電車に乗り、四つ目の駅で電車を降りて俺は歩いて洋食店に向かった。
中に入ると、ピアノの音が聞こえて俺は足を進めた。
しばらくすると中央にピアノが見えた。
ピアノの前には作業をするリョウクを見つけて、近づいた。
そしてそっと鍵盤に触れて音を出すと、リョウクがこちらを見た。
『あ、イェソンさん。』
『久しぶりだな。』
『そうですね。』
そう言ってリョウクは椅子から立ち上がった。
『...泣いたんですか??』
『...。』
『...イェソンさん。』
リョウクに名前を呼ばれて、俺はリョウクを見つめた。
『...ジョンスさんからリョウクに聞けって言われた。』
『...はい。』
『ジョンスさんが俺に紹介したい人ってどんな奴なんだ??』
『...声が綺麗なんだ。』
『...。』
『甘いんだけどほろ苦さもあってさ。』
『...。』
『...歌を歌わせたら、ユネさんより上手いと僕は思ってる。』
そう言われて俺はピアノを見つめた。
『そんな奴なら、スカウトもされてるんじゃないか??』
『...断ってる。どんなにもったいないって言っても、本人にその気はないんだ。』
『...だったら、俺が会っても無駄じゃないか??』
俺がそう言うとリョウクは鍵盤に触れた。
『...幼い頃からね、才能がある奴だったんだ。歌が上手くてプロにだってなれるような。』
『...。』
『中学まではプロになるものだって、僕は思ってた。でも、言ったんだ。俺はプロにはなれないって。』
『...。』
『なるべきじゃないって。』
『...。』
『お節介だって言われても、迷惑だって言われても。やっぱり夢を叶えてあげたい。』
『...。』
『イェソンさんもそうでしょ??』
リョウクにそう言われて俺は視線を上げた。
『...その人のこと大事なんだな。』
『...僕が潰したんだ。』
『え??』
『...責任を取らなきゃ。』
そう言ったリョウクを見て、俺はリョウクの手を握った。
『...だからといって、二度とあんなことをするなよ??』
『イェソンさんだって。』
『おかしいな。似た者同士なのに、惹かれあわないなんて。』
そう言って俺はリョウクの髪を撫でた。
『...会ってみる。』
『イェソンさん。』
『...リョウクもジョンスさんも惚れ込んでる声の持ち主だもんな。』
そう言って俺が笑うとリョウクも笑った。
それから食事をさせてもらって、俺は一人で家へと歩き出した。