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Contrast

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LotusLounge/independent*
 電子音楽というだけでは片付けられない大人の女声のバランスの良さ。浸透的に続く詞が、実は耳当たりの語感だけで作った造語の連続だったり。スローなエレクトロに浸るようなバックトラックに黒いファンクが入ってたり。鋭いメッセージはないのに、ゆったりした安心感や揺さぶりの音楽体験からロータスラウンジの言葉が伝わってくる。『Timer』ではOVERROCKETばりのクールさを堪能させつつ、ミディアムバラード『Contrast』で見せる暖かな女性の視点はガールテクノポップ系譜の色眼鏡を外させる。モナレコードのライブで初めて見て、ニコニコのメガネっこが、あのしっとりしたいい声で唄っててびっくりした。

ラフマニノフ ある愛の調べ サウンドトラック

ラフマニノフ ある愛の調べ サウンドトラック

セルゲイ・ラフマニノフ、他/ユニバーサルミュージッククラシック
 ドラッグに溺れた幻覚やアルコール乱痴気騒ぎからの閃きではなく、国の動乱や亡命など、歴史の歪みを背負ったラフマニノフ。晩年まで雪に覆われていたのは彼自身。極寒の厳しさを知る者こそが、僅かな春の気配に歓喜する様な、硬い心が溶けるボカリーズ。師事している音楽講師の下宿先に、チャイコフスキー大先生が魚のパイを食べに来る?!そんな地続きエピソードも、へーそうなんだ。ストーリーの起伏やオチが弱いとか、クラシックマニアや映画オタクには言わせておけ!どこまでも環境に恵まれずピアノ協奏曲を通して叫んだ男が、もつれて転がり頭ぶつけながら、最後に妻と子とを抱きしめるホームドラマに辿り着く。

敬愛なるベートーヴェン サウンドトラック

SMART PANEL-敬愛なるベートーヴェン サウンドトラック

ベートーヴェン、他/ユニバーサルミュージッククラシック
 晩年難聴のベートーベンのところに、音大生の写譜師アンナがやってきたよ。「女か!まぁいい時間がない。早く譜面を仕上げてくれ」ってノリで、第九交響曲を書き上げ指揮を振る。才能を認め合う楽聖と娘は、音楽家としても人としても、必要な関係を築く。音楽を与える神、神との魂の交歓を曲にするベートーヴェンの男性性、献身的で彼の存在の一部にも成り得たアンナの女性性という構図に宗教的なメタファーをも感じる。アンナの伯母が、サリエリの元で歌手を目指そうとしてたとか、年代的にもへー。ベートーヴェンはサリエリの生徒だもんね。映画とはいえ、第九の初演をドキドキ追体験するのは虚実半分だとしても実に感動的。

クララシューマン 愛の協奏曲 サウンドファイル

SMART PANEL-クララ・シューマン 愛の協奏曲 サウンド・ファイル

ロベルト・シューマン、ヨハネス・ブラームス、他/SMJ
 ピアニストの奥様の映画『クララ・シューマン』では、シューマン夫妻と若きブラームスの奇妙な共同生活など関係性も興味深い。交響曲を書きながら、生き方の違うオケ野郎達の前で指揮棒振れなくなっちゃう躁鬱っぷりは、爆音ギター演奏しながらも客に顔上げないで自分の靴先しか見れない、そう、元祖シューゲイザー系といえる。セックス、ドラッグ、ロケンロール!苔むす石より転がる石。シューマンあんた、奥さん以外から性病とかもらってたのか、そういう奴か。薬漬け、入水自殺未遂、精神崩壊の最後と壮絶な生涯。常人の向こう側で作られた楽曲は、秀才多作の作家陣よりも「霊感において他者より秀でている」と絶賛される。

ORIENTAL MAGNETIC YELLOW

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O.M.Y./ポニーキャニオン
 めがてん坊やと名乗った細江慎治の初ライブを見ている。NAMCO提供ラジアメイベントの虎ノ門ホール。年代的にはベラボーマン発表の年。ピンクのシンセKORG 707をショルダーに構えて『ドラゴンスピリット』を弾きまくっていた。そのステージ、幕が上がった瞬間がセンセーショナルな光景で、舞台全部にキーボードラックの塊が3ブロック。こんなセットは当時、雑誌でも見たこと無い。SEGAのフュージョンバンドSSTに対してナムコは鉄壁のシンセアンサンブル。数年後、サイトロン提供の深夜FMでOMY『ライジーン』解禁。「え?」と戸惑いつつ、ナムコメンバーと分かると、ライトに浮かぶシンセ基地の壮観なシルエットを思い出した。

YELLOW MAGIC ORCHESTRA

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イエローマジックオーケストラ/ソニー・ミュージックハウス
 歴史的ファーストインパクトは1曲目『Computer Game "Theme From The Circus"』、ゲームの電子音が4拍子にシンクロしてゆくナードコアテクノの大河の一滴。トキオ!もテーテーテーも2nd収録だから、1stのYMO体験は『東風』『中国女』のオリエンタルムードが強かった。『Simoon』は空手バカボンに歌詞をつけてカバーして欲しい曲。時代の扉が開いた様な『Mad Pierrot』の始まる高揚感ときたら!5年後『以心電信』のイントロで再び「開いた!」っていう瞬間が来るまで、中期難解作を保留してコレと「ここは警察じゃないよ」をカセットで聴きまくっていた。

HATSUNE MIKU ORCHESTRA

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HMOとかの中の人。/JOINT RECORDS
 初音ミクはバーチャルアイドルの亜種だとスルーして、思い通りになるボーカリストの代用ソフトとしか認識してなかった。ある時、テクノポップユニットのポジモのボーカルぽらこさんに「ボーカロイドってどうですか?」と尋ねたら「あれはシンセサイザーだから」と目から鱗の解答をもらい合点がいった。ブームの一側面は、初めてYMOを聴き、少年少女であればあるほど次なる未来への期待に魅了された、あの反応でしょ。気持ち分かった。思いっ切りのいいシャープなブラス音とロボ声のマッチ度は、ボカロ歌もの以上にミクさんの黒船来航感に合ってるかも。YMO者に言わせれば、シンセは無機質でなく人間性を表現するマシンなのだ。

Sci-Fi Motion

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POSIMO/independent*
 パンダ型高性能パワースーツを身に着けたポラリオン星人がボーカルのテクノポップユニット。この宇宙人、アメリカ、イギリスでのリアルな音楽体験や、バンド楽器はギター・ベース・ドラム・キーボード全部こなせる異常な音楽身体能力の高さ。『SIGNAL』は、リズム大きめに薄味のシンセリードをテクノ好きのツボでモジュレーションしてみせる技。歌前後になると裏で欲しい音が必ず来る!盛上り曲『Sci-Fi Motion』の太いアシッドベースと柔らかいパッドの宇宙を走るハイハット。自室やスタジオ練習から出てくる機材先行のテクノポップが誰でも作れる時代にあって、聴かせる部分を届かせる立ち上がりの良さは飛び抜けている。

眠る盃

眠る盃

 

向田邦子、岸田今日子/Parnasse

 出た!向田邦子のエッセイを岸田今日子が読みあげる奇跡のコラボレーション。すれ違った少年を見つめるなんでもない話しから始まる。亡き父の奇行、銀座で大量にドラ焼きを買い込み、皮だけ剥がして、銀座の表通りのビルに貼り付けて周る!父の供養に、自身もドラ焼き買い占めてそれをやってみようかと。駆けつけた警察官に咎められたら「父の供養です」と答えてみようか、という辺りで朗読テンションのピークを迎える。ある謎解き番組で「中野と高円寺の間、ライオンを飼っている家を中央線から見た記憶は本当だったか」という誰かの疑問を、偶然チェックしてた私がCD収録のエッセイ『中野のライオン』を鍵として「居たらしい」と解決した。

 

 

 

計算とソウル

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マキタ学級/日本コロムビア
 今、一番ファンキーでギラギラしたバンドは?って質問に「スクービードゥー」は正論、次は次は?!正解、マキタスポーツ率いるマキタ学級。正調『男達のメロディー』のカバーを任せられる安定感。正しく狂っている。その根拠、曲の構成が、歌詞がと売れ線の分析を上げればキリがない。それよりも、イントロでギターがコードをひとつ「ジャーン!」と鳴らすだけ、それだけで、ロックな衝動が胸に込み上げるのはピストルズの『アナーキーインザUK』以来、マキタ学級の『オレの歌』だ。わめきたいことがある。他人にとってはどうでもいい事でも。そんな一発の歪んだギターが、今のロック、今のお笑い芸人に渇望した魂を解放してしまう。本当に売れて欲しい!