2302 :マイクロホンの隠れた罠、EMC(電磁環境両立性)#1 | ShinさんのPA工作室 (Shin's PA workshop)

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  マイクロホンの隠れた罠、EMC(電磁環境両立性) #1

(筆者のEMCプロフィールが記事末にあります)

 

❤ マイクはどんなに音が良くてもそれだけじゃダメなんです、どんなに良くても・・・

 

EMC (Eelectromagnetic compatibility= 電磁環境両立性)

とは一定の電磁界を受けた悪環境でも正常に電子機器を動作させる技術(EMS)+電磁妨害(EMI)、その両立化保証技術を指します。

デジタル機器では電源及びI/Oから侵入する「インパルスノイズ」耐力およびESD(静電気放電)耐力を主としてきました。

近年では放射電磁界を加え、いずれも機器の正常動作を保証させることが目的です。

 

これが低い場合デジタル機器では「誤動作」という障害を起こし、アナログではクリック音や連続したノイズとして聴こえてしまうことがあり、その対策法はデジタルの場合と同様です。

 

EMC技術とは「予期しない障害電磁界(EMI)を予期し」正常動作を保証させる技術」と認識しています。

 

 

 

アナログ機器の場合は、従来ならハム音を防止する商用電源周波数(50Hz/60Hz)を対象とした静電シールドおよび電磁シールドが古くから用いられて来てそれで十分でした。

しかし昨今の電磁環境の変化により、高周波域を対象とし、その周波数はなんと6GHz程度まで及ぶ高度な対策が求められるように大きく変わりました。

 

電車にサイリスタチョッパが導入されはじめた頃から電車内ではAM放送受信がノイズまみれになり、舞台上は調光ノイズがマイクに混入し、エレベーターがインバーター制御となると誘導ハム防御では足りず数MHzまでの対策を必要とする事態となりました。

 

 

  マイク吊り回線の当たりはずれ神話

ホールにより吊り回線の品質は良好~劣悪まで存在するのは既知の事実です。

本来死活問題となるがそのカラクリが語られ、明かされることはまずない、たいていは多点GNDGNDループ問題に目くらましされ、本質から逸らされて見誤っている現状がある。

 

「アース神話」同様、古くから「フツフツ」と存在して、だんだんとXLRコネクタの1番と金属シェルとの切り離しが推奨されるようになり、マイク回線のEMC環境は原理原則から遠のいていったことに筆者は危険性を感じていました。

 

17年前、2006年突然こんな発表があり、「何を考えているんだ」とビックリした経緯があります。

 

 

この文書の通り作ったケーブルを多点中継して100m、200mと延長敷設した場合何が起こるか、「吊り回線」で200m以上はザラなだけに考えただけでも「ゾッ」とします。

もしホール施工時にこの通り処理し多点中継された超ロングケーブルが壁内配線されていたら特に高周波域のEMCイニュニティは極端に低下して問題を起こすことは火を見るよりも明らかであり、現に問題を起こしています。

 

このことは最近、MIDASKLARKTEKNIKを扱うVestec audio社でも2022年8月付の「AES50ケーブル」の技術FAQにて私と同一趣旨の指摘事項を公開しています。

 

 

 

(アナログで起こる問題は50/60Hzのハム音とは限らず、そのほか一定又は間欠的ランダムなノイズ音となり、マイク音声を見事に汚してくれます)

 

それは平衡度アップやコモンモード対策はあまり役には立たないノーマルモード(ノルマルモード)ノイズだからです。

 

ホールのマイク回線のこの問題は現状の否定が鍵、アナログレベルで必ず解決できると信じています。おそらく本質となる対策ネタは「常識」の範疇にはないでしょう。

 

 

 

EMC評価法

各イミュニティ測定などメーカーではシミュレーターや各種機器による数値化・評価が可能ですが、測定サイト(専用敷地)、電波暗室や測定ベンチ、など自作者個人で負えるものではありません、そこは代替手段で評価するのが適切と考えます。

 

2020年 IEC61000-4-39が制定され、より新しい電磁環境に沿った試験法が国際的に定められました。

それによれば9kHz~6GHzに至る超広帯域について帯域を分割したそれぞれの試験方法が定められており、それに対する耐力(イミュニティ)評価となっていますが、それ自身いまだに試行錯誤をひきずっているように感じます。

 

個人レベルでは「測定」は困難としてもマイクロホンEMCの実質的な聴音評価は可能と考えています。

むしろノイズ発生側の実質的な広帯域簡易シミュレーション法を考え出したいと思います。

 

 

 

 

対象ノイズ源、周波数など

 

1.商用電源周波数50または60Hz、すなわち「誘導ハム耐力」

2.SCR調光ノイズ(2~8kHzの高調波は数MHz以上に及ぶ)

3.中波放送送信所周辺での放送波の回り込み・検波障害(~1.6MHz)

4.エレベータのインバータノイズ(10KHz~450KHz と広帯域であり電界強度100dBμと中波放送波並の対応が必要)

4.至近距離の携帯電話(端末からは待機時にも間欠発信されている)700MHz以上及びWifi電波の影響(リハでは発生せず客入り状態の本番で発生しやすいのが特徴)

 

◎ハム防止対策が万全でも他のプロセスからの影響には無力であり、現在の新しい「外乱」条件に対応することこそEMCの基本といえる。

 

対策

ノイズ対策(EMC)には押さえどころがあります

1つは「筐体構造」、もう1つは「回路上」の対策ですが、接続ケーブルの問題はもっとも大切ながら見落とされがちな点です。

 

ただしどれも同じプロセスに向き合いますが筐体構造の低インピーダンス化を徹底的に追及することが最優先、回路上対策では音質の劣化を招かずに効果を上げる方法をとる。

敷設されたケーブルのEMCはさらに独自のプロセスが考えられます。

 

肝心なのはそのすべての相乗作用でEMC耐力(イミュニティ)のUPをはかることに尽きます。

 

*前記事(2229) EMC対策例

 

 

 

 

 

 

 

ノイズ対策の誤解について

 

金属で覆えば万全か:ノー

アース(大地接地)すれば万全か:ノー

 

 

上記 その1・2では機器のシャーシーなど最大サイズの金属部とアルミホイルとの間はハイインピーダンス導体、すなわちコンデンサとして容量結合し、何もないときよりも外乱に対して不利となる。

 

アルミホイルはシャーシーと接続してアルミホイル~シャーシー間は同電位の疑似グランドを形成しインピーダンスを持たせないこと。

 

プラスチック筐体ではベースとなる金属シャーシーなどグランドプレーンとなる基準金属を置く。

 

金属部が複数に分かれる場合ばすべての金属を「高周波インピーダンス」の低い接地法で基準金属(GP)に接地し同電位(大地間0V)を保つ。

 

 

現状

 

 

上記の考え方はマイクロホンでも同一、その一例を図解します

 

 

 

 

 

筐体廻りEMCのポイント

 

・見えない回路を頭の中で見る(分布定数回路での判断に尽きる)

・系のインピーダンスは高周波領域で見る

 

 

(筐体構造)

1.実回路+等価回路(分布定数回路)であらゆる動作を考える

見えない回路(分布定数による等価回路)を見ること(置き換え判断)こそがEMCのカギです

 

2.金属筐体は一つのファラデーシールドで完結させ「0電位」導体で覆うことに意味を持つ

 

3.筐体上、分散金属によるハイインピーダンス部分を作らない

 

4.分散金属は高周波的に共通化させ接地(仮想接地)させる

 

5.塗装は絶縁物、金属同士接触部は剥がす 「菊座金」は接合部インピーダンス低下の良ツール。

 

6.ネジのペイントロック禁止(接合金属部を絶縁分散させる不適材料です)

 

7.プラスチックなど非金属筐体では機器を構成する最大金属部を「仮想金属筐体」として考え、グランド・プレーン(仮想接地部)とする

 

 

 

(接地=アースに対する考え方)

 

1.「実接地」の害を回避した「仮想接地」こそがEMC上の接地です

 

2.1種接地、2種接地といった「実アース」に「ノイズ防止=排除」能力を求めるべからず、「接地したら良くなった」はますます矛盾のるつぼにハマる

 

3.多点接地と1点接地は原理原則で使い分け「多点接地」を無条件で悪者にしない

 

 

 

 

(筆者EMCプロフィール)

筆者は4ビット~8ビットというデジタル黎明期、某専業メーカーに居ました。機械式から置き換わりつつあった電子式キャッシュレジスター(ECR)、そして通信機能の加わったPOSシステムも現れた、そこで次々発生する「誤動作」に強制リセットで間に合っているうちはまだいいが仲間の技術者たちと「修理」の次元を超えるような異常ともいえる基板交換、IC交換に明け暮れるも再発を繰り返し、徐々にメーカーとして信頼を失いつつありました。しかし同業他社も似たりよったりであることもわかり「今やっていることは根本的になにかが間違っている」という認識に立ちました。そして誤動作は特に冬場に多く発生する「季節性」があることは重要な解決のヒントだと理解した、また電源ノイズ、静電気放電ノイズにより論理反転・ラッチアップなどによる障害が起こっていることを突き止め、ヤミクモな対応では解決できない事を知った。

 

電源ノイズを記録する米国測定器メーカー「ドラ〇〇ツ」社の高価な装置を導入(当時300万)・・・しかしその電源ノイズによって測定器自身も誤動作していたというヨタロウ話のような馬鹿げた経験もした。これは1度も役に立つことなく、のちに廃棄した。

 

デジタルいけいけ時代、「アースすれば良い」、「ノイズフィルター」だ、「ソフト対策が一番いい」、「シールドすれば・・・」という周囲の安易な教科書のような意見はいったん全部振り切りました。ノイズ対策といっても実践で役に立つ参考書など皆無でした。

 

ネットもPCもない時代の知識習得法は想像を絶するほど困難だがふと、学術研究者との会話の中に糸口が見え、研究室に日参した。会社は「金のことは考えなくていい」という約束で筆者に丸投げして来ました。当時まだほとんど知られていない「EMC」の概念を調べながら複数のシミュレーター装置を配備して評価を始めた。そして製品レベルはボロボロであることがわかってきた。(コモンモード800V、ESD 1.5KVでCPU停止というレベル)、会社存亡の危機の中で時間はない。昼夜、原理原則に従い自分の思いついた方法を試しながらまた朝を迎えた。

ハードウェアと筐体構造、基板上の電源系低インピーダンス化、通信I/Fを中心に対策を実施していき、イミュニティ測定数値は上がっていった、しかしそれに一喜一憂しているひまはない戦時体制。

 

コモンモードノイズ4KV、ESD 10KVを合格ラインと定めた。基板はジャンパー線とパスコン、GP銅板のお化けとなったころ誤動作は激減し、「イケル」と判断できた。

このころになるとACプラグに付いる緑のアース線は何の役にもたたないことが判明したが、筆者の手法に懐疑的な意見も渦巻いていた、しかし観点の異なる周りの意見は「雑音」と無視して突っ走った、確実に改善できる見通しがついた以上それに全精力をそそぐ事は当然だからです。

はっきりと見通しがつき全社の協力体制で個々客先製品の回収手当でノイズトラブルはしだいにおさまっていきました。そのようにして製品と会社は危機からよみがることができた、そんな貴重な経験があります。

 

先行事例は業界内ですぐ広まり、鎌倉方面、奈良、大阪方面の家電大手数社にも出向き、「バンデグラフ法」などというQA・QCの評価手法の誤りを指摘レクチャー、改善させていった黎明期の「EMC屋」ということになり、現在でもノートPCなどにその思想が受け継がれており、その後これを「EMC設計」と呼ばれるようになりました。

EMC技術は無線技術そのもの、40年前の経験ではありますが本質は普遍、現代的に焼き直しが必要ではありますがホールのマイク回線のこの問題は現状の否定が鍵となりアナログレベルで必ず解決できると信じています。

これだけは言えますが本質となる対策ネタは「常識」の範疇には絶対にありません。

 

 

マイクロホンと吊り回線トラブルの問題はこの「デジタル黎明期」の事実にこそ、その本質的解決のカギが隠されていると考えます。

 

             #2に続く

 

 

 

 

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