おのれ、どういうことだ、
あいつらの脳ミソには何が詰まっているのだ!
ギイは冷静さを欠いていた。

まず落ち着いて下さい、
参謀格の側近がギイを諫めた。

要はあの二人さえ倒せばそれで済むのです、
例え予定と違った事態であっても、
重要なことは何も変わっていません、
参謀はギイに上申した。

あの二人さえ倒せばいい、確かにその通りだ、
ギイは頷いた。

城から主力軍の半数を呼び戻せ!
いますぐだ! 急げ!

 

 

哲郎と連太郎は、
城塞からかなり離れた所にいた。

さて、一挙に近づくか、と哲郎。
そうだな、と連太郎。

ひとつだけ念を押しておきたい、と哲郎。
なんだ? と連太郎。

今回の目的はギイを仕留めることでもないし、
敵軍を全滅させることでもない、と哲郎。

ああ、わかってる、
キューバの一件がスカればいいんだろ? と連太郎。

そうだ、と哲郎。
いちいちいわんでも、と連太郎。

じゃあ、いくぞ、と哲郎。
おう、と連太郎。

二人は一瞬で高く遠く飛んだ。

 

 

哲郎と連太郎は城塞の外に降り立った。
距離を空けて立っている。

城塞の内部からは誰も出てこない。
二人の周りを囲む者もいない。

二人は康晴の術の発動を待った。
と次の瞬間、風景が一変した。

気付いてみると、二人は城塞の中にいた。
内部には他に誰もいない。
哲郎と連太郎の二人だけだ。

 

 

おい、連太郎が声を掛けた。
ん? 哲郎が面倒そうに返事をした。

全然力が入らねぇぞ、連太郎の声は弱々しかった。
俺もだ、妙だな、哲郎の声もか細い。

ひょっとしてさ、この中で普通に動くには、
前もってコードとかキーが必要なんじゃないのか?
連太郎が弱りながら推測した。

俺もなんとなくそんな感じがする、きっとな、
哲郎も脱力しながら同意した。

いま俺たちってヤバくねぇか?
連太郎は力なく笑った。

はっはっは、俺もなんとなくそう思うぞ、
哲郎も腹に力が入らないまま笑った。

 

 

二人が笑いながら困り果てているその時、
大きな雷鳴の音が響き、
天井の一部が崩れ落ちてきた。

ふと見上げてみると、
天井に裂け目が生じていた。
そしてその裂け目から城塞の外の空気が流入し、
内部の何かが変わっていくのが、
哲郎と連太郎の二人には分かった。

急に動きが普通の状態に戻った。
しっかりと体に力が入る。
二人は息を吹き返した。

天井の上の方から聞き覚えのある声がした。

別にあんたたちのためじゃないんだからね!
あんたたちがヤラレちゃうとみんな困るから!
だから誤解しないでね!

マチ子の声だった。

たったそれだけ、
何の言い訳なのかよくわからない言葉を残して、
マチ子はあっさりと消えていった。

 

 

城塞の遥か遠方で、
康晴が腕を組みながら立っていた。
城塞の方を眺めている。

城塞の外側には、
当初より相当人数が減らされたであろう軍勢が、
一体何が起こったのか把握できないまま、
右往左往していた。

やがて、城塞全体が崩れだした。
大地を揺るがす轟音と共に、多量の粉塵と共に、
城塞は崩落していった。

外部で狼狽えていた軍勢は、
その一部始終を呆然と眺めるしかなかった。

城塞が完全に瓦礫と化してみると、
その中央に、二人の男たちが堂々と立っていた。

哲郎と連太郎の二人だ。
少し粉塵にむせて咳込んでいたが。

 

 

哲郎と連太郎が、急に姿を消した。
康晴には、それが姿を消したのではなく、
目にも止まらぬ神速で動いているのだと分かった。

軍勢は為す術もなく、
あたかも超高速のドミノ倒しのように、
見る間に壊滅させられた。

康晴はその様をただ黙って見守っていた。

 

 

アメリカのケネディ大統領は、
国内における強行派の主戦論を退け、
可能な限りの非軍事的解決を方針として目指した。

ソビエトのフルシチョフ書記長は、
キューバから核ミサイルを撤去しなければ、
このまま第三次世界大戦に突入することを懸念した。

ソビエトはキューバにおける核配備を断念し、
しばらく経った後、
アメリカもトルコに配備していたミサイルを撤去した。

こうして米ソ間の全面核戦争は回避された。
その選択は、
両国の関係者たちの極めて理性的な対応によって、
見事に成し遂げられた。

 

 

ギイは右手を強すぎるほどに、
ひたすら握りしめていた。
爪が手掌の肉に食い込んで血を流すくらい。

全身を身震いさせている。
頭部は毛髪が全て逆立つかのようだ。

顔面は赤い仮面を被ったように真っ赤で、
顎が砕けんばかりに歯を食いしばっている。

そしてギイは叫んだ。

いまに見ていろ!
私は100年でも150年でも延々と生きて、
必ずやいつかお前たちを破ってやる!
どれだけ時間がかかってもだ!

例え私が勝つことができなくても、
私の後継者の誰かがきっと成し遂げる!
その勝利を、
私は200年生きてでも必ずこの目で見届ける!

いいか! 憶えていろ!

 

 

何? 幻影を使っただと?
彬の報告を聞いた哲郎は軽く驚いた。

俺と連太郎の幻影を敵方に見せて、
その幻影を相手に追いかけさせただと?
哲郎は睨みながら声を上げた。

その間、お前たち三人はずっと隠れていたのか!
哲郎は彬が頷くのをその目で見た。

やるじゃねぇか! セカンドよ!
哲郎は彬を褒める時、なぜかセカンドと呼ぶ。

お前は将来きっと出世するぞ、
哲郎の絶賛は彬を喜ばせた。

哲郎のこの言葉は、およそ20年後に実現する。
彬が哲郎を追い越すことによって。