Running Water/Clarence Reid | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 自覚はある。自分はガラパゴスの生き物なんだろうということだ。いまだにCDやレコードをショップまで買いにいくのが楽しみなのである。そりゃ、音楽配信は便利だし、ネット・ショッピングの方が楽なのは十分わかっている。どうしても時間の取れない時は、そういった手段をとっているし、そういう機会が増えてきているのは事実だ。だけど、やっぱり自分は古い人間なんだろう。時間の許す限り、お店の人と音楽の話をしたり、馴染みの店員さんとバカ話をしたり、なによりお店で一生懸命働いている女性と話をするのが好きなのだ(決してストーカー行為や口説いたりしているわけではありません)。そして、自分のお気に入りの洋服や車や本を買った時も同じだけれど、感傷的と言われようがなんだろうが買った時の思い出、買いに至るまでの思い、その音を聴いていた時代のニオイや風景が、レコードやCDに何時までも一緒にパッケージされているのだ。と、書きながら貧乏学生の時とは違い金銭的にある程度余裕ができて、比較にならないほどの数量を手にするようになった現在、その強い思い入れが薄れてきているのも否定できない。でも、どうしてもGetしたいと思っていた、または運命的な出会いをした盤には、それに纏わるさまざまな思い出があり、音やジャケットとともに蘇ってくる。もはやパッケージが生き残っていくのが厳しくなっていく時代だ。CDよりもライブの方が利益が出る時代である。ライブという、その場、その時にしか生まれない刹那の音楽が誕生する瞬間、空気感を楽しむ。その体験は一期一会であり、かけがえのないものである。それと同じとは言わないまでも、自分の買った思い入れのあるレコードやCDにも、決して忘れることのできない、その時の思い出が大切に刻み込まれているのである。
 さて本日ご紹介するMiamiの怪人Clarence Reidの音盤も思い入れがタップリ詰まっている。ギターを弾き始めて、速弾きだのArpegioやSlideが苦手な自分が夢中になったのはカッティングであった。それはいかにカッコイイRiffを弾くかに始まり、やがてFunkyなカッティングで、いかに気持ち良くできるかという方向に力が入っていった。カッコイイ、気持ち良いカッティング・ギターが入ってる曲を求めて色んなレコードを聴いた。そしてLittele Beaverというギタリストに出会った。本盤はそんなBeaverが参加してカッティングの妙技を披露してくれている音盤。とにかくアルバム冒頭の曲を聴いた時に、そのカッティングに一発でやられてしまった。Clarence ReidはSongwriter、ProducerとしてMiamiを中心に活躍してBeaverと組んでBetty Wrightの“Claen Up Woman”などヒットを飛ばしていた人物。MiamiといえばTK Soul。ReidはTK周辺で活躍してKC and the Sunshine BandWilson PickettGwen McClareに楽曲を提供している。Reidはその後にPrinceDavid Bowie、あるいはP-FunkGeorge Clintonのように、音楽的に別人格のキャラを演じて人気を得る事になる。そのBlowflyなる、18禁お下劣Rapのエロおじさんになって人気を博して以来、こちら側に戻ってこれなくなってしまったのが残念である。

 『Running Water』はClarence ReidがTK傘下のAlstonから73年にリリースしたアルバム。ギターにLittele Beaver、クレジットこそないがTimmy ThomasLatimoreも参加しているらしい。KC and the Sunshine BandRichard FinchもEngineerとしてクレジットされている。CurtisやMarvin、Stevie、Donnyらの新しいSoulの息吹が時代を席巻し、Reidも気合一発、その元来持っていた時代を批評するStory Teller的才能が発揮された名盤である。
アルバムのオープニングは“Living Together Is Keeping Us Apart”。カッコ良すぎるドラムのBraekとStringsカッティング・ギターの絡みが最高に気持ち良い。
MellowなBalladNew York City”。ここでのBeaverのエロいカッティングもたまらないっす。
ワウ・ギターと歌詞がブラック・シネマな気分の“If It Was Good Enough For Daddy”。
Real Woman”は、Betty Wrightの例の曲を思わせるイナタさでニンマリするMiami Soul
Soul定番電話ネタの“Please Accept My Call”は冒頭のOperatorから始まりReidのストーリー性のある作風がSweet Soul風に泣かせる。
FluteStringsが、この時代らしさを醸し出す“The Truth”。
B面はBeaverのカッティングからしてMotown風のCatchyなナンバー“Ruby”で始まる。
続いてもイントロのカッティング、ベース・ラインで思わず腰が動き出す“Love Who You Can”。歌い方やリズム・パターン、Horn隊の入り方からもCurtis Mayfieldの影響が強く感じられる。
語りから入る“Please Stay Home”は南部のイナタさと大らかさが感じられるほっこり感がイイ感じ。
ラスト。ナンバー“Like Running Water”はBluesyなBeaverのArrangeが素晴らしい。泥臭いHammondにピアノ、女性ChorusにHorn隊、カッティング・ギター、Tightなリズム隊がReidの渾身のVocalを盛り上げる。ラストを飾るに相応しいSoulful生命感に満ちたナンバー。エンディングが最高。アルバムで一番お気に入りの曲。
(Hit-C Fiore)