
キャリア官僚の実態を伝えてくれる文献にはあまり遭遇したことがない。
日本の未来を想う本音の話だった。
官僚の組織や文化を森永さん自身の経験を踏まえてユーモラスに説明していた。
闘病生活中でも自暴自棄にならず、日本の将来を憂い森永さんを突き動かしてきた精神力に頭が下がる。
覚悟を持った人の言葉はとても刺激があり過激だとも思った。
結婚している夫婦だからこそ、そこに子どもが生まれてくる。
女性や男性の生涯未婚率が上昇している原因を見つけられるのであれば、少しでも一つでもその問題を解消できる方向で行動をしていけばよい。結婚を踏みとどまっている原因が収入だと気づいたなら、例えば最低賃金を大幅に引き上げるなど、所得の格差を生む原因を排除して収入を上げばよい。
106P 少子化の本当の原因は何か?
少子化の原因は、合計特殊出生率(15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)の低下だ。
晩婚化が原因という考えは間違っていることが明らかになった。
なぜ少子化が進んでいるのか。
女性の生涯未婚率(50歳未婚率)が1985年の4.3%から2020年には16.4%へと劇的に上昇したのだ。男性は、1985年の3.9%から2020年には25.7%に上がっている。つまり、今起きている少子化の主因は「結婚しない」ことなのだ。
107P 「しない」ではなく、「できない」
「結婚しない」という表現は正確ではない。正しくは「結婚できない」のだ。
年収が下がると結婚している人の割合が絶望的に下がるのだ。
真の少子化対策は簡単に導き出せる。格差を是正することだ。
具体的な対策としては、最低賃金を大幅に引き上げるとか、同一労働賃金を厳格に適用する、あるいは逆進性の強い(低所得者ほど負担が大きい)消費税を減税する、国民全員に毎月一定金額を給付するベーシックインカムを給付するなど、所得格差を縮める手段は無数にある。
普通で当たり前の考えとして、本来お金を掛けるべき安全対策に精力を傾注しないので、電力企業などが儲かる仕組みにつながっているならばいただけない。
137P なぜ、原発再稼働なのか
原、電力コストの低減といわれている。
しかし、原発の発電コストには、原発事故の処理費用と放射性廃棄物の最終処分にかかる費用が算入されていない。
最終処分場の立地は、地盤が安定していることが絶対条件になるのだが、地学の専門家らは日本に適地は存在しないとする声明を公表している。つまり、地層処分はそもそも日本では不可能なのだ。
考えているだけでは腹は膨れない。食料は生きていくために必要不可欠だ。スタンスとしては、安全な食料確保は農家を軽んじる上から目線ではなく補助金を出してもよいから、正に一丁目一番地の基礎的な政策になるはずだろう。しかしそうならないのは、不思議でたまらないのだが。
146P 軽視される食料安全保障
「農水省の官僚は、農業をしたことがないのか」
いまの日本は、肥料も飼料もタネまでを海外に頼っている。有事の際にはそうしたものも入ってこなくなるから、有事の際の食料自給率は1割を切ってしまうだろう。
私は、「有事になったら食料を生産する」という考え方そもそも間違っているのだと思う。
食料安全保障のためには。普段から国民が食べるのに十分な量を作っておくべきなのだ。
あまった食材は、輸出するか家畜に与える。欧米の食料安全保障策なのだ。輸出したり、家畜のエサにしたり、パンの原材料として使うことを前提に、ふだんの消費量を超えるコメを作り続ければよいのだ。
いまの官僚たちが打ち出している食料安全保障は、日常は農家を軽んじておいて、いざとなったら農産物を強制徴収して、それを都会にばらまくという都会目線、上から目線の政策だ。もっと生産者の立場に立たないと、食料自給率は上がらないだろう。
<目次>
まえがき 知られざる官僚の実態
第1章 私が観察した官僚の生態
第2章 凋落し始めた官僚―私が観察した官僚の生態(2)
第3章 官僚の生態系に何が起きているのか?
第4章 官僚たちの生存戦略
第5章 なぜ官僚の政策は失敗するのか?
第6章 “官僚生態学”から7つの処方箋
あとがき
森永卓郎さん
1957年、東京都生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。1980年、東京大学経済学部を卒業後、日本専売公社(現・JT)に入社
追記
1月28日に森永さんがお亡くなりになられたと報道で知りました。もっとお話を聞きたかったです。
謹んでご冥福をお祈りいたします。
【No1767】官僚生態図鑑 ズレまくるスーパーエリートへの処方箋 森永卓郎 三五館シンシャ(2024/12)