けれど
 

あの日の海を知る人はもういない
 

あの日の海のことを覚えている人はいない
 

何もかも聞いていた海は教えてくれない
 

すべてを聞いていた海は
 

今は穏やかに空を映しているだけの海に変わっている



あの日空にはどんな雲は広がっていましたか
 

あの日の雲をきっと見ていたはずなのに
 

いまはもう散ってしまった
 

あの日も雲を見たはずだった
 

赤い炎に包まれて見えなくなっていたのか
 

けれど
 

あの日の雲を知る人はもういない
 

あの日の雲のことを覚えている人はいない
 

何もかも知っている雲はとっくにちりぢりに
 

すべてを知る雲はもうどこにもいない



あの空は青かったですか
 

あの日の空は晴れていましたか
 

今見上げる空と変わりがなくとも