秋の芸術鑑賞―劇団昴『どん底』
10月に劇団昴公演『どん底』を鑑賞しました。ビルの地下にある小さな劇場Pit昴での上演でこの芝居を見ること―文字通り地下で『どん底』をのぞく感じ。大きな劇場でみるよりもこの芝居の世界を身近に感じました。遠い昔の遠い国のお話ではなく、まさに今の日本の現実が映っているような。それを感じられたのは劇団昴の皆さんのすばらしい演技力と小さくてもリアルに作りこまれた舞台装置のおかげでしょう。
アマゾンのこの戯曲の岩波文庫版の商品説明には「下層社会の悲惨な実情を描いた戯曲。 登場人物が多く、一貫した筋に乏しいので雑然とした印象が拭えない」とあります。戯曲を読んだだけでは確かにそんな印象でしたが、上演を観ると漫然とどん底生活の人々を描写しているわけではなく、かなりしっかりと構成された劇であることがわかります。
舞台はコストィリョーフという男の営む木賃宿。コストィリョーフの年の離れた妻ワシリーサは店子の一人ペーペルと通じていることがここに巣食う貧しい人々の中で公然の秘密。
ペーペルはワシリーサの妹で姉夫婦からこきつかわれているナターシャに二人でここから出ようと持ちかける―若い二人の愛が未来を拓く?かに見えたけど、ナターシャが脚に熱湯をかけられ、ペーペルがコストィリョーフを殺す事件が起きてしまう。
劇の初め、舞台の片隅で寝ている肺病のアンナ。肉饅頭(別の訳ではピロシキ)売りのクワシニャーからもらった肉まんを夫クレーシチに勧める遠慮がちな女性。しかし夫クレーシチは彼女にあまり愛情を示さない。アンナが寝ついているせいでコストィリョーフから賃料を値上げされそうなのだからそれも無理のないこと。アンナが息苦しさを訴えると新鮮な空気が吸えそうな場所に連れて行ってやるのはアル中の役者。最期を迎えるアンナに不安をやわらげる話をしてやるのは巡礼のルカ。しかしクレーシチは彼女が死ぬと何かも失い、呆然としてしまう。ただ寝ているだけの病人だったアンナの存在の大きさがいなくなることで見えてくる。
昴の劇にも白い天使のような服を着てサンタクロースのような慈愛に満ちた表情を浮かべていた巡礼のルカ。『真実の国』があると信じ続け、それが存在しないとわかると自ら命を絶った男の話等々、いかにもあちらこちらを旅して見聞が広そうに語る。木賃宿で寝起きする娘ナースチャが語る恋物語を男たちにからかわれて傷つくと慰める。ペーペルのナターシャへの愛の告白にも祝福の言葉をかけ、輝かしい未来が約束されるかのように言うがそれは実現しない。彼は正式な旅券を持たず、結局正体不明のまま立ち去る。別荘番をしていた時、押し込んできた逃亡犯に慈悲をかけてやったと言っていたけど、どうやら彼自身が逃亡犯なのかも…。ちなみに岸田國士の『どん底』ノートでは「最大の悪人、最も有害な存在」とされている。
http://tb.antiscroll.com/novels/library/13506
もしも若い頃にこれを観ていたら理解が難しかったかもしれません。登場人物の名前や職業がなかなか頭に入らないし。でも若くなくて、いささか『どん底』風の現実を生きている今、この芝居を観るとひどく身につまされます。登場人物たちが皆、どこかで会ったことのある人のように感じられるのです。
第2幕で息を引き取るアンナに今、ガンをわずらって要介護状態になっている母の姿が重なります。母はアンナのように若くして死病になったわけではないのでさして悲劇的でもないのですけれど。母は父や祖母(姑)、出来の悪い娘である私に譲歩し、遠慮しながら生きてきたところが少しアンナに似ています。母がいなくなれば父はクレーシチと同じように「この世に居場所がなくなった」ような心境になるにちがいありません。訪れることがわかっている悲しみ、苦しみを少しでもやわらげる方法はないのだろうか、戯曲『どん底』を読み返しながら考えています。
テディ・ミュージアム―くまの世界美術史2(中公文庫)
いわゆる『世界の名画』の案内本なのですが、なぜか描かれている人物?がみんな、くま!
画家の名前もちょっと変です。例えばハンス・ホルバインJrの『ヘンリー八世』はハンス・ホルベアンJrの『ベアンリ八世』。毛皮のついた帽子と金のペンダントをつけた威風堂々とした王はもちろんテディベア。「中立的な背景に、ポーズを取ったベアンリ8世は、ホルベアンの卓越した物質感によって、しっかりと描きとめられ、王自身の記録ともなっています」(本文より引用)。
ミケランジェロ・コアラヴァッジョの『バッカス(酒神熊)』。葡萄の葉を頭につけ、白い衣をまとったぼってりしたベア君はカラヴァッジョの『バッカス』の眼つきをちゃんとまねています。「バロックは、当初、マニエリスムへのアンチテーゼとして始まりましたが、その方向性を最も明らかにしたのは、バロック初期のミコアランジェロとコアラヴァッジョとされています。つまり、ワイングミと、グミベアーの神は物事の新しい見方を表しています」(本文より引用)。
ベアロナルド・ダ・ビンチの『最後の晩餐』の中心のキリスト熊?は昔私が持っていたクマ君に表情が似ていてかわいいです「ユダは左から四匹目ですが、驚いて振り向き、蜂蜜ツボをひっくり返し、テーブルクロスにしみをつけています」(本文より引用)。
ジャン・ドミニク・ベアングルの『トルコ式浴場』はアングルの原作?を観たことがあります。中心でターバンをつけた女性のつややかな背中が印象的でしたが、描かれているのがすべて裸体の?クマですと何だかおもちゃ箱をひっくりかえしたようです。
著者はドイツの美術の研究者ですから、クスリと笑わせながらも作品解説は本格的。私自身の美術の知識が乏しく、本歌取りの本歌にあたる作品を知らなくてよくわからない章もありましたが、それらの原作?も鑑賞してみたくなる本でした。
日本でもテディの『源氏物語絵巻』とか『洛中洛外図屏風』とか『大坂夏の陣図屏風』なんか作れないかしら?
フォルカー・ブルミッヒ著、森野くま訳 中公文庫 2003年刊
和のあかり×百段階段の続き、目黒雅叙園の滝
部屋の装飾では季節柄、ぶどうやすいかの絵が気になりました。眺めているだけであきません。
一番上の部屋では銭湯が再現されておりました。
百段階段を観た後、ロビーのアクアリウムで金魚を観察。
ロビーにも五所川原立佞武多や仙台の七夕飾りなどが展示されていました。
それから庭へ出て滝を鑑賞。リラックスして、マイナスイオンをとりこめたかな。滝の裏側にも回ってみました。本当、今日はここへ来てよかった。
名前はわかりませんが庭に生えていた花は白くて、実の青い草が涼しげでした。
帰りは行人坂の途中にある大円寺へ参拝。石仏群のあるお寺です。八百屋お七とその恋人
吉三こと西運ともゆかりがあり、お七地蔵がありました。その近くの聖アンセルモ教会の
聖堂でもお祈りしました。このところどこか静かなところへ行ってじっくり祈りたい気分だったのです。なかなか晴れない自分の心、家族の病、岐路にたたされている仕事のことなどなど。
お寺と教会に同じ日に行くのも妙ですが…キリストも釈迦もこの世界の人々が宗教の違いや領土の境界線のことで争うことをやめることを望んでいるにちがいないと思うのです。
和のあかり×百段階段
お盆休み、旅行などはできませんが、一日はどこかへ出かけたいと思っておりました。江戸東京博物館の『大妖怪展』に行こうかと思っておりましたがかなり混雑しているようですし、和の空間に浸りたい気分ですので目黒雅叙園の『和のあかり×百段階段』にしました。
まずは会場の百段階段入り口までのエレベーターが螺鈿細工で豪華なのでびっくり。最初に入った漁樵の間では青森のねぶたが迫力のあるお出迎え。
床の間の桃山美人は素敵ですが、床柱に彫刻された漁師は夜見たら動きそうでちょっと怖い。このお部屋では寝たくありません(笑)
妖怪絵師の部屋もありました。ここでも妖怪さんたち会えてよかった。
歌舞伎衣装の展示も。のっぺらぼうにしか映っていないけど、提灯になっていてちゃんと隈取された顔が描かれていました。
同じ部屋に着物のドレス風アレンジ。帯は背後でちゃんと結んであります。今後もし発表会などに出ることがあれば衣装の参考にしたいですね。
その傍らにはなぜか伊達政宗の鎧がありました。
つづく
夏休みテディ&キューピー劇場その2 銭形平次の提案
幸村: あ、平次くんじゃないか…
キューピー平次: これはこれは真田幸村様…お久しぶりでございます。
謙信: お知り合い?
幸村: (信玄と謙信に) この人は江戸の岡っ引きで銭形平次くん、銭をトレードマークにするクラブのパーティで同じテーブルだったんです。(平次に)こちらは武田信玄さんに上杉謙信さん。
平次: ほう、高名な川中島の戦いのお二人にお目にかかれるたぁ、光栄でございます。
信玄: この人があの、民間放送のゴールデンタイムで十八年主役をやった銭形平次さん!
謙信: 私たちは国営放送の日曜夜8時の主役を一年やるのやらないのって大騒ぎするけど、世の中にはそういう超えてる人がいるんだなあ。
平次: おほめにあずかり、ありがとうございます。
幸村: ぼくたち、『怪×酒場』で飲みたかったんだけど、お店に入れてもらえなかったの。義の武将はだめなんだって。
平次、腕組みをして少々考え込む。
平次: ここはひとつ、あっしがあなたがたを捕縄でふんじばって『怪×酒場』にひっぱっていきやしょう。こいつらはみんな殺しの下手人だっていやあ、入れてくれるかしれません。
信玄/謙信/幸村: 殺しの下手人!!
平次: あなたがたは小説だの、ドラマだの、ゲームだの中じゃ、人気があるかもしれませんが……見方を変えりゃ、殺しの下手人です。信玄公に謙信公、川中島のいくさじゃ、いったい何人亡くなったんです?
信玄と謙信、困惑する。
信玄:あのね、それはいろいろな説があってはっきりしなくて…後世の人が作ったフィクションの部分も多いし…
謙信: 私が何度も遠征して心血を注いで戦ったのは関東で、川中島ではそんなに戦闘はなかった…という人もいるし…。
平次: 幸村様にいたっちゃあ、権現様の殺害未遂犯です。
幸村: (どきりとして)あのね、私たちがああいうことをしたのには、そのそれぞれいろいろと事情があってだね。
平次: 私の話を書いた野村胡堂先生は失礼ながらあなたがたやあなたがたのご子孫の武士があまり好きになれなかったんです。 そこであっしは血を流さずに銭を投げて悪い奴をこらしめることになったんで…とにかく詳しい話は番屋…じゃなくて『怪×酒場』で伺いやしょう。
平次、腰につけていた捕縄をひろげる。平次以外の三人、顔を見合わせる。
信玄: 君からみたら殺人犯かもしれないが…
謙信: 昔、治めていた土地の人々からみたら我々は観光資源…
幸村: 江戸の岡っ引きにお縄にされるわけには行かないな…
平次: そうですか…(捕縄をおさめる)、それならどうでしょう『怪×酒場』ではない店で一杯やりませんか? なあに、この日の本にゃ、正義のヒーローが入れる店の方がずっと多いんですから。
ナレーション: というわけでこの後、三人の戦国武将と一人の岡っ引きは富士山のふもとに基地のあった地球防衛隊のメンバーが経営する店へ仲良く飲みに行きましたが、そのお話はまた。
。
参考資料
野村胡堂『胡堂百話』(中央公論新社1981年) 「銭形平次」誕生(二)より
私は、南部領の百姓の子で、三代前の祖先は、百姓一揆に加わっているはずである。道で、二本差した人間に逢うと、たとえ土砂降りの中でも、大地に手をついて……と、いうところまでは、明治生まれの私は体験していないが、それでも被りものをとって、目礼ぐらいは捧げる習慣が残っていた。先祖が人を殺した手柄で、三百年の後までも無駄飯をくっている階級が、どうも、私は好きになれないのだ
夏休みテディ&キューピー劇場その1 義の武将お断りの酒場
ナレーション: あるところに悪いことをしたり、企んだりする宇宙人や怪獣しか入れないという酒場がありました。なんでも自分の星が滅亡してしまったものだから、代わりに地球に来襲しようとした宇宙人が営んでいるとのことです。限られた時間だけ、正義のヒーロー以外の地球人受け入れることに決めたところ、大変な人気でいつも行列が。そんなわけで時々、入店資格のない人もまちがって来てしまうこともあるようで……。
『怪×酒場』からテディ信玄とテディ幸村ががっかりした様子で出てきて道を歩いてゆく。
テディ信玄: なんで我々は入れてもらえないんだろう。君の前に並んでいた伊達政宗は「ダー○ベーダ―の先祖で~す」とか言って大歓迎されたのに。
テディ幸村: あいつ、昔から結構コスイんですよ。
信玄: しかし君はこのところいろいろなところにひっぱり出されてるね。そのうち特撮業界からもお声がかかるんじゃないか? ほれ、あのナントカタロウとかいうのの、頭に生えてるのを鹿の角にして胸にピコピコいう六文銭をつけて、太郎山から飛んでくることにすれば……
幸村: (ひこにゃんのストラップを出して) ナントカタロウの角は
ぼくのより、ひこにゃんか黒田長政のに似てると思うけど…そういえばナントカメビウスとかいうののカラータイマーは信玄公の家紋みたいな形をしてるんですって。
信玄: うちの家紋みたいに4つに分かれてないけどね。確か富士山のふもとには地球防衛隊の一つの基地があったよな…美人の女子隊員が二人いて…。
幸村: あ、向こうから来るのは謙信さん。
かなたから『怪×酒場』の宣伝うちわを抱えたキューピー謙信が歩いてくる。
信玄: おーい謙信くん、君、まさか『怪×酒場』行くつもりじゃないだろうね。
幸村: もし、そうならやめといた方がいいですよ。
信玄: 自分で自分のこと毘沙門天の化身とかいう人、絶対に入れてもらえないから。
幸村: ぼくたち、断られちゃったんです。義の武将はだめだって…・
キューピー謙信: え~っ、幸村くんはともかく、信玄くんは入れるんじゃないの。あんなに腹黒いんだから。
信玄: (いくらか得意げに)私、今でも甲斐と信濃の民に慕われてるからね…。
謙信: 君、諏訪一族の姫を側室にしたくてずいぶんなことをしたみたいだね。
信玄: 諏訪の姫とは政略結婚だってば! あれはぼくが国営放送のドラマの主役になった時、当時人気絶頂だったアイドル歌手を姫役で使うために創作したんだから!
幸村: そういうメロドラマ的要素でも突っ込まないと一年間主役つとまりませんよね。
謙信: (世話好きそうに)とにかく一緒に行こう、私があの酒場の受付の人に君が村上義清にどんなことをしたか話してやる、そうしたらきっと入れてもらえるよ。
幸村: (小声で)謙信さん、また敵に塩を贈ってる…
その時、岡っ引きが一人、歩いてくる。
岡っ引き: ♪チャンチャ、チャン、ズンズンズンズンズンズ、ズンズン~
スズメと羽虫
勤め先近くの公園によくランチを食べに行きます。涼しい木陰に池や小さな流れもあってレストランよりのびのびできるのです。
先日ここでおにぎりを食べておりますと、スズメが一羽、私が座っているベンチに飛んできました。ご飯粒でもくれることを期待しているのか、あるいはくれる気はなくてもおかずのくずを落としたら食べようと狙っているのか?
子供の頃、インコや紅雀を飼ったこともある私、小鳥を見るのは好きです。スズメがそばに来てくれたのがうれしくて、小さな眼やくちばしや羽の動くのをじっと眺めました。スズメは珍しい鳥ではないけれど、あの一見地味に見える体もそばでよくみると黒と茶色の羽が複雑な模様を成していて手織りの生地のような趣きがあるのです。
その日の夜、私はコンピューターの前に坐って一人残業をしておりました。すると突然、
カタンと音がしました。席を立って見回しましたが私の他に誰もいません。どこかから画鋲でも落ちたのかなと思い、仕事を続けておりますところへ…バサッという音と共に手元のパンチのところへ体長2,3センチの羽のある黒い虫が降りてきました。音の正体はこいつだったのです。
私は悲鳴をあげて飛びのきました。虫は苦手なので。そしてスプレー式殺虫剤を持ってその虫に狙いをつけましたが、パソコンのキーボード近くにそいつがいるのでここで散布すると後始末が面倒だと考えました。そこで仕事を切り上げて帰ることにしました。虫に近づかないようにしながらおそるおそるマウスを使ってコンピューターの電源を切りました。
虫はパンチのところからキーボードの上をたどって動きました。そしてキーボードとモニターをつなぐコードのところで動きを止めました。そこが温かくて?居心地がいいのでしょうか。私は虫の上からコンピューターのカバーをかけました。虫は動く様子もありません。
まともに見る気もしませんでしたがその虫がゴキブリではないことは確かでした。ゴキブリの黒は茶系ですが、その虫は青系の黒なのです、1メートルほど離れたところからでも青黒いぬらぬらした腹がもぞもぞ動くのが見えました。「飛ぶ力を失って落ちてきたみたい、弱っているらしいから明日までに昇天していてくれるといいな…まさかコンピューターのコードを食いちぎったりして、それとも夜中に巨大化して暴れる?―特撮の視過ぎかしら?」などと考えながら帰りました。翌朝、虫の姿は消えていました。弱りながらもどこかへ這っていったのでしょう。
スズメがそばに来ると可愛いと思うのに、羽虫に同じことをされると殺意をおぼえ、怪獣になるのではないかと疑う? 考えてみると人間とは勝手なものです。
おもてなし文豪隊ジャパン?―有島武郎の巻
これまでのお話?
実以の脳内に突然現れたおもてなし文豪隊ジャパンと名乗る二重回しを着た男たち。彼らが皆自ら命を絶っているため、実以は自分の精神状態がよくないのではないかと不安に
なっているのですが…
実以: (有島に)私、この三人の中ではあなたの作品を一番読んでない気がします…『或る女』は読んだけど、なんだかすごい女の人だなあって思ったことしか覚えてなくて、その他は子供のころに『一房の葡萄』を読んだくらいかなあ。小学校1年から3年の時の校長先生がね、全校朝会のお話の時にすごく勧めてたから読んだけど―何だかお話の中に出てくるブドウがとてもおいしそうで、こんなブドウが校舎にからまっていて窓から手を伸ばすととれるなんていい学校だなとか……
太宰: (実以を指さして)この人、文学作品をその中に出てくる食べ物でした記憶しないんですよ。
有島: ごちゃごちゃ言っていないで『一房の葡萄』をまた読んでごらんなさい。君の家の押入れに入っているでしょう。
実以、押入れを開けて古いペーパーバックの本を引っ張り出す。
実以: 子供の頃に買った本だから題名が全部ひらがなになってるけど。
実以、ちゃぼ台に坐って読む。
実以: 童話だと思ってあなどってはだめね。校長先生がなぜ一押しのお話に選んだかが今になってわかったわ。絵を描くのが好きな内気な少年が、同級生の持っている上等な絵の具を盗んでしまう…それは絵が好きなあまり、でも家の貧しさを思うといい絵の具を買ってと親に言えないが故に…そういうちょっと大げさかもしれないけれど非行に走っていく気持ちが語られていて、これは子供だけじゃなくて、子供を導く立場の人も読むべきお話ね。
有島: 得るものがあったでしょう。よかったら『小さき者へ』も読んでみなさい。
有島、二重回しの下から文庫本を1冊出す。実以はその本の巻末にある有島の年表を
先に読む。
実以: 学習院に札幌農学校に…ペンシルバニアにハーバート大学の選科にロンドン?!
有島:(いくらか得意げに)私は行動範囲の広さでは漱石にだって負けません。
実以、ちゃぼ台で『小さき者へ』を読む。
世の中の人は私の述懐を馬鹿々々しいと思うに違いない。何故なら妻の死とはそこにもここにも倦きはてる程夥しくある事柄の一つに過ぎないからだ。そんな事を重大視する程世の中の人は閑散でない。それは確かにそうだ。然しそれにもかかわらず、私といわず、お前たちも行く行くは母上の死を何物にも代えがたく悲しく口惜しいものに思う時が来るのだ。世の中の人が無頓着だといってそれを恥じてはならない。それは恥ずべきことじゃない。私たちはそのありがちの事柄の中からも人生の淋しさに深くぶつかってみることが出来る。小さなことが小さなことでない。大きなことが大きなことでない。それは心一つだ。(青空文庫より引用、新潮文庫『小さき者へ・生れ出づる悩み』1980年刊、参照)
実以: こんなに一生懸命にお母さんを亡くした子供たちを守り、励ましていたお父さんだったあなたが、なぜ女の人と心中したのですか?
有島:(さびしげに)人生には思いがけぬことが起こるものですよ。 あなたの人生にも起きたようですね。でも私たちのようなことは決してしてはいけません。どれほど好きな人と一緒であろうとも。生きるのに疲れたらよい本を読んで前を向くんですよ。そう、「前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。
行け。勇んで。小さき者よ」
実以: 私、もうあんまり小さくありませんけどね。身長は小さいけど。
後書き?
ところでブドウって写真を撮るのが難しい果物ですね。ちなみにブドウの載っている皿は
私の母が昔働いていた会社で商品のネーミングをして採用された時に賞品としてもらった
ものだそうです。
おもてなし文豪隊ジャパン?―太宰治の提案
太宰: (実以に)君が子供の頃いた地方の武将隊で新しいメンバーを募集していたから
応募したんだけどね…不採用だった。
実以: よかった―
太宰: あの武将隊では観光客とタクシーに乗って案内するサービスがあるのだが、それを私にはさせられないというのだよ。
実以: 特に女性客は絶対に同じ車に乗せたくございませんわ。
写真は真田幸村に不採用を言い渡され る太宰治。
太宰: 仙台留学時代の魯迅を描いた『惜別』とか『右大臣実朝』とか歴史小説だってちゃんと書いているのだが、どうも私にはさくらんぼを食べて女性を心中に誘うというイメージが強いようで…。(観光キャンペーン風に)
生きるのに疲れたあなたに心中体験はいかがでしょうか、薬物、入水どちらかお好みの方をお選びください…
有島: 人気避暑地の別荘コースは私がご案内します。
実以: 冗談じゃないわよ!
太宰: とまあ真田幸村公には不採用を言い渡されたので私は武田信玄公のところに行った。私は信玄公の御膝元の甲府で妻と出会い、しばらく暮らしたのだよ。あの街の観光HPには私の足跡をたどるマップも載っている。
https://www.city.kofu.yamanashi.jp/welcome/gejutsu/dazai.html
実以: まさか甲斐の武将隊に入れてくださいってお願いしたの?
太宰: いやあの一帯はさくらんぼの産地だから、私の作品にちなんで「さくらんぼをまずそうに食べるコンテスト」を催したらどうかと。優勝者には大量の高級さくらんぼ、または山梨のご希望の温泉地の宿泊券をプレゼント!
太宰以外の一同、まゆをひそめる。
太宰: おいしいさくらんぼをまずそうに食べるには演技力がいる―全国のコンテスト参加者は鏡の前でさくらんぼを食べながらおいしくなさそうな表情をするけいこを重ねる、さくらんぼの消費量がずーんと伸びるって信玄公に提案したけど却下された。(両手を広げる)。だからこの上は信玄公のライバルを頼ろうかと…
コンテスト」計画を却下される太宰治
実以: 信玄のライバルというと上杉謙信?
太宰: そう武田のライバル上杉の城下町の米沢のあたりでもさくらんぼが採れるから、このコンテストをしてはどうかと…
有島: 太宰君、君は『文豪スト○▽□ッグス』という漫画で主役級の役をもらっているのだからそれで満足すべきだろう…
芥川: 私あの話の中じゃ、なぜか敵役になっているんですよ。
実以: そのマンガのアニメ化されたの、私も時々視ます。それなりに面白いのだけれど、日本の近現代文学史がなんとなく学べて、この人のこの作品読んでみようかなあという気持ちになるのかなあと思ったけど、特にそういう番組にはなってないみたいですね。





























