anotherとthe otherはよく模式的なモデルをもとに説明されます。それは一見分かり易くていいように見えます。ただし、これらの語を使うのに特別なルールが必要なのかを検討するものは見かけません。

 大半の和製文法書では「状態動詞は進行形にしない」というルールがあることを前提としています。しかし英米の文法書ではそのルール自体が見直され、動作動詞、状態動詞に限らず、一時性を表すときなどに進行形を用いることを認めています。「状態動詞」というカテゴリーを設けて特別扱いするのは意味がありません。

 

 anotherとthe otherは不定代名詞とされていますが、実はそもそも代名詞のカテゴリーに入ること自体が怪しいのです。特別扱いして模式的モデルを使って用法を説明をすること自体が妥当なのか、その根本から検証していきます。

 ネット上で公開されている典型的な説明の記事を引用します。

  

 

 ここに掲げてある(1)oneとthe otherは、よく対で使われます。

 

1)I have two sisters, one is older and the other is younger.

「私には2人の姉妹がいます。1人は姉で、もう1人は妹です。」

 

 1つの問題は【特定できればthe】というとらえ方が妥当かです。ここに引用した記事に添えられた動画でも「特定できないからone」「特定できるからthe」という説明をしていました。oneが特定しないもの表すのは確かです。しかし特定するかどうかは文脈により発話者が決めるもので、規則によって決まるのではありません。

 アニメの物語に出てくる表現と比較します。

 

2)Ella's new stepmother had two daughters. The older daughter was   tall and thin. The younger one was short and plump.

                         『Cinderella』Little Fox

 「エラの新しい継母には2人の娘がいました。年上の娘は背が高くて細身でした。

  年下の娘は背が低くてふくよかでした。」

 

 この用例2では、2人を紹介するのに、the olderthe youngerという表現を使い、それぞれを特定しています。そもそも2つのものを紹介するときに1つ目は特定できないなんてことはないのです。用例1のようにone、the otherと表現するか、用例2のようにそれぞれを特定するかは任意です。

 

 ここで取り上げるantherやthe otherの説明は、「複数の中から1つ1つ説明する」という観点から類似表現を体系化し、一貫した説明を試みようというものです。

 

 2つのものをそれぞれ紹介するときの表現と広くとらえて体系としてみます。

(a)one、the other one

(b)the older one、the younger one

 

 このように対比するとoneを特定しない場合と特定しない場合があるという見方ができます。言い換えると、(a)one、the otherを使うか(b)the older, the youngerを使うかは任意であることが分かります。

 このことは、次の文で検証できます。

 

 I am the older one between the two of us.

「2人のうち私の方が年上なんだ」

 The more you practice, the less nervous you'll feel before the  performance.

「練習をする量 が増えれば、パフォーマンスの前に感じる緊張はますます少なくなります。」

 

 これらの文は、いずれも2つのものを対比しているという見方ができます。「二人を比べて年上の方」とか「Aの方が増えれば、Bの方が減る」というように、theが「~の方」と特定しています。2つの選択肢のうち一方を特定することもあれば、両方を特定する場合もあると分かります。

 (a)だけをあげて、1つ目は「2つのうち1つに特定できないからoneを使う」という規則で決まったいるかのように捉えると、このように他の現象と矛盾してしまいます。(a)、(b)のように合わせてみておけば、2つのものがあって、それぞれを取り上げるとき、特定するかしないかは任意で決めることができるとわかります。

 

 次に、3つ以上のものをそれぞれ紹介するときを考えてみましょう。2通りの異なる用例を示します。

 

3)I have three books on my desk. One is a fantasy novel, another is a   mystery thriller, and the other is a non-fiction memoir.

 「机の上に3冊の本があります。1冊はファンタジー小説で、もう1冊はミステリー

  スリラーで、もう1冊はノンフィクションの回想録です。」

 

4)(This is the story of the three little piglets.)

 The youngest is the chubby, one playful and one playful and lazy.

 The one that follows is all about parties, a romantic and adventurous  one.

 And the eldest is the mature one. He is quiet and decided to his labor.

                 『Three Little Pigs』Clap clap kids

 (これは三匹の子豚のお話です)

 いちばん若い子はぽっちゃりしていて、遊び心があり、怠け者。

 次に来る子はパーティーに目がなく、ロマンチックで冒険心があります。

 そして上の子は大人びていて、もの静かで仕事熱心です

 

 用例3はone、another、the other「1つは~、もう1つは、~最後は~」として紹介しています。先に引用した記事(2)はこちらだけを挙げています。

 これに対して用例4は、the youngest, the one, the eldestとそれぞれをtheで特定しながら紹介しています。出典は3匹の子豚というよく知られた童話です。このように、3つのものを紹介するとき、1つ1つ特定するのはよくある表現です。

 1つ目をone、2つ目をanotheとするのは、説明の仕方の1つではありますが、そうしなければいけないということではありません。

 

 用例4のような場合、youngestが最上級だからtheを使うと言い方をすることがあります。このとらえ方は、用例2のときにthe older、the youngerと比較級にも使っていることとの整合性が取れません。他の例を挙げれば、比較級、最上級を使わなくても、the first、the second、the thirdのように特定していくこともできます。

 (d)の型は、(b)の型と同じくそれぞれを特定しながら説明するので、theを使っているのです。このように体系化すると、文法説明が一貫した原理として妥当かどうか分かります。

 3つのものを紹介するとき(c) one、another、the otherを使うか(d)the first、the second、the thirdのように特定した表現を使うかは任意分かります。

 

 実はotherの語源は、古英語では「2つ目の、2つのうちの2つ目の、1つ目とは別の」という形容詞だったとされます。secondはラテン語からのもので、今は「2番目の」という意味としてはこちらの方が普通です。つまり、otherが持っていた「2つ目の」という意味はsecondが担うことになったので、otherから1つ、2つという数字を表す概念「2つのうちの」「1つ目とは」がとれて、「残りの方の」、「別の」という意味で使われるようになったと考えられます。

 the other oneとthe second oneはもともと「2番目の方」だったのが、前者は「他に残りがない」という場合に、後者は「2番目の」つまり「まだ他にある」という場合に使い分けられるよになったということになります。このように対比することで、特定しない他の1つはanther one、残りの1つはthe other oneと表現する理由もわかると思います。

 

 3つ以上の数から紹介するとき、(c)のよう特定しない1つとするときと、(d)のよ1つに特定する場合のあるというのは、以前の記事で取り上げたthe tigerの2つの意味の違いにつながります。

 よく知られているように、the tigerには特定の一頭のトラという意味の他に、総称用法とされる「トラという動物」という意味があります。前者は、複数のトラtigersの中の不特定の一頭のトラがa tigeで、その一頭を特定したのがthe tigerだと説明されます。しかし、なぜ同じthe tigerが総称にもなるのかという理由はほとんど説明されないと思います。

 これは(d)のように1つずつ取り出して特定しながら紹介するという方法から考えます。tigersからではなく、動物(elephant, monkey、tiger,……)というカテゴリーの中から他と区別して他でもないトラだからthe tigerが総称になると考えるのです。それは動物図鑑や動物園のパンフレットなど複数の動物が前提とされる文脈で多くあらわれることも傍証になります。

 

 では、以上のことを踏まえて、otherという語の使い方の本質を考察していきます。実はanother、others、the otherの3つはそのまま主語にできるのですが、otherは単体では主語にできません。その理由がotherという語の本質を示します。それは、これまでこのブログで述べてきた英語の文法的仕組みから読み解くことができます。

 現代英語の単語は屈折失い、代わって発達した機能語と、固定化した語順が品詞を決めるのです。機能語は、文法的性質(品詞)を決める標識markerである、という言い方もしてきました。この見方をもとにotherと他の表現を比較します。

 

 other   another   others    the other

 

 比較すると分かるように、other以外の3つは、それぞれan-、-s、theという標識がある表現(有標)です。それに対してotherには標識がありません。この無標の形がその語の本質です。other単体で主語にできないのはyoungなどと同じです。つまり、another、others、the other が主語になり得るのは、an-、-s、theという標識が、無標のotherを名詞とみなし主語にするという文法的性質を与えているのです。言い換えると、otherという単語が代名詞という品詞なのではなく、標識があるから代名詞として働くことができるようになるのです。

 

 辞書によっては、otherを形容詞と代名詞の両方に位置づけています。そこにある用例を見ると、代名詞の方には無標のotherは無く、上記で示したような有標のものが載っています。つまり主語に使えるという結果から呼んでいるだけで、一貫性はありません。主語にできるものを丸暗記するしかないことになります。これに対して、有標のときに主語にできるという本質をとらえれば、丸暗記は必要なく、有標か無標かで見分けられます。

 これは無標のyoungが単体で主語にできず、the youngと有標にすれば主語にできることと同じです。otherはyoungなどと同じく、主に名詞の修飾に使う言葉であることを明確にすればいいのです。名詞のようにふるまえるのは標識の文法機能だと理解すれば十分で、品詞は後付けです。

 

 標識が単語の文法性を与えるというのは英語の文法の基本的な仕組みです。現代英語の根本的な原理の1つなので、多くの現象を一貫して説明することができます。次の用例のgivenの文法的な働きを考えてみましょう。

 

"In this field of study, it is a given that research must be conducted before any conclusions can be drawn."

(この研究分野では、結論を出す前に研究を行うことは当然のことです。)

 

 このgivenを文法的に説明するとき、従来の英文法では「givenは可算名詞だからaが付く」とします。これって、ほんとにそれで納得できるでしょうか。ちなみにこのgivenは「すでに与えられたもの」というような完了と受け身を兼ねた意味がコアになり「決まりきったこと」「前提条件」「当然のこと」のような意味になります。辞書には名詞として載っています。今の文法解釈では名詞とするしかないのです。

 機能語が標識として内容語に文法性を与えるという根本原理をもとにすれば、givenを名詞に分類する必要はなくなります。標識aが分詞のgivenを名詞化するという説明で充分です。これはanotherがan-という標識によって名詞化するのと何ら変わりません。実際にgivenを名詞として使うときには、a givenとかthe givensのように有標です。

 

 改めて、用例1~4のone、otherなどの表現を一貫した原理で体系的に見ていきます。まず、無標のotherは、youngerやyoungestと同じ資質の語で、anotherやothersは有標であることを以下の用例で再度確認します。

 

5)Another arrived late to the party, causing a delay in the start time.

「別の人がパーティーに遅れて来たせいで、開始時刻が遅れたんだ」

 

6)Others have expressed their concerns about the proposed changes   to the education system.

「他の人々は、教育制度への提案された変更に関して懸念を表明しています。」

 

 これらの用例は、標識an-や-sがotherを名詞化しているので主語に使っています。このとき標識を除いたotherのコアは「別の」「他の」を意味する名詞を修飾する言葉だと分かります。人を意味するのは標識があるからで、それはoneが省略されたとみなすこともできます。

 

 anotherやthe otherは一般の英文法書では不定代名詞として扱われます。体系性を考慮すれば、限定用法の形容詞ととらえる方がいいと思います。そのため、用例1~4の主語になっている語句を取り出して並べてみます。

 

用例1の主語 one / the other (one)

用例2の主語   the older (one) / the younger (one)

用例3の主語 one / an-other (one) / the other (one)

用例4の主語   the youngest (one) / the middle (one) / the eldest (one)

 

 複数のものを順に紹介していくとき、初めから特定する場合と特定しないでoneで始める場合があります。 

 特定するときは[the ~ (one) ]という型が基本になっています。the以外の何らかの区別する語句としてyoungerやyoungestなどを使うと自然です。この他first、secondなどの語でも構いません。これは原則であって規則ではありません。その他にバリエーションはあります。

 

 特定しないoneで始める場合は、2番目以降はotherを使うと自然になります。「1つは~で、他の1つは~」という感じです。ただしotherは無標なので、主語に使うときには標識を付けて使います。そのためanother、the otherといった有標の表現が使われるわけです。

 そのときan-other、the other(s)の使い方を制限しているのは、決定詞のaやtheという標識です。otherは「他の」「別の」という意味でoneを受けているだけです。another、the other(s)の使い分けは、実質otherを除いた決定詞aとtheの使い分けです。anotherとthe other(s)の用法に特別なルールなどなくaとtheの使い方に準じて使うのです。特別ルールをわざわざ作るよりaとtheのコアをつかんで拡張すればいいということになります。

 

 決定詞aは「不特定な1つ」を示す標識なのでantherは「他の不特定のもの」を指します。だから複数のものを順に紹介していくとき、oneではじめて、その他を主語にするとき、不特定にして続けたければanを標識にしたanotherを使います。このとき残りの1つは不特定ではありませんからanotherとは言いません。

 決定詞theは「他と違って」「他でもない」として特定する標識なのでthe other(s)は「(もう)他にはない」「これで残り全部」という意味になります。otherが「残りの」を意味するようになったのはsecondとの対比で述べたとおりです。oneで始めたときもそうではないときでも、「あと残り全部」と言いたいときにはthe other(s)を使うのです。

 

 従来の文法説明がこのようにaとtheの説明とanther、the otherの説明を切り離したのは、英文法全体の体型のとらえ方に原因があります。それは名詞、動詞、形容詞といった内容語を重視し、冠詞、前置詞といった機能語を軽視することです。冠詞という呼び方は名詞につける冠を言うことからきています。本体は名詞で冠詞はお飾りというわけです

 例えば「aは可算名詞に付く」とされます。これの原理をもとにするから名詞を可算か不可算に分類をすることになります。実際に物質名詞とか抽象名詞とか内容語の分類に熱心で肝心の機能語aは冠として付けるだけですからコアは関係ありません。

 また「特定できるものにtheが付く」という原理をもとにするから、先に引用した【特定できればthe】という無意味な規則が生まれるのです。これまでに見てきたように、aもtheも「特定できるかできないか」で使い分けるのではありません。文脈によっては慣用に従うことも多いのは事実ですが、基本は発話者が特定するか特定しないかを選択するのです。

 

 

※この記事はanother、the other等の表現について数回に分けシリーズとして書いています。文法は単文ごとの説明だけでは、生きた用例で身に着ける方が実践的だと考えています。次の記事②では、物語の文脈の中でが実際にどうのように使われるかを詳細に見ています。下にリンクを張っておきます。

anotherとthe other②―リトルマーメードの登場人物の描きかたから― | しんじさんの【英文法を科学する】脱ラテン化した本来の英文法はシンプルで美しい! (ameblo.jp)