※ 特別機動捜査隊 まえがき

捜査担当班の詳細については、wiki特捜隊-キャストを参照、また、(本放送)とはNETでの放送、(再放送)とは東映chでの放送を指します。出演者については配役名を略していますが、本文で書くこともあります。なお、出演者をもっと知りたいときは、リスト特捜隊で検索。

また、(出演者)は、エンディングで、一列~三列で表示された男優・女優に限定しました。

1963年公開の、映画版・特別機動捜査隊全2作とは趣が異なることに注意。

 

☆・・・#693  情熱の海

 

 

 

(本放送)・・・1975年2月19日

(再放送)・・・2019年8月8日

(脚本)・・・元持栄美

(監督)・・・天野利彦

協力)・・・無し

(協賛)・・・南紀勝浦温泉・ホテル中の島、日本高速フェリー株式会社、

       熊野交通株式会社

(捜査担当・オープニング表記)・・・三船班

関根部長刑事(伊沢一郎)、田中係長(山田禅二)、石原刑事(吉田豊明)、

水木刑事(水木襄)、松木部長刑事(早川雄三)、畑野刑事(宗方勝巳)、

三船主任(青木義朗)

 

(出演者)・・・

万里昌代、平野康、桐原史雄、伴藤武、建部道子、堀辺隆一、小高まさる、

菊地正孝、一の瀬玲奈、鶴見丈二

 

 

(あらすじ・予告篇から)

・・・ ※当時のナレーションをそのまま聞き写しています。

 

東京から南紀勝浦へ向かうさんふらわあ号。

その船上に、夫の保険金8000万円を持って乗り込んだ、

ひとりの女があった。

女盛りの未亡人・小出浅子(コイデアサコ)・・・。

そして8000万を狙って、

ハイエナのごとく浅子の周辺を徘徊する男たち。

勝浦に向かう浅子の目的は何か!?

夫の死を目撃した男が、数日前東京で殺されていた。

プレーボーイを装って、浅子に近づく畑野刑事。

勝浦海岸、那智の滝、そして瀞峡(ドロキョウ)と、

ふたりの虚々実々の駆け引きが続き、

果たして浅子を待ち受ける者は誰か!?

南紀勝浦に飛ぶ特捜隊、次回、「情熱の海」、御期待ください。

 

 

(備考)・・・

・「掲示板特捜隊 8」で#684 十津川絶唱#693 情熱の海 、とがキャスティング、ロケ地から、和歌山県ロケ2本撮りとの指摘有り。

・ロケの舞台となる南紀勝浦温泉・ホテル中の島は、現在、碧き島の宿・熊野別邸・中の島と名称を変えており、勝浦港の中の島全体を活用した宿泊施設である。

・さんふらわあ号については、#684 十津川絶唱(備考)を参照。

・保険金については、1年後に支払いがされたことから、危難失踪(特別失踪)が認められたと解されるので、それを前提に以下本文を作成する。

・太地町の「くじらの博物館」は今でも現存するが、勝浦港から行くには距離があり、ストーリーのように車でないと行けない。フェリーが無くなった現在では最寄りの駅は「太地駅」であり、駅前から町営バスを利用することができる。

・劇中では、「浅子の通帳から200万が引き出された」とメモにあるが、実際は振込したことが明らかになるため、以下本文では「浅子の通帳から200万が動いた」と表現する。

→(追加)「引き出された」という発言については、実際自分自身が三井住友銀行に口座を持っていた時に振り込んだところ、通帳の「支払い欄」に、「振込」の表示はされず「現金」の表示がされたことがあったので、発言自体に誤りは無いと考える。

 

 

(視聴録)

・・・開始約19分半ばまで

 

事件の発端は1年数カ月前に遡る。伊豆稲取海岸で、町工場の社長・小出良一(鶴見丈二)と部下・にしもと昌夫(堀辺隆一)が磯釣りをしていたが、良一が足を滑らせ転落、消息不明となった。その1年後、良一の妻・浅子(アサコ、万里昌代)は死亡保険金8千万円を受け取るが、浅子は昌夫と男女の仲になっていた。しかし受取の3日後、昌夫は何者かに殺害される事件が発生、昌夫を浅子に盗られたと憤慨する恋人・たきがわ典子(一の瀬玲奈)は、犯行現場に立ち会いの際、浅子が殺したと掴みかかる剣幕であった。

 

そして、昌夫殺害で容疑のかかる、すがわら武彦(桐原史雄)、妻・純子(建部道子)を新婚旅行先の勝浦で関根・水木が監視。三船主任・石原は、勝浦港近辺で待機していたが、松木・畑野がさんふらわあ号に乗船して勝浦に向かう浅子を監視、到着するのを待ち構える目的があった。

そのさんふらわあ号では、長髪男(平野康)が浅子に馴れ馴れしく接近、浅子もまんざらでは無い様子に監視する松木は呆れる。そして、船には典子も乗り合わせており、畑野は浅子への復讐かと当初考えるが、典子が初体面のオレンジ服男(伴藤武)と仲良くピンボールをするのを見るにつけ、浅子の保険金を狙っているものではないかと松木に呟く。

 

勝浦到着後、三船主任・石原と松木・畑野が合流。浅子は長髪男の誘いを断り、ひとりで太地町に向かい、松木は典子を尾行する。太地町についた浅子は、海岸沿いの遊歩道を歩き、三船主任・畑野・石原は尾行するが、この様子を双眼鏡で覗いていた男には気づいていない。とそこに、実は長髪男の仲間だったオレンジ服男が、浅子のハンドバッグをひったくる。身分がバレないように畑野はオレンジ服男を撃退、ハンドバッグを取り戻し浅子に接近するきっかけとなる。石原はオレンジ服男を追跡、長髪男共々捕まえる成果を挙げる。

 

畑野の目論見は成功、浅子とホテル中の島へと小船で渡るが、その様子をホテル屋上から武彦・純子が遠目で見つめ、さらにそれを関根・水木・三船主任が監視、どうも浅子と関連があるようであった。また、武彦・純子は昨日までの2日間ホテルから出ず、今日になって武彦が那智の滝へと出かけたが、ホテルから片道40分であり、浅子からの連絡に対応できるよう近場への観光に限定しているようにも見えた。三船班がここまで幅広くマークするのは、浅子が良一の行方不明後に昌夫と関係を持ち、別れた後、良一の保険金給付で動いている保険調査員の武彦とも関係を持ったことであり、さらには昌夫・武彦には、それぞれ典子・純子という相手がいることもあった。

 

そして、浅子の眼鏡にかなった畑野からのメモで、浅子の通帳から200万が動いたことを知った三船主任は、特捜隊本部・田中係長に連絡、その詳細を調べてもらうよう託す。しかし、こういった畑野の活動も、浅子への一本の電話で暗雲が立ち込める。太子町での出来事を双眼鏡で覗いていた男から、畑野は刑事だと浅子に伝えたからであった・・・。

 

 

当作を観ていて、非常に興味深いところが見受けられます。第1に、さんふらわあ号による奈良・和歌山ロケとして、#684 十津川絶唱 (以後、前作と称す)に続く作品であることは(備考)の通りですが、前作の本放送は1974年12月11日、当作の本放送は1975年2月19日と、おおよそ2カ月の間を開けています。これは、当作の直後作 #694 ある絶望の女 (本放送=1975年2月26日、以後は直後作と称す)は北海道ロケであり、東京を基点に西日本・東日本と分けた編成にして、2週続けて視聴者に注目してもらおうと戦略的に設定した印象があります。

 

第2に、直後作との関連で、石原刑事活躍譚となっていることです。つまり、当作は畑野刑事主役譚、直後作は松木部長刑事主役譚なのですが、いずれも石原が良い感じでストーリー展開をアシスト、作品に面白味を与えているのが注目されます。

 

第3に、畑野を演じる宗方勝巳にあります。本放送において、ロケ前作の#684 十津川絶唱 の翌週が#685 暗黒街ひとりぼっち で、畑野も登場していましたが、以降は特捜隊に登場が見当たらず、当作が約2カ月ぶりの登場でした。とはいっても、当作はロケ2本撮りですので、実質的には#685 暗黒街ひとりぼっち 以降も畑野は登場していないことになります(ちなみに、直後作も未出演)

→(追加訂正)R3.10,24

後年の目では、#695 現代母親教育論 以降は平常に戻ります。

 

wikiをみると、当作以降の宗方勝巳は、必殺仕置屋稼業(NET、1975年7月4日-1976年1月9日)の準レギュラーになっています。その共演者は、失礼ながら特捜隊とはかけ離れたビッグネーム(藤田まこと、沖雅也、中村玉緒etc・・・)が多いのです。ゆえに、「彼らに合わせなければならない事情」、その本放送までには、まだ猶予があるものの「溜め撮り」が発生、たぶん特捜隊での畑野刑事を観るのは、必殺仕置屋稼業放送終了までは希少となるでしょう。今振り返れば、#682 何が彼女を そうさせたか に畑野の代わり(?)に矢崎班の田坂(倉石功)が加わっていたことと、意味があったのだろうと考えさせられます。

 

さて当作の評価については、毎度のごとく粗は見受けられます。たとえば、昌夫殺害の詳細が不明な点、武彦を容疑者としてマークした理由が中盤になるまでわからないばかりか、水木が理解しないまま和歌山に来た点などがあげられます。

しかし、中途半端な青春群像の描写により、歪んだストーリーになってしまった前作の評価とは一変、スピーディーなストーリーで、ラスト6分のホテル・中の島を出て川岸(註・瀞峡か)でのクライマックスに至る流れは非常に面白い。また、犯人探しの興趣はやや劣りますが、ゲストで、浅子を演じた万里昌代、典子を演じた一の瀬玲奈の描写の比較の面白味でカバー、前作と比較しても生き生きと描写されています。特に一の瀬玲奈は、前作よりも当作の方が「らしさ」があり、個人的には当作の一の瀬玲奈の方が好感が持てます。まとめますと、「粗」が気にならない流れとともに、前作と当作と同じ監督とは思えない演出です。

 

前作脚本=樋口静生、当作脚本=元持栄美も、影響したのかもしれません。しかし、天野利彦監督は、#669 転落の詩 、#676 母の湖 の青森2作ロケでも「後者>前者」に仕上げており、今回の奈良・和歌山2作ロケも、その傾向が感じられます。

以前触れましたが、良い悪いはともかく、この当時の天野利彦監督は動き回るロケ作品より、どっしりと構えた一点突破作品が向いているような印象を受けます。ロケで2作品ということなら、乱暴ですが1作を捨て、あと1作を優れた作品に仕上げるという選択です。あくまで推測ですので正しいかどうかはわかりませんが、これは以後の作品で判明してくると思います。

 

そして、畑野を演じた宗方勝巳と、浅子を演じた万里昌代の組み合わせにも注目。当作でのコミカルな掛け合いは、#546 四匹の牝猫 を思い出します。このときも、2人のイチャイチャぶりに石原が何とも言えない味(存在感)を醸し出し、非常に面白かった印象でした。

そして、当作を上手く盛り上げたのは、冒頭で触れた石原刑事を演じた吉田豊明の役割も大きく影響しています。畑野から千円札を受け取った石原が三船主任に手渡す場面も、#691 三船刑事死す での、潜入中の三船主任から石原へ一万円札の束を渡す場面を想起させ、この前のことがデジャヴ(既視感)にならないのかと石原にツッコミたくなるのも印象的。

 

前述したように、畑野の出番が少なくなるような思いの中、これからは石原の存在感が重視されるのではと思われる作品でした。かつて「掲示板特捜隊 1」の>>18 にて、このブログでコメントを下さるシャザーンさんが、特別機動捜査隊(第705回)ドキュメント追跡 を紹介していました(この頃のネームは矢崎主任でした)。自分は、まだ実見していないので何とも言えませんが、上記の>>18 を読む限りは、紛れもない石原刑事主役譚であり、畑野不在時の三船班のキーパーソンとなっているようであります。その石原刑事主役譚への繋ぎとも思えるのが当作で、その特別機動捜査隊(第705回)ドキュメント追跡 も東映chで2019年9月19日に再放送の予定が立っています。

そういった点でも当作は興味を惹かれる作品であるととともに、佳作以上の評価にふさわしいものだと感じた次第です。