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密集した住宅街から、山と田んぼと森に囲まれた田舎へ引っ越してきたのは、
私が6歳のときのことだった。
それまで、近所に同じ年頃の子供が幾らでもいた私は、
引っ越してすぐに、遊び相手に事欠く生活になったことに気付いた。
大きな声でさわいだり、笑いながら追いかけっこやかくれんぼをするたくさんの友達はいなくなって、
私は兄と一緒に、飼ったばかりの子犬を家来に 野山へと探検に行くことが多くなった。
私の家からは、小高い山を森が覆っているのが見え、
また、切り崩した赤土の崖につる草が這い、ススキが揺れるのも望める。本当の田舎だ。
下校時刻には仕事中で家にいない母のために、
どこへ出かけているのか、手紙を残して遊びに行く、という約束が交わされた。
そしてその手紙にはっきりとした居場所を書くため、それらの野山や崖、林や森に、
母と兄と私とで、独自の名前をつけることになる。
くねくね道、赤い崖、けもの坂、兵隊のほら穴・・。
思えばただの地続きの土地が、不思議な魔法で輝き始めたのは、
この名付けの儀式があったあとのような気がする。
猛毒を持つマムシやスズメバチにもたびたび出会ったにも関わらず、
私も兄も、まるで大きな手で守られているかのように、ケガ一つせず、毎日、野生動物のように遊んだ。
森に、野原に、小川に、通い詰めて・・。

遊んでも遊んでも、自然の中は決して飽きることがない。毎日新しい発見があった。
遊べば遊ぶほど面白くなり、森も野原も小川も、ますます大好きになっていく。
たんぽぽやれんげが咲き乱れる春。
クワガタやカブトムシを追い求めて早朝から大冒険をする夏。
ときにはおいしい自然の恵みに出会う美しい秋。
枯れたススキ野原に陽だまりを探しながら遊ぶ冬・・。
どの季節も毎日少しずつ変化する風景が、私を強く惹きつけて放さなかった。
私も兄も、それから数は少ないけど、一緒に遊べる友達も、
「自然」に子守をしてもらって、育ったのだと思う。
× × × ×
月日はまたたく間に過ぎて、私は11歳・・小学5年生になった。
このころ私は友達の家に自転車を飛ばして遊びに行くことを覚えた。
森にも相変わらず遊びに行ったが、それよりもっと、
友達や、あるいは私の家で遊ぶことが多くなった。
縄跳びをしたり、音楽を聴いたり。
おしゃべりをしておやつを食べるだけでも楽しくてたまらない年頃だ。
そんなある日、私は子供向け雑誌で衝撃的な写真を見る。
それは外国の写真で、自分と同じ年頃の少女が森の中で撮ったものだったのだが、
信じられないことに、写真の中の彼女の周りには、たくさんの、羽が生えた妖精が飛び交っていたのだ。
合成ではない、本物らしいというコメントを読んで、私はあっさりその記事と写真を信じた。
『・・そうだったのか・・。』
この美しい田舎に住んでからずっと、解けなかった謎が解けたような気がした。
『森がいつでも美しいのは、あんな風に小さな妖精が守っているからなんだ。』
と。
森には、妖精が魔法をかけていたんだ。
すべての木々が、空気の温度の変化につれて壮大に変わってゆく森の風景は、
それを信じさせるに足りる、奇跡に満ちていた。
幽霊なんて弱虫の見る幻で、ちっとも科学的じゃない、とこれっぽっちも信じていなかったくせに、
私は何の疑いもなく、妖精の存在を受け入れてしまった。
さらに前向きな性格が手伝って、さっそく妖精に会いに行くことを決意する。
それでも友達を誘って行くのはどうもためらわれた。
変な奴だと思われそうな気がしたし、
わいわい皆で出かけたら、絶対出てきてくれないだろうとも思ったからだった。
そう、たぶん・・言葉を発したら絶対に出てこない、逃げちゃうに決まってる。
息もひそめていないと現れないだろう。
いる場所だって、決してどこでも会えるってわけじゃなくて・・いるとしたら、あそこしかない。
私は確信すると、妖精探しに、一人である森へと分け入って行った。
他の場所は考えられない。もしその森で会えなかったら・・
きっと他では会えないだろうから、あきらめるしかない・・。
× × × ×
決行の日、私が少しも迷うことなく選んだ森は、昔、何百年も前に鎌倉へ通じていたという、
大変由緒ある街道を進んだ先にあった。
街道・・と言っても道幅はせいぜい大人ひとりの肩幅くらいで、
そこに道があることを知らない限り、道を見つけること自体、難しいというしろものだ。
道は笹に覆われて、森の奥へ奥へと続いて行く。

そのあたりの樹齢は他の遊び場の森に比べて古いらしく、木々は高くそびえ、森の中は暗い。
どこからか甲高く鳴く鳥の声が響いたが、私はちっともこわくない。
この森は慣れた遊び場。もう何回遊びに来ているか覚えていないほどだ。
目の前に次々にあらわれる蜘蛛の巣を、
拾った木の枝で綿菓子のように絡め取りながら笹をかき分けて進むと、
とつぜん笹薮が消えて、ぽっかりと広場が現れた。
太い倒木がベンチのように横たわっている。
その表面は美しい苔でなめらかに覆われ、木漏れ日に光っていた。
泉から湧き出た水が足元を流れ、靴を濡らす。
下生えがないのは、単に泉の水量のせいで、土や根、種が流れ出してしまうからなのかもしれない。
それでもこの、人の手で作られたのではない秘密の広場は、
ここが他とは違うと確信させる、不思議な神々しさに満ちていた。
私はざっと50坪もあろうかという広場を見渡した。
初めてここを見つけた日から、どうも何かがあるような・・
それが発見できないないようなもどかしさで、何度も遊びに来ていたのだった。
今日はその秘密の核心に迫っているような気がして、わくわくする。
うん、間違いない。妖精に遭えるところがあるとしたら、絶対ここだろう。
いつもなら泉の近くの倒木に腰掛けて休むのだが、今日は広場全体が見渡せるよう、隅っこ行き、
広場が終わるあたりの笹薮に、乾いた場所を探して、座った。
広場は泉から流れる水で、直接地面に腰掛けたらお尻が濡れてしまう。
地面が乾いてさえいれば、素敵なピクニックポイントになるのに・・
笹薮に座りながら、初めてここを見つけた日と同じことを、思った。
私は笹薮の出口に座って広場の・・特に泉が湧き出ている上あたりの空間をじっと見つめた。
しゃがんでしまえば笹薮に隠れて自分はほとんど見えない・・じっとしていれば、目立たないはずだ。
きっと妖精は気がつかないだろう。
ひざをかかえて息を殺し、集中する。普通に、何となく、では、妖精は見えないという気がした。
うまく言葉ではいえないけれど、普段は閉じているもうひとつの目が、
いつもの目の奥のほうにあって・・それを開いて見るような、そんな感じ。
静かな森の中で集中するのはたやすい。私は少しの疑問もいだかないで、ただただ空間を見つめた。
水の匂いがする・・それとも、濡れた腐葉土の匂いかな・・。
森の中はしんとして、音はしないように感じられた。
予定なんてほとんどなかった私には、時間だけはたっぷりあった。
どのくらい時間がたったのか、当時の私は腕時計を持っていなかったからはっきりとはわからない。
ただ、自分の根性のなさから考えても、あまり長時間ではなかっただろうと思う。
1ヶ所に集中し続ける必要はないのかも・・と、早くも飽きて、極度の集中を解いた。
それでも感覚を自分なりに研ぎ澄ましたまま、私はあちこちに目を移した。
広場は山の勾配が終わり、ふもとにさしかかるところにあった。
泉から湧き出た水は、ゆるやかな斜面を下り森の中を抜け、十数メートル先の川へと流れ込んでいる。
広場全体に広がるようにして流れる水は、空から木々の間を縫って地面に届いた光に、ちらちらと光っていた。
見つめていると、広場は独立した、一つの生き物のように感じられた。
ここには何度も来たけど、こんなふうに水が流れているなんて、知らなかった。
ここは広場で、泉があって地面があって、水は川へ流れる。
それらは並列した関係の、別の出来事だと思っていたけど、そうじゃない。
この泉と、そこから流れる水と、秘密の広場。それらは一つのサイクルだ。
体の中を血が循環する、意思ある生き物だと言っても過言ではないような気がした。
この水で覆われた、しめった広場全体が、巨大な亀だったら一番しっくり来るような気がする。
黙って座っていると本当に地面の下でドクンドクンと鼓動を打つ音が聴こえた。
私はひざを抱え直した両腕の上に、あごをのせて耳を澄ませた。
子守り歌みたい。
私の体の中にも赤い水が流れているから、きっとこの下の生き物の水と、共鳴しているのだろう・・。
この下の生き物は、たぶん眠っている。ずっと、ずーっと大昔から。
それも、自分が亀だということを忘れて・・ほんとうに地面になっちゃったのかも。
私は揺りかごでゆられているように、目を開けたまま、うとうとと空想を巡らせ、
巨大な亀の幻を見ていた。
目の前の笹の上に、たった1ミリほどの、小さな小さな、真っ赤な蜘蛛が歩いているのに気がついた。細い足・・蜘蛛だからちゃんと8本あったのだろうが、それらを順番に動かして、小さな宝石のような蜘蛛が行く。
神様は、どうやってこんなに小さな生き物に、動く機構を与えたのだろうか。
命は、魔法だ。ここの森にはやっぱり、魔法がかけられている。
私は、今まで気がつかなかった、空気を満たすパワーのようなものが、確かに存在している、と感じてますます確信を深めた。
もう少し待てば、妖精はきっと来る・・。

ざわざわと頭の上で木々が鳴って、私は我に返った。
風が強くなって森の高いこずえを揺らし、同時に低い、ごーう・・という音が響く。
見上げると葉の間から差し込む光がさっきとは全く違う色を帯びている。夕暮れが迫っていた。
『もう お帰り。』
私は声にならない誰かの声を聞く。帰らなきゃ。せかされるように立ち上がると、ここへ来た道を足早に戻る。
こんなとき、私は絶対に後ろを振り返らなかった。もし振り返ったら、恐ろしい何かが見えてしまうような気がする。決していないはずの、見えないはずの、何かが。
それは大きく口を開け、飲み込まれたら逃れることはできない化け物みたいなものだ。
振り返ってそいつが何者なのか、確かめたいとも思わない・・。
今になってあらためて思い出してみると、こんなとき、
一緒に野山で遊ぶ友人たちも、皆一様に振り返らなかったように思う。
誰もが黙って、先を争うようにして森の中を一目散に走って帰った。
当時はなぜだか疑問にも思わなかったが、自分が身を守れない時間になると働く、
動物としての本能・・自然への畏れのようなものだったのだろう。
その夜、ベッドに入ると、自分の部屋の窓から黒い影絵のような森が見えた。
今、あの森へ行ったら、妖精たちが踊っているのに会えるかもしれない。この時間にあそこに行くのは絶対無理だけど。
きっと羽がとんぼみたいに透き通っていて・・大きさはオニヤンマくらいで・・
ホタルのように明るく光ってる・・。
私は、羽から発する光で体全体を闇のなかに浮かび上がらせて舞う妖精を心に想い描いた。
目を閉じてふとんをかぶると、あの笹薮に座っているような気がする。
心の中で、夜のあの森の、笹薮に座っている自分を想像すると、揺りかごでゆられているように安らかな気分になり、いつの間にか眠ってしまった。
× × × ×
夕暮れの森はあれほど恐ろしく、敵意に満ちた怪物のようなのに、
翌日、日が高く上ると、森は私を『おいで、おいで。』と優しく誘った。
素晴らしい秘密を今日こそ見せてあげる、と言っているかのように。
何事もポジティブにとらえる私は、昨日のことは失敗ではなく、
かなりいい線で1歩前進していると思っていた。しつこく、また森へと繰り出す。

泉のそばにまた座って・・昨日より明るく暖かい日だったこともあり、うきうきしながらも、
実に真面目に、今日は全く違うアプローチから妖精に近づく作戦を立てた。
昨日森で学んだことを応用した作戦だ。今日こそ勝算があった。
私は昨日やったように息を詰めるのをやめた。
かわりにゆっくり息を吸い込んで吐いて・・ここの森に、成分的に近づこうとした。
獲物を待つ捕食者のように、ぴりぴり待ち構えていたんじゃ、妖精に逃げられてしまう。
もし私がここの森に・・生き物たちになじんでいたら、妖精は私の存在を容認してくれるんじゃないだろうか?
私は自分が森になじみそうな、小さな生き物になる姿を、できるだけ具体的にイメージしようと試みた。
もし、何か別の生き物になれるとしたら、何がいいだろう?キノコなら、妖精は気がつかないだろうな。
でもそれじゃ私が面白くない。鳥はびゅんびゅん飛べてすごいけど、高いところは何だか怖そう。
やっぱり野うさぎがいいかなあ。かわいいもん。
私はフワフワした茶色い柔らかい毛並みが、風の中で気持ちよくそよぐのを想像する。
草むらに走り、森の中に座って休む。周りの景色は今よりずっと、大きく見えるだろう。
妖精や、もっと他の何かにも、会えるかもしれない。
うさぎ、うさぎ、うさぎ・・・
目を閉じて、うさぎのつもりになって、森の中の気配を、風が渡るのを感じる。
さやさやと笹の葉が擦れ合い、木々が揺れ・・誰かが何ごとかを囁きあっているのが聴こえた。
何て言っているんだろう・・もう少しで、その意味も知ることができるような気がする。
森の中は、命あるものの静かなざわめきに満ちていた。
きっと新入りの小さなうさぎを、このざわめきに溶かし込んで、隠してくれるに違いない・・。
私は自分の心のどこかが、この森の気配と同化していくように感じていた。
振り返ると、自分の娘が11歳の頃と比べて、このときの私は怖くなるくらい幼かったと思う。
だいたい、いくらのどかな田舎で、しかも治安が今よりずっと良かった二十数年前とはいえ、
女の子が一人で森に遊びに行って、犯罪に巻き込まれる可能性が、絶対なかったとは言い切れない。
早生まれが幸いして成績はクラスでも良い方で、学級委員や班長を任されることも多かった私の、
奇妙にアンバランスなこの行動は、誰からも気付かれることなく、3日目を迎える。
× × × ×

今日も暖かい川べりを走ってけもの坂へ。
そこから鎌倉街道へ入り、ガサガサと藪をかきわけて泉の広場へ向かう。
兄が「泉にはカニがいるよ。」と言っていた。兄の友達のショウちゃんも。
でも、私は一度も見たことがない。今日もいちおう、覗き込んでみるが、やっぱりいない。
きっと今日も出かけているのだろう、エサを採りに。・・それとも、川へ泳ぎに?
私はふいにひらめいて森の奥を見た。そうか。妖精はきっと出かけているんだ。
ここじゃなく・・この先の野原か、その向こうの谷へ。
立ち上がると広場を出、森の中をさらに奥へと歩き出す。
私は何かに背中を押されるような気持ちがしてどんどん歩いた。
黙って『それ』に従っていれば、行くべきところに案内されるような気がした。
森が途切れ、野原が現われる。
キツネノコンペイトウの黄色い小さな花があちこちに咲き、
緑の草がしっとりと敷き詰めるように生えている。
紫色の小さな、背の低いサギゴケや、毛糸で作ったポンポンのような、かわいらしいアカツメクサも。
この野原は、このあたりで一番多くの種類の花を咲かせた。
季節によっては野菊やアザミ、リンドウ、野ばらなど・・
真夏と真冬以外は、次々に違う種類の花が咲く、私の大好きな野原だ。
山の北東側に位置するので、日をさんさんと浴びているわけではない。
それでも木々に覆われた森から出ると、空が見え花の色があふれるここは、とても明るく感じられた。

このたくさんの花たちは、毎朝妖精達に起こしてもらっているのかも。
私はしゃがみこんで目線を花の高さに合わせる。
朝霧の中で眠っている花たちを起こして遊ぶ妖精の姿を夢見るのは、楽しかった。
私は満足すると野原を横切り、向かい側の森へと入って行った。
樹齢の高い木々たちにふたたび囲まれ森を行くと、、地形的に切り立った谷があるところへ来た。
谷間には小さな川が流れている。そもそもここは、山の端なので、
一番高いところから川底までの高低差が、せいぜい6,7メートルくらいしかない、小さな谷だ。
谷底の川に沿って歩きながらきれいな水を見つめていると、
妖精たちが水浴びに・・あるいは遊び疲れて水を飲みに来る姿が容易に想像できた。
楽しそうだなー・・自分の心に浮かぶ光景のはずなのに、私はそれをこっそり覗き見しているような、奇妙な錯覚に囚われた。
水面から森の中へ、視線を移す。
目を・・普段は使わない奥の目を見開く。どこかにいるはず。
道のない森の中を、さくさくと落ち葉を踏みながら、私は研ぎ澄ました目と耳で、妖精を探してさまよい歩いた。
どこまで歩いても、耳を澄ましても、妖精はいない・・会うことはできなかった。
がっかりしても当然なのに、私は森の中を歩きながら、
いつしかふわふわした暖かいものに包まれているような、幸せな気持ちになってきていた。
小さな、しつこい探求者を、森は寛大にも受け入れてくれ・・そして知りたいことをちょっぴり教えてくれた、と感じていた。
私は歩きながら友達に挨拶をするように、1本1本の木に触れてみた。
それぞれの木に、この森の物語と生きてきた歳月の履歴が刻み込まれているのを感じる。
それは確かに「在るもの」だ。ただ私の能力じゃ、読むことができないだけ。
大昔の人なら、読めたのかも知れない。でもきっと私じゃ、何年かかっても無理。
たぶんTVや、便利な電気製品なんかのせいで、目も耳も、とても悪くなって、
今の人間は森の・・妖精たちの言葉からかけ離れてしまったのだろう。
秘密の答えは、いつでも手が届くところに用意されているのに。
私は生物としての、限界のようなものを感じていた。
それと同時に、大きな勘違いをして妖精探しをしていた自分に、最後のこの森で気がついた。
妖精は、たぶんこの森の命あるものが それぞれ持つ魂のようなもので、
植物や動物の中に・・いたるところに棲んでいる。
それは疑うべくもない確かなことで、
今、こうやって自分を包み込む暖かい何かも、その存在の一部だろう。
妖精を追いかけてどうしても見たいだなんて、無意味なことだった。
友達の友情や、親の愛情を、手にとって目で見ないと信じられない、という人はいない。
それと同じことだ。
イギリスの、妖精の写真を撮った子たちはきっと、とても澄んだ魂の持ち主なんだろう。
うらやましいけど、文明のなかで育った私には、あのような姿として見ることは、到底、かなわない。
でも森の中に満ちる、この暖かいものを感じ取ることができて、私は妖精に遭えたも同然だ。
私はやっと、もうそろそろ帰ってもいいや、という気持ちになった。
私は森の中を家へ向かって戻りながら、時々後ろを振り返った。
私、帰っちゃうよ? 会いに来てくれるなら今しかないけど?
けれど森の中はしんとして、羽ばたく小さな生き物は見当たらない。
ただ、前を向いて歩いているときだけ、後ろから誰かが見送っているような不思議な感覚があった。
私は『それ』に向かって心の中で話しかける。
ばいばい。友達になってくれてありがとう。
またおいで、という肯定の返事を聞いたような気がした。
うん、また来るね。
私はあとは振り返らないで走りはじめる。
もうすぐ空気の色が変わる・・夕暮れがやってこようとしていた。

× × × ×
こうして私の3日間の妖精探しの冒険は幕を閉じた。
羽のある妖精には結局、会えずに終わったが、
この冒険のあと、森や野原は私にとって、単なる遊び場ではなく仲の良い特別な友達になった。
とりわけ森は、さくさくと踏み込んで行くだけでいつでも私を元気づけ、
楽しい気持ちにしてくれ、なぐさめてくれ・・悩み事の答えをくれた。
それは本当に不思議なことだったが、私は今でも
森にはあらゆる問題の答えが、すべて用意されているように思えてならない。
子供から大人になり、野山で遊ばなくなったのち、
私は心の中に、一生なくなることのない大切なものを、森からもらっていたことに気がついた。
それを使えばいつでも・・あの森へ行かなくなって何年も経つけれども・・
目を閉じればあの泉の傍に座っている自分になれた。
木々は変わらずささやき、暖かい何かで私を包み込む。
足元には大きな亀が眠り、永遠に続く夢を見ている・・。
遠く離れても心が繋がっている親友同士のように、
妖精の棲む森は今、私の心の中からいつでも行ける場所にある。

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どの記事も、北朝鮮・韓国系組織などとのつながりを具体的に示していて必見なのですが、


日本人が知らない中国国歌のヒミツ 






