ジャックオールロックのブログ -16ページ目

10,囚われし過去と、解き放つ未来・・・10

サカキさんは記憶の糸を辿っている。そんな顔つきで静かに箸を置いて語り出した。


旅に出たきっかけは君らくらいの年になると芽生える衝動的な放浪欲ってヤツかもしれないな。



まぁそのときはただ受験が嫌で現実逃避したかったんだろうけどね。
行く宛ては誰も自分のことを知らない土地。

これが一番重要だった。

頼る人もいなければ頼られることもない。そんなこんなでたどり着いたのがここだったんだ。


北海道の地図を空港で買って、そう君達が手にしてる地図みたいに現在地と行き先をあらかじめマークして、動いたところを線で結んでいく。

当時はヒッチハイクなんて映画の中だけの世界でほとんど馴染がなかったんだ。

だから、車を停めてもらうのはヒッチハイクのポーズよりスケッチブックいっぱいに目的地を書いていたほうが効果的。僕を停めた「えりも岬」みたいにね。


旅の途中いろんな人に出会ったんだ。

旅の醍醐味ってのは、やっぱ一期一会だからいまだに忘れられない人もいるし、かといって出会いがすべて良いものでもなかったけど。


ただ僕が言うきっかけってのいうのはあのカウンターの中にいるこのラーメン屋のご主人のお兄さんとの出会いだった。


彼は日高町というところで大きな牧場をやっててね。まだ十代の僕が内地(本州)からはるばる北海道にやってきて一人旅ということに興味があったのか、話をしていくうちにそこの牧場で少し手伝ってくれないかと言われてね。僕は無性にその場所に行って見たくなったんだ。牧場の仕事なんてなかなか経験できるものじゃないし、なにより旅の資金を補充するってことも重要だった。

牧場の朝は本当に早かったよ。

でも寝床も道端とか公園とかじゃないし、食事も面倒見てくれるしね。

大体一週間くらいその生活をしてようやく仕事の内容も覚えてきてね。何十頭もいる牛に名前をつけてこの子はこういう性格だからこうしたほうがいいとか話す彼がなんかとても好きになった。


あるとき一頭の牛が病気になってね。
街の獣医さんを呼んだことがあったんだ。急病だから本当はトラックに乗っけて牛を獣医さんのところに運べばいいんだけど、なんせそのときは人手不足でただ待つことしか出来なかった。結局獣医が来たのは2時間以上も経ってから。

牛の容態はあまりよくなくて、しかもその牛のおなかには牛の赤ちゃんがいた。

母体はかなり衰弱してたのでせめておなかの赤ちゃんを助けなければっていうのが獣医の判断だった。

赤ちゃんは無事出産できたけど、母体はもうすでに手遅れ、そのとき立ち会った獣医さんが言ってたよ。

もっと早ければ助かったはずだってね。

それを聞いていた彼は泣きながら夜が明けるまでずっとそばにいた。

朝牧場の仕事に戻ると彼はまだ死んでしまった牛の傍らで寝ていた。

何かいけないものを見てしまったと思ってこっそり気づかれないように牛舎の外に出て、声を上げて泣いてしまった。彼の優しさと、僕の無力さと、なぜ獣医がもっと早く来なかったんだっていう苛立ちとか、複雑に絡み合って泣いてしまったんだ。

彼の奥さんが言ってたよ。
彼は牛をわが子のように可愛がるその反面こうやって立ち直れずに仕事が出来なくなる日もたびたびあるってね。

死ななくてもいい病気で死んでしまうのは本当に悔やまれることだ。彼が僕に言った言葉。

 そのときかな、獣医を目指そうと思ったのは。僕はその後一ヶ月ほど彼の牧場でお世話になってまとまったアルバイト代で北海道を観光した。

その後実家に戻り、新しい参考書を買って、それと新しい未来に向けて勉強をした。・・・獣医になるためにね。



そして今に至るってわけ・・・。



つづく

9、囚われし過去と、解き放つ未来・・・・

 あいかわらず、左腕のオメガは数分の狂いもなく時を刻み続けている。
チッチッチっと円を描いて回る秒針は、やはりこの世のすべてを容赦なく動かしている過去と未来の証明として左腕に巻きついているように見える。

跨ったバイクからの轟音が夕闇がかった小さな街を轟かせている。

職場の駐車場はサラ金の駐車場と隣接していてそのサラ金の看板のネオンはその音に合わせて小気味よく踊っている。
片田舎の街には少し不釣合いに見えるその建物。なんとなく異物的な存在としてそこに佇んでいる様に見えてしまう。


ヘルメットを外すと、夜風によって伸びた前髪が頬をなでた。



夏の終わりは妙に寂しさを滲ませる。
四季折々の風と匂いと色が僕を包み込んで、秋の風は僕を一層孤独に仕立て上げた。
そして空を見上げてみると早くも孤独な一番星が北東の方角に輝いて見えた。


「さて、・・・そろそろいくか。」
少し気だるそうに僕はバイクを降りて、吸いかけの煙草を灰皿に押し付けた。


ジャケットの内ポケットには退職願と書かれた封書が忍ばしてある。
その胸をトントンと叩いて歩き出した。




 僕らは、目の前に出されたラーメンをすすりながら旅の醍醐味と開放感を同時に味わっていた。


旅に出てからまともな食事をするのは初めてだった。
隣でケインがむせている。
「そんながっついて食べるなって・・・。」
僕は少しあきれて鼻で笑って言った。


僕は猫舌を火傷しないようにゆっくりと麺をすすっている。味噌のスープは濃厚で口の中に甘い香りが広がっていく。
<決してラーメンの物語ではない>

サカキさんもやはり懐かしい味に頷いていた。僕とは対照的に、あっというまにケインはラーメンを平らげて満足げに空になった器を見ている。

カウンターの奥にいた店の主人が冷えたコーラを3本テーブルの上に置いた。
「ほら、先生。これサービスだからね。」

「あぁ、どうも有難うございます。」
サカキさんは店のご主人は僕の父親と同じくらいの年齢に見える。


「・・・先生かぁ。サカキさん獣医さんだもんなぁ。」
ケインは続いて「さっきのきっかけの話教えてくださいよ。どうして獣医になろうと思ったんですか?」


サカキさんは記憶の糸を辿っている。

そんな顔つきで静かに箸を置いて語り出した。


つづく

タイトル無し

4a11f721.jpg放置してたこのブログも、意外に皆見に来てくれるんだなぁ…

ありがとうございます。

すいません なんか身の周りがゴタゴタしてて思うように事が運びません。


妙な焦燥感と喪失感を味ってます。

大好きなウイスキーを味わおうにも、ただただ虚しく匂いだけが独りの部屋を漂っています。


一冊の本を読みました。

そこにはこう書いてあります。

『もし、「明日」が無限にあるわけではないとしても今と同じような今日を生きますか?』


思えば

僕の人生は

あの瞬間に終わり


そして

始まった。


僕の新たな人生の章はこれから始まる。





もう少し見守って下さい。