音譜ニルスのふしぎな旅〈上〉 (福音館古典童話シリーズ 39)/福音館書店
¥2,415
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セルマ・ラーゲルレーヴ/文

ベッティール・リーベック/画

菱木 晃子/訳 福音館書店

  

ニルスの冒険もアニメで見た思い出があります。がちょうの背中に乗って、ニルスが旅したのはスウェーデン! 目指すラップランドまで一緒に空を飛んで、国を一周旅行する気分で読みたい童話です。
  

●ものがたり

いたずら好きな少年ニルス。両親の留守中、妖精トムテにいじわるをしたために、ちいさな小人にされてしまいます。もとに戻してもらおうと思っても、トムテは消えてしまってどこにもいません。ニルスは動物たちに相談しますが、動物たちをいじめてばかりいた彼を誰も助けてくれようとはしないのです。途方に暮れていたニルスはひょんなことから、がちょうのモルテンの背に乗って、がんの群れとともに旅することに! 悪いことばかりでもないようです。なんと、鳥や動物たちの言葉がわかるようになっていたのです。ニルスは旅先でどんな経験をするのでしょうね。

  

  

●この童話を書いた人

物語を書いたのはセルマ・ラーゲルレーヴさん(18581940)。1909年に女性初、スウェーデン人で初めてとなるノーベル文学賞を受賞しました。この物語は国の組織が地理の教科書のためにセルマに依頼したものでした。ニルスの旅した場所を描くため、セルマさんは取材旅行に出かけて書いたそうです。

  

音譜物語に登場する木Treesと花Flowers

スウェーデン各地の風景が描かれ、木々も花も自然の中に溶けこんでいます。初めて空から地上を眺めたニルスが「緑色のチェック柄!」と叫んだものが大地に広がる田畑だと知った時、スウェーデンの広い大地が目に浮かんできました。ほかにも様々な風景が登場しますから、あなたの目で探してみてください。




むかし、森のなかで/ほるぷ出版
¥1,427
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トーマス・ティードホルム/文

アンナ・クララ・テイードホルム/絵

ひしきあきらこ/訳 ほるぷ出版

 

森のなかで何が起きるのかなと思って読んだら、せつないせつない、恋のおはなしでした。1度目に読んだ時と3度目に読んだ時と、心に届く言葉がまったくちがうことにも驚いた一冊です。

 

●ものがたり

主人公はママのいないヨナタンという少年。おじいさんのパパのパパのパパ―。子供たちが学校に行くことが当たり前ではなかった、ずっとむかしのおはなしです。ある秋、ヨナタンははじめて学校に行きました。そこで天使のようにやさしい女の先生と出会います。ある事件をきっかけに先生はヨナタンの家で暮らすことになりますが……。

 

●この絵本を書いた人

物語を書いたトーマスさんと絵を描いたアンナさん、二人はスウェーデンで人気の絵本作家のペアです。

 

音譜物語に登場する木Treesと花Flowers

スウェーデンの森にあるのはモミの木、シラカバの木。でも、あるページには北欧の森ではあり得ないヤシの木が!? それはなぜでしょう?

聖ヨーランの伝説/あすなろ書房
¥1,365
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ウルフ・スタルク/文 
アンナ・ヘグルンド/絵 

菱木晃子/訳 あすなろ書房

 

またウルフさんの本を選んでしまいました。私はこの人の感性が好きなのでしょう。ヨーロッパ各地に残る竜退治の伝説をウルフさんの美しい文章でお楽しみください。

 

●ものがたり

3人兄弟の末っ子ヨーランは旅に出ることとなりました。父親から贈られた「心の声のひびくがままに」という言葉を胸に旅を続けていると、東の国で人食い竜が出るというウワサが聞こえてきました。しかも王様の命令で、毎月1人ずつくじ引きで若い女性が選ばれ、生け贄にささげられるという恐ろしいことが行われていました。ある時、王様の娘である美しいお姫さまが選ばれることとなり、ヨーランは……。

 

●この童話を書いた人

以前紹介した『黒いバイオリン』や『地獄の悪魔アスモデウス』を書いたウルフさん。清らかな童話の中に、人間の醜さをたくみに盛りこんで、人生の真実を描こうとしています。

 

♪物語に登場する木Treesと花Flowers

ヨーランが旅している間、彼の目を通して、多くの種類の木や花が描かれ、物語の中に溶けこんでいます。さまざまな表現の中でも、とくに心響くのはこの文章でしょう。

 

ああ、なんて世界は美しいんだろう。

キツツキ、松ぼっくり、木を走りまわるリス、

きれいな葉をひろげるシダ、

すべてのものに、それぞれの美しさがある……

とヨーランは思いました。

 

木々や草花がこの世に存在している喜び……こうしたヨーランのピュアな感性が伝説として言い伝えられているのか、ウルフさんの空想なのか、わかりませんが、この文章と出会えただけで十分幸せだと思えます。
くんくん ふんふん (幼児絵本シリーズ)/福音館書店
¥840
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オスターグレン晴子/作

エヴァ・エリクソン/絵 福音館書店

 

2014年、はじめにご紹介する本はかわいい犬の絵本です。こんなささやかな時間のつみかさねを“幸せ”と呼ぶのだと、ほんわか、あったかい気持ちになれる一冊です。
 
●ものがたり

こいぬのポンテはいつもにおいをかぎまわっています。くんくん、ふんふん、なんだろこのにおい。好きなにおいを求めて、あちこち歩きまわります。穴の中のにおい、松ぼっくりのにおい、ハリネズミのにおい! どんどん歩いていると、どこからか、だいすきなにおいがしてきました。ぴょんと走り出して、においのするほうへ行くと、そこには!?


●この絵本を書いた人

ポンテは白と赤茶色をしたこいぬ。ほのぼのしたポンテを描いたのは、スウェーデン生まれのエヴァ・エリクソンさん(1949-)です。エンピツで描かれた、やわらかな色彩は心をホッとなごませてくれます。1981年にはエルサ・ベスコフ賞を受賞しました。
 
文章を書いたのはオスターグレン晴子さん(1958-)。兵庫県生まれの日本人で、スウェーデン語とドイツ語の通訳、翻訳家です。この絵本は翻訳ではなく、晴子さん自身が書かれたものがたり。ポンテ・シリーズもいろいろあるんですよ。家族と過ごすなにげない日常の幸福感がポンテを通して描かれているように感じます。スウェーデン在住。
 

♪絵本に登場する木Treesと花Flowers

松と松ぼっくり

 

 

スプレイニル 
 
2014年 あけまして、おめでとうございます。

今年もみなさまに、木の絵本と森の童話とをお届けします。 

心がほっとあたたまるものがたり、心にずしんとこたえるものがたり、かなしいけれど心にしみるものがたり・・・人生のさまざまな出来事がものがたりとなって、私たちの心に響いてきます。

一冊の本が、人生を変える時がある―本を愛して、本と生きていきたい。

今年、あなたの心に“灯”をともす本はどんなものがたりでしょうか?

★写真
北欧の最高神オーディンが乗っている八本足のスプレイニル。空も、海も、天も、自由自在に駆けめぐります。北欧神話には死んだ英雄を呼び戻すため、地獄まで走ってゆくものがたりがあります。スウェーデンのガムラ・ウプサラにある博物館の天井に飾ってありました。


 
長くつ下のピッピ――世界一つよい女の子 (リンドグレーン作品集)/リンドグレーン
¥1,785
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アストリッド・リンドグレーン/作

桜井誠/絵 大塚勇三/訳 岩波書店

 

子どもの頃、大好きだったピッピ! でも、「どんなお話だったか説明して」と言われるとうまく思い出せません。とにかく、たのしくて、はちゃめちゃで、とってもかわいい女の子だったってことはちゃんと覚えていました。もう一度、ゆっくりとピッピの物語を読んでみたら……。

 

●ものがたり

「スウェーデンの、小さい、小さい町の町はずれに、草ぼうぼうの古い庭がありました。その庭には、1けんの古い家があって、この家に、ピッピ・ナガクツシタという女の子がすんでいました」こんな文章でピッピの物語は始まります。

にんじんみたいな真っ赤な髪を三つ編みにした、ちょっと風変わりな女の子ピッピが巻き起こす物語には、うらやましくなったり、ハラハラしたり、けれど、こんな友だちがそばにいたらいやだなと思うこともあったりします。おまわりさんと屋根の上で追いかけっこしたり、雨の日に花に水をやったり(前の日、楽しみにしていた水やり、雨が降ったからやめるなんてイヤという理由で)、楽しくお茶している人々の中で自分の話ばかりしたり! 
ピッピの行動に共通しているのは、“人がどう思うか?”とか“こんなことしちゃダメかな?”とか“世間の常識”など全く気にしていないこと。普段私たちは、自分の思いとは別の何かに流されて、自分を抑えてしまうことも多々あるけれど、ピッピの物語は自由に思うままに生きていいいんだよ!と背中を押してくれているようで、生きる喜びを思い出させてくれます。

 

●この童話を書いた人

アストリッド・リンドグレーンさん(19072002)。スウェーデンを代表する児童文学作家、編集者です。世界70か国以上で訳され、長ーくたくさん読まれているんですよ。有名な作品には他に『やかまし村の子どもたち』『ロッタちゃん』などがあり、ピッピと同様、映画化されています。
 

●シビアな現実感があります

ピッピの物語は単なる童話ではありません。例えば、ピッピ、どろぼうに、はいられるというお話にはドキッとさせられました。悪いどろぼうにもへっちゃらなピッピは、どろぼう2人の手をとってポルカを踊りまくります。そして、どろぼうがピッピに振り回されてへとへとになって帰る時、それぞれに金貨1枚ずつ渡すのです。「これはね、あんたたちが、ちゃんとかせいだお金よ」と言って。今から想像もできないほどスウェーデンが貧しかった時代、働くことで報酬を得ることの大切さをさりげなく物語の中に入れてあるように思います。かわいくて、突拍子もないエピソードの合間に、シビアな現実もあることがかえって、ピッピの世界をリアルなものにしています。どろぼうになるしかなかった男たちはピッピと過ごした時間の後、新しい人生を歩いていこうとする予感があり、嬉しくなるのです。


薔薇 

♪絵本に登場する木Treesと花Flowers

ピッピがすんでいる“ごたごた荘”の門のすぐわきにはナシの木があります。8月の終わりには赤みをおびた金色の実がとれます。ピッピの庭にはバラの茂みがあり、白や黄色やピンクのバラが一面に咲き乱れ、いい香りがします。果物がなる木はたくさんあって、いちばんお気に入りは“おそろしく年とったカシワの木やニレの木”。ピッピの友人トミー&アンニカ兄妹はカシワの木に登って遊びます。カシワとはおそらくオークのことでしょう。ヨーロッパでは森の王様と呼ばれる聖なる木です。ピッピのカシワの木の中心は空洞になっていて、木の中で登ったり、地面のほうまで降りたり、遊ぶこともできます。遠足に出かけた野原にはカバの木やハシバミの気持ちのいい小道、マツの木にはサルのニルソン氏がするする登ります。本を読むにつれて、自然がいっぱいののどかな風景が思い浮かび、駆け巡りたくなりますね。

 

スウェーデンの森の昔話/ラトルズ
¥1,974
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アンナ・クララ・ティードホルム/編・絵
うらた あつこ/訳 ラトルズ刊

 

●スウェーデンの森
スウェーデンの森というとどんな森を想像しますか? 
昔、ヨーロッパはほとんどが森でおおわれていました。今ではすっかり都会暮らしに慣れた人も多いですが、スウェーデンでは森はまだ身近な存在のようです。スウェーデンで暮らしたことのある日本人に森について聞くと、「家のすぐ近くに森があって、庭の続きみたいなの。日本よりずっと森が近い感じがするのよ」と言います。春になったら花を摘みながらお散歩して、秋になったらベリーを摘みに行く、冬になれば森の湖がスケートリンクに早変わり! 森で過ごす楽しくてワクワクするいろんなことが季節ごとに当たり前のように行われるのだそう。友人たちのそんな話を聞いていると、この童話に登場するトロルや小人たちも、森のどこかにいて、実際に会った人もいるかもしれないと夢がふくらんできます。
 

なによりも、森は人が生きていく上で必要なものをさまざまにさずけてくれますね。家を建てたり家具をつくったりする木材、お皿やスプーン、バターナイフなどをつくるにも森の木が材料になり、木の実やベリーは食料に、暖をとる焚き木ももちろん森の木から……。北欧の人々にとって、なくてはならない時空―“スウェーデンの森”に古くから伝わるお話を12話も集めたぜいたくな一冊です。

 

●とくにおすすめのものがたり
スウェーデンで口から口へと、言い伝えられてきたお話。とくにお気に入りの物語は、
・怠け者の娘の身に起きた奇跡とは?「ティッテリチューレ」
・夫婦ゲンカからとんでもない事件に発展!「仕事をとりかえたおやじさんとおかみさん」

・うっかりトロル夫婦のおはなし「トロルと雄山羊」

・くぎ1本でおいしいスープが作れる?「くぎスープ」
・北欧のかぐや姫?羽衣伝説?「太陽と月の娘」etc.
 
●この童話を書いた人

ストックホルム生まれのイラストレーターで作家である、アンナ・クララ・ティードルムさん(1946-)がお話を集めて、あたたかな絵を添えました。現在、森の近くで暮らしているそうです。
 
翻訳した、うらたあつこさんはこんなふうに言っています。「目で読むだけでなく、耳で聞いて楽しんでいただけるように心がけました」と。遠い北欧で、口伝えで現代まで語られてきた昔話を、まるで誰かに話すように読んでもらいたいという願いがちゃんと伝わってきます。

 絵本に登場する木Treesと花Flowers

表紙を開くと、さまざまな形の木が並んでいます。マツ、モミなどの針葉樹、シラカバ、オークなど。物語はどちらかというと、うっそうとした深い森の中で繰り広げられ、森のよいところだけではなく、暗くこわいところも表現されています。

こんもり森 
ガムラウプサラ風景 
スウェーデンの原風景といわれるガムラ・ウプサラ。2013年7月に訪れました。

 

トムテ/偕成社
¥1,260
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ヴィクトール・リードベリ/作
ハラルド・ウィーベリ/絵 
やまのうち きよこ/訳
 
●トムテってなあに?
トムテ(Tomte)は北欧の国々で信じられている妖精です。わずかな目撃情報によると、赤いとんがり帽子をかぶっていて、白くて長いひげのある小さな小さなおじいさん。農家の屋根裏や仕事場に住み、何百年もその家族を守ってくれる幸運の妖精なんですって。ノルウェーやデンマークでは「ニッセ(Nisse)」と呼ばれています。あなたも北欧を旅したら、トムテを探してみてはいかがですか?

 

●ものがたり

しんしんと冷える真冬の夜、一人のトムテが夜番をしています。人々が寝静まった夜、トムテだけは起きていて、毎晩、見回りをするのです。鍵がちゃんと閉まっているか確かめたり、羊や馬たちは元気か、親切にしてくれる夫婦と子供たちはゆっくりと休んでいるか…トムテが暮らす家の家族が幸せでいられるように見守るのが彼の役目なのです。でもトムテはふと思います。
 
ひとは どこから くるのだろう
ときは どこへ ながれていくのだろう
 
絵本を読むわたしたちにも、トムテは問いかけているようです。
 

●この絵本を書いた人

物語をつくったのはスウェーデンの詩人、ヴィクトール・リードベリさん(18281895)。19世紀を代表する詩人であり、神学者、法律家、ジャーナリストとしても活躍しました。代表作は小説『シンゴアラ』。哲学的な詩が多いといわれる彼が書いた『トムテ』もまた、哲学的であり、宇宙的な広がりを感じさせます。
 

絵を描いたのは同じくスウェーデンの画家、ハラルド・ウィーベリさん(1908-)。自然や動物を得意とする画家で、1921年にはブタペストの世界動物画展で最優秀賞を、1976年にエルザ・ベスコフ賞を受賞。賞の名前がつけられたエルザ・ベスコフさんもスウェーデンの偉大な作家です。

 

 絵本に登場する木Treesと花Flowers

まっしろな雪が降りつもる景色のなか、モミの木が青白く光っています。長い冬のあとの春を思い浮かべたトムテの心にはスズランやナズナが咲きほこります。

 

黒いバイオリン/あすなろ書房
¥1,050
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Den svarta fiolen

ウルフ・スタルク著 

アンナ・ヘグルンド/絵 

菱木晃子/訳 あすなろ書房



●ものがたり

寝たきりの妹サーラを前にして、何を話したらいいか、わからないぼく。

「病気の人と話をするのは、むずかしい。なにもかも、むなしく聞こえる。うそっぽくて、どこかまちがっている感じがする」。

ある日、ぼくはサーラからバイオリンを弾いてほしいと頼まれます。パパが弾かなくなって、壁にかけられた黒いバイオリン。自分が下手なことを知っているぼくは最初こばみますが、弾き始めると、サーラと過ごした楽しい風景が次々と映し出されました。しかし、ベッドのはしっこには黒いマントをはおった死神が座っていたのです……。


●この絵本を書いた人

先日、紹介した『地獄の悪魔 アスモデウス』と同じ作者、画家による小さな絵本です。
妹の死を目前にした兄のどうしようもない苦しさ、むなしさをこうも愛おしく、あたたかく描くウルフさん。悲しみも苦しみも、いつか喜びにかえることができる、とささやきかけてくれているようです。

ウルフ&アンナペアの絵本を訳しているのは菱木晃子(1960-)さん。この物語の本質がしっかりと伝わるのは、スウェーデン語を日本語に、日本人の心に届くように訳していく菱木さんの力も大きいと思います。


音譜絵本に登場する木Treesと花Flowers
モミの木、リンゴの木、シラカバの木、ライラックの花。そして、バイオリンは木で作られています。大地に立っていた一本の木が人々を楽しませる存在になっていく……ステキですね。




地獄の悪魔アスモデウス/あすなろ書房
¥1,365
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ウルフ・スタルク/文 
アンナ・ヘグルンド/絵 
菱木晃子/訳

●ものがたり
アスモデウスは地獄の悪魔の息子。でも、心が優しく、人にいじわるしたり、ののしったり、スープにつばを吐いたりすることができません。悪魔としての自覚が足りない息子をみかねて、父親の悪魔はアスモデウスを地上に送り出し、「人間の魂を奪ってくるように」と命令します。アスモデウスは上手くできるかなあと心配になりながらも、地上へ出る重いドアをゆっくりと押しました……。

悪魔が言うには、人間の中には自ら魂をくれる人がいるんだそうです。たとえば、

「自分はえらいといばりくさっている人間」

「物事をよく考えない、頭がからっぽの人間」

「悲しみに沈んでいる不幸な人間」


こんな人間はだましやすく、すぐに魂を差し出してくれるというのです。魂をくれる人を探すということは、死んでくれる人を探すということですよね。優しいアスモデウスにそんな残酷なことができるのでしょうか?

●この絵本を書いた人
文章を書いたのは、ウルフ・スタルクさん(1944-)。スウェーデンで人気の児童文学作家です。1993年、スウェーデン政府主催の文学賞、アストリッド・リンドグレン賞を受賞。現在も活躍しています。

ウルフさんの文章を読んでいると、どこか遠いところから物語を眺めている、そんな視線を感じます。“人間の心の中には善もあれば悪もある”という真実や、登場人物の一人一人の“生きたい”“幸せでありたい”“友だちがほしい”願いも強く感じます。

人生はままならない、けれど、希望はある
―と教えてくれる物語の数々です。

絵を描いた人は、アンナ・ヘグルンドさん(1958-)。ウルフさんの多くの童話に絵を描いています。二人で組んだ作品には、ドイツ児童文学賞を受賞した『おじいさんの口笛』や『青い馬と天使』(ともにほるぷ出版)、『チャロとライオン』(文化出版局)などたくさんあります。

音譜絵本に登場する木Treeと花Flower

スイセン、森の木々