- 長くつ下のピッピ――世界一つよい女の子 (リンドグレーン作品集)/リンドグレーン
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アストリッド・リンドグレーン/作
桜井誠/絵 大塚勇三/訳 岩波書店
子どもの頃、大好きだったピッピ! でも、「どんなお話だったか説明して」と言われるとうまく思い出せません。とにかく、たのしくて、はちゃめちゃで、とってもかわいい女の子だったってことはちゃんと覚えていました。もう一度、ゆっくりとピッピの物語を読んでみたら……。
●ものがたり
「スウェーデンの、小さい、小さい町の町はずれに、草ぼうぼうの古い庭がありました。その庭には、1けんの古い家があって、この家に、ピッピ・ナガクツシタという女の子がすんでいました」こんな文章でピッピの物語は始まります。
にんじんみたいな真っ赤な髪を三つ編みにした、ちょっと風変わりな女の子ピッピが巻き起こす物語には、うらやましくなったり、ハラハラしたり、けれど、こんな友だちがそばにいたらいやだなと思うこともあったりします。おまわりさんと屋根の上で追いかけっこしたり、雨の日に花に水をやったり(前の日、楽しみにしていた水やり、雨が降ったからやめるなんてイヤという理由で)、楽しくお茶している人々の中で自分の話ばかりしたり!
ピッピの行動に共通しているのは、“人がどう思うか?”とか“こんなことしちゃダメかな?”とか“世間の常識”など全く気にしていないこと。普段私たちは、自分の思いとは別の何かに流されて、自分を抑えてしまうことも多々あるけれど、ピッピの物語は自由に思うままに生きていいいんだよ!と背中を押してくれているようで、生きる喜びを思い出させてくれます。●この童話を書いた人
アストリッド・リンドグレーンさん(1907-2002)。スウェーデンを代表する児童文学作家、編集者です。世界70か国以上で訳され、長ーくたくさん読まれているんですよ。有名な作品には他に『やかまし村の子どもたち』『ロッタちゃん』などがあり、ピッピと同様、映画化されています。
●シビアな現実感があります
ピッピの物語は単なる童話ではありません。例えば、“ピッピ、どろぼうに、はいられる”というお話にはドキッとさせられました。悪いどろぼうにもへっちゃらなピッピは、どろぼう2人の手をとってポルカを踊りまくります。そして、どろぼうがピッピに振り回されてへとへとになって帰る時、それぞれに金貨1枚ずつ渡すのです。「これはね、あんたたちが、ちゃんとかせいだお金よ」と言って。今から想像もできないほどスウェーデンが貧しかった時代、働くことで報酬を得ることの大切さをさりげなく物語の中に入れてあるように思います。かわいくて、突拍子もないエピソードの合間に、シビアな現実もあることがかえって、ピッピの世界をリアルなものにしています。どろぼうになるしかなかった男たちはピッピと過ごした時間の後、新しい人生を歩いていこうとする予感があり、嬉しくなるのです。
♪絵本に登場する木Treesと花Flowers
ピッピがすんでいる“ごたごた荘”の門のすぐわきにはナシの木があります。8月の終わりには赤みをおびた金色の実がとれます。ピッピの庭にはバラの茂みがあり、白や黄色やピンクのバラが一面に咲き乱れ、いい香りがします。果物がなる木はたくさんあって、いちばんお気に入りは“おそろしく年とったカシワの木やニレの木”。ピッピの友人トミー&アンニカ兄妹はカシワの木に登って遊びます。カシワとはおそらくオークのことでしょう。ヨーロッパでは森の王様と呼ばれる聖なる木です。ピッピのカシワの木の中心は空洞になっていて、木の中で登ったり、地面のほうまで降りたり、遊ぶこともできます。遠足に出かけた野原にはカバの木やハシバミの気持ちのいい小道、マツの木にはサルのニルソン氏がするする登ります。本を読むにつれて、自然がいっぱいののどかな風景が思い浮かび、駆け巡りたくなりますね。