Ron CarterというBassistに対する評価は、ある意味、自分が音楽をどういうものと考えているのかによって大きく変わってしまうと思う。Ron CarterはWayne Shorter、Herbie Hancock、Tony Williamsと共に60年代半ばの偉大なMiles DavisのQuintetの一員としてMode JazzからFree Jazzの要素まで取り入れた新たな深化を模索していくJazzの新しい地平を切り開いていくのに多大な貢献をしたMusicianであり、『E.S.P.』や『Miles Smiles』、『Sorcerer』、『Nefertiti』といった名作でのCarterの先進的かつ柔軟性に富んだSpontaneousなベースは他に類を見ないものである。この時代のMiles DavisのQuintetの最高到達点として95年に完全版としてリリースされた『The Complete Live at the Plugged Nickel 1965』を聴けば、このメンバーが互いに刺激し合いながら、スリリングに生み出されていく自由奔放で溢れ出すCreativityに満ち溢れた演奏に圧倒されるだろう。この"Second Great Quintet"のメンバーがアルバム全ての曲で演奏する最後の作品となった『Miles in the Sky』でCarterは1曲のみだがElectric Bassを弾き、MilesがFunkやRockの影響を受けた路線へ踏み出す『Filles de Kilimanjaro』の録音途中でMilesの元を離れたCarterはHancock、Williams、ShorterのBlue NoteでのアルバムやHorace Silver、McCoy Tyner、Andrew Hill、Duke Pearson、Lee Morgan、Sam Rivers、Freddie Hubbardらの作品に参加し、やがてジャンルを越えて活動の場を広げていく。さて、Carterは確かにPitchが良いとは言えないし、超絶技巧というわけではない。しかし、この曖昧模糊としたCarterのベースこそが、"Second Great Quintet"期のMiles DavisのMysteriousで浮遊感に満ちた音楽にはなくてはならないものであったのだ。Rolling StonesのベースがBill Wymanのモコモコしたベースでなければならないように。音楽というのは面白いものであり不思議なものである。とにかくMilesのQuintet時代のCarterのフレージングには驚かされものが結構多いのである。
『All Blues』はRon Carterが74年にCTIからリリースしたアルバム。本作でCarterはAcoustic Piccolo Bassを弾いている。従来より高いTuningをしたPiccolo Bassを弾くようになってからのCarterは、本来の低音でのウネウネしたMagicalなラインを弾いていた時に比べ個人的には苦手であるが、室内楽的なApproachをする時はさておき、Electricなのは論外として、本作辺りまでは、その独特のフレージングが楽しめる。ドラムスはBilly Cobham、Tenor SaxのJoe Henderson、ピアノにRoland Hannaで、1曲のみRichard TeeがHanaに代わってFender RhodesのElectric Pianoを弾いている。
アルバム1曲目は自作曲の“A Feeling”。Joe HendersonのTenorによるThemeが中々カッコイイ。Carterのベースも心地良く歌ってRunningしている。Hanaのキレキレのピアノ・ソロも良いが、低音でウネる時のCarterがやっぱり好きである。
Roland Hannaの典雅なピアノが堪能できるSlowの“Light Blue”でも、やっぱり低音で鳴らすCarterが良い。
“117 Special”はRichard Teeのエレピがイイ感じ。HendersonのTenorもBluesyで歌心あるフレーズで魅了する。フォービートではなく、Funkyなタメのあるリズムが、いかにもCTIといった感じではあるが悪くない。Carterのソロもイイ味を出している。
“Rufus”もTenor SaxとベースのUnisonによるThemeがイイ感じである。この辺は、この時代のCTIらしさが、CTIの良いところが出たナンバーで、Hanaのピアノ・ソロもそのバックでRunningするCarterと躍動するBilly Cobhamが絶品だ。Carterのソロも雰囲気が出ている。
タイトル曲はMilesの名盤『Kind of Blue』に収録されていたMyxolydian Modeを使ったBlues“All Blues”。HendersonのSaxソロに続いてCarterのソロは今一つ締りに欠けているのが残念。
最後をシメるのはベースのみの演奏でMatt Dennis作の“Will You Still Be Mine”。
(Hit-C Fiore)