HATSUNE MIKU ORCHESTRA

HMOとかの中の人。/JOINT RECORDS
初音ミクはバーチャルアイドルの亜種だとスルーして、思い通りになるボーカリストの代用ソフトとしか認識してなかった。ある時、テクノポップユニットのポジモのボーカルぽらこさんに「ボーカロイドってどうですか?」と尋ねたら「あれはシンセサイザーだから」と目から鱗の解答をもらい合点がいった。ブームの一側面は、初めてYMOを聴き、少年少女であればあるほど次なる未来への期待に魅了された、あの反応でしょ。気持ち分かった。思いっ切りのいいシャープなブラス音とロボ声のマッチ度は、ボカロ歌もの以上にミクさんの黒船来航感に合ってるかも。YMO者に言わせれば、シンセは無機質でなく人間性を表現するマシンなのだ。→
Sci-Fi Motion

POSIMO/independent*
パンダ型高性能パワースーツを身に着けたポラリオン星人がボーカルのテクノポップユニット。この宇宙人、アメリカ、イギリスでのリアルな音楽体験や、バンド楽器はギター・ベース・ドラム・キーボード全部こなせる異常な音楽身体能力の高さ。『SIGNAL』は、リズム大きめに薄味のシンセリードをテクノ好きのツボでモジュレーションしてみせる技。歌前後になると裏で欲しい音が必ず来る!盛上り曲『Sci-Fi Motion』の太いアシッドベースと柔らかいパッドの宇宙を走るハイハット。自室やスタジオ練習から出てくる機材先行のテクノポップが誰でも作れる時代にあって、聴かせる部分を届かせる立ち上がりの良さは飛び抜けている。→
眠る盃
向田邦子、岸田今日子/Parnasse
出た!向田邦子のエッセイを岸田今日子が読みあげる奇跡のコラボレーション。すれ違った少年を見つめるなんでもない話しから始まる。亡き父の奇行、銀座で大量にドラ焼きを買い込み、皮だけ剥がして、銀座の表通りのビルに貼り付けて周る!父の供養に、自身もドラ焼き買い占めてそれをやってみようかと。駆けつけた警察官に咎められたら「父の供養です」と答えてみようか、という辺りで朗読テンションのピークを迎える。ある謎解き番組で「中野と高円寺の間、ライオンを飼っている家を中央線から見た記憶は本当だったか」という誰かの疑問を、偶然チェックしてた私がCD収録のエッセイ『中野のライオン』を鍵として「居たらしい」と解決した。→
計算とソウル

マキタ学級/日本コロムビア
今、一番ファンキーでギラギラしたバンドは?って質問に「スクービードゥー」は正論、次は次は?!正解、マキタスポーツ率いるマキタ学級。正調『男達のメロディー』のカバーを任せられる安定感。正しく狂っている。その根拠、曲の構成が、歌詞がと売れ線の分析を上げればキリがない。それよりも、イントロでギターがコードをひとつ「ジャーン!」と鳴らすだけ、それだけで、ロックな衝動が胸に込み上げるのはピストルズの『アナーキーインザUK』以来、マキタ学級の『オレの歌』だ。わめきたいことがある。他人にとってはどうでもいい事でも。そんな一発の歪んだギターが、今のロック、今のお笑い芸人に渇望した魂を解放してしまう。本当に売れて欲しい!→
COMPLETE SHOGUN

SHOGUN/ソニー・ミュージックハウス
70年代シティポップスの最終形。『男達のメロディー』を聴きたくなる発作。破れかぶれのテレビマンの金田くんが学生時代から愛してた曲。慣れ合いよりも能力フェチが共通点で、お互いの仕事能力がマックスの時には運命の偶然でばったり再開したこともあった。「どうせ一度の人生さ、運が悪けりゃ死ぬだけさ」という一節が、人生の折々にどんどん意味が変化して聞えてくる音楽の魔法に、金田くんの急逝というスパイスが加わるなんてな。自信満々でない時には会いたくも無いお互い。葬式とか行かずに、10代の私と金田くんが拳銃持って多摩川土手を走ってる自主映画を素材に『男たちのメロディー』をのせて編集して、ゲラゲラ笑って弔った。→
ポっぷ

阿部真央/ポニーキャニオン
高音になるとピキーンというスチール弦的なヒステリックな声色が入ってくる特徴的なボーカルは、世の中の女の子たちにギターを持たせる暗号電波だと思うんですよ。サブリミナル信号には「私も唄いたい」とか「ライブに行きたい」とか「誇らしげに薦めたい」色々あるけど。「カラオケじゃダメ!ギターをガシャガシャ弾いて声を張らなきゃ!」って部分を触発する高校生直撃の揺さぶりに加え、随所にスクールデイズ描写。もう、CDでなく阿部真央の弾き語りコピーのアマチュア投稿動画リストを作って、そっちをずっと再生している。『貴方の恋人になりたいのです』を聴いて、思わず自分で弾いて動画アップしちゃうその爆発力。させる影響力を持ったアルバム。→
機動戦士ガンダム 逆襲のシャア オリジナル・サウンドトラック

三枝成彰&篠崎正嗣オーケストラ プロジェクト/エピック
物悲しさを背負う重厚な弦楽奏が深淵の宇宙に合い、Z同様ティンパニーが響く。一年戦争の裏話、ギレンが軍事企業ジオニック社の利権を握り個人財産を増やしていた事実はドン引きした。結局、善人が大儀に殺し合い、悪人が儲ける戦争。本作でシャアが正したかったのは腐敗した連邦上層部で、大切なモノ(地球)を破壊して思い知らせるやり方は、失い続けたシャア自身の敵討ちに思える。そりゃ、悟りが見えたアムロとメビウスの宇宙で対峙するわ。日々の実生活でも、腐った指導者の采配に能力を利用されてる局面に遭うと、アクシズ落としを食い止めオーバーロードして暴発してゆくモビルスーツ隊のラストシーンが、脳裏に浮かぶ。→
機動戦士ガンダムUC オリジナル・サウンドトラック
澤野弘之/ミュージックレイン
うひょー、あがるー!ホルストの惑星バリの壮大なオーケストラメロディーに、インダストリアル系の打撃音が印象的な宇宙世紀0096年のBGM。全6話?今、4まで発表されて、地球に降りて早々砂漠でした。ガンダムで砂漠といえば、戦争に巻き込まれて割り切れない日々に苦悩する主人公が、軍人の洗礼を受ける場所。1stのランバ・ラル、SEEDのアンドリュー・バルトフェルド、そしてUCのスベロア・ジンネマン。決断を間違えたら即死の砂漠遭難で、どん底のバナージを再生してからの、父親不在の彼との殴り合い喧嘩で描く代理父超えシーンは、大儀でなく私念をぶつけ合う所が良い。おっさん的には、ZZから四半世紀ぶりの伏線回収は鳥肌もの。→
明るみ
北村早樹子/warabisco
レコ発後のライブが3.11震災の数日後。大規模停電に電車も止まり、世の中は不安だった。けどライブスペース高円寺『円盤』は、こんな時だからヤル!と早々宣言。北村早樹子は「あまり深く考えず、のこのことピアノの前に座った」という。そんな夜、その場所を選んだ客は満員となった。私といえば、2年前ピアノ弾き語りの彼女と初めて話した時の、『私の一角獣』がアルバムに入ったら買うよ、と宣言した約束を果たす為に来場。案の定ライブ中も余震が続いたが、客達には妙な覚悟があった。百年に一度のアクシデントを受けて、あらためて毎日を楽しむ。私らしい選択の末にこの尖ったピアノを聴くのだから、不安渦巻く世の中にネコパンチで勝つのだ。→
devil's hands
ACO/AWDR/LR2
R&Bは唄ってて気持ちよかったろう。ビニール盤クラブ遊びも楽しかったろう。エレクトロニカはヘッドフォンにも凝ったろう。過去作『Drop』『material』『Irony』の変遷、どこかのアーティストが「このアレンジもう飽きた、いち抜けた!」とか言い出す前にACOは早く既に駆け抜けていて、エンジニア色の強い行く末は超シンプルだった。社会学者の鈴木謙介が3.11後に一曲目に掛けたのが、このアルバムの『バラ色の世界』で、不意打ちの正統派バンドサウンドがしっくりきて、歌声だけが聴こえてきた。なぁ、唄ってて気持ちいいだろう、その声待ってた。震災の不安が続く夜中、世界を失っても、自尊心だけは失ってはいけないと思った。→



