BLACK CHERRY -4ページ目

BLACK CHERRY

JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

 Joe Hendersonほど過小評価されているMusicianはいないだろう。Sax奏者としてもComposerとしてもBandleaderとしても、ジャンルを越えて飽くなき音楽への探求心と創造性に満ち溢れていた60年代後半~70年代のHendersonが、ようやく再評価されるようになったとはいえ、Hard Bopを演奏しながらBebopの伝統のみならずR&BLatinAvant-Gardeまで取り入れたキャリア初期のHendersonをバンドに迎え入れたHorace Silverがそうであったように、まだまだ成し遂げてきた偉大な功績に対して評価がまったく追いついていないBlue Note期90年代以降のVerve移籍後はともかく、一番重要となるHendersonのMilestone時代に残した名作の数々は未だにピント外れの評価をしている頭の固いJazz評論家がいることは残念である。フォービートであることに拘り電気楽器の使用を嫌悪する古い価値観に捕らわれたJazzファンがいることは仕方がない事かもしれないが、Hendersonがジャンルの垣根を越えて追及した独創的でInnovativeな挑戦こそがBluesRagtimeAfro-CubanGospelTraditional MusicLatinR&BClassical Music異種配合してきたJazz本来の進むべき道のひとつでありProgressiveなJazzといえるだろう。San Franciscoに移住した後のHendersonはNew Yorkと距離をおくことによって独自の音楽性を深化させていった。また78年から82年までSan Francisco Conservatory of Musicで教鞭をとり教育者としても多大な影響を与えた人物といえるが、何より、そのジャンルを越境しながら挑戦し続けた姿勢は、Hendersonに影響を受け、アルバムにCreditをするようになったMichael Breckerのみならず西海岸から登場したKamasi WashingtonThundercatMiguel Atwood-Fergusonといった現代の新世代ともいえるJazz Musicianにも継承され、強く影響を与えていると思われる。

 

 『Multiple』はJoe Henderson73年Milestoneからリリースしたアルバム。前作『Black Is The Color』から参加しているベースにDavid Holland、ドラムスにJack DeJohnetteに加えて鍵盤にLarry Willisという強力な布陣。本作も前作同様にOver Dubbingを効果的に使っている点が興味深い。

アルバム1発目は“Tress-Cun-Deo-La”。なんといきなり呪術的なVoiceが飛び出してきてビックリ。James Blood Ulmerがギターを弾き(あくまでバッキングのみでソロは弾かないので過度な期待は禁物)、エレピがCoolに響く中、HollandとDeJohnetteによる強力なリズム隊をバックにHendersonはTenor Saxで自由奔放にBlowしていく。HendersonのVoiceとFluteSoprano Sax、Ulmerのギターは後からOver Dubしたものだろう。Arthur JenkinsのPercussion、Congasが効果を上げている。

Jack DeJohnetteが結成したCompost72年Debut Albumにも収録されていたDeJohnette作の“Bwaata”はHypnoticなエレピ陽気なMelodyのContrastが面白い。牧歌的な曲調のこの曲が登場して仄々としているのも束の間、

Song For Sinners”でもWillisが弾くMagicalでMeditativeなエレピをバックに再び不気味なVoiceが登場する。ここではJohn Tohmasがギターを弾いている。

David Holland作の“Turned Around”ではHendersonのTenor Saxソロが炸裂。これは最高。そしてLarry WillisImaginativeなエレピ・ソロもイイ感じ。

アルバム最後を飾るのは、このアルバムでHenderson3曲目の自作曲“Me, Among Others”。ここでもWillisのMysteriousなエレピで始まり、HendersonがFree気味に飛翔していくソロが圧巻

(Hit-C Fiore)

 Barrington LevyJamaica南端島の丁度東西の中間部に位置するClarendon生まれ育ったReggae Musician。無事是名馬と言われるけれど、70年代後半15歳という若さで突如Sceneに登場したLevyはDancehall時代に活躍し、長期に渡る成功を収めて現在も活動を続けている。個人的にDigitalの波が押し寄せる前のDancehall Scene、具体的には80年代前半という時代のこの辺の音というのが大好物で、Roots Raggeの名残りを残しながら、SweetでLoversなReggaeと同時進行で魅力的なReggaeを聴かせてくれるのがたまらない。Reggaeが世界的に注目を集め音楽的、文化的にも大きな影響を与えていった時代Dancehall Reggaeの全盛期といっても良い時代にBarrington Levyは輝きを放っていた一人である。81年5月Bob Marleyという巨星が墜ち、KingstoneのDancdhallという原点に再び戻ってみた時に、Levyという存在が英国をはじめ、やがて世界的に成功を収めるようになる、Jamaicaを代表するDancehall Singerとして人々を魅了し続けてきた事実は大きい。77年に従兄弟のEverton Dacresと共にMighty Multitudeを結成してSingle“My Black Girl”をリリースした翌年からSoloとしての活動を開始したLevyはProducer Hyman WrightHenry "Junjo" Lawesと共にThe Roots Radicsと数多くの録音を残し、これらのRiddimDancehall Musicの誕生に結びついていった。82年にリリースされた本作もBassist Errol "Flabba" Holt、Drummer  (Style) Lincoln Scott、鍵盤のGladstone Anderson、ギターのBo-Pee Bowen、PercussionのNoel "Scully" SimmsらThe Roots Radicsの面々が演奏を担当し、MixはScientist、ProduceはLinval Thompson。Radicsの演奏はやはり最高で、80年代前半独特の、ゆったりとして甘やかな空気感がたまらない。そしてLevyの独特のVocal、勿論文句なしである。

 

 『Poorman Style』はBarrington Levy82年Clocktower Recordsからリリースしたアルバム。

アルバム1曲目は“She Is The Best Girl”。マッタリしつつもギターのBo-Pee Bowenのキレの良いカッティングとGladstone Andersonのピアノがメチャクチャ心地良い。

Don't Give Up”もユッタリとした懐の深いリズム隊にのってギターのOctave奏法なども交えた音数をギリギリまで絞った気持ち良すぎる演奏が最高。

Sensimella”はLevyの情感を湛えた切ないVocalが良き。

True Love”もLevyの哀感を感じさせる直向きなVocalが沁みますなあ。

タイトル曲の“Poorman Style”ではSimpleなバックの演奏と 'Mellow Canary'と呼ばれるLevyの歌声が絶妙の味わい深さを生みだしている。

This Little Boy”は多幸感に満ち溢れたアルバムで一番好きなナンバー。Dubも気持良すぎ

Rob And Gone”も高揚感漂うイントロからご機嫌なMellowでSweetなナンバー。Organが最高

I Can't Wait Too Long”はLevyの独特の歌声とDub効果が気持ち良すぎ

Man Give Up”はイントロのピアノが最高哀感を湛えたLevyの歌いっぷりも素晴らしい。

アルバム最後をシメる“I Love, I Love You”。タメのきいた懐の深いリズム隊訴えかけてくるようなLevyの哀愁に満ちたVocalがグッとくる。

Poorman Style/Barrington Levy

(Hit-C Fiore)

 The Jazz Crusadersより前にThe Crusadersを聴いていた自分は、Jazz Barで偶然聴いた、Joe PassをGuestに迎えた64年作『Stretchin' Out』でムムムッとなり、60年代前半Pacific Jazzからリリースされた彼らのアルバムを手に入れるようになったのであった。Texas州HoustonWheatley High School時代の友人だった鍵盤奏者のJoe SampleとTenor Sax奏者Wilton Felder、DrummerのNesbert "Stix" Hooperは、54年The Swingstersというバンドを結成し、最初はJazzとR&Bを織り交ぜたような音楽を演奏していたが、そこにTrombone奏者のWayne HendersonとFlute奏者のHubert Laws、BassistのHenry Wilsonが加わってバンドはHard Bop寄りの音楽を演奏するようになっていく。Modern Jazz Sextetと改名し、R&B色強い音楽を演奏する時はThe  Nighthawks (Nite Hawks)を名乗るようになる。60年、SampleとFelder、Hooper、Hendersonの4人Los Angelesに移り、次々と異なるBassistを迎えて5人組The Jazz Crusadersを結成する。既にHard Bopの黄金時代は終盤に差し掛かっていたものの61年Pacific Jazzと契約して8年間で16枚のアルバムをリリースした。HedersonのTromboneとFelderのTenor SaxをFrontに配し、Hard BopをRootsに、R&BやSoulへの傾倒を感じさせる彼らのJazzは目新しさや独創性こそないものの、Hard Bopの熱狂からMode、Free、そしてSoul Jazzへと移り変わっていった時代に、頑なに伝統を継承したEarthyなJazzで、安心して楽しませてくれる。LAに行ってもTexas魂というか荒々しくもカラッとして気風の良いJazzは聴いていて気持ち良い。決してJazz Messengersの亜流ではない。あくまでも個人的な好みでいけば、Jazzが付いていた時代のCrusadersの方がツボである。本作ではベースがJimmy BondからVictor Gaskinに交代している。

 

 『At The Lighthouse』はThe Jazz Crusaders62年Pacific JazzからリリースしたLive Album。彼らとしては3作目の作品で、タイトル通り、その後も3作のLive Albumを発表していくCalifornia州はLos AngelesHermosa BeachにあるNightclub Lighthouse Caféでの62年8月5日6日に行われた演奏を収録したアルバムとなる。アルバムには1曲を除き全てメンバーの手による新曲が収録されており、荒削りではあるが、イイ感じでRelaxしながらも、Liveならではの瑞々しく充実した若さに溢れる演奏を楽しむことが出来る。

アルバム1発目はWayne Henderson作の“Congolese Sermon”。勢いのある2管Themeで始まり、HendersonのTrombone、FelderのTenor Sax、Sampleのピアノの熱気あふれるソロが続く。荒いけれど若さ漲る演奏が良い。

続いてもHenderson作の“Cathy's Dilemma”。こちらはゆったりとRelaxしてTromboneソロ、Tenorソロと続く。シメのSampleのピアノ・ソロがご機嫌でFunkyに歌いまくり

Stixx Hooper作の“Blues For Ramona”。タイトル通りこれが実にイイ感じのBlues。先発のSampleのFunkyなピアノ・ソロが良き。HndersonのTromboneソロもイイ味出している。

Joe Sample作のBlues“Weather Beat”も実にRelaxしたイイ感じで、ピアノ・ソロもご機嫌。FelderのTenorもHenersonのTromboneも歌っていて、やっぱりこういう曲は和みますなあ

続いてもSample作のEarthyな味わいがたまらない“Scandalizing”。ここでの気合の入ったFelderのTenorソロが素晴らしい。

アルバム最後をシメるのはJackie McLean62年リリースのアルバム『Jackie's Bag』修録の“Appointment In Ghana”。俺らModalでもやれまっせ的な、これはカッコイイ。

Weather Beat/The Jazz Crusaders

(Hit-C Fiore)

 Angelo BranduardiのアルバムはLive AlbumやSoundtrack盤を含めて優に30作を越えているはずだが、88年にリリースされた、『パンと薔薇』というタイトルが付けられたこのアルバムを初めて見た時に、本当にBranduardiの作品なのかと、思わず目を疑ってしまった。まるで米国の人気歌手のごとくうっすら笑みを浮かべてこちらを見ているBranduardi。あまりにらしくないが故に、コレは絶対に何か理由があるはずだとばかりに好奇心もあって、何の迷いもなく思わず手に入れてしまったのだった。70年代に名作の数々を世に出したBranduardiはCantautoreとしてItalyから羽ばたき欧州各国での成功世界的な認知度の高まりを手に入れ、実りと充実の時期を迎えていくのであった。80年になるとLive AlbumConcerto』をリリースして自ら企画した"La Carovana del Mediterraneo"にはStephen StillsやGraham Nash、Richie Havensも参加した。81年には盟友Maurizio Fabrizio不在であるが、歌詞にも変化の兆しを感じさせるAngelo Branduardi』をリリースしBranduardiの輝かしい80年代は更なる飛躍を遂げようとしていた。Branduardiの80年代といえば、映画音楽にも挑戦して成功を収め(どうでもいいが端役で出演も果たしている)、Irelandの詩人William Butler Yeatsの詩に曲をつけた『Branduardi Canta Yeats』で中世音楽世界のTraditionalな民族音楽を組み合わせた従来の音楽性を電子楽器を使わずに、Simpleに装飾をそぎ落としたStyleで傑作を生みだした。そして本作である。Branduardiは、"Menestrello"と呼ばれていたそれまでの自分のイメージを変えてみたくなったのか、Label側が要求したのか、理由はわからないが音楽性も従来の路線からBluesyでAmbientな趣きも感じられる実験的な方向性へ踏み出していく。ジャケットのイメージもあって最初は面食らったアルバムであるが、後に落ち着いて聴いてみると、あえて冒険に挑んだBranduardiの、これはこれで中々の傑作ではないかと思った。今ではお気に入りの一枚である。

 

 『Pane E Rose』はAngelo Branduardi88年にリリースしたアルバム。

アルバム1曲目は“L'Albero”。Ry Cooderの“Paris-Texas”を引用したAcoustic Guitarの爪弾きに続いてBranduardiが無伴奏で歌い出すBranduardiの真摯な歌声に思わず襟を正してしまう。

BranduardiのViolinで始まる“ 1° Aprile 1945 (Dalla Lettera Di Ernesto Che Guevara Ai Genitori)”。Ernesto "Che" GuevaraBoliviaに旅立つ前に両親に宛てた手紙に基づいている。CalypsoTangoが融合しClaudio GuidettiのChapman Stickがイイ感じである。

Il Primo Della Classe”は80年代的なElectric Reggae風味であるが安っぽさが全く感じられないカッコイイ仕上がりMaurizio FabrizioのAcoustic GuitarとBranduardiのVocalはやはり素晴らしい。

Frutta”はフェロモン濃度高めのPietra Montecorvino官能的なVocalとBranduardiの掛け合いが素晴らしい。Brasil/Latinの香りが漂うのも最高。

MarimbaPietraChorusTropical気分を盛り上げる“Miracolo a Goiânia”。

Tango”もゆったりとしたBeatにのってAcoustic Guitarの爪弾きPietraVocalがBranduardiのVocalを盛り立てる。BranduardiのViolinも良き

Scatolette”もBranduardiのVocalを支えるBluesyなGuitarAcoustic GuitarのEnsembleが素晴らしい。

Angelina”も中南米的なRhythm Approachとアコギが最高に心地良い。

Fame Di Sole”はこれまでのイイ感じの雰囲気をぶち壊すような80年代Genesis風Pop SongMelodyが魅力的なだけに残念。

Barbablù”はPietraとのDuetMarimbaAccordionがイイ感じの、これまたBrasilの香りが漂うナンバー。

アルバム最後をシメるのは“Benvenuta, Donna Mia”。Time  Slipして中世と米国の長閑な南部を行き来するような奇妙な感覚が良い。

Frutta/Angelo Branduardi

(Hit-C Fiore)

 B.T. Expressは、個人的にこの1st Albumが一番お気に入りである。New YorkBrooklyn70年代前半に結成されたFunk Dico Group B.T. Expressは、Brass ConstructionJeff LaneProducer/Songwriterとして関わっており、元々はKing Davis House Rockersという名前で地元のDance Bandとして活動し数枚のSingleをVerveからリリースしていた。Sax奏者Bill RisbrookとギタリストのRich Thompson、そしてドイツでAlbert MangelsdorffKarl Bergerと共演しJohn Coltrane OctetDon CherryPharoah SandersMcCoy Tynerとも仕事をしているPanama生まれのSax奏者Carlos Wardsというメンツで、Billの弟のBassist Louis Risbrookや女性Singer  Barbara Joyce Lomas、 ドラムスのOrlando Terrell Woods、CongasのDennis Roweが加わりMadison Street Expressとなり、ProducerのJeff LaneとRoadshow Recordsと契約、名前をBrooklyn Transit Expressに変えてScepter Recordsから74年にSingle“Do It ('Til You're Satisfied)”をリリース、同年にDebut Albumとなる本作もリリースしている。ProdeceはJeff LaneとTrade Martin、Brass ConstructionのRandy MullerがStrings Arrangements、RemixはTom Moulton。B.T. Expressには80年代に一世を風靡するKashifが10代の時にMichael Jones名義で鍵盤奏者として参加していたことでも知られているが、やっぱり70年代前半イナタく埃くさいFunkでグイグイ迫ってくる、この頃が最高である。同じRandy Muller、Jeff Lane絡みのBrass Constractionに比べて、よりStreetっぽくNastyで、良くも悪くも下世話な感じがたまらなく魅力的である。ジャケットもまた最高である。80年代の作品が日本では人気が高いけれど、この70年代前半の猥雑な感じは何ものにも代えがたい。

 

 『Do It ('Til You're Satisfied) 』はB.T. Express74年にリリースしたアルバム。

アルバム1発目はUS R&B ChartUS Dance Chartで見事No. 1を獲得した大ヒット曲“Express”。高らかに鳴らされるHorn隊小気味よいカッティング・ギター低音で蠢くぶっといベースにRandy Mullerによる洗練されたStrings Arrangementsが冴えわたるインスト曲。

If It Don't Turn You On (You Oughta' Leave It Alone)”はイントロからご機嫌な重心の低い腰にクるFunk.。Coolにキメる低音のVocalFunkyなカッティング・ギター切れ込むStrings、最高っすなあ。

Trade Martin作のイナタいFunkOnce You Get It”。ぶっとくウネるベースとSoulfulなVocalに畳み込むHorn隊が最高。

Barbara Joyce Lomasパンチの効いたSolfulなVocalがイイ感じの“Everything Good To You (Ain't Always Good For You)”。

Trade Martin作の泥くさいFunk“Mental Telepathy”。男性Vocalに絡むBarbaraのVocalがイイ味を出している。

US R&B ChartNo. 1Billboard Hot 100 Singles Chartでも2位を獲得した大ヒット曲“Do It ('Til You're Satisfied) ”。Pshycheなギター・ソロやSaxソロもご機嫌。

Carlos Wards作の“Do You Like It”はFluteで始まり激カッコイイベースラインにChorusとHorn隊が絡むところが最高。

Barbara Joyce Lomas気風のいいSoulfulなVocalがご機嫌な“That's What I Want For You Baby

アルバム最後をシメるのはHorn隊がビシバシKool & the Gang風にキメる“This House Is Smokin'”。

Do It ('Til You're Satisfied) /B.T. Express 

(Hit-C Fiore)

 Jade Warriorについては以前ご紹介した時も書いたけれど、Stve Winwoodを追いかけていた時に彼らのアルバムにWinwoodが参加していたことを知ったことがきっかけとなりアルバムを手に入れて、そこからバンドの歴史も知って興味を持ったのだった。そのきっかけとなったのが本作である。Punk上がりの自分にとって、曲が長いということ演奏も楽曲もConceptも大仰かつ冗長で締まりのない音楽という考えが支配的だった時に本作と出会い、衝撃を受けて一気に考えが改まったのだった。Improvisationというよりはメンバーがエゴ丸出しで単なる手癖のフレーズを速く弾くだけの演奏がダラダラと続きEnsembleにも全く面白みのない英国のバンドに辟易していた時に、このアルバムに出会った意味は大きかった。曲名に難解そうで意味ありげなタイトルを付けて、歌詞も哲学や神話気取りの連中に比べて、SimpleにWaves』というタイトルのアルバムは、A面が“Waves Part I”、B面が“Waves Part II”と名付けられた組曲が収録されているだけ。組曲を構成するPartも“The Whale”とか“The Sea”といったSimpleなタイトルが付けられている。ギタリストTony DuhigFluteやPercussion、鍵盤を演奏するMulti-instrumentalistのJon FieldにベースとVocalを担当するGlyn Havardの3人で誕生しVertigoと契約したJade Warriorであったが72年3rdアルバムLast Autumn's Dream』リリース後にVertigoから契約解除されてしまう。解散状態にあった彼らを救ったのはWinwoodであった。Island RecordsChris Blackwellに彼らを聴くよう勧めBlackwellはMike Oldfieldの『Tubular Bells』でFluteを演奏したFieldとDuhigの2人とInstrumental Bandとして契約することになったのである。そして晴れて契約を結んだIslandからリリースした4枚のアルバムで、Vertigo時代からの英国らしい情感に加えて浮遊感に満ちたMinimalでAmbientな空間を生み出す独自の音楽性が確立された。

 

 『Waves』はJade Warrior75年Island Recordsからリリースしたアルバム。

A面は全て使って“Waves Part I”というタイトルが付けられた5つのPartから構成された組曲が収録されている。まずは“The Whale”から始まり、タイトル通りゆったりとして静かに穏やかにウネる波のようなドラムのSoundから大きな波のSE、そして“The Sea”ではSynthesizerをバックにMinimalなフレーズが鳴り響く中、歪んだギターピアノが現れては消えていく。“Section See”ではPercussionをバックにWinwoodが弾くピアノとDuhigが弾くAcoustic Guitarが心地良く奏でられていく。そしてFieldが吹くFlute謎めいた旋律を奏でるとWinwoodピアノ・ソロが始まる。Octave奏法を使ったギターもイイ感じで、このEnsembleが最高に気持ち良い。“Caves”ではMinimalな演奏の上をFluteが浮遊していくWinwoodピアノも効果的だ。ジャケットの北斎が描いた波の彼方微かに佇んでいる摩天楼、そんな幻のような、日常を逸脱した幻想的な空間Acoustic Guitarが中心となった優美なEnsembleが登場する最後のPart“Waves Part II”で一旦幕を閉じる。

B面も全て使って“Waves Part II”というタイトルで6つのPartから構成された組曲となっている。鳥の鳴き声が響き渡る“Wave Birth”で始まり“River To The Sea”では遠くでギターが鳴り響きFluteが深遠な世界を描き出してゆく。“Groover”では鈴の音が鳴り遠くでギターが聴こえる。“Breeze”ではFunkyなギターのRiffが登場し、Psycheなギター・ソロが始まる。Fluteが心地良く舞うとWinwoodのSynthesizerソロ牧歌的でどこかOrientalな香りがする“Sea Part Two”、最後は“Song Of The Last Whale”。鳥の鳴き声南の楽園を思わせる。

(Hit-C Fiore)

Untitled (How Does It Feel)/D'Angelo And The Vanguard 

Voodoo/D'Angelo

I'm struggling to find the words to describe the pain I feel hearing of your untimely passing.

Thank you for your incredible music. Forever and ever you'll stay in my heart.

It feels like yesterday when I attended your concert ten years ago.

Your music and your memories will live on forever.

Rest in power and Music, D.

(Hit-C Fiore)

 Voyager70年代後半Punk~New Waveの嵐が吹き荒れた英国から登場したRock Group。まあ、なんといっても、このジャケットを見たら中古レコード屋さんですかさず手を出してしまったのも無理もない。予想通りHipgnosisが手掛けた、この奇妙で小洒落たジャケットは、その当時の英国でまだ頑張っていた10ccSailorCity BoyPilotSad Caféといった連中がやっていた一筋縄ではいかない捻じ曲がった極上のPopな音楽性を物語るものであった。Berkshire州Newburyで結成されたVoyagerは、当初The Paul French Connectionとして誕生したGroupであった。すなわち、71年Neonから唯一のアルバムをリリースしたTonton Macouteの鍵盤奏者Paul FrenchがLeaderとなり結成したRock Bandであったのだ。そうなると、当然Tonton Macouteの流れを汲んだ英国的なJazz Rock路線だと思ってしまうが、そこはジャケット同様に英国的なWitと小洒落た感覚に満ちたPopな音楽性を前面に出したものだった。メンバーはFrenchが鍵盤とLead Vocal、ギターと鍵盤のPaul Hirsh、ベースのChris Hook、ドラムスのJohn Marterという4人編成79年にリリースしたDebut SingleHalfway Hotel”は、そこそこヒットしたようだ。1st Albumのタイトルとなった、この曲のみの一発屋として語れることが多いVoyagerであるが、Elton Johnを手掛けたGus DudgeonProduceを担当したアルバムは、演奏力もそこそこあるし、決して悪い出来ではない。PilotほどPopに徹しきれず、City Boyのような捻りは少々足りない、結果として中途半端な出来になってしまっているのは残念である。個人的にはAlan Bownが活動休止中の2000~2001年Status Quoで鍵盤とギターを担当、Francis RossiのLiveや2017年Acoustic Cocertにも参加しているギターのHirshが中々イイ感じである。

 

 『Halfway Hotel』はVoyager79年にリリースしたアルバム。

アルバム1発目は“Judas”。この時代多かったピアノのChordを8分音符で連打するPopなイントロからChorusをFeatureしてCompactにまとめたナンバーはTon Ton Macouteの面影なし。FrenchのVocalは少々クセがあるが、それが味になっている。

E.S.P.”は甘美なイントロで始まり、Frenchはエレピを弾きながらFalsettoをまじえて絶品のVocalを聴かせてくれる。アルバムで一番好きなBlue-Eyed Soulなナンバー。Chorusも素晴らしい。アルバムでピカイチのナンバー。

Standing Still”はギターのイントロから始まりClavinetがイイ感じのMidium。ここでもChorusが頑張っていたり、途中でMonologueが入ったり単なるPopなRockで終わらない感じが良い。

FrenchとベースのHookの共作“4-2-4 Or 4-4-2?”はFrenchの情感のこもったピアノ弾き語り風なBalladに展開するが、やはり一筋縄ではいかない

Straight Actors”はご機嫌なピアノで始まる仄かにBluesyな香り漂うShuffleピアノ・ソロはさすが元Tonton Macouteといった感じ。

Total Amnesia”は小洒落たChorusが結構凝っているノリの良いPiano Rock

上述のヒット曲となったタイトル曲Halfway Hotel”。

Captain Remus”はピアノ弾き語りで始まり、ジワジワ盛り上がっていく佳曲Synthesizerのソロは中々聴かせる

アルバム最後をシメるのは“I Love It”はFrench、Hirsh、Hook共作のBritish Pop感に満ちたナンバー。

Total Amnesia/Voyager

(Hit-C Fiore)

 Ronnie Mathewsといえば、Max Roach65年リリースのDrums UnlimitedBill HardmanのSavoyからの61年作Saying SomethingRoy Hayenesの63年のCracklin'Freddie Hubbardの64年録音の『Breaking Point!』、Lee Morgan65年作『The Rumproller』といった、

自分のお気に入りのアルバムでピアノを弾いていたり、60年代後半、メンバーが流動的で、Recordingの機会に恵まれなかった冬の時代The Jazz Messengers68年の8月のLiveを収録した『Live! Vol. 1(Live! At Slug's, N.Y.C.)』あたりで、その正統派Hard BopModeにも対応した端正なピアノを楽しむことができる。Ronnie MathewsはNew York CityBrooklynに生まれ、20代の頃には世界中をTourしてRy HanesやMax Roach、Freddie Hubbardと上述のアルバムを録音し、New York CityのLong Island UniversityでJazz Pianoを教えてWorkshopsClinicMaster Classを受け持つようになっていった。その才能と実力のわりにはLeader Albumは多いとは言えないが、80年代以降になると、絶頂期の録音というべきRedNilvaTimelessなど欧州のLabelを始めとして、徐々に作品が増えていく。派手さや強烈な個性、African-American特有のEarthyな泥くささやBluesyな感覚で勝負するより、堅実バランス感覚に長け、Modalな和声感覚も備えて、時にDynamismのあるフレージングSharpに切れ込むあたり、一度でもMathewsのPianismに惹かれ始めると、その虜になってしまわざるを得ない独特の味わいがある。誤解を恐れずにいえば、Thelonious Monkの影響を受け、McCoy Tynerからクセをなくして、長く飽きのこない玄人好みのPianismがMathewsの個性であろう。Mathewsが生徒のために書いたEasy Piano of Thelonious Monk』も是非読んでみたいものだ。

 

 『Doin' The Thang!』は64年PrestigeからリリースされたRonnie Mathews With Freddie Hubbardのアルバム。MathewsのピアノにTrumpetのFreddie HubbardとArchie Sheppや Sun RaとやっていたBaritone SaxのCharles Davisの2管フロント、ベースにEddie Kahn、ドラムスにAlbert HeathのQuintet。

アルバム1発目は自作曲“The Thang”。溌剌としたFreddie Hubbardがらしさを発揮。Charles DavisのBaritone Saxも健闘している。そしてMathewsのピアノ・ソロはガンガン弾き倒すでもなく、さりげなく技巧とハッとするフレーズを散りばめつつ心地良くSwingする

Ihci Ban”とあるが、“Ichi Ban”であろう。Max Roachと共に来日した経験のあるMathewsがOrientalな旋律をThemeに書いたナンバー。ModalというよりはProgressiveでExoticなHard Bopといいたい。ピアノ・ソロもイイ感じ

続いてもタイトルは“The Orient”。これが激カッコイイ指パッチンな男前Jazz。颯爽とHubbardが鯔背なソロをキメ、DavisのBaritone Sax男気溢れるBlowで応戦。そしてMathewsのめくるめくソロがご機嫌っすなあ。変に理知的過ぎず、Coolでありながら東洋から受けたInspirationを自分流に解釈してModalに仕上げている。

Let's Get Down”は2管による小気味よいThemeがご機嫌で、これまた思わず指パッチン。この頃の外連味ないHubbardのTrumpetソロは最高っすなあ。続く DavisのBaritone Saxソロもご機嫌で、シメはMathewsが華麗にソロをキメHubberdのTrumpetが入るところは鳥肌モノ

Ellingtonの“Prelude To A Kiss”をピアノ独演で始まりJazz Waltzで小粋にキメる。

最後をシメるのはCharles Davis作の“1239-A”。TrumpetとBaritoneのBluesyなFrontがイイ感じのThemeで最後の最後で、とびきりSoulfulなプレイが飛び出すあたりもニクいっす。

(Hit-C Fiore)

 Hélio Mendes E Seu Trio Vagalume名義でリリースされた、このアルバムが、まさかReissueされて、しかも日本盤まで出てしまうとは思わなんだ。緑豊かな景観で観光客に人気のBrasil南東部に位置するEspírito Santo州Alfredo Chaves出身のJazz Boss系Pianist Hélio Mendes。Mendesが67年に London RecordsからHeitor Villa-Lobosの作品集をリリースしたことで知られる同郷の名ギタリストMaurício de Oliveiraらと63年にリリースした作品が本作で、PianoにGuitar、Bass、Drumsの4人編成で、典雅躍動感にあふれた小気味よいJazz Bossaを聴かせてくれる。MendesはHélio Mendes E Seu Conjunto(Hélio Mendes Seu Piano E Seu Conjunto)名義でも60年代にアルバムを何枚かリリースしているようだ。当時の数あるJazz Bossaのアルバム同様に、当時の人気曲/流行曲を演奏していて、Hélio Mendes E Seu Conjuntoの方ではThe Beatlesの“Yesterday”やOrnella Vanoniの“Io Ti Darò Di Più”、Nino Ferrerの“Les Cornichons”、“From Russia With Love”、Bobby Soloの“Se Piangi Se Ridi”なんてところまで演奏したりして、Jazz Bossaというよりは、管楽器が入ってきて時として昭和歌謡的な雰囲気を醸し出したりするEasy Listening的なノリだったりするのだが、Musiplayから63年にリリースされた本作は、アルバム冒頭からJorge Benの“Mas Que Nada”の優美且つ躍動感に満ちたご機嫌なArrangementで始まり、Antonio Carlos JobimOscar Castro NevesDurval FerreiraCarlos LyraRoberto MenescalMarcos Valleらの名曲を引き締まった演奏で聴かせてくれる。MendesのSharpで小気味いピアノにOliveiraの味のあるギターの取り合わせもバッチリで、思わず気分が揚がっていくご機嫌な音盤である。

 

 『Na Bossa』はHélio Mendes E Seu Trio Vagalume63年にリリースしたアルバム。

アルバム1曲目は上述の“Mas Que Nada”。キレの良いノリノリの演奏に思わず惹きこまれる。

Bossa TrêsLalo SchifrinHerbie Mannの名演で知られるOscar Castro Neves作の名曲“Menina Feia”。これまたイントロの優美なピアノから胸が高まりますな。

Roberto Menescal作曲のWanda Sáの“Vagamente”も典雅に歌うギターと小気味よく転がるピアノが最高。

大好きなCarlos Lyra作の名曲中の名曲Influéncia Do Jazz”。この曲もイントロがご機嫌で、ノリノリの演奏に思わず腰が動き出してしまう。

Johnny AlfやTamba Trioで知られるDurval Ferreira作の“Moça Flor”。魅惑のMelodyElegantに奏でるピアノ絶妙のギターの爪弾きに酔いしれる。

Belo Horizonte出身のLuiza残した素晴らしい唯一のアルバムでの名唱が個人的に印象的なRoberto Menescal作の“Vai De Ve”。最高っすな。

Trio EsperançaStan Getz / Charlie Byrd62年作『Jazz Samba』でも知られる“O Sapo”。これまたRhythmicalにウキウキする演奏が良き。

Astrud Gilbertoが“Beach Samba”というタイトルで同名アルバムで歌った“Bossa Na Praia”。Sharpな演奏の.こちらもイイ感じ。

Marcos Valleの小粋な名曲Amor De Nada”も躍動感に満ち溢れた小気味よい演奏が最高。

João Gilbertoで知られるAntonio Carlos Jobim作“Ela É Carioca”。こちらもっ脱力のJoãoとはうって変わってキレキレ小気味よい演奏で、これまたイイ感じ。

アルバム最後をシメるのはRoberto Menescal作曲の名曲“Rio”。個人的にはPaul Winterの名演が最高だけど、優美にキメるこちらも最高。

(Hit-C Fiore)