シナリオ・センター大阪校 鳩子の日記 -8ページ目

【活躍状況】水村さんが函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞で審査員特別賞を受賞

作家集団の水村節香さん(56期)が書かれた「紅梅」が、函館港イルミナシオン映画祭2011 第15回シナリオ 大賞で、審査員特別賞(加藤賞)を受賞されました。


受賞の連絡を受けた時の感想をお聞きしたところ「発表が遅くあきらめていました。そう思っていたところ、受賞の連絡をいただいたので本当にビックリしました」と水村さん。


「12月、受賞式に参加したのですが式のあと、審査員の先生と飲ませていただく機会がありまして、その時に審査員の加藤正人先生とお話しでき、シナリオをお褒めいただいたり、色んな方とお話することができたのがとても嬉しく、貴重な体験ができました。あと、実は函館と言いますか北海道に行くのはその時初めてで、こういう形で来れたことが本当に嬉しかったです」と。「実はこの作品は研修科の課題の古痕を元に、そして手直しして作家集団の課題、献身で直した作品なんです。書いたら書きっぱなしにせず、直しを重ねて育てた甲斐がありました」とのこと。


今まで色々なコンクールに挑戦してきた水村さんですが、これから挑戦する人になにかアドバイスを!とお聞きしたところ「アドバイスなんて、おこがましいのですが、普段経験していることで無駄なことは無いと思います。生活している中でも何か自分のアンテナに引っかかる、ピンとくるような事を大切にして作品にしていけばいいと思うんです。


あと、先にも書きましたが書いたら書きっぱなしにせずに最後まで直して諦めずに挑戦すること。そうすればいつか報われる時が来ると思います。頑張りましょう!」


これからも楽しみな水村さんです。頑張って下さい!

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】貝殻のペーパーウェイト

マンションから少し歩いたところの町角に、小さなパン屋さんがあります。店さきのショーケースには美味しいパンが並んでいて、おとなしそうな、ちょっとパンに似た、色白のふっくらした奥さんが売っていらっしゃいました。

それが或る日、モダンなお店に改装されたときから、厳格そうな、ご主人と思わしき男性もいらっしゃるようになりました。前は奥さんがひとりでのんびりほんわか、販売されていたのが、ご主人が店に出られてから、奥さんはいつもひきつめた表情をされるようになりました。

或る日、わたしがパンを買ったときのこと。奥さんがパンを包んでいらっしゃるあいだに突風が吹き、ショーケースの上にわたしが置いた千円札が飛び去りました。わたしは奥さんに伝え、お札を探しに走りました。お札は隣のガレージの自動車の奥まで飛んでいたのですが、人が入れないぐらい狭いガレージで、お札は取れそうになく、わたしは四苦八苦していました。すると奥さんが長い竹の箒を持ってきてくださって、一所懸命お札を箒で取り出してくださいました。わたしと奥さんの二人で、良かった、ありがとうございました、とパン屋へ戻ると、ご主人のご機嫌は一層悪かったようで、奥さんをギロッと一睨み。お金にもならない、つまらんことをして、とご主人の心の声が聴こえました。

それから数ヶ月、ご主人の姿は店から消え、ふたたび奥さんはのんびりほんわかした表情に戻り、そして、かわいらしい丸い大きな貝殻のペーパーウェイトがショーケースの上に置かれるようになりました。お客さんがショーケースの上に置いたお札をペーパーウェイトは守っています。

これはわたしから見たパン屋さんの光景です。ご夫婦かどうかも定かではありません。つい、勝手に想像がふくらんで、ごめんなさい。箒でお札を取り出してくださった奥さんのやさしさは、お店のパンのふっくら感につながります。<鳩子>

恋するベーカリー/別れた夫と恋愛する場合 [DVD]/メリル・ストリープ,スティーブ・マーティン,アレック・ボールドウィン

¥1,500
Amazon.co.jp

【活躍状況】福田さんがBKラジオドラマ脚本賞・佳作を受賞

作家集団の福田弥生さん(48期)が書かれた「杉本春夫 初めての日」が、第32回BK(NHK大阪放送局)ラジオドラマ脚本賞で佳作を受賞されました。


受賞の連絡を受けた時の感想をお聞きしたところ「ほんとうにビックリしました。まさか、ラジオドラマで賞をいただけるなんて思ってもいませんでした」とのこと。


「実は、ラジオドラマのコンクールに出すのは初めてだったんです。前回のBKラジオドラマ脚本賞の受賞作のラジオドラマを聴きまして、ラジオドラマも面白いなと思い応募しました」と。「ラジオドラマを書いてみて、ラジオならではのセリフや音での表現が、とても新鮮でした。楽しかったです」とのこと。


受賞式に参加された福田さん。受賞式の感想をお聞きしたところ「緊張しました。受賞式とは別に、ラジオの収録現場の見学をさせていただいたのですが、ラジオと一言で言っても、たくさんのスタッフさんの手が入り、音だけの世界を作っていくのを目の当たりにし、感動しました。とても貴重な経験をさせていただきました」と。


これから、ラジオドラマのコンクールを目指される人にアドバイスを、とお聴きしたところ「アドバイスなんてたいそうなことは言えませんが、このBKラジオドラマ脚本賞に関しては、関西を舞台に…というテーマがあるので、関西に住んでいる人にはチャンスだと思うんです。町に出てネタになる事もたくさんありますし、いつもアンテナを張って関西ならではのことを、音の世界で表現する。とても楽しいことだと思います」とのこと。


「これからも、いろんなジャンルのシナリオに挑戦していきたいと思います!」と福田さん。


これからも楽しみな福田さんです!

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】絹鳴り、紫の里

あけましおめでとうございます。


昨年末に、福岡県筑紫野市にある博多織献上館というところを訪れました。


博多織の帯や着尺が展示販売されている施設で、隣の工房では職人さんが実際に織っていらっしゃいます。博多織は、鎌倉時代に中国に渡ったお坊さんの一行に加わった人が持ち帰った織物技法が元となり、後に慶長五年、筑前を領有するようになった黒田長政により幕府へ博多帯を献上したことにより、博多の地名と博多帯が日本中に知られるようになったそうです。


博多織帯職人さんには、「職人は鳴かせて一人前」という言葉があるそうです。織る工程は、予め何千本もの縦糸の配列を決めておき、その縦糸が柄を織り、そこに太い緯糸をしっかり打ち込む方法だそうです。縦糸に緯糸を打ち込む力強さと深い経験が職人さんに求められ、一人前と呼ばれる職人さんの帯からは、締める時にキュキュッと絹ズレの鳴き音(ね)がたつそうです。絹と絹が擦れ合って「絹鳴り」のする、それでいて絞め易い帯を織ってこそ一人前というところから、「鳴かせて一人前」といわれているそうです。


実際に博多帯を締めてみました。キュキュッと冴え渡った、絹が生きているような鳴き声をたてます。そして一度絞めると、ものの見事にくずれないのです。


「絹擦れ」という言葉が文章で使われるとき、帯をほどく男性目線のエロティシズムに使われることが多い印象を抱いていましたが、この博多織職人のこだわる「絹鳴り」という言葉からは、職人さんの真剣さと使う人への思いやりと男らしさを感じます。男心の二面性を絹は教えてくれるのでしょうか? 絹鳴りとともに絞めると職人さんの魂が伝わり、凛とした気持ちになりました。


博多の市内で博多帯の専門店を捜したところ、みつからず、これほど素晴らしい歴史があるというのに、着物文化は既に衰退してしまったのかと、哀しくなりました。<鳩子>

献上博多織の技と心/小川 規三郎
¥2,940
Amazon.co.jp

【活躍状況】林日里さんが創作テレビドラマ大賞・佳作を受賞

通信作家集団の林日里さん(57期)が書かれた「迷えるウサギ」が、第36回創作テレビドラマ大賞の佳作を受賞されました。


受賞の感想をお聞きしたところ「連絡があり、とにかくビックリして信じられませんでした。まさか、私の作品を選んでいただけるなんて、思ってもいなかったです」と林さん。


「この作品は、作家集団の課題『少年』を元に書きました。内容は3月にあった震災のことを絡めて書いたのですが、ついこの間の出来事で、このテーマでコンクールに出すのはどうかと思い悩みました。でも、半年後である今、出すしかないと思い、応募しました。思い切って出してよかったです」と。


シナリオを書き始めたきっかけをお聞きしたところ「もともとテレビドラマや映画を見るのが好きでした。シナリオは小説と違いどこか特殊で難しいイメージがあったのですが、新聞に大阪校の広告が載っていて夫が『行ってみたらどう?』と背中を押してくれて、シナリオ・センターに入学しました。その前に独学でコンクールに出したことがあったのですが、全然ダメでした。その時は何も知らなかったので、どこがダメかさっぱりわからず…。本格的に書き始めてコンクールに挑戦するのはシナリオ・センターに入ってからです」とのこと。


「今後、どんな形でもいいので自分の作品がオンエアされるように頑張りたいと思います。内容としては、地方新聞に載っているような小さな事件の裏側。表面ばかりを描くのではなく、その背景を描き作品にしたいと思います」と。


「今回佳作をいただけたのも大阪校の先生、励まして頂いた仲間のおかげです。ありがとうございました!」と林さん。


これからも楽しみな林さんです!

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】ささえてくれるもの

ぽかぽかの陽気がつづくと思えば寒波が訪れ、今年の冬もさまざまな表情をしているようです。 

十月十六日、初代大阪校代表の沖原俊哉社長がご逝去されました。享年八二歳でした。


沖原社長は昭和五一年に大阪校を創設され、平成三年までの延べ十五年間、代表をなさっていました。その後平成三年十月より平成九年まで、二代目代表を倉田順介先生が継がれ、その後は私が三代目を努めさせてさせていただいています。

私が大阪校に入学した当時は、沖原社長の代でした。むかしの大阪校の忘年会は北の新地のピアノバーでの飲み会。デラックスなグランドピアノの演奏に合わせて、沖原社長がお洒落にスタンダードジャズを歌っていらっしゃいました。基礎科での自己紹介の折も沖原社長が進行され、「一旦、ものを描く人間になろうと決めた以上は、人から、この作者はこんなことを思っているんだと、喩えどんな風に思われようと、自分の考えをしっかり持った人間になってください」と仰ったことが印象的でした。私なりにその教えを守ろうと思いました。


倉田先生がご逝去されたときもお葬式で、「困ったら、いつでもいらっしゃい」と、やさしく仰ってくださいました。


十二月には創立三十五周年記念のパーティをいたしますが、本当に先人がご苦労を重ねられたからこそ、今日があるのだと思います。

先日、紅葉の盛りを少しすぎた大山を訪れました。枯れ木並木ごしの紅葉黄葉の名残も美しく、微塵も技巧を感じさせない自然と歴史のおおらかさに、心身ともに包まれました。今、野太い、そして力強い根が、大阪校をささえてくれています。そして一番ささえてくださるのが、みなさんの力と、みなさんの笑顔です。


ともに、これからもがんばりしょう。<鳩子>

【増補改訂版】シナリオ・コンクール攻略ガイド (「シナリオ教室」シリーズ)/シナリオ・センター
¥1,680
Amazon.co.jp

狙ってみたいあなたのためのシナリオ・コンクール攻略ガイド (「シナリオ教室シリーズ」)/著者不明
¥1,575
Amazon.co.jp

日本映画黄金期の影武者たち/著者不明
¥1,785
Amazon.co.jp

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】草木染の里

紅葉に少し早いこの季節、満喫されていますか?


夏の猛暑の疲れを、この季節にはすっかり癒してあげたいですね。滋養もたくさん摂りましょう。


夏のおわりにベランダのプランターに植えたブーゲンビリアが、秋をしらせてくれています。小さな白い花をつつむ苞が、夏には南国を思わせるあでやかなショッキングピンクだったのが、秋にはくすんだ赤ワイン色に色変わりしています。花も秋思に染まり…。


山里で草木染をなさっている知人の工房を訪れました。かつては町中で呉服商をなさっていたのですが、或るときご家族とともに山里へ。今は工房兼ご自宅の周辺の草木を摘み、というよりも、山と木々と自然と格闘されて、草木染をなさっています。


伺ったお話で印象に残る、捕色のお話がありました。着物の染めでは補色をつかうことをきらう習いがあるそうです。補色というのは色の構成で対極にあたるもの。なぜ着物でつかわないのかというと、下手をすると下品になるからだそうです。


ところが、その方は山里に棲まれて、自然の色に補色の配色がおおいことに気づかれ、疑問を抱くようになられたそうです。昆虫ならば玉虫が代表的であり、その他の虫や草花も、対極の色が配色されていることがおおく、また、夕焼けや暗闇に迫る時間帯の空も、少しずつ変わる色は、対極をあらわしながらも、けっしていやらしくなく、逆に人の心を打つ力があるのではないかと、思われるようになられたそうです。そして草木染をする人のあいだでは、一般的にことなる染料をかさねてゆくことを邪道とする人がおおいそうなのですが、その方は、同じ土から生まれた植物どうしなら決して喧嘩することはないはずとの思いから、補色も含め九つの草木をかさねて染められた布のしあがりをみせてくださいました。


すばらしい布でした。


空を眺め、我を思い、人を思い、ものをつくる… ときに見習いたいものです。<鳩子>

草木染め大全―染料植物から染色技法まですべてがわかる/箕輪 直子
¥2,940
Amazon.co.jp

草木染―四季の自然を染める/山崎 和樹
¥1,995
Amazon.co.jp

草木染の絵本 (つくってあそぼう)/著者不明
¥1,890
Amazon.co.jp

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】花をきらわないで

あるご婦人から、彼女が少女だったころ、畦道に咲く彼岸花を、なんて綺麗な花なんだろうと摘んで家へもって帰ったところ、お母さんから「こんな花を摘んできたらだめよ。捨ててらっしゃい」と叱られたお話を聴いたことがあります。


彼岸花は忌み花。家にもち帰ると火事になる等、むかしの人はいい伝えていたそうですね。


ベランダに彼岸花がみごとに咲きました。白と赤。お彼岸にも亡き父にやってきてもらいたくて、一昨年、園芸用のスペイン産のリコリスという球根を植えたのでした。それにしてもこの花は、申しあわせたように本当にぴったりお彼岸に咲くので、不思議です。あまりに綺麗なので、部屋にもたくさん飾りました。


眺めていると、忌み花と呼ばれているこの花が少しかわいそうに思えてきました。人が勝手に忌み花と決めただけで、そんな伝えを彼岸花は知らずに咲いているのに…。日本人は桜といえば大喜びするのに、こんなに綺麗な花をきらうなんて…。近所の公園にも、町内会の方が植えられたのか、たくさんの彼岸花の群れがみごとに咲き誇っていました。

そうそう、忌み言葉というのもありますね。落ちる、転ぶ、別れる、切れる、流れる、枯れる、崩れる、折れる等々。結婚式等ではタブーの、不吉な言葉ですが、よく考えると、厄転じて福と成す。厄に目をそむけてドラマは描けません。

植物どうしにも相性があり、同じプランターでよせ植えをするのにも、根が喧嘩してしまうことがあるそうです。「あんたなんか、嫌いよ」とある花はある花に文句をいって、よせつけないのでしょうね。でも、そうでない限り、「あんたなんか咲かなきゃいいのに」と花が花に思うことはないでしょう。


咲いているのに、ただ生きているだけなのに、「あんたなんか邪魔よ」と人に思ったりする人間は、淋しい生き物ですね。心が疲れているときは、花に癒されます。<鳩子>

彼岸花 (光文社時代小説文庫)/宇江佐 真理
¥600
Amazon.co.jp

小津安二郎名作映画集10+10 6 彼岸花+東京の合唱 (小学館DVD BOOK)/小学館
¥3,465
Amazon.co.jp

初舞台・彼岸花 里見トン作品選 (講談社文芸文庫)/里見 トン
¥1,260
Amazon.co.jp

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】人生の四季

節電、台風と、なにかと心配ごとの多かった今夏も終わりを告げつつありますが、残暑きびしきおり、くれぐれもご自愛ください。


今年の災害を思うと、自然のきびしさを痛感します。しかしやはり日本に暮らしていると四季おりおりのやさしい自然に出会えます。若いときはさほど思わなかったのですが、この処は四季の変化を享受できます。今年の初夏に、わたしは生まれてはじめて掌のなかに、蛍をつつむことができました。とても可愛らしい輝きを放っていました。


草花や木々に四季があるように、人生にも四季があると、この処、思うようになりました。春夏秋冬、悲喜こもごも。もし一生ずっと春の人がいれば、おめでたい人なのかもしれません。そうして考えると、今、或る人が人生の春を謳歌していても、すぐそばにいる他の人は、つらい冬を乗り越えようとされているのかもしれません。自分の春を思いのたけ謳歌することはたいせつですが、隣人の冬を思いやることもたいせつです。そして冬も一定の概念だけではなくて、たとえば暖炉のまえで愛を感じられたなら、冬ほどすてきな季節はありません。愛といっても恋愛に限らず、暖炉の薪をくべる手が、愛する人の手なら、なんてあたたかいことでしょう。


先日、読書をしていますと、「毒払い」ということが書かれていました。たとえば物理学者のアインシュタインは、論文を書く前に哲学者バートランド・ラッセルの文章を読んでから書いたそうです。これは文章を真似るという意味ではなくて、「毒払い」なのだそうです。世の中に氾濫している思慮に欠ける言葉は、知らず知らずに人の心に沈殿しており、それを毒払いするために、衿の正せる文章を読むことは必要…、そのようなことが書かれていました。


自分だけの、そうした一冊は欲しいものです。そしてドラマのお客さまには、春夏秋冬さまざまな人生を今、生きている人がいます。思いやりのあるドラマを…。<鳩子>

アインシュタイン150の言葉/著者不明
¥1,260
Amazon.co.jp

アインシュタインにきいてみよう 勇気をくれる150の言葉/アルバート アインシュタイン
¥1,323
Amazon.co.jp

アインシュタインが考えたこと (岩波ジュニア新書)/佐藤 文隆
¥819
Amazon.co.jp

哲学入門 (ちくま学芸文庫)/バートランド ラッセル
¥1,050
Amazon.co.jp

ラッセルのパラドクス―世界を読み換える哲学 (岩波新書 新赤版 (975))/三浦 俊彦
¥798
Amazon.co.jp

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】クリーニング店のおじいちゃん

町なかで新しいお店ができると、前はなんのお店だったのかを、思いだせないことがあります。


ときどき喫茶店へ一人ではいって、他のお客さんの話をこっそり聴くのがわたしの趣味です。


先日、京都のはずれの喫茶店でのこと。痩せた小さなおじいちゃんと、ふくよかなおじいちゃん、その二人の珈琲を啜りながらの会話。


痩せた小さなおじいちゃんは営んでいらしたクリーニング店を閉店されたとのこと。機械を始末するのにかなりお金を使われたそうです。この喫茶店では、界隈のケーキ屋さんが店じまいされたと客の噂話があがると、店主が「違います、○○町中入ルに移りはったんです」と、ちゃんと新しい場所も教えてあげています。人情に、ホッとします。


クリーニング屋の小さなおじいちゃんですが、店じまいに至るまでには大変なご苦労があったようで、奥さんが交通事故にあわれたり、ご自身もウツになられたり… ひとごとのように思えないご苦労話に耳を傾けつつ、それでどうしてこの二人は今、珈琲を啜っていらっしゃるのだろうと疑問が湧きました。


すると、店じまいのあと永年ウツと闘病し、やっと治られたそうで、近々お孫さんが結婚式をなさることになり、その出席とスピーチのお願いに、昔ご近所だったもう一人のふくよかなおじいちゃんと会われているのだということが、わかってきました。


お孫さんはお嬢さんの娘さんで、お嬢さんは離婚され、実家に戻ってこられたそうで、このおじいちゃんはウツの時にこのお孫さんに良くない影響を与えたことを、すごく気にしておられました。それがウツも治られ、結婚式ではお孫さんと腕を組んで、バージンロードを歩かれるそうです。


ずっと聴いてあげていた、ふくよかなおじいちゃんも、本当にやさしい人だと思いました。そ知らぬ顔をした一人客のおばさんのわたしは、珈琲と一緒に、鼻の奥の涙を啜っていました。<鳩子>

京都カフェ散歩―喫茶都市をめぐる (祥伝社黄金文庫 か 17-1)/川口 葉子
¥800
Amazon.co.jp

京都カフェじかん。 2011年版―たいせつにしたい穏やかな毎日 (SEIBIDO MOOK)/著者不明
¥945
Amazon.co.jp

のんびりおじいさんとねこ (「こどものとも」人気作家のかくれた名作10選)/西内 ミナミ
¥840
Amazon.co.jp

おじいさんならできる (世界傑作絵本シリーズ―カナダの絵本)/フィービ ギルマン
¥1,365
Amazon.co.jp