雲一つない空に
 

身の置きどころもなく
 

所在なげに月だけが浮かんで
 

そのせいで星のない夜空
 

白い息だけがかまいに行くけど
 

すぐに消えちまう


こんな日くらい
 

気を利かせて
 

雪でも降れば
 

ちょっとは格好もつくってものを
 

昨日とおんなじように
 

何にもない
 

ただ寒いだけの夜かよ




去年の今頃何してたなんて思い出せないし
 

どうせロクなことはなかったろうよ
 

来年の今頃何してるかなんて
 

明日のこともわからねぇのに
 

わかるはずねぇだろう
 

どうせロクなもんじゃねぇだろうさ


何度なおしても


ほどけてばかりのマフラーには
 

ちょっと苛立つけど
 

捨てる気にはなれないよ
 

まだあいつの温もりを手放したくないんだ
 

ただ寒いだけの夜は




地元のツレに電話しようかと思ったけどやめた


噂じゃ結婚したとか
 

ガキができたとか
 

デカいこと言って出てきたのに
 

ここでオイラ
 

こんなところでオイラ
 

何してるんだろう


世間の水はそんなに甘くないと親父
 

何を夢みたいなこととお袋が
 

バァちゃんは黙って背中丸めて
 

ゴメンよ
 

ほんとにゴメンよ
 

でもまだ帰れない
 

ただ寒いだけの夜も




ほんとむかつくよな
 

どいつもこいつも
 

世間のヤツらみんな
 

特にあのオヤジには
 

でも・・・
 

でもわかっているんだ
 

本当にむかつくのは
 

このオイラだってことは


なりたかった自分になれた人はどれくらいいるんだろう
 

何者にもなれず
 

ましてなりたい自分になれなかったヤツ
 

あぁはなりたくはなかったのに成り下がってしまったヤツ
 

オイラはどうなろうとしているんだろう
 

ただ寒いだけの夜に




一人ぽっちの帰り夜道は
 

ヘッドフォンからあの唄が流れてくるだけで
 

寂しくなんかないよ
 

たとえ涙がこぼれても
 

歯を食いしばれば大丈夫だよ
 

誰にも気にするヤツもいないし
 

誰にもわかんないし
 

浮かれ騒ぐヤツらなんかに
 

見えるはずないし
 

寒いだけの夜に
 

ただ寒いだけの夜に

 

 

 

(再掲)

 

 

 


なだらかな丘を越えて

はるか彼方まで

十字架の列が築かれていく



流れてくる弾は冷たく

かけがえがないと例えられる生命が

いとも容易く費やされていく



どこからともなく迫り

容赦なく降り注ぐ襲来に

否応なく刈り取られていく



あとには

息づかいのない荒れた空が残されていく

怒りを超えた

諦めにも似た

そんな空が残っていく

 

 

 

 

百年前にそこに誰が売られていったのか知っていますか

二百年前にそこで誰が命を落としたのか知っていますか

三百年前にそこで誰が望まれずに生まれたのか知っていますか

四百年前にそこで誰が言葉の綾が解いたのか知っていますか

五百年前にそこで誰が寝首を掻かれたのか知っていますか

六百年前にそこで誰が風をはらんだ蹄の音をさせたのか知っていますか

七百年前にそこで誰が屍を晒していたのか知っていますか

八百年前にそこで誰が種を植えたのか知っていますか

九百年前にそこで誰が諍い合ったのか知っていますか

千年前にそこで誰が佇んでいたのか知っていますか

もっと前に誰が永遠を求めて消えてしまったのか知っていますか

それよりももっと前に誰が生け贄の天女を見殺しにしたのか知っていますか

そんなこともう誰も知る人もいない

誰もいなかったわけでもないのに

あなたがいなかったことには変わりがなくても

もう誰も何も知る人はいなくなってしまった

生きていたことすら知っていた人もいなくなった



九十年前にそこで誰が嗤われていたのか誰も覚えていない

八十年前にそこで誰が灯を消したのか誰も覚えていない

七十年前にそこで誰が悲痛な叫びをあげていたのか誰も覚えていない

六十年前にそこで誰が喜び合ったのか誰も覚えていない

五十年前にそこで誰が違う言葉の唄を歌っていたのか誰も覚えていない

四十年前にそこで誰が声を出さずに泣いていたのか誰も覚えていない

三十年前にそこで誰が祈っていたのか誰も覚えていない

二十年前にそこで誰が苦しんでいたのか誰も覚えていない

十年前にそこで誰が荒んでいたのか誰も覚えていない

半年前にそこで誰が恋をしたのかも誰も覚えてはいない

ほんの半月前にそこで誰とすれ違ったのかも誰も覚えてはいない

そんなこともう誰も覚えていない

今の時間まで続いているはずなのに

誰かがいたはずだけれど

もう誰も何も覚えていない

そこにいたことすら誰も覚えていない

 

 

 

さぁ呑め
 

いぃいから呑め
 

浮世の憂さを忘れたいんだろう
 

あれだけ垂れていたではないか愚痴の数々
 

ならば
 

何をためらうことがある
 

ほら呑め
 

なかったことにしたいんだろう
 

ならこの酒を空ければいいことだ
 

なぁ
 

昨日の現実
 

今日の怒り
 

明日の後悔
 

酔えばなかったことにできるんだ
 

言わずとも顔にきっちり書いている
 

だったら呑むしかあるまい



まぁそうは言えど
 

消えてなくならなかった現実
 

なかったことにはならなかった怒り
 

ないことにできなかった後悔
 

そんなものが
 

酒が醒めたあとには残っているだと?
 

そんな蘊蓄はどこかへ置いておけ
 

構うもんか
 

そんなものは
 

すっかり酒が醒める前に
 

また呑んで酔えばいい
 

呑んで迎えにいけばいいんだ
 

また呑めば
 

そうすれば先の先に送られる
 

その間は
 

消えてなくなる
 

忘れていられる
 

だから
 

今は呑め
 

お前にはもう呑むしか道は残されていまい
 

なぁ、そうだろう?

 

 

 

青い空は見ている


あなたが何をしようと


青い空は見ている


あなたが何をされようと


青い空は見ている


たとえ屋根が覆っていても


青い空はいつも見つめている




青い空は聞いている


あなたが泣いているのを


青い空は聞いている


あなたの嘆きを


青い空は聞いている


たとえ曇っていても


青い空はいつも耳をそばだてている




青い空は感じている


降り注ぐ絶望を


青い空は感じている


湧き上がる歓喜を


青い空は感じている


たとえ夜であろうと


青い空はいつもそばにいる


青い空はいつもあなたのそばにいる
 

 

 

人は言葉を覚えたら

次に嘘を覚える

そして

やがて

嘘かどうかわからなくなって息を引き取る

 

あなたがもしもの時には
 

悼む人がそこにはいる
 

今のあなたには心当たりがなくても
 

でも思い出して
 

あなたも誰かのそんな人の1人だったことを
 

たとえあなたが気づいていなくても
 

私は知っている



あなたがいなくなれば
 

あなたの声は風に消されてしまう
 

今のあなたには感じないかもしれないけれど
 

でも思い出して
 

あなたも誰かに声を届けていたことを
 

たとえあなたが忘れていても
 

私は気がついていた



あなたが遠くに行ってしまえば
 

あなたに届くはずの声は行き場所を失う
 

今のあなたには聞こえないかもしれないけど
 

でも思い出して
 

あなたはいつも最後まで耳をすませていたことを
 

たとえあなたが思い出せなくても
 

私は覚えている
 

 

 


私がわたしであってはいけないのなら


あなたはあなたであってはいいのだろうか


私がわたしであることを認めてもらわなければいけないのなら
 

あなたはあなたであることを誰に認めてもらったのだろうか


あなたがあなたであることが許されないのなら
 

私はわたしであっていいのだろうか
 

あなたはあなたであり
 

私はわたしでしかないはずなのに


私がわたしのために生きていることと
 

あなたがあなたのために生きているのと同じではないのだろうか




あなたが私をあなたが決めた枠にはめようとするなら
 

私もあなたを私が決めた枠にはめてもいいのですか

 

あなたがあなたであることを邪魔しないのだから
 

私がわたしであることを邪魔しないでほしい

 

あなたがここにいてはいけないのなら
 

私はどこにいたらいいのだろうか
 

あなたの居場所はあなたが決めること
 

私の居場所はわたしが決めること


あなたが私が望むものでなくても私はここにいる
 

私があなたに望むものは何もなくてもあなたはそこにいる



 

私はあなたがどう思おうとわたしでしかない
 

あなたは私がどう思おうとあなたでしかない


あなたがあなたであるように
 

私がわたしであっていいはずです

 

あなたが風のように街を行く人とすれ違えないのは何故だろう
 

誰もが思い思いの場所に向かって歩いているというのに

誰もが止められることなく
 

道を奪われることもなく
 

歩いているというのに
 

自分の選んだ道として

 

あなたはあなたでしか生きられないように
 

私はわたしでしか生きられない



 

自分が誰なのか
 

それを誰に教えてもらいますか


自分が何者であるのか
 

それを他の誰が決めるのですか






※以前発表した「わたしとあなた」という題の詩を少し作り替えたものです。



 

 

時計が時間を動かすわけではない

止まったように思っても

時間は止まってはいない

茫然としている時間も

一瞬たりとも止まることはない



時間を刻む時計が止まっていても

淡々と時間は進んで行く

時計の針を戻しても

時間は決して戻らない
 

 

幾人の人が流した涙が
 

いわれもなく流された血潮が
 

その瞳の中に
 

その歴史の中にも
 

いくつも
 

否応なく
 

焼き付けられている



鎖された闇からの叫びが
 

無力な者たちへの銃声が
 

その鼓膜に
 

その歴史の中にも
 

いつまでも
 

続けざまに
 

こだましている



突然降ってわいたような悲しみが
 

幾人の人の憶えた怒りが
 

その記憶に
 

その歴史の中にも
 

いくつも
 

折り重なるように
 

刻み込まれている

 

 

今も負い続ける罪が
 

罪による沈黙が
 

その胸の中で
 

その歴史の中で
 

語らせないでいる