哲郎、連太郎、康晴、円楽、彬の五人が、
集まって討議をしていた。

敵方の誰かに逆探知されたであろうナオミを、
今後どのように守っていくべきか。

おそらくはキューバに現世干渉しているであろう、
敵方の城塞内部の軍勢をどう無効化すべきか。

城塞の中にいないギイは、
何を考え、何を狙っているのか。

丸メガネの奥で鋭い眼光を放つ康晴の頭脳が、
ここでついに本領を発揮するのである。

 

 

ギイの居所は掴めたか?
哲郎は彬に確かめた。

ギイは彼の本拠にいます、
精鋭部隊とともに控えてます、
彬は探索した結果を伝えた。

康晴、どう思う?
哲郎は康晴に話を振った。

ナオミのところにはまだ刺客は来てないのか?
康晴は確認した。

いまマチ子が守ってるが刺客は来ていない、
哲郎が答えた。

そうか、それなら多分気付いてはいない、
敵は我々が逆探知に気付いたことを気付いてない、
康晴はいい切った。

刺客はおろか威力偵察さえ寄越さないということは、
機をみてこちらの本陣に攻め込むつもりか、
あるいは我々の動きを観察して待ち伏せに利用するか、
おそらくどちらかだろう、
康晴の丸メガネがキラリと光る。

そしてその計略が成立するためには、
完全な奇襲でなくてはならない、
我々が逆探知を知る状況では奇襲も待ち伏せも成功しない、
つまり敵方は逆探知察知に気付いた時点で方針転換する、
さしずめ見せ玉として鉄砲玉を送り混乱させるとかな、
康晴は腕を組んでいる。

我々が逆探知に気付いていることに、
まだ敵方が理解していないであろうことを、
最大限に利用した方がいい、
全員が康晴の話を聞き入っている。

いい考えがある、
康晴は初めて笑ってみせた。

 

 

いまのこの状況での最大の焦点は、
キューバに現世干渉しているであろう城塞軍を、
敵方が守りきれるか我々が攻め落とせるか、
この一点に尽きる、
康晴は晴れ晴れとしている。

ギイの企みはおそらくはこうだ、
城塞攻略のために我々が近づいた際に、
ナオミをトレースしながら我々の動きを把握し、
我々が城塞に攻撃した際に精鋭の別働隊を使って、
うまく我々を挟撃するつもりだ、多分な、
康晴は哲郎の目を見ながらいった。

ナオミを陽動に使おう、
ナオミをギイ本陣に向かわせる、
康晴の言葉に一同は驚いた。

ナオミを円楽と彬に守らせながら、
ギイ本陣の周辺を動き回らせる、
戦わなくていい、ギイの気を引けば十分だ、
康晴は続ける。

意表をつかれたギイは本陣に足止めを食らう、
哲郎や連太郎もナオミと共にいると錯覚するからだ、
城塞の主力の何割かを本陣に戻すかもしれない、
そこで城塞を攻めるチャンスが生まれる、
哲郎と連太郎の出番だ、二人で城塞を無効化する、
康晴はメガネのみならず広い額さえも光らせていた。

 

 

城塞はどうやって陥とす?
連太郎が尋ねた。

城塞は中から崩す、これが基本だ、
康晴は答えた。

どうやって中から崩す?
連太郎はさらに尋ねた。

康晴は腕を組んで考え込んだ。
頭髪がかなり後退した前額部が光った。

中と外を取り替えてみよう、
康晴は連太郎と顔を合わせていった。

中と外を取り替える?
連太郎は素っ頓狂に声を上げた。

例えばだ、将棋盤を180度グルリと回せば、
有利不利は全く逆転する、
康晴は微笑んだ。

何? グルリと中と外を取り替えるって?
連太郎は目を丸くした。

待て康晴、それはいままでやったことあるのか?
哲郎が割って入った。

ない、
康晴ははっきりと返した。

 

 

おいおい、ちょっと待てよ、
連太郎は少し慌てていた。

中から外に出されるのは敵軍だろ?
で、外から中に入るのは俺と哲郎ってことだよな?
中と外を取り替えるってのはそういうことだろ?
連太郎は確かめてみた。

もちろん、
康晴は明答した。

いままでやったこともない変な術でもし失敗したら、
俺と哲郎はどうなるんだよ!
連太郎は問い詰めた。

康晴はまた腕を組んで黙ってしまった。

康晴! 成功する自信はあるのか?
哲郎は声を強めた。

ある、
康晴はきっぱり答えた。

じゃあ決まりだ、それでいこう!
哲郎は決断を下した。

 

 

で、中に入ってから俺たちはどうするんだ?
哲郎が余裕をもって笑いながら聞いた。

そんなもん、中から城塞を壊して、
それから外に出て待ち構えてた敵軍を倒して、
遠くから眺めてた康晴にこれでいいかぁ~?
ってお伺いを立てるのに決まってんだろ!
連太郎は苦笑しながら哲郎にいった。

ダッハハ、そいつぁいいや、ダハハハ、
円楽の必殺技が会合を締めくくった。

 

 

来い、早く来い、
ギイは待ちきれずにいた。

この時をずっと待っていたんだ、
早く城を攻め落としに来い、
ギイは踊るような心地だった。

ほんの半年前まで、
どこの誰であっても私を止められる者はいなかった、
それがやっと現れてくれた、ついに!
ギイはかつて、この地球上では無敵だった。

早く来い! 早く!

 

 

出発前のナオミ、円楽、彬らに、
マチ子と連太郎が会いに来た。

無茶しないですぐ隠れるのよ、
マチ子がナオミにアドバイスした。

だいたい、あんたたちね、
まだまだこれからっていうナオミを引きずり込んで、
彼女にもし何かあったら私が容赦しませんから、
マチ子が連太郎に毒づいた。

ああ、わかってるわかってる、
黒コゲにでも何にでもしてくれ、
連太郎はマチ子に突っ返した。

いいか、遠目から飛んでくるものに注意するんだぞ、
返そうなんて思わなくていいからまず避けろ、
連太郎がナオミに忠告する。

お前たち、頼んだぞ!
円楽と彬に連太郎はハッパを掛けた。

 

 

女が動きました、
側近からギイは報告を受けた。

そうか、やっと動いたか、
ギイは胸が高鳴るのを抑えきれなかった。

それがですね、
側近は歯切れが悪い。

どうした、はっきりいわんか、
ギイは催促する。

城ではなく、ここに向かっています、
側近は狼狽していた。

なんだと?
ギイは即座には信じられなかった。

 

 

バカな! ありえん!
ギイは怒鳴った。

いまキューバは一触即発だ、
米ソは全面核戦争に突入寸前なんだぞ、
あいつら、そのことがちゃんとわかってるのか?
ギイは吠えた。

城を放置してここを狙うなんて、狂気の沙汰だ!
チェックメイトされてるのにキングを守らないなどと!
ギイは動揺を隠しきれなかった。

女がここに来る、
あの二人も、当然一緒にここに来る、
こちらの主力のほとんどは城に配置している、
ギイは脳内で計算を始めた。

クソッ!
これは、危険だ!