言葉は、事実や想いを伝えるものです。ここでいう文法とは、言葉を正確に伝えるために参照するものです。一般の文法書にあるような標準語を守るための規範的規則とはとらえ方が異なります。実践的に使うことを想定しているので、できる限り実際に使われているものから学ぶのがいいと考えています。

 

 まず、antherとthe otherなど語のポイントだけ押さえて、実際に使われている用例を見ていきます。

 one、another、others、the other(s)は物語ではいずれもとくに焦点をあてない、いわば脇役に使う言葉です。基本的には、大勢いる中の誰か一人、他の誰か一人、その他大勢、その他残りの一人、その他残りみんなととらえます。

 話題にあげる、複数の中の1つあるいは複数を表す表現として広くとらえれば、焦点をあてたい場合はこれらもより特定性の高い表現を使います。主役など主要キャストは一般に、固有名詞やtheを使って特定する表現を使います。

 ただし、規則で決まっているわけではないので、あくまでも文脈によって、表現を任意に選ぶことができます。今回は表現選択の任意性に注目して、前回の理解をさらに深堀してきます。

 

 では、アニメ作品『Snow White and the Seven Dwarfs』Little Foxの用例で確認していきましょう。

 

1)Seven dwarfs stomped into the house. Picks and bags fell to the   floor. “Whew!”one dwarf said.“Working in the mines is hard work.   I'm starving.” “Me, too.”the second dwarf said. The third   nodded,“And me.” The dwarfs sat down at the table.

           『Snow White and the Seven Dwarfs』Little Fox

 七人の小人が家に入っていきました。ピックとバッグを床に放りました。

「ふぅ!」と1人の小人が言いました。「鉱山で働くのは大変だ。お腹rnがすいたな。」

「ぼくもだよ」と2人目の小人が言いました。

3人目はうなずいて言いました。「ぼくも。」

小人たちはみんなテーブルに座りました。

           

 この用例では、よくある物語のように、初登場の時は特定しないSeven dwarfsと無冠詞で表現されます。その後、一人目はone dwarfと表現されています。特定しないoneを使っているので、特に個に焦点を与えてはいません。その後、二人目をthe second dwarfと表現し、三人目をthe third dwarfと表現して特定はしていますが、特に個人に焦点を与えてはいません。

 このような場合に二人目、三人目をanotherと表現してもたいして変わらないと思われます。もしも一人一人の小人に焦点をあてるのなら、一人目からthe first dwarfとかthe eldest dwarfのような表現を使うのが普通でしょう。

 

 続いて、次の描写を見ていきます。

 

“Um…”The forth dwarf stared at his plate.“Where's my dinner?”The other dwarfs looked at their plates. There were seven gasps. The fifth dwarf jumped out of his chair. “Somebody robbed us!” The seven dwarfs looked under furniture. They peeked inside the cupboard. “I don't see anyone, ”the sixth dwarf said.

           『Snow White and the Seven Dwarfs』Little Fox

「ええっと…」と4人目の小人が自分の皿をじっと見つめました。「私の夕食はどこ?」「他の小人たちは自分の皿を見ました。7人が驚きました。5人目の小人は椅子から飛び出しました。「誰かが私たちを奪った!」7人の小人は家具の下を見ました。戸棚の中をのぞき込みました。「誰も見えないな」と6人目の小人が言いました。

 

 ここでも、基本的には小人たちは、一人一人はThe forth dwarf、The fifth dwarf、the sixth dwarfと順に登場してきます。

 The other dwarfsは、The forthが空になっている皿を見たのを受けて、それ以外のその他みんなを示しています。the othersと言っても同じです。

The seven dwarfsは、7人の小人たちみんなを表します。このようなtheは特定しているというより、みんなを表していると考えた方がいいでしょう。

 

 さらにこの場面の続きを見ていきます。

3)“Shh!”The seventh dwarf said.“Someone is sleeping in my bed.”He  held out a candle. The six other dwarfs hurried over. They peered at  Snow White. “She is beautiful,”one said. “Should we wake her?” 

 another asked.

           『Snow White and the Seven Dwarfs』Little Fox

「しーっ」と7人目の小人が言いました。「私のベッドで誰かが眠っています。」彼はろうそくを手に持っていました。他の6人の小人が急いで近づきました。彼らはスノーホワイトをじっと見つめました。「彼女は美しいね」と1人が言いました。「彼女を起こした方がいいかな」と別の小人が尋ねました。

 

 ここでThe seventh dwarfと7人目までが個として出てきたことになります。残りはもういないのでthe otherと言えなくもないですが、別に使わないといけない規則もありません。仮にone、another,……と並べたのならこれでもう残りはない、つまり最後ということを示すためにthe other (one)と表現するのが自然でしょう。その場合でもthe last oneと表現しても同じです。要は、自然な流れになるように表現を選べばいいのです。

 この用例に出てくるThe six other dwarfsは7人目を除いたthe残り6人みんなを指しています。これはthe othersと表現しても同じです。このtheも残りみんなを示すための標識で、特定して焦点をあてるという意図はありません。

 7人目の小人が個人として出てきた後も、小人一人一人はone、anotherと表現されています。初登場の時でもないので、ここまでの場面では、個人には焦点が当てられていないことになります。小人たちが登場してからスノーホワイトを見つけるまでは一連の場面です。この一連の場面では、スノーホワイトが残した痕跡から発見までの様子を描くことが中心になります。だから小人一人一人には焦点をあてていないと考えられます。

 

 この一連の場面に出てきたtheは他との区別によって特定し個人に焦点をあてるためではなく、慣用に従って使っているだけだと分かります。このブログで何度か指摘してきたように、theは単に特定するという以外に「複数から選択する」とか「他にはない」というコアがあると考えられます。the otherのtheは「他に(残りが)無い」という標識です

 

 次が一連の場面の最後になります。

 

4)The first dwarf shook his head,“Let her sleep.”The seventh dwarf  looked around.“But I don't have a bed.” The first dwarf shrugged.

 “We have six other beds. You can in each for an hour.”

            『Snow White and the Seven Dwarfs』Little Fox

最初の小人は首を振った。「彼女を寝かせておこう。」七人目の小人が周りを見回した。「でも僕にはベッドがないよ。」最初の小人は肩をすくめた。「他に6つのベッドがある。みんなのをそれぞれ1時間ずつ使えばいいよ。」

 

 ここでは小人ではなく、We have six other beds.という表現に注目したいともいます。小人は7人ですから、当然彼らにベッドは7つあります。そのうち1つのベッドにスノーホワイトが寝てしまったので、残りのベッドは全部で6つです。

 ここでは残り6つのベッドをsix other bedsと表現し、標識theを使っていません。用例3では残り6人みんなを示すときにはThe six other dwarfsと表現し、標識theを使っています。残り全部の時は特定できるからtheを付けるという規則があるのなら、これは文法的な間違いと思ってしまうでしょう。

 言葉は伝えたいことを表現するために適切に選択して使うものです。学習文法は規則ではなく参照するものです。the other(s)のtheは、残りはない、これで全部ということを示すために使う標識で、それを示したいときには慣用に従って使います。ここでは、まだ残りは6つもあるよということを言いたいのだから、theを付ける必要はないと考えればいいでしょう。

 

 theは多くの場合は慣用に従って使う方が自然な表現になります。しかし、特定できるから規則的に付けるものではなく、他と区別したいときに選択的に使うものです。大事なのは文脈に応じて使うことです。

 7人の小人の登場からここまで一連の場面はこれ終わりです。この日は小人一人ひとりには焦点は当たっていませんでした。そうは言っても小人たちは主要なキャストです。翌日には、目覚めたスノーホワイトに一人ひとり紹介する件があり、個人名で呼ばれることになります。その場面を引用しておきます。

 

5)“My name is Dar,” the dwarf said, He introduced the other dwarfs,

   “This is Mae, Par, Dar, Zar, Yar, and Star!”

           『Snow White and the Seven Dwarfs』Little Fox

 「私の名前はダー」とその小人が言いました。彼は他の小人たちを紹介しました。

「こっちからメイ、パー、ダー、ザー、ヤー、そいしてスター!」

 

 小人たちは、登場1日目には、one said、another askedという表現がつかわれていました。 2日目には、Darという固有名が紹介され、the dwarf saidという特定された表現に変わっています。残りの小人たちみんなも、それぞれの固有名を紹介されています。

 

 これまで見てきたように、one、another、the other(s)は基本的には、脇役など特に個に焦点をあてない表現としてよく使われます。しかし、主要キャストであっても初登場の時はoneなど不特定の表現を使い、あとで固有名など特定した表現を使って呼ぶというということもあります。

 小人たちの例では、登場1日目には、順にone、the (second, third,…,seventh) dwarfというように一人ひとり特定する表現を使ってはいましたが、個に焦点をあてるという意図はありませんでした。だから、7人目まで個人として登場しても、one、antherという表現が使われていました。

 英語では登場時は不特定の表現を使い、その後特定する表現を使うというのは情報の流れに沿った自然な表現方法です。ただし、それは規則で決まっているのではなく、あくまでも表現する人が選択して使うものです。

 

 最後にこれまで引用したものとは別のところが制作したアニメ作品『Snow White and the Seven Dwarfs』The Story Cornerの小人が登場する場面を見ておきます。

 

6)“What kind of magic is this?”said one of the Dwarfs, whose name   was Doc.

  “I wouldn't mind more magic like this!”said another of the Dwarfs

  with a smile. He is name was Dopey.

  “We'd better check upstairs,”said another Dwarf, whose name was   Grumpy.

      『Snow White and the Seven Dwarfs』The Story Corner

「これはどんな魔法だ?」と、ドワーフの一人であるドックが言った。

「こんな魔法がもっとあってもいいな!」と、もう一人のドワーフで、名前はドーピーという者が笑顔で言った。

「上の階も確認した方がいいだろうな」と、名前がグランピーという別のドワーフが言った。

 

 この作品では、7人の小人をone of the Dwarfs、another of the Dwarfs、another Dwarfと表現しています。これは、one、another、another……というパターンです。しかし、この作品では、登場する都度、一人ひとり固有名を紹介していきます。

 先に紹介した作品では、1人目をone dwarfとして、2人目以降はthe (second / third / … / seventh) dwarfという表現をしていました。紹介の仕方は一様ではなく、任意に選択して使うものだと分かります。

 

 以上、前回に引き続き、複数のものを順に紹介する表現として、one、another、the other(s)やthe (first / second / … ) oneのような使い方を物語の文脈に沿ってみてきました。

 文法は、単語や単文ごとに規則として説明されることが多いものです。生きた表現の中で使われる表現を追っていくと、また違って見えるのではないでしょうか。

 

 このブログでは子供向けの絵本やアニメをよく取り上げますが、それには理由があります。第一にふつうの会話で使うinformalな口語の表現も適度にでてくるので自然で実践的です。第二に英米の子供向けのコンテンツは教育的配慮がされ、成人向けには出てくるようなスラングなどはほとんどありません。第三にシナリオに基づいていて、制作の過程で何重にもチェックされているので信頼がおけます。

 実践的な文法は、雪玉を創るときの核になるようなものがいいのではないかと考えています。雪玉を転がしていくように、多くの生きた用例にあたりながら表現を身に着けていくというようなイメージです。ここでの見方が、今後の学習の核の1つになって大きな雪玉ができればうれしい限りです。

 また、これをきっかけに、今後出会う多くの生きた用例から、新たな見方で上書きしていくのもいいとも思います。

 

 

 ※今回の記事はanother、the otherの使い方をシリーズとして書いています。はじめて読まれた方にも分かるように心がけて書いているつもりですが、前回の記事と合わせてお読みいただくと、より理解が進むものと思います。

 下にリンクを張っておきます。

anotherとthe other②―リトルマーメードの登場人物の描きかたから― | しんじさんの【英文法を科学する】脱ラテン化した本来の英文法はシンプルで美しい! (ameblo.jp)